艦娘と改造人間   作:断空我

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23.狙われた艦娘

叢雲は応接室へ人間を通す。

 

「粗茶、ですが」

 

傍で待機している吹雪が彼へお茶を差し出す。

 

「どうも、いやぁ、おいしそうなお茶だ」

 

差し出されたお茶を受け取り白い軍服を纏った男はにこりと微笑む。

 

一応、叢雲も笑みを返すがその顔は固い。

 

「申し訳ありませんがここの司令官は不在で」

 

「あー、いいよいいよ、今日はキミ達へ会いたかっただけだから」

 

「はぁ」

 

「そんな警戒しないでよ。僕は前の提督みたいな最低な奴じゃないからさ」

 

前提督の話をしながら彼はニコニコと微笑む。

 

隣の吹雪はどうすればいいのかわからず、座っている親友の顔を見ていた。

 

ここは自分が動くしかないようだ。

 

叢雲は意を決して訊ねる。

 

「所で、舞鶴鎮守府へどのようなご用件で参ったのでしょうか?上条提督」

 

「いやだぁな、気軽に「上条さん」って呼んで構わないんだよ?」

 

ニコニコと笑みを浮かべて近くの鎮守府の提督である上条がニコニコしている。

 

はっきりいって叢雲は彼が嫌いである。それも前提督の次くらいのレベル。

 

反対側にいる上条提督はニコニコと気味悪い笑顔を浮かべて、首を傾げる。

 

「キミ達に会いたかったんだよ。それだけが理由じゃダメかな?」

 

ゾワワッ!と背筋が震え上がる。

 

隣にいる吹雪は何も感じなかったのか苦笑しているのみ。やはりこの男は好きになれない。

 

上条タツヤ提督。

 

階級は知らないが戦績は優秀。但し、他の提督との仲はかなり悪いと聴く。

 

何でも気に入った艦娘がいればどんな手段を用いてでも自身の鎮守府へ配属させようとするらしい。

 

少し前もあの横須賀鎮守府から一人の艦娘が異動されたという話は新しい。

 

さらにいえば、この鎮守府にいる瑞鳳をよこすようにしつこくいってきていた。その本人が直接こちらへやってきた。警戒しないなんていうのは愚の骨頂。故に叢雲は悟られないよう緊張していた。

 

願うなら陸奥達が早く戻ってきてくれることを願う。何か変なことがあれば天龍や足柄がここへ突撃しかねない。

 

この鎮守府は未だ外の人間に対して警戒している。

 

唯一の例外が立花ヤマトだったのだ。

 

その彼もここにいない。

 

曙の「艦娘殺し」という言葉で出ていったのか別の理由があるのかわからない。

 

「(なんで、このタイミングでいないのよ!馬鹿!)」

 

ヤマトの顔を思い出して叢雲は心の中で罵倒する。

 

三十回くらいヤマトを罵倒してから目の前の上条提督へ話しかけた。

 

「今、うちの提督が席を外しているので、しばらくお待ちいただくか、また」

 

「あぁいい。いいよ。あんな艦娘殺しなんか会いたくないし」

 

――絶句。

 

叢雲と吹雪は上条の言葉に固まった。

 

「それよりもさ、こんなかび臭い所にいるよりかは別の」

 

上条が話しているが吹雪と叢雲は聴いていなかった。

 

艦娘殺し。

 

曙がヤマトに向かって告げた言葉。

 

それが艦娘殺し。

 

どうして上条提督が知っているのか、叢雲がおそるおそる訊ねる。

 

「あの、失礼ですけれど上条提督は彼、立花ヤマト提督の事を知っているんですか?」

 

「違うよ」

 

「え?」

 

「提督じゃない。提督代行でしょ?」

 

笑みを絶やさずに上条は念押しするように言う。

 

「奴は提督じゃない。提督代行だ。あくまでしばらくの期間、ここにいるだけの存在だ。提督じゃない。間違えてはいけないよ」

 

諭すように告げられた言葉に叢雲は困惑して二の句が告げない。

 

そんな彼女を助けるように吹雪がフォローに入った。

 

「あの上条提督は、その艦娘殺しといわれる理由を何か知っているんでしょうか?」

 

「知っているよ」

 

「で、でしたら、それがどういう意味なのか教えてもらえないですか?」

 

「教えてあげてもいいよ?」

 

「本当ですか!」

 

「ただし、キミ達全員が僕のものになるならね」

 

上条提督の言葉に叢雲はおろか吹雪すら言葉を失った。

 

「ま、どちらにしても僕のものになるからどっちでもいいんだけどねぇ」

 

「どういう、ことですか?」

 

「この書類を持ってきたのさ」

 

上条が取り出したのは上層部の捺印が押された決定書類。

 

「舞鶴鎮守府の艦娘達は僕の鎮守府所属となる。これは大将の許可をもらって」

 

「ふざけるな!!」

 

扉が乱暴に開いて大きな叫びが響いた。

 

「天龍さん」

 

壊す勢いで入ってきたのは天龍だった。

 

艤装を纏っていないがその目は攻撃する一歩手前の危なさがある。

 

「ふざけんな!俺らでやっていくことを上は認めたんじゃないのかよ!!なんでこんな命令が来る!」

 

ずかずかと音を立てながら近づいていく。

 

その剣幕に叢雲や吹雪は動けない。

 

上条を睨みながら天龍は叫ぶ。

 

「どういうことなんだ!説明しろ!!」

 

「……………うるさいなぁ」

 

この時、上条の様子が違うことに叢雲は気づいた。

 

さっきまで浮かべていた笑顔が消えている。

目は物をみるようなものだ。

 

叢雲はそれに覚えがあった。

 

空海提督が自分たちへむけていた目。それに近い、もしくは等しいもので天龍を見ていた。

 

止めないといけない叢雲が立ち上がった途端、上条が動く。

 

「邪魔だなぁ、お前、不要だ。だから」

 

「私達は!」

 

何かを取り出そうとした上条は動きを止める。

 

「私達は舞鶴鎮守府の艦娘です。立花ヤマト“提督”のもとで戦っています。この命令は受け取ることができません」

 

「そんな権利はキミ達にない」

 

「そうですね。ここの決定権は立花ヤマト提督にあります」

 

叢雲がいう。

 

ビクッと上条の顔が歪む。

 

今の言葉を聞いている艦娘は大勢いる。

 

つまり。

 

「立花ヤマト提督が戻り次第、連絡しますのでとりあえず今日はお引き取りください」

 

「…いいだろう」

 

能面のような顔になりながら上条は頷く。

 

「だが、後悔することだね。こんな態度をとったことを、あんな最低な奴を提督と仰いでいることとかね」

 

「てめぇ!」

 

天龍の叫びに振り返らず上条は去っていく。

 

「…ふぅ」

 

「む、叢雲ちゃん!」

 

「おい、大丈夫か?」

 

上条の姿が完全に見えなくなったところで叢雲がぺたんと座り込む。

 

どうやらかなり緊張していた様子で額に汗が浮かんでいた。

 

「緊張というか…少し、怖かった」

 

親友の吹雪に助けてもらいながら立ち上がる。

 

天龍はぽりぽりと頬をかく。

 

「すまない。俺が冷静じゃなかったせいで」

 

「仕方ないですよ。天龍さん…あんなこといわれたら」

 

「とにかく!」

 

叢雲が吹雪から離れる。

 

その目はある決意に満ちていた。

 

「あのバカを見つけ出すわよ。そうしないと私達の未来は真っ暗なんだから」

 

「けれど、動ける艦娘は俺と、叢雲、吹雪…足柄、愛宕、曙全員で探すにしてもここを空にすることは危険だろ」

 

「そうね、だから」

 

「何か騒ぎでもあったの?」

 

半開きの扉から陸奥が姿を見せる。

 

会議が終わったようで時雨や大井の姿もあった。

 

天からの助け、いや、艦娘の助けだ!

 

「実は」

 

叢雲は騒動を陸奥へ話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方ね?あることないことを吹き込んでヤマトさんを傷つけた愚かな艦娘っていうのは?」

 

「あ、青葉はそんなことは」

 

「言い訳は聞きたくないよ。キミの言葉でヤマトが傷ついた。僕らはそのことに腹を立てている。本音を言えばすぐにでも八つ裂きにしてやりたいところなんだ」

 

重巡洋艦青葉は命の危機を覚えて真っ青になる。

 

名前に青があるがそれはどうでもいいことだろう。

 

目の前に死神といってもいいくらい素敵な笑顔を浮かべている大井と時雨がいるのだから。

 

二人とも艤装を展開していつでも攻撃できる状態だ。勿論、攻撃する相手は青葉である。

どうしてこうなった!?と叢雲は頭を抱えて、吹雪はあわわわと右往左往。天龍は目の前の気迫に動けない。

 

「二人とも、やめて」

 

陸奥の言葉に大井と時雨の二人は離れる。

 

入れ替わるようにして青葉の前へ立つ。

 

「青葉だったわね」

 

「あ、青葉死すとも自由は…は、はい」

 

錯乱しかけていた青葉は陸奥の言葉で正気に戻る。

 

「貴方が曙に伝えた艦娘殺しの内容、教えてくれる?」

 

「へ?」

 

「お願い」

 

困惑しつつも陸奥の真剣な顔に青葉は頷いた。

 

「青葉はこの鎮守府に着任した提督さんが「艦娘殺し」と呼ばれているということ、過去に艦娘を殺したらしいということを伝えました」

 

「確証はあるの?」

 

「その、前置きに確証はない、と伝えています」

 

「そう」

 

「あの…」

 

青葉がおそるおそる訊ねる。

 

「青葉は何かひどいことを?」

 

「しているに決まっているでしょ!」

 

「みんなを助けるために奮闘しているヤマトを傷つけた。万死に!」

 

「二人とも」

 

陸奥の言葉で渋々引き下がる。

 

どうやら本気で二人は切れている様子だ。

 

がくがくふるえる青葉へ陸奥は静かに語る。

 

「そうね…良い機会だから、教えてあげる。ヤマトの艦娘殺し」

 

「知って、いるの?」

 

叢雲がおそるおそる訊ねた。

 

「当然よ。だって、私もその場にいたから」

 

陸奥の言葉に叢雲は目を見開いた。

 

それよりもさらに衝撃的な話が陸奥から伝えられる。

 

「ヤマトが殺した相手は長門型一番艦長門…私の姉よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今でも思い出せる。あれは激しい雨が降っている中での作戦だった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一年と少し前。

 

立花ヤマトが改造人間として、仮面ライダーとして深海棲艦と戦っていた。

 

妖精が見えた。そのため戦闘服の一部を改造して海上でも移動できるようになり、艦娘と共に深海棲艦と戦う毎日。

 

そんなヤマトに付き添うように共に戦う艦娘がいた。

 

長門型一番艦、長門。陸奥の姉である。

 

激しい雨の中、仮面ライダーと長門の二人は高速で現れる深海棲艦達を倒していた。

 

今回、ヤマト達は電撃作戦のために台風の中を突き進んでいる。深海棲艦を数多く倒して後続の部隊の進行が楽に行えるようだった。

 

ヤマト、長門に続く形で陸奥、時雨、大井、北上、そして他の艦娘といったメンバーが続いている。

 

異変は唐突に起きた。

 

深海棲艦を倒していた長門が急に苦しみだす。突然の事に全員が困惑していると長門の肌や艤装から色が失われていく。みるみると全身が白くなり、彼女は深海棲艦となった。

 

突然の事態に全員が動けず、彼女の主砲で半数が中破へ追い込まれる。

 

全員が困惑している中、一人だけ動いた。

 

立花ヤマト、仮面ライダーが深海棲艦となった長門と対峙したのだ。

 

激しい爆撃と拳の嵐の中、やがて仮面ライダーの、ヤマトの拳が長門を貫いた。

 

長門は血を吐き出しながら轟沈する。

 

その時、別の部隊がやってきてこの光景を見た艦娘が呟く。

 

「艦娘殺し、それがヤマトの背負うこととなった十字架の一つ。一生消えることのない傷よ」

 

陸奥が淡々と語っていたが叢雲、吹雪、天龍、青葉、それ以外の者達、誰も言葉を発しなかった。

 

青葉に至っては中途半端な情報で人を傷つけたという事で蒼白になっている。

 

吹雪はぽろぽろと涙を零し、天龍は顔を顰めている。

 

そんな中で叢雲は彼へ思いをはせていた。

 

立花ヤマトはどんな気持ちでかつての仲間と戦う選択を取ったのか、そして、彼は今もそのことで苦しんでいるのだろうか、そんな疑問が浮き上がる。

 

なにより。

 

「貴方はどうして彼と一緒にいるの?話の通りだったら姉を殺したのは…憎むべき」

 

「ヤマトね、普通なら彼を恨まないといけないのかもね…でも」

 

できるわけがない。

 

陸奥の脳裏にあの時の光景がよみがえる。

 

雨の中、ずぶぬれになるのを構わずにヤマトは頭を下げ続けていた。

 

周りがどれだけ止めようとしても彼は応じない。

 

ずっと、陸奥が言葉を発するまで、自分が近づこうとするまで動かなかった。

 

「無理よ」

 

あんな姿を見せられて恨むなどできるわけがない。どれだけ人間へ絶望していたとしても彼のあんな子犬のように縮こまっている姿をみて、恨み続けるなどできるわけがなかった。

 

「私はヤマトを恨まない」

 

陸奥の言葉に叢雲は追及しなかった。

 

彼女の表情を見てそこにある何かを感じる。

 

叢雲は静かに尋ねる。

 

「貴方は何のために彼といるの?」

 

「彼を救うためよ」

 

陸奥は儚い笑顔を浮かべる。

 

その笑みにあるのはヤマトに対する思いなのか、今は亡き姉への気持ちなのか…それは陸奥にしかわからないものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し、羨ましいと叢雲はおもってしまった。

 

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