「殺してくれ」
対峙した彼女はそういった。
懇願するように紡がれた言葉に仮面の中で顔を歪める。
こんなことをしたくない。けれど、やらなければならない。
わかってはいても心がそれを拒否する。
しかし、と冷静な頭と感情が相反することで体が動かない。
そんな体へ雨が降り注ぐ。
時間だけが過ぎていく。
この時、どれだけ願っただろう。
時間よ止まれ。
時間よ戻れ!
時間よ――
彼女を助ける方法を探させてくれ。
どれだけ願いつつも時間というものは非情だ。
蝕まれていく彼女を殺す手段が残された。
雨でぬれている中、拳を構える。
静かに目を閉じた彼女めがけて拳を振り下ろす。
雨によって体温が奪われていたはずなのに、手の中は驚くほど熱かった。
人の命を奪った瞬間を思い知らされる。
守れなかった現実をたたきつけられた。
だからこそ――。
立花ヤマトが鎮守府から姿を消した。
その事実に叢雲は動揺した。誰に言わず姿を消すなど、自分が犯人だと証明するようなものではないか。
このことに曙は怒っている。
吹雪たちは信じられないという表情で鎮守府内を駆け回っていた。
ヤマトがいるかもしれないという期待を抱いているのだ。
「…陸奥さんに相談するか」
ヤマトについては悔しいことだが陸奥や大井がよく知っている。
彼女達は任務で外に出ており本日戻ってくるのだ。
陸奥達に聞けば何かわかるかもしれない。
艦娘殺しという言葉の意味についても。
これからの事を考えていると慌てた様子の朧がやってくる。
「こ、これ!」
送られてきた手紙は鎮守府へ一人の人間がやってくるという連絡だった。
叢雲の中で嫌な予感という感情が大きく渦を巻き始めていた。
鎮守府を飛び出したヤマトはサイクロンに乗ってある場所へ来ていた。
「…ここは変わらずか」
バイクから降りてヤマトは海が見渡せるがけの方へ歩み寄る。
そこにはボロボロの艤装と墓標があるのみ。
墓標へ目を向けてからヤマトは海を見た。
本来ならどこまでも澄み切った海がみえるだろう場所は曇天のため、薄暗い。
「あれから…かなりの時間が流れた」
誰に言うわけでもなく立花ヤマトは言う。
その言葉を訊いたら彼女は苦笑するだろうか、それとも「たるんでいる!」と自分を叱咤するのか、おそらく両方だろうとヤマトは考えた。
おそらく、彼女は怒った後に苦笑する。そういう人だった。いや、艦娘かと呟く。
ぽつぽつと空から水滴が落ちてくる。
――嫌な天気だ。
彼にとって、今日雨が降られることははっきりいって嫌だった。
あの日の記憶が鮮明に思い出される。
突如、ヤマトの足元にエネルギー弾がめり込む。
舌打ちしながら振り返ると青い騎士甲冑のような物を纏った人物がいた。
手の中に赤い弓矢を構えており、先ほどの攻撃はそれから放たれた様子。騎士の兜のような隙間から覗く黄色いバイザーから明確な敵意が向けられている。
「ここで、何かしようというなら」
ヤマトの声はいつもより低い。
苛立っている証拠だった。
腰のタイフーンが彼の感情へ応えるように回転する。
仮面ライダーへ変身して騎士甲冑へ近づく。
騎士甲冑は赤い弓矢で攻撃する。
エネルギー状の矢が放たれた。
まっすぐに仮面ライダーへ迫るが拳で破壊されてしまう。
エネルギー状のものなのでグローブが黒く汚れてしまうが気にしない。この場で敵意を向けられたことが許せない。
この場で襲い掛かってくることを許さない。
彼女の眠りを妨げようとしたことを許せなかった。
仮面ライダーの鬼気迫る何かに怯えながら青い騎士甲冑は攻撃を放つ。
甘い拳。
それを片手でいなし、腹部へ一撃を放つ。
「グハァ!」
悲鳴を上げて光が発すると騎士甲冑はなくなり人間が現れる。
――人間?
改造人間じゃないのか?と思いながら真意を確かめるべく仮面ライダーは近づいていく。
男は怯えながら「助けて!」「ゴルゴムに殺される!」などとわけのわからないことを叫んでいる。
何か企んでいるのか?
仮面ライダーが言葉を発しようとしたところで黒い影が現れる。
突然の事に対応が遅れて地面を転がった。
「早く逃げるんだ!」
目の前に現れた青年が叫ぶと男は悲鳴を上げながら逃げていく。
衝撃が仮面ライダーを、ヤマトを襲った。
雨の中で立っていた青年をヤマトは知っていた。
南光太郎。
ヤマトが改造人間になったころと同時期、行方不明になった親友の姿があった。
「光――」
「ゴルゴム!何を企んでいる!!」
名前を遮るように光太郎が叫ぶ。
その目は激しい怒りを宿している。
突然の言葉に困惑している仮面ライダーの耳へ別の声が響いた。
「さぁ、ゴルゴムの改造怪人よ!仮面ライダーBLACKを倒せ!」
「は?」
「ビニルゲニア!!」
ピンク色の人型怪人が現れると剣先を光太郎へ向けて叫ぶ。
困惑している仮面ライダーの前でさらに驚く展開が起こる。
「変身!」
光太郎が変身する。
眩い光と共に黒い飛蝗のような異形の姿へ。
「何で…」
紡がれた声はとても小さい。
けれど、改造人間たる光太郎の耳に届いた。
「仮面ライダー…BLACK!」
自らの名前を叫んでBLACKは仮面ライダーへ迫る。
繰り出される拳を躱しながらヤマトは動揺を隠せない。
連続して放たれる一撃は多くの怪人と戦ってきたのだろう。鋭いキレがある。
数多くの改造人間と戦ってきたヤマトとしても脅威へなりうるものだった。
だからこそ、ヤマトは叫びたかった。
どうして、お前が改造人間になっている!
どうして、お前が拳を振るっている!
お前は。
お前達にだけは普通の生活を歩んで。
「トゥア!」
BLACKの拳が仮面ライダーに突き刺さる。
衝撃と共に地面へ倒れた。
「グッ…くそ」
一撃を受けたヤマトは体を起こす。
有体にいえばキレていた。
色々な鬱憤が貯まっていて、さらにいえば親友からわけのわからないことで殴られたことが切欠で立花ヤマトは爆発する。
殺し合いに近い殴り合いがはじまった。
BLACKは驚きながらも仮面ライダーへ反撃する。
攻撃を防ぎながらBLACKへ拳を放った。
二人は泥まみれになりながらも攻撃を続ける。
その様子を見ていた剣聖ビルゲニアは苛立っていた。
彼の計画では二人のライダーが殺し合いになり両方とも潰れることを期待していた。しかし、中々につぶれない。
耐えることができないビルゲニアは剣を構える。
二人が異変に気付く。
「何だ?」
「ビルゲニア!!」
「消え去るがいい!」
叫びと共に放たれた一撃に二人は巻き込まれて海の中へ落ちていく。