立花ヤマト。
その姿を見た時の印象は頼りにならないというものだった。
どこかへらへらしているし指揮官としての威厳も何もない。しかも艦隊経験もないときた。
青葉から伝えたられた情報を聞いて、そんな奴がこの鎮守府へ、自分たちを指揮すると聴いたとき。天龍の怒りは最大に達する。
人間は俺達を舐めているのか?
助けるつもりなど毛頭ないのか?と絶望した。だからこそ、人間の力を借りずに天龍は生きていくと決意する。
そんな決意の鼻っ面をあの男は壊した。
立花ヤマトは改造人間だという。
改造人間は肉体の全てを作り替えた存在。艦娘とは別の存在という事しか天龍は理解していない。その中で天龍は一回だけあの男の実力を見た。
信じられないくらいの強さ。
艦隊指揮経験がないというが、戦闘経験はおそろしいくらいある。
飛蝗を模した戦闘服。
一撃は敵を確実に屠る。
「くそっ、気にいらねぇ」
ふと、立花ヤマトが視界に入ったことで天龍の苛立ちはさらにあがった。
食堂の厨房で料理をしている姿。
普段のへらへらしている所と違う。それだけのことなのに天龍は苛立ちが募る。
一体、何に苛立っているのか?それはわからない。
だが、立花ヤマトをみているとなぜか腹が立つのだ。
その理由はわからない。
天龍は舌打ちをするとその場を離れようとする。
「あ、天龍さーん!」
そこへ睦月と如月の二人がやってくる。
「…なんだ?」
「あの、如月ちゃん達と料理をしたんですけれど」
「味見をしてもらえないかしら?」
「何で?あそこにいるだろう」
「天龍さんに食べてもらいたいんです!」
「ハ?俺に」
顔を顰める天龍へ睦月と如月は頷く。
断ろうとしたところでヤマトが現れる。
「暇なら付き合えよ」
「ア?てめぇに指図されるいわれはねぇ!」
「誰も指図してねぇよ。てか、ガン飛ばすな」
「飛ばしてねぇし、てめぇみたいな奴に飛ばすなんてもったいねぇ」
「…ア?」
「…ア?」
「あ、あわわわわ」
「あらあら」
互いににらみ合うヤマトと天龍。
そこへ、叢雲と吹雪がやってくる。
「何やってんのよ」
「天龍さん?」
「ケッ、俺は」
「逃がすか」
離れようとした天龍だがヤマトに無理やりつかまされて食堂へ座らされる。
「おい、離せよ!」
「ダメだ…てめぇだけ逃げるなんて誰が許すか」
「ハ?どういう…」
その時になって天龍は気づく。
ヤマトの手に小さな汗が浮かんで震えている。
コイツほどの男がなぜ?という所で天龍はもくもくと食堂内を包み込んでいる紫色の煙に気付く。
「おい…これ」
何だといおうとしたところで厨房に立っている愛宕の姿に気付いた。
「おい、愛宕って」
「自分に任せろと言ってきかない。どうしようもできない。食べてマズイというしかない」
カタコトで話すヤマトに天龍は逃れようとしたが改造人間としての力を存分に発揮していた。ここで使ってしまっていいのだろうか?
そんなことをしている間に愛宕が料理を持ってくる。
「ぱんぱかぱーん!はーい、私特製のカレーよ」
「…カレー?」
「そうよ?あら、天龍いたの?」
「あぁ…てか、これくえんの」
「失礼ね。見た目よりも中身で…よ」
ちらっと眼をそらした。
天龍は舌打ちをしつつカレーを一口。
そこから先の意識はなかった。
目を覚ますと天龍は医務室にいた。
「大丈夫か?」
「てめぇ、俺は…」
「愛宕のカレー喰って気絶した」
「あぁ」
むくりと体を起こす。
そういえば、と天龍は気づく。
あの愛宕が普通にヤマトと接していた。
人間を何度も殺そうとして危険だといわれていたあの愛宕が。
駆逐艦達も普通に人間を信頼している。
その姿をみて、ヤマトをみる。
「何だ?」
「看病、してくれたのか?」
「看病といえるようなことはしてねぇよ。傍にいて異常がないかチェックしているだけだ」
そっけない態度だが、自分を心配してくれることが分かった。
――一度、腹をわってみるか。
天龍はあぐらをかくとヤマトを見る。
「…なんだ?」
「てめぇに話がある」
そういった天龍の目が真剣でヤマトも向かい合うように座る。
「…話ってのは?」
「てめぇは俺達の事をどう思っている?」
「どう思うはお前達艦娘という存在を俺がどうみているのかってことか」
コクンと彼女は頷く。
「人間は俺達の事を化け物だ、兵器だという…てめぇは俺達の事をどうみる?」
「どうも」
「はぐらかすな」
「前にも叢雲へ言ったが俺はお前達を兵器と見ない…そうだな」
――仲間ならどうだ。
「ハ?」
「俺は改造人間と戦う。お前達は深海棲艦と、相手は違うけれど、共に戦っているからな。仲間ならいいかなと思ってな」
「本気、でいってんのか?」
「あぁ」
ヤマトは平然と答える。その目に嘘偽りの類はなさそうだった。
「お前は、俺らを守る為に全力を出すのか?なぜ」
「…そうだな。とある彼の昔話をしよう」
とある彼は大学で水と結晶の研究をしていた。
きらきらと輝く水晶、さまざまに形を変えるそれらを研究することへやっていくんだろうと思っていた。そんな彼は海で深海棲艦に襲われた。
口を開けて自分を飲み込もうとする深海棲艦を前に、颯爽と一人の艦娘が現れた。
彼女は深海棲艦を倒すと彼に向って手を差し伸べる。
おそらく一目惚れ。
彼は一人の艦娘を兵器、化け物とみることなく。一人の少女として。
しかし、現実は甘くなかった。
「人間は艦娘を兵器とみる。昔からしみ込んだ教えは早々消えることがない。今も上層の一部は艦娘を兵器としてみている節がある」
「ケッ、人間なんて」
「けれど、俺はそのままにしておくつもりはない」
ヤマトは拳を握りしめる。
「俺一人にできることは限られている。けれど、できることをやる…この俺に、できることなら」
「…人間、いや、立花ヤマトっていったか」
天龍は立ち上がると彼へ近づく。
「お前が俺達の事をどこまでみているのか、いや、これからどうなるのか見定めさせてもらう」
「…つまり?」
「決闘だ!」
「はい、というわけではじまりました~ヤマトさん対天龍さんの決闘!司会は、私睦月と!」
「如月がお送りします」
鎮守府の演習広場、そこで向かい合うヤマトと天龍。
周囲は観戦しようとやってきた艦娘達の姿がある。
「どうしてこうなっちまうかなぁ」
「知るか」
私服姿のヤマトと艤装を纏った天龍は互いに構える。
「変身しろよ」
「はいはい」
あまり気のりしないんだがなぁといいながらタイフーンを出現させてヤマトは仮面ライダーへ変身する。
仮面を装着しようとしたところで手を止めた。
「…」
少し考えてからヤマトは仮面を置く。
「おい」
「手を抜くつもりはないさ。ただ、お前と殺し合うわけじゃないから、仮面は不要だ」
「お前なりの流儀か、いいぜ」
天龍は頷くと刀を構える。
ヤマトは静かに拳を握りしめた。
二人は同時に駆け出す。
「(こいつの戦い方は基本的に拳と蹴りによる格闘技、接近しすぎたら俺に勝ち目はねぇ…しかし、遠すぎても俺じゃ倒せねぇ)」
海上ならではの戦い方というものがあるがここでは限界がある。
故に天龍がとった手段は14㎝単装砲と艤装の刀による攻撃。
刀は一番の接近手段となるが単装砲でカバーすればいい。
接近するヤマトへ砲撃をしつつ、近づいて来たら刀を振るう。
拳で砲弾と刀をいなすヤマトから距離を保ちつつ天龍は倒すための手段を考える。
ヤマトはヤマトで天龍という艦娘を分析していた。
「(猪突猛進タイプと思っていたんだが意外と冷静なんだな。コイツ…ただ)」
放たれた砲撃を潜り抜けて天龍へ詰め寄る。
「ラァ!」
繰り出される刀を手で受け止めた。
「なっ!?」
「お前、剣術とか習ってないだろ?」
「ハ!?それがどうした!」
「悪口じゃないが、動きが単調で読みやすい」
「なっ!?」
天龍が驚くと同時にヤマトは刀をへし折る。
派手な音と共に艤装が宙を舞う。
「お、俺の」
「トォッ!」
拳が天龍の眼前で止まる。
「確かに、お前は強い。だが、まだまだ成長途中だ。これからいろいろなことを学んでいけばいいだろう」
「…ケッ、上から目線かよ」
「ま、場数はお前より踏んでいるからな」
色々な奴と戦ってきたわけだし。
ヤマトの言葉に天龍はゆっくりと立ち上がる。
「いいか!俺はもっと強くなる。てめぇが不要だってことを上の連中に認めさせてやるからな!」
「…そうだな、そうしてくれ…ま、折れた刀で偉そうに言われてもなぁ」
「なっ!う、うるせぇ!いいか、覚えておけよ!ヤマト」
そういって天龍は離れていく。
残されたヤマトはぽりぽりと頬をかきながら。
「よくわからん奴だな」
かなり短いですが、天龍さん、少し人間を見直す回です。