「ン…ついたのか?」
「目が覚めたかい?」
むくりとヤマトが体を起こして車から出た。
鎮守府と書かれているプレートが目に入る。
「ここが鎮守府ねぇ…豪華な施設だこって」
深海棲艦出現によって海の輸送経路は全て封鎖。限られた資源で生活することしかできない人達からすれば鎮守府は貴族が住まう屋敷と大差ない。
鎮守府の門をくぐろうとしてヤマト立ち止まる。
「どうしたの?」
「どうしたもなにも、身分証明がないと入れないだろ」
「あぁ、そうだったわね」
陸奥が胸からIDカードを差し出す。
「…どっから出してんだ」
「火遊びしたくなっちゃった?」
「遠慮しておく」
「あらそう、残念」
微笑む陸奥と頬を膨らませる時雨を横で眺めながらヤマトはもらったIDカードを通す。
しばらくして、鎮守府の門が開く。
中へ入ると一人の少女が待っていた。
流れるような銀髪に朱に近い鋭い瞳がヤマトを捉える。
手には槍を携えていた。
「あんたが大本営からやってきたっていう提督かしら?」
「代理な。尤もまだ決めたわけじゃないけどな。お前は艦娘か?」
「叢雲よ。私の事を知らないなんてアンタモグリね!」
「お厳しい言葉どうも」
叢雲の鋭い視線を前にしてもヤマトはいつもの態度を崩さない。
「部屋へ案内するわ」
「ありがとさん」
荷物を手にヤマトが叢雲に続こうとしたところで頭上から大量のペイントが降り注いだ。
それはヤマトの頭にかぶり、彼はピンク一色に染まる。
ピンクまみれになったというのに彼は表情を変えない。
「ヤマト!?」
「ちょっと大丈夫?」
「ン?まぁな」
心配する陸奥と時雨。
対して、叢雲は表情を変えない。
「そういえば、伝え忘れていたわ」
彼女は淡々と告げる。
「この鎮守府は人間に関して友好的じゃないから気を付けてね」
「遅い忠告どうも」
あぁ、面倒そうだ。
ペイントまみれになったヤマトはそう呟いた。
「…また、提督が来た…今度は」
「ここの鎮守府はできて日が浅いのか?」
通路を眺めながらペイントまみれのヤマトが訊ねる。
建造時期は異なるがそれぞれ年季の入っている施設だときいていた。
しかし、歩いている鎮守府は新しいことがわかる。
ヤマトの質問に叢雲ではなく時雨が答えた。
「この鎮守府は建築されて二年は過ぎていないはずだよ」
「それはそれは…なのに」
人がおらず姿を見せない艦娘というのはどういうことなのだろう。
ヤマトはますます嫌な予感を覚えずにいられなかった。
「ここが部屋よ」
「執務室じゃないんだね」
「別にいいさ。休めるならどこだって」
ヤマトはペイントまみれの服を脱ぎたいと思いながら扉を開ける。
その途端、バケツが降り注ぐ。
ペイントが流れる代わりにずぶぬれになった。
「「……」」
時雨と陸奥がなんともいえない表情になった。
「なぁ、叢雲だったか?」
「…なによ」
「風呂とかそういう施設ないか?」
ずぶぬれになったんでというヤマトの言葉に叢雲は「こっちよ」と案内する。
「悪戯しても怒らない…」
「期待しても…いいんじゃ…」
「ダメよ。油断したところで手を出すのかもしれない」
「なるほど、この鎮守府の仕組みがよーくわかってきた」
浴場〈人間用〉と書かれているプレートを見て漠然とヤマトは理解する。どうやら艦娘は人間に不信感、もしくは激しい憎悪を抱いているようだ。その証拠にところどころに落書きや嫌がらせの痕跡がある。
流れてくる熱湯を頭に浴びながら思考の海に沈む。
何故、自分が提督という立場に就かないといけないのか?
何故、この鎮守府にいる艦娘は姿を見せないのか?
何故、自分はまだ生きているのだろうか?
頭の中を渦巻くように次々と疑問が浮かぶ。
彼は苛立つように拳を壁へ叩きつける。
メキリとタイルに亀裂が入った。
「くそっ」
それをみてヤマトは顔をさらに歪めた。
着替えて外へ出ると複数の視線を感じる。
どれも好意的なものではない。
監視のものから敵意、さらにいえば殺意も含まれていた。
視線を浴びながらもヤマトは部屋へ向かう。
自分の宛がわれた部屋へ入ろうとしたところで小さな音がした。
「…?」
ゆっくりと振り返る。
ビクゥ!と影の人物は体を震わせた。
「…気のせいか」
ヤマトはわざとらしく呟いて一気に角を曲がる。
「ヒッ!!」
そこにいたのは中学生くらいの小さな女の子だった。
白いセーラー服に紺のスカート、艶やかな黒い髪に怯えた様な瞳。
手の中にある機械のような生き物が警戒するように前へ立っていた。
「…ここの艦娘か?」
「は、はい」
消え入るように彼女は頷く。
どうやら怯えているらしい。
ヤマトは目線を合わせるためにしゃがみ込む。
「俺は立花ヤマトという。キミは?」
「あ、綾波型10番艦のう、潮です」
「潮か、こんなところで何をしているんだ?迷子か」
「えっと、あの、そのぉ」
「ま、迷子じゃないなら人を尾行するようなことはあまり」
「潮から離れなさい!」
鈴の音と声がしてヤマトが振り返ると白い足が見えた。
それと同時に衝撃が顔を襲う。
声を上げず壁にたたきつけられる。
「潮に手を出すなら許さないわよ!この人間!」
「アン?手を出すってなんだよ。てか、足を出してきたのはお前だろ」
鼻を押さえながらヤマトは尋ねる。
現れた少女は気の強そうで潮と同じような制服を着ていた。
蹴りを放った威力からして彼女も艦娘なのだろう。
「うるさい!人間なんか信用できない!とっととここから失せないと痛い目みるわよ!」
「既にみているっての。これ以上、痛い目に合う前に部屋へ戻らさせて」
「させるわけないだろ!」
後ろから蹴りが飛んでくる。
ヤマトはそれを躱すことができず地面へ鼻を打ち付けた。
殺意を込めた目で少女がヤマトを見ている。
ぞっとするほど冷たい目。
それを平然と見ているヤマトは一言呟く。
「あぁ、不幸だ」
殺意をのせた艦娘達が一斉に襲い掛かった。
到着早々フルボッコです。