「……やられた」
翌朝、寝苦しさにヤマトが目を覚ますと布団に二つの盛り上がりがあった。
自分以外に二つ。それである存在を考慮する。
ゆっくりと布団をめくり上げる。
「やはり…」
北上と大井の二人だった。
「んぁ~、まだ時間じゃないじゃん」
おそろいのピンクのパジャマを二人は着ている。少しボタンがいくつか外れていて素肌がみえていた。
「ヤマトさん、布団を、北上さんが寒がってしまいます。私も寒いです」
「お前ら…宛がった部屋はどうした?」
「え?ヤマトっちと寝る方があったかいじゃん」
「俺、提督になったんだけど」
「だから?」
「お前らと寝ているところ憲兵にみられたらヤバイんだけど」
「憲兵はここにきませんから」
「…は?」
ヤマトは間抜けな表情を浮かべる。
「まだ時間もありますし、寝ましょう。執務の時間に説明しますから」
「おやすみ~」
そういって眠りについた二人を見ていたヤマトもいつの間にか睡魔に負けた。
朝になって起こしに来た叢雲が今の状況を見て怒鳴ったのはいうまでもない。尚、同行していた文月がその輪の中へ突撃したことも追記しておこう。
「それで、大井、憲兵がここへこない理由を教えてくれないか?」
ヤマトは大井と二人っきりで話をしていた。
叢雲は機嫌を損ねており、ここにいない。
北上は他の艦娘達を指導するといって外にいる。悲鳴のようなものが聞こえるが放置だ。
「二人っきりなのに、こんな話をしないといけないなんて、あぁ、悲しい」
「おい」
「冗談ですよ。さて、憲兵が来ない理由ですけれど…はっきりいえば、谷元帥を除く上層部はここにいるヤマトさんを抑え役、制圧担当とみているようです」
大井の言葉にヤマトは理解した。
理解したくなかったがあまりに愚かな内容に顔を顰めた。
立花ヤマトが改造人間であるという事は一部の人間しか知らない。谷元帥を除くメンバーは普通の人より少し強い人間、もしくは特殊能力を持った人間と嘘が広められている。
「そうです。上はヤマトさんを…艦娘を抑える兵器としかみていません。本当、魚雷を撃ち込んでやりたくなりました。それ故に憲兵がここへ訪れることはないんです」
「そりゃ危険な存在がいれば、視察する対象が減るわけだから」
「…すいません、私達がいながら」
「大井達が悪いわけじゃない…人間なんてそんなもんだよ」
悲し気にうつむく大井をヤマトはそっと抱きしめる。
泣いている顔を誰かへみせるわけにはいかない。そういう理由からだった。
大井は声を押し殺して泣く。
しばらくして、彼女は離れる。
「すいません、ヤマトさんに迷惑ばかり」
「別に良いっての。もう慣れた」
「もう」
大井は小さく微笑む。
それをみて、ヤマトは改めて思う。
やはり艦娘達は笑顔が似合う。
この笑顔の為に、自分は。
「光太郎さん、料理できるの?」
「大丈夫だって、こうみえても赤城さんに鍛えられたから」
鎮守府の食堂、そこで南光太郎と皐月は調理をしていた。
本来なら望月と長月だが風邪をひいて寝込んでしまったため、急きょ光太郎と皐月が行っている。
「光太郎さん、お昼は…」
「望月ちゃんと長月ちゃんのメニューはパスタだったからそれをやろうと思う」
「…あの二人の事だからミートパスタなんだね」
皐月は置かれている具をみて呟く。
パスタとミートボール、トマトソースといったものが置かれている。
面倒なことを嫌う望月としては楽なものを作ろうと考え、料理を知らない長月はできる相方の意見を尊重した。
そこでうどんにしなかった辺り、少し食へこだわりがあったと思いたい。
「さて、始めるよ皐月ちゃん」
「はーい」
手を上げて皐月は光太郎と料理を始める。
結果から言うとパスタは完成した。
光太郎の言う料理ができるという言葉に嘘偽りはなかったことを皐月は理解する。
「光太郎さん、料理できたんだね~」
「本当に信じていなかったんだな。できるっていっただろ?」
そういいながら光太郎はやってきた漣へパスタを渡す。
お代わり用の鍋もあるがまずは適量をよそって渡すようにしている。
「うーす、悪いな光太郎」
しばらくして提督のヤマトと大井達がやってくる。
「いいって、居候みたいな俺にできることがあったら色々いってくれ」
「じゃあ、鎮守府にあるトイレ全ての掃除を毎日」
「おい!?」
「冗談だ、昼はパスタか」
「全く…」
光太郎とヤマトの仲は良い。
昔からの付き合いというのもあるのだろう。皐月から見ても兄弟と思えるほどだ。
ふざけたやりとりをしてヤマトと大井は席へつく。
見届けてから光太郎と皐月も食堂のテーブルへ向かう。
「俺達で最後だったか?」
「あぁ」
「悪いな」
「気にするなって、執務が忙しいんだろ?」
「最初の方だからそんなにやることはなかったんだけどな。ちょっと打ち合わせだ」
「打ち合わせ?」
「今後の出撃についてだ」
「なぁ、ヤマト、その件なんだけど。俺も」
「変身して出るって?」
コクンと光太郎は頷く。
光太郎は改造人間であるという事実は既に鎮守府の中で知らない艦娘はいない。
皐月はミートソースまみれのまま光太郎とヤマトを交互に見る。
「正直、光太郎を出撃っていうのはあまり考えていない」
「それは…お前が出撃するからか?」
「まぁな。後は…ここの防衛をお願いしたいんだよ」
「防衛?施設は」
「外からやってくる人間と…深海棲艦が不意を突いて攻めて来たら…あとは、いわなくてもわかるだろう?」
光太郎は頷く。
この鎮守府は敵が多い。
ヤマトはショッカーから裏切り者として、光太郎は世紀王として、艦娘達は反抗的な態度をとってきたことから軍部から、様々な相手から嫌われているのだ。
ヤマトを含めた練度の高い艦娘が出撃している間に敵が攻めてこないとは限らない。
その時の防衛策として光太郎には残ってもらいたいという考えがヤマトにあった。
「毎日、俺が出撃できるわけじゃない。その時は任せていいか?」
「あぁ」
「あのさ~」
二人が友情をはぐくんでいる姿を見ながら皐月が口を開ける。
「早くしないとパスタ、冷めちゃうよ?」
同時にパスタへがっついたのは似た者同士なんだろうなぁと皐月は思った。大井は無言でパスタを食べていた。
そんな舞鶴鎮守府へある手紙が届いたのは一週間が過ぎたある日の昼下がりだった。
「観艦式?」
「横須賀鎮守府が戦艦大和の建造に成功したみたい。それで式典を行うから各鎮守府の提督は参加しないさいって」
叢雲から受け取った招待状に目を通す。
確かに鎮守府の提督は参加するようにと書かれている。
「フーン、お、これ、艦娘同行可じゃないか」
下に注意書きとして艦娘二人までなら同行可という項目を見つける。
「こういう式典って面倒なんだよな。編成で忙しいからとかいう理由で拒否とか」
「できるわけないでしょ!?」
「とにかく、このメンバーについては艦娘達で決めてくれるか」
「え?」
「俺が決めることもありだけれど、そうすると嫌がる子もいるかもしれない。だから自分が行くっていう子がいるかどうか話し合ってくれ」
「もし、誰も行きたくないって言ったら?」
「俺一人で行ってくる。ここのことは叢雲に任せることになるけど」
「…わかったわ、今から話してきても?」
「頼む」
叢雲は頷いて執務室を出る。
退出する際に艦娘達へ食堂に集まるよう指示を出すことを忘れない。
叢雲が食堂へ到着すると全員が既に集まっていた。
「何かあったのか?全員呼び出すなんて」
みんなの気持ちを代弁するように天龍が訊ねる。
「まずは、大本営から各鎮守府へお知らせがあったの」
叢雲はそういって式典について短く説明する。
それを聞いて顔を青ざめる艦娘はいなかった。
外へ出ること、正確に言えばヤマト以外の提督へ会うことの抵抗がみえる。
「あ、私行きます」
周りを見て吹雪が立候補する。
比較的、人間に…提督に免疫の強い彼女。
後は自分が立候補すればいいか?叢雲がそんなことを考えていた時、一人の艦娘が手を上げる。
「あ、朧もいきたい」
「!?」
「え、朧ちゃん?」
「アンタ、なんで」
「いやぁ、外の世界に興味あったし、ヤマト提督もいくんでしょ」
「えぇ」
「だったら、しばらく提督と一緒にいられるわけでしょ」
バキューンと全員の頭を何かが撃ちぬく。
式典、外の提督の事で頭がいっぱいだった艦娘達はしばし思考を停止させる。
そして。
傍で様子をうかがっていた光太郎は後に語る。
目的の為に手段を択ばないということはこういうものなのだと。
「しっかし、移動手段が決められているっていうのは面倒だな」
「そう?朧としては外の景色がたくさん見られるからうれしいけど?」
「睦月ちゃんもこられたらよかったのに」
列車に揺られるヤマトの左右に座っている艦娘。朧と如月の姿がある。
三人は横須賀鎮守府で行われる式典出席のため列車に乗っていた。
ヤマトは知らないが提督と共に出かける(漣のデート発言)ために起こった騒動は朧と如月の勝利で終わる。
悔し涙を流す艦娘達に見送られて(ヤマトは首を傾げながら)舞鶴鎮守府を出て横須賀に向かっていた。
「それにしても、戦艦を建造しただけで式典ってなぁ」
「司令官はわかっていないわね。戦艦大和よ」
「確かに歴史に名高いことはわかるけどさ」
「能力が他の艦娘の中でずば抜けて高いからね。手に入れたら海域解放も楽になると思っているんじゃないかな?」
「ふーん」
他愛のない話をしていたヤマトは唐突にカバンからお菓子を取り出す。
「どうしたの?」
「道中、暇だからな。こういうものを食べながら話をするのも良いだろ」
ヤマトの言葉に如月と朧は笑みを浮かべる。
やっぱり、彼は良い人だ。
二人はにこにことお菓子へ手を伸ばす。
そうしないと緊張のあまりおかしくなりそうだった。
横須賀までの道のりは電車を使っているのだが周囲を武装した陸軍の兵士がいるのだ。
どこかピリピリした空気、これが潮や文月なら怖くて泣きだしていただろう。
「ねぇ、司令官。どうして陸軍が私達の護衛をしているの?」
疑問に思っていたのだろう。ぽりぽりとスナック菓子を食べていた如月が訊ねる。
「さぁな、貴重な艦娘が陸路を通るからそれは守らないとメンツがつぶれるとかそんなもんじゃないの?」
「…提督、何気に毒を吐くね」
傍を通る兵士を見ながら朧は苦笑する。
「まぁな」
しつこいが立花ヤマトは改造人間であり聴覚も人の数倍ある。少し集中すれば別室の会話を聞き取れる。
先ほどから自分を「化け物」といっているここにいない兵士の会話を聞いていたら毒も吐きたくなる。
護衛したくないならしなければいい。それがヤマトの本音だった。
どうやら陸軍も海軍同様にショッカーについての情報を持っている様子だ。上官らしき男がしきりに改造人間という言葉を繰り返している。どの程度把握しているかは別として自分を化け物としてみる目は問題ない。
しかし、彼女達を同類とみなすことは容赦しない。
ヤマトはいつの間にか寝ている二人から離れて移動をする。
すると武装した兵士が道を阻む。
「トイレへいきたいんだが」
「…」
ちらりと横を見る。
「いいだろう」
「後さ…」
兵士の肩へ触れる。
「助けてもらっているのに化け物呼ばわりはないんじゃない?」
少し力を籠める。
兵士は苦痛に顔を歪めていた。
「おっと、失礼。化け物は容赦が効かないんで」
ニコニコと微笑んでヤマトは別の車両へ移る。
肩を押さえて兵士は顔を歪めた。
「どうも」
こもっていない謝罪をしてヤマトは車両を移動する。
痛む肩に顔を歪めて兵士は呟く。
「化け物…」
「おい、やめろ」
「だって、事実だろ?噂じゃ片手で車を止めるとかそんなことができるんだぞ?人間じゃない…あいつらもな」
そういって座席で幸せそうに眠っている朧と如月を見る。
艦娘の存在は陸地でもテレビなどで報道されている。しかし、実態については規制がなされており全貌を理解している市民は少ない。
さらにいえば、陸軍も把握していなかった。
「おい…護衛としてついてきたあの艦娘はどうした?」
「さぁ、適当にふらついているんじゃないか」
「全く…」
ぶつぶつと愚痴を零しながら陸軍の二人は話し込んでいる。
二人は気づかなかった。
天井からするすると伸びている白い糸。
生き物のように動いて彼らの首へ向かっていた。
その頃、ヤマトは変な少女に絡まれていた。
「ほぉ~」
「戻りたいんだけど」
「いやいや、もう少し、ほんの少し」
「人の顔をまじまじみてて楽しいか?」
ヤマトは軍服をきた異様に白い肌の少女と遭遇してから道を阻まれていた。
こちらをまじまじと観察するようにみている少女。
「ふーむ」
「もういいか?待たせている奴らがいるんだが」
「…いえ、もう少し」
横にずれようとすると先回りするように阻まれてしまう。
乱暴に退けてもいいかもしれないが少女にそんなことをするのは問題だ。
どうしたものかと考えていた時、小さな発砲音がした。
「おや?」
「退いてくれ」
少女を横に動かしてヤマトは扉を蹴るようにして走る。
今の発砲音は朧たちがいる方向だ。
嫌な予感がした。
扉を開けると蜘蛛を模した怪人が朧と如月へ近づいている姿を捉える。
それを見た瞬間、ヤマトは服をめくる。
腰のタイフーンが回って特殊戦闘服と仮面を装着した。
扉を壊して改造人間スパイダーと取っ組み合いになる。
「裏切り者!なぜ、ここに!」
「何が目的だ」
別の車両へ移りながら仮面ライダーがスパイダーへ叫ぶ。
スパイダーは体から糸を発射する。
躱して拳を放つ。
拳を受けたスパイダーはごろごろと床を転がる。
「答えろ、お前の狙いは何だ?」
「チッ」
スパイダーは車両の一部をえぐり取ると外へ逃げていく。
「…逃げたか」
仮面を外してヤマトは揺られる列車から外を見る。
既に薄暗くなりつつあった。これではみつけられないだろう。
立花ヤマトは変身を解除して元の車両へ戻る。
床でこと切れている兵士二人と気絶したのか眠っている艦娘二人。
「…俺も、弱くなったかな」
眠っている二人へ手を伸ばそうとして止める。
自分は敵と戦った直後、そんな存在が彼女達へ触れていいのか?
ヤマトは手を引っ込める。
その間に列車は横須賀鎮守府の最寄り駅へ着こうとしていた。