「ヤマト…いえ、提督、朝です!」
「あぁ、すまないな叢雲」
朝日が差し込む執務室。
叢雲は軍服を着た立花ヤマトがいる部屋へ入り敬礼する。
「さて、今日の執務を開始するとするか」
「その前に食堂で朝食を」
「いや、久しぶりに叢雲の料理が食べたいな」
「え?でも」
「最近は忙しかったからな。たまには彼女のおいしい料理を食べたいと思ってもいいだろう?」
「…もう」
ニコニコと笑みを浮かべているヤマトから目をそらしていると立ち上がって自分を抱きしめてくる。
「ちょっと、ここで」
そこで叢雲は目を覚ます。
「朝からなんという夢みてんのよ」
頬を少し赤くさせながら叢雲は布団から這い出る。
同室の吹雪はまだ眠っているのだろう。
設置されている時計を見るとまだ夜中だ。
「少し、気が緩んでいるのかしら」
それともヤマトが提督になったことを喜んでいるのだろうかという考えを叢雲は否定する。
ありえない。
あんなのが自分の理想としている提督なんて天地がひっくり返っても認められなかった。
朝からいちゃつくような夢をみるなどもってのほかだ。
「でも、夢じゃないんだ」
立花ヤマトはこの舞鶴鎮守府の提督となった。
この事実は何があろうと変わらない。
提督の下に就くということへ少し前なら抵抗があったかもしれないが今は違う。立花ヤマトは信用できる。
彼ならば。
「……顔が熱くなってきたわ…寝ましょう。これ以上起きていたら朝の執務支障をきたす」
ぶつぶついいながら叢雲は眠りへつく。相部屋の吹雪が「もう食べられないよう~」なんて寝言をささやいていたような気がするがそれは気のせいだろう。
翌朝、
「何で執務室にこないのよぉ!」
安眠を楽しんでいた立花ヤマトは叢雲の突撃によって眠りからよび起こされる。
「うるさいなぁ…まだ八時じゃないか」
「既に八時よ!?普通なら執務の準備しないといけない時間よ」
「は?執務」
「忘れたの!?アンタは提督なのよ!提督ならちゃんと執務をしないといけないでしょうがぁあああああああああ!」
「そういえば、提督になったんだったな。俺」
ヤマトはすっかり忘れていた。
先日、叢雲達の策略?によってヤマトは舞鶴鎮守府の提督へ着任することとなった。
そのことをすっかり忘れてしまっている。
「あー、やらないとダメ?」
「当たり前よ!!さ、着替える!」
叢雲はそういうと布団をはぎ取りヤマトへ制服を渡そうとしたが。
「軍服はいいわ。そんなものきたくないし」
「え?でも」
「提督は軍服必須?俺、軍属じゃないけど」
「なら、いいわ(少しみてみたかったのに)」
「何かいったか?」
「別に、早く準備しなさい!!」
「わかったよ。元気な奴だな」
ヤマトはそういうと上の服を脱ぐ。
「私が出ていくまで待て~~!!」
顔を真っ赤にして叢雲は飛び出した。
「ヤバイな。からかいすぎた」
提督の執務といってもこの鎮守府は本日正式稼働という事になっており、やることは特になかった。
「そんなわけないでしょ!?建造とか、所持している艦娘を改装するとか!色々やることがあるわよ」
「その書類に判を押すだけだろ?確認して押しているじゃないか」
「動きに驚いているわ」
「…そもそも、建造って必要なのか?ここの戦力もそこそこあると思うが?」
「何を言っているのよ。この鎮守府、他と比べて空母や重巡が少ないわ。何より戦艦がいないでしょ?」
「…そういえば、いないな」
「何度も試したんだけど、戦艦が手に入らなかったのよ。それでうちには戦艦がいないの」
「ふぅん、それで建造をするのか?」
「…そこは提督の判断に任せるわ」
「じゃ、しない」
「一応理由を聞いても?」
何か意味があって建造をしないというのだろう。
叢雲の期待した目をみてヤマトは静かに言った。
「開始したばかりだ。資材はしばらくためる方針だ。みんなの練度もゆっくりあげていきたいしな。無茶な進軍をさせるつもりはないってことだ。俺は俺のペースで進めていく」
納得できないかというヤマトの問いに叢雲は静かに首を横へ振った。
「信頼しているわよ。司令官」
「やめてくれ」
過度な期待は苦手なんだというヤマトの態度を見て叢雲は静かに笑う。
その時、扉が開いて吹雪がやってくる。
「た、大変です!司令官!叢雲ちゃん!」
「どうした吹雪?」
「その、工廠に新しい艦娘が」
「「……は?」」
「深雪だぜ。よろしくな!」
「…駆逐艦が建造されている」
「嘘、どうして?」
工廠へ足を運ぶとボーイッシュな雰囲気の吹雪と同じ制服を着た艦娘が待っていた。
しかも、舞鶴鎮守府の工廠で生み出されたらしく竈の扉みたいなものが開いている。
信じられないと叢雲が目を見開いている。
「吹雪、彼女の建造に気付いたのはいつだ?」
「その、ついさっきなんです。急に工廠で変な音がしたから」
「…勝手に起動したのか?」
「そんなことありえないわ。工廠は提督、秘書艦の許可があってから妖精が動かすのよ?勝手に動くなんて…」
「…なぁ?何かあったのか」
三人の会話に異変を感じ取ったのだろう。
深雪が訊ねてくる。
「いや、気にしないでくれ。深雪だったな。俺がここの提督、立花ヤマトだ。これからよろしく」
「任せてくれ!」
差し出された手を深雪がしっかりと握りしめる。
工廠が起動した理由はわからないが新たな艦娘を舞鶴鎮守府は迎え入れることとなった。
「鎮守府の案内はそうだな。俺がやるか」
「え、提督がやってくれるの?」
「そうだが」
「馬鹿なこといわないで、アンタは仕事があるでしょ」
「そんなもん、既に終わってる」
「……そうだった」
「流石です!司令官」
「へぇ、中々に優秀なんだ」
目をキラキラさせる吹雪と興味深そうに見る深雪をみていると頭痛がしてきた叢雲だった。
しかし、仕事は既に終わらせている以上文句はいえない。
「私も」
「叢雲、お前昼の当番だろ」
「……あ」
「私が一緒に行くよ」
「ごめん、吹雪。お願いするわ」
「任せて」
親友へ後の事を任せて叢雲は食堂へ走る。
「提督、当番ってなんだ?」
「この鎮守府は朝昼晩の料理を自分たちで作ることにしているんだよ」
「何で?」
「戦いばっかりの毎日にならないようにという理由だ」
「ふぅん」
「納得できないか?」
ヤマトの問いに深雪は何とも言えない表情だった。
「ま、無理になれろとはいわねぇよ。吹雪、次の案内を」
「ヤマトさーん!」
とてとてと文月と皐月がやってくる。
二人の手の中にあるのはサッカーボール。
「お前ら、どうした?」
「サッカーしたい!」
「ボクは止めたんだよ?でも、文月がどうしてもやりたいって」
「光太郎さんも呼んだから!」
「…サッカーって何さ?」
「あれ、新しい人?」
「深雪ちゃんだよ」
「ちゃん付けはやめろよ!深雪な!よろしく」
そういって文月と皐月へ挨拶する。
二人はサッカーボールをヤマトへ向けていた。
「提督、サッカーって何さ?」
「知らないのか?遊びだ。やってみると楽しいぞ」
「へ~」
「そうだな、案内は昼からにするとしてサッカーでもやるか」
「わーい!」
「いいのかなぁ?」
「うーん、どうだろう」
「よくわかんねぇけど、全力で行くぜ!」
サッカーのルールをヤマトが深雪に教えている間に光太郎主導によってチーム編成が行われた。
「思ったんですけど、光太郎さん普通に鎮守府にいますけれど、大丈夫なんですか?」
「ヤマトによると外からの手伝いという扱いにしてくれているんだ。だから、大丈夫」
光太郎は基本的に外部の協力者ということになっているらしく、普通に鎮守府をうろついていても問題はない。ヤマト以外に心を開いていない艦娘達だが、光太郎のやさしさと改造人間であるという理由からすんなりと受け入れられていた。
そうして、サッカーの試合がはじまった。
「し、新参者に負けたー」
「皐月ちゃん、難しい言葉知っているね」
「長い間、やっているサッカーで負けるなんて」
「よっしゃあ!サッカーって楽しいな!提督」
「気に入ってもらえたなら…よかったよ。うん」
「司令官、大丈夫ですか?」
手加減とはいえ、深雪に完敗したことで光太郎とヤマトは精神的ショックを受けつつ、食堂にいる。
今回の料理担当は叢雲、如月、曙といったメンツ。
「うわっ、おいしいなぁ」
「うふふ、そういってもらえると嬉しいわ」
「これでも、料理の勉強頑張っているからね…こっちみんな!クソ提督!」
「理不尽だろ!?」
トレーを受け取ろうとしたところで怒鳴られてヤマトが叫ぶ。
カレーなのだが料理を熱心に勉強している艦娘達の手によっておいしくなっていた。
最近、如月を筆頭に料理を熱心に勉強する艦娘が増えている。
おいしいモノを作ってほめてもらいたいらしい。
料理を作る楽しさに目覚めたようだ。
ちなみにヤマトは知らないが睦月型と綾波型達で料理の腕を上げることで提督、つまるところヤマトにほめてもらおうという理由がある。
カレーを深雪はがつがつと食べていた。
「あー!勝利した後のカレーは格別だな!」
「勝利?」
隣へ腰かけた阿武隈が訊ねる。
「そうそう、さっきサッカーっていうのを文月達としたんだよ」
「へぇ~、文月ちゃん達、サッカーしていたの?」
「うん、提督たちにルールを教えてもらってさ…あれ」
深雪はそこで食堂が静まり返っていることに気付く。
何事かと周囲を見れば阿武隈、漣は隅っこで震え上がり、朧、望月、長月は両手を合わせて合掌。睦月と潮は如月の後ろに隠れていた。残りのメンバーはある人物へ視線をむけている。
「へぇ~~~、サッカーをしていたのぉ」
ゆらりと立ち上がったのは足柄。
彼女の目は震えている文月と皐月へ向けられていた。
「おかしいなぁ、午前中は授業だったはずなのになぁ?ねぇ、文月ちゃん、皐月ちゃん?」
「「!!」」
青ざめた顔で外へ飛び出そうとするがそれよりも早く足柄が飛び上がる。
「逃すかぁ!貴方達!罰則を受けてもらいますからぁああああああああ」
「「ひゃあああああああああああああ!」」
逃げていく二人を追いかけていく足柄。
それをみて、ヤマトが呟く。
「舞鶴鎮守府名物、逃げる幼女を追いかける狼…になるかなぁ?」
誰も反応しなかった。
「不手際で新しい子が入ったけれど、どうする?出撃とか」
「今は周辺の警戒で十分にしておきたい。まだみんなが実戦慣れしているわけじゃないしな。俺も毎日出撃できるわけじゃないから」
「って、アンタもでるの!?」
「当たり前だ。俺は他の提督みたいに机でふんぞり返って偉そうに指示する人間じゃない」
「でも、そんなことありえない。提督が最前線へ立つなんて」
「そういう提督がいたっていいんだよ。何よりそれしかできないからな。俺は」
艦隊経験がないヤマトが唯一できることは共に戦う事。
叢雲もわかってはいる。けれど、もし最前線へ出て大きなケガを負ったらと考えると不安になる。
顔に出ていたのかヤマトは叢雲の頭を撫でる。
「大丈夫だ。引き際とかはわかっているつもりだし、あまり無茶はしない」
「……絶対よ」
「あぁ」
撫でられながら叢雲は微笑む。
「あら、お邪魔だったかしら」
「っ!!」
びくぅと叢雲は慌てて離れる。
やってきたのは遊撃部隊所属の陸奥だった。
「どうした?」
「提督着任の挨拶と遊撃部隊の面々も正式にこの鎮守府着任となった報告よ」
「…は?」
叢雲とヤマトは同時にぽかんとした表情を浮かべる。
今、なんといった。
「おい、陸奥?」
「なに」
「遊撃部隊がここの着任になるって」
「谷元帥から書類が送られてきているはずよ?」
「む、叢雲!」
「まって、今、探しているから!」
書類の山を探る。
ヤマトの記憶によればそんなものはなかったはず。
「あ、あったわ!って、今きた奴じゃない!」
「うわぁ、本当に記載されているよ」
谷元帥の捺印込みで遊撃部隊の所属が舞鶴鎮守府とする内容だった。
「気になったんだけど、遊撃部隊の艦娘って、何人いるのよ?今までに私達が合ったメンバーだけ?」
「いや、確か…各種ごとに二人はいたはずだから」
「十二人よ」
「多!?」
「ま、みんな、色々な特務を抱えているから全員合流までにかなりの時間がかかると思うわ」
「いきなり全員来たら地獄だっての」
どこかげんなりした表情でヤマトがいう。
遊撃部隊全てを知らないがヤマトに対して絶対の忠誠心みたいなものを持っている。そんなのがたくさん来たらとんでもないことになるのではないか?と叢雲は不安になる。
特に。
「ちーっす。ヤマト~遊びに来たよ~」
「北上さん、ヤマトさんとこれから毎日仕事ができると考えると幸せです」
北上と大井の二人は要注意だろう。
ヤマトへ絶対的な忠誠心と好意を持っている。
その為にどのようなことが起こるか考えただけで叢雲は頭痛を起こしそうになった。
「いきなりお前らが来る時点で嫌な予感がするんだけど」
二人を見てヤマトは顔を顰めている。
「そうね、ヤマトの予想は当たっているわ」
陸奥がある書類を取り出す。
「どこから取り出しているんだ。お前」
「火遊びしてみる?」
「遠慮しておく」
「残念~」
ふざけていることはわかるが叢雲は顔を顰める。
陸奥の一部と自分のある部分を比較してしまった。
ハッと叢雲は顔を上げる。
ヤマトに気付かれただろうか?
「この書類の内容、本当か?」
おそろしいくらい真面目な表情をしてヤマトは尋ねる。
「間違いないわ。残念なことだけど」
「…わかった。あぁ、これ部屋のカギだ」
ヤマトは引き出しから二つのカギを取り出す。
一つを陸奥、もう一つを大井に渡した。
「大井は北上と同部屋な」
「ヤマトっちは同じ部屋じゃないの~」
「そんなことできるか。仮にも提督となったんだし」
その言葉に北上と大井は沈黙する。
これで諦めたのだろう、ヤマトは追及しなかった。
考えが甘かったことをその日の夜に思い知らされることになると知らず。
三人が執務室から出ていったのを見送ってから叢雲は尋ねる。
「眉間へしわを寄せていたけれど、何かあったの?」
「これだよ」
ヤマトは叢雲へ書類をみせる。
書類へ目を通す。
表題は「深海棲艦の変死について」
「なにこれ?」
「最近、深海棲艦の変死体が海で見つかるらしい。死因不明だ。大本営としては警戒するようにというものだ」
「変死って?」
「みてみるか?一応、抜いといたけど…これから夕飯だけど?」
「………今度みせてもらうわ」
今、みたら食事が喉を通らないぞと遠回しに言われて辞退する。
ヤマトはちらりと写真を机にしまう。
“惨たらしい”
その言葉が似合う死体だった。
ヤマトは立ち上がる。
「さて、食堂に行くか……あぁ、そういや深雪の歓迎会どうすっかなぁ」
「歓迎会?」
「新しく仲間になるんだろう。だったらようこそという歓迎会をするべきだと思ったんだが?」
「…そういうこと、やるのね」
叢雲は目を見開く。
今までの提督は自分たちを兵器としか見ていなかった。新しい艦娘が来ても歓迎会という事などを企画しなかった。
「今日は無理だな。明日でもやるか…」
「…やっぱり」
「何か、いったか?」
「何でもないわよ!!」
叢雲は叫んで部屋を出ていく。
ヤマトは首を傾げて片付けをする。
演習を終えた吹雪が廊下を歩いていると反対側から叢雲がやってくる。
「あれ、叢雲ちゃん。執務は?」
「もう終わったわ…どうしたの」
吹雪がにこにこと微笑みだしたことで叢雲は怪訝な表情を浮かべた。
「ううん、叢雲ちゃん。嬉しそうだね」
「何言っているの?」
首を傾げる叢雲だったが吹雪はうんうんと頷く。
「明日も頑張ろうね!」
「…えぇ」
理解ができず彼女はただ首を傾げるばかりだった。
デレる叢雲を書いてみたかった。
数話ほど平凡的な話を書いてから…新展開へ移る予定です。
クリスマスなど、書いている暇はない!