目を覚ましたら金髪の美少女が抱き付いていた。
そんなゲームやアニメみたいな展開がそうそうあるわけがない。しかし、現実にそんなことが起こった場合、戸惑うか悲鳴を上げる。
しかし、立花ヤマトという男は変なところで図太い人間。有体にいえば朝が弱かった。
「…ま、いっか」
眠気が勝り自分に抱き付いている女性を無視して睡眠を再開した。
「え、あ、あれ?」という声が聞こえた様な気がするが安眠を求めるヤマトは既に夢の中だった。
一時間後。
「朝ですよ。ヤマトさん起きてください」
大井に体を揺らされて目を覚ます。
周りを見るが抱き付いている女性の姿はなかった。
色々と堪っているのだろうかと首を傾げながら体を起こす。
ヤマトをみていた大井だが急に鼻をくんくんと動かした。
「ン、どうした?」
「いえ…気のせい、だと思います」
「は?」
うふふと微笑みながら大井は立ち上がる。
「さ、食堂へいきましょう」
「そうだな」
むくりと体を起こして部屋を出た。
「…なんで」
「ンで、これは何の騒ぎだ?」
「ヤマトさーん!」
「助けてくれ」
ヤマトが食堂へ足を踏み込むと焦げた臭いが包み込んでいた。
あまりの臭さに鼻をふさぎたくなる。
そこへ涙目の文月と長月がやってきた。
「何の騒ぎ…てか、この臭いはなんだ」
「えっとぉ」
「今日の当番は叢雲だったのだ」
「……あぁ」
それだけでヤマトは事情を察する。
くるりと回転して食堂を出ていこうとした。
「ダメにゃ!」
「逃がしません!」
「ええい、離せ!誰が厨房に立つものか!俺は」
「ご主人様、あきらめてください!」
「そうしないと私達のご飯が炭になっちゃうから」
朧と漣がゾンビのようにヤマトの足へ絡みつく。奥から「誰が炭よ!ちゃんと形はなっているわよ!」という声と「まぁまぁ」となだめる声が聞こえた様な、聞こえなかったような。
「ヤマトさん、あの…」
涙目の潮が前へ立つ。
ちなみに大井は川内とバトルしており助けに入る余裕はなかった。
がしがしと頭を掻きむしりながらヤマトは頷く。
「しゃーない、朝食は作ってやる」
ヤマトの言葉に全員が叫ぶ。
涙目の叢雲は「あ、アンタの料理なんて!」と最初は拒絶していたが吹雪による強引という名の試食をした途端、顔を赤くして俯いた。
「…さて、俺は」
「ぱんぱかぱーん!」
眠ろうかという瞬間、背後から柔らかいモノに包まれる。
衝撃で前のめりになりつつもヤマトは堪えた。
「…誰だ?」
振り返った先にいたのは流れるような金髪、白い肌、青い軍服のようなもの、帽子をかぶった女性。今まで見てきた艦娘と異なることから姿をみせていなかった方だろう。
「愛宕さん」
「吹雪ちゃん、話は聞いたよ。おかえりなさい」
愛宕はヤマトから離れる。そして呆然としている吹雪を抱きしめた。
「愛宕さーん、苦しいです!」
「うーん、この感触、吹雪ちゃんだね」
ニコニコ微笑んでいる愛宕を横目に見ながらヤマトは食堂の流しへ向かう。
「何よ…」
そこにはエプロンを着た叢雲の姿がある。
「代わる。お前は仲間と交流でもしてこい」
「余計な気遣い無用よ」
「俺があの空間に居づらいだけだ」
「私は私の仕事をするだけよ」
そういって叢雲を追い出そうとするが譲らない。
「お前、頑固だな」
「アンタが乱暴なだけよ!」
次第に口喧嘩へ発展していく。
「じ~」
「何やっているの?」
声がしてみるとこちらを半眼でみている漣と首を傾げる朧の姿があった。
それを見て叢雲とヤマトの二人はなんともいえない気分になる。
「何やっていたんだろう」
「右に同じく」
二人はそういうと皿洗いを始めた。
「結局やるんだ」
「む~」
そんなヤマトの様子を冷めた目でみている艦娘がいた。
「どういう…こと?」
叢雲は陸奥の言葉に訊ねかえす。
「だから、重巡級と空母級をヤマトが撃墜しちゃったでしょ?その手柄がここの艦娘達のものとして認められたの」
「…存続を許すってこと?でも、なんで」
「一つは大本営からの贖罪かしら、あの屑を逃してしまったこと貴方達へ再び深い傷をあたえそうになったこと」
前々提督、空海のことを思い出して叢雲は顔を歪める。
自分たちのことを兵器といい続け、否定して、道具だといいだした男。
最後は自らの肉体を改造手術により変えてまで、自分が優秀だと錯覚する。
そんな奴のことを思い出したら当然の事、気分が良いわけではない。
「それともう一つ」
指を陸奥が立てる。
「ヤマトが言ったのよ」
「…アイツが?」
叢雲の目がさらに鋭いモノへ変える。
本人はそのつもりのようだが瞳は緩く、頬は赤くなった。
あらあら、と内心思いながら彼女は頷く。
「自分の手柄にしたところで何か変わることはない。ならば、アイツらの手柄にした方がよっぽどいいってね」
「……そう」
「もっと反抗するかと思ったわ」
「きっと、少し前なら反抗していた」
執務室の机へ手を触れながら叢雲は頷く。
ほんの少し、傷ついて仲間を失ったばかりの彼女ならヤマトの提案を拒絶しただろう。しかし、今はどうだろう。あの人間の事なら、少しくらい信じてもいいんじゃないかと思っている自分がいる。
彼なら――。
「いけなーいんだ!」
その時、扉が開いた。
「いけないなぁ、叢雲ちゃん」
「愛宕さん」
現れたのは愛宕。
しかし、その姿は吹雪たちの前で見せたものと大きく異なり。
冷たく、おそろしい怒気を含んでいる。
「人間は信用できないんだよ。ちょっとでも気を許したら何をするかわからないよ~」
「愛宕さん、その、アイツは」
「その証拠を私がみせてあげる」
愛宕は口元へ指をあてる。
「男なんてみんな一緒だよ」
立花ヤマトは基本的にめんどくさがりな性格の持ち主である。
真面目に何かをすることもできるだろうが基本的にルーズな生活を送りたいというのが本望だ。
故に、文月たちへ遊びに誘われた際、生贄として時雨と大井を差し出して部屋でのんびりしようという魂胆があった。
だからこそ、部屋で半裸の愛宕がいた時、ヤマトの思考は半ば停止した。
「おかえりなさい、お待ちしていたわ~」
ニコニコと笑みを浮かべる愛宕をしばらく見てからヤマトは部屋の扉を閉めようとする。
しかし、先回りした愛宕がヤマトの腕へ抱き付いた。
「おい、こら!」
「気にしない気にしない~、さ、おいで~」
本気なら引きはがせるがそうすることができないヤマトは愛宕に引きずられてベッドの方へ誘導される。
「さ、しばしのお待ちを~」
「は?」
困惑するヤマトの前で愛宕は微笑むと纏っている服のボタンをひとつずつ外していく。
ボタンを外すと纏っている外套のような制服を脱いだ。
そして、どんどん脱いでいき、やがて下着一枚だけという姿になる。
「お、おい!?」
「もう、慌てる乞食は貰いが少ないわよ?もう少ししたら全部食べられるんだからぁ」
ニコニコと微笑みながら愛宕は下着へ手を伸ばす。
ヤマトを前にしながら愛宕は冷静、否、冷酷だった。
何者であろうと所詮、男。
グラマラスな良い女が服を脱いで誘惑してそれに応えない奴はいない。そう、男など所詮獣でしかない。
微笑みながら手を出して来たら首をひねりきる。
そう考えていた愛宕の前で手が伸びた。
――きた。
「馬鹿なことしてんじゃない」
「え?」
立ち上がったヤマトは落ちていた服を拾うと愛宕の上へ被せる。
突然の事に彼女は困惑した。
今までの男達はこうしてきたら襲い掛かってきた。自分の体を貪り食う。そんな人間。
だからこそ、こうすれば――。
「え、あれ」
「何を考えているのか知らないが自分の体は大事にしろ。そうしないと悲しむ奴だって」
「綺麗ごといわないで!」
「綺麗ごとじゃない」
「綺麗ごとよ!悲しむ人なんてもう、いない、私なんて、みんなを守る為にこんなことをするしか」
「…ちょっとこい」
ヤマトは愛宕の手を引いて歩きだす。
二人が向かった先は食堂だった。
「あれ、ヤマト~」
ヤマトと愛宕の姿を見つけたのは机で寝そべっている望月だった。
「望月か」
「どうしたのって、愛宕さんじゃーん」
「あ、その」
「え、愛宕さん!?」
「本当だー!」
「うふふ、お久しぶりです」
困惑する彼女の周りへ群がっていく睦月型の艦娘達。
その様子を見てからヤマトは言う。
「睦月、愛宕はお前達から料理を教えてもらいたいらしい」
「え、そうなんですか!?」
「えぇ、いや、あの」
「確か、今は?」
「おにぎりをみんなで作っています」
「そうか、愛宕、頑張ってみんなから教わるんだな」
「え、あ、いや」
狼狽える愛宕へ群がる睦月型。
逃げることができず厨房の方へ連れていかれる。
「あんなに好かれているのに誰からも必要ないって?その考えが間違いだってことに気付くんだな」
わいのわいの騒がれながらもみんなといることを楽しんでいる愛宕の姿を見てヤマトは食堂から出ていく。
その後、半裸状態だったことに気付いた愛宕により謝罪を要求されてめんどくさがっていたヤマトの姿を睦月達が目撃したというが定かではない。