横須賀鎮守府、激化する深海棲艦との戦いにおいて最前線。
常に練度の高い艦娘達が海を走り、深海棲艦が根城としている海域へ攻め込んでいる。
その鎮守府の建造において戦艦大和が着任した。
大本営はより海域解放へつながるだろうと期待して観艦式を行うことを決定。
各エリアの提督たちを集めて式典を行う。
そのためにヤマトも艦娘達を連れてきたわけだが。
「何というか、豪勢だな」
「凄いね~」
「うふふ、みんなが期待しているのね」
「そうだろうな、経歴もエリート街道まっしぐら~みたいなものだし」
如月の言葉にヤマトは同意しつつ横須賀鎮守府の提督の経歴を思い出す。
確か、自分より二つか三つほど年上で若い頃から海軍で訓練に励んでいたらしい。そんなある日提督としての適性が見つかり鎮守府の提督となった。
他の提督と異なる点は出撃する際に現場で指揮を執るらしい。
らしいというのはそれが本当なのか違うのかわかっていない。目撃したという艦娘はいるそうなのだがはっきりしていなかった。
「提督はどうなの?最前線で戦う人って」
「度胸があるなとは思う。それだけさ」
ヤマトは肩をすくめて手続きを済ませる。
手続きの際、事務員がヤマトをみて訝し気な表情で見ていた。
「(この格好のせいだな)」
自分の服を見る。
彼は提督の着る軍服ではなく、普段着だった。
黒い革のジャケットに白の襟シャツ、茶に近いズボン。
「朧は気になったんだけど、軍服じゃなくてよかったの?」
「正式に軍属というわけじゃないからな。着る必要はない」
かなり目立つけどとヤマトは苦笑する。
係員に案内されて会場へ到着する。
会場はかなり大掛かりなもので複数のテーブルがあった。
既に着席している者もいれば、未だに空席もある。
「多いね」
「マスコミもいるようだな」
「正装、したほうがいいんじゃない?」
「ここまできたら自分を貫く」
ヤマトの言葉に朧と如月は苦笑する。
宛がわれた場所に着席する。
艦娘達もともに座ってよいらしく、左右に朧と如月が座った。
しばらくして軍服を纏った者達、おそらく提督だろう。彼らが腰かけていく。
ヤマトの姿を見て首を傾げる者もいたが名前を見て納得した様子を見せる。
呉、佐世保の鎮守府から警備府の提督が集まった。
その中で一人、ヤマトを鋭い目つきで睨む提督がいる。
警備府の提督、名前を忘れたが敵を見るような目つきだった。
ヤマトは基本的に提督という職業の人間から好かれていない。気づかない所で敵意を持たれても仕方ない。
呉、佐世保の提督は艦娘を連れていた。
戦艦伊勢や軽空母の龍驤といった面々を連れている。
式典が始まる。
都会の有名な議員や大本営の大将がスピーチをしていく。
間に有名なアイドルが登場して歌を披露といったこともあった。
朧や如月は現れたアイドルに目を輝かせている。
「提督、あれはなに?」
「アイドルだな」
「アイドル?」
「確か、歌ったりテレビに出てくる人達よね?」
首を傾げる朧と自身の記憶を引っ張り出す如月へヤマトは頷く。
「そうだな」
「へー、アイドルってあんなキラキラしているんだね」
興味津々という顔で朧が言う。隣にいる如月も表情は変えていないが目を輝かせている。
その中で質疑応答といったこともあるが提督たちは沈黙を貫いている。
提督たちはウェイターが持ってきた酒や食事を楽しんでいる。そんな中、一人の提督がこちらをみてきた。
「おい、アンタ」
声の主は警備府の提督。
酒を飲んでいるのか顔が赤い。
名前も知らない提督は敵意を向けた目でこちらをみている。
短く刈り上げした髪と無駄のない肉付きから体を鍛えていることがわかった。
「何ですか?」
一応、敬語を使う。初対面の相手…のはずだ。
「何故、お前が鎮守府の司令官になっている?」
「上からの命令、ですから」
「お前みたいな餓鬼が、どんな手を使ってその地位に就いたのかって聞いているんだ。俺がいるべき場所を後から横取りしやがって、聴いた話だと着任してからロクなことをしていないそうじゃないか。それなら俺が着任した方が何倍も良い」
どうやらヤマトが舞鶴鎮守府の提督という事が気に入らない様子だ。
さらにいうと自分がそこに就くべきだと思っている。
確かに鎮守府と警備府じゃ、大本営から与えられる資材や任務など少しばかり差異はある。しかし、それは大本営が決めた事でありヤマトが何かしたわけじゃない。
何より艦娘達の策略で提督という地位にいるだけであり彼女が要らないといえばすぐに解任される。
「そういうんだったら直訴すればいい。尤もあんたみたいな自分に酔った人間が務まるとは思えないけどな」
「何だと」
ヤマトの物言いに警備府の提督が立ち上がろうとした時。
「そこまでにしたらどうかね?早瀬提督」
傍観していた呉の提督が警備府の提督、早瀬を窘める。
「ここは祝いの場だ。自分の所属に不満があるのなら上官へ意見書を送ればいい。それにここにいる立花君はあの問題とされている舞鶴鎮守府を立て直すところまで頑張っている。それをなんの功績もないというのはどうかと思うがね?」
「…そうかもしれませんが、貴方達は何も思わないのですか?こんな軍服すら着用しない人間が鎮守府の提督など」
「聴けば立花提督は民間から採用され、様々な理由による正式に軍属というわけではない。軍服も支給されていないのではないかね?」
「そうですね。礼装といえるものも色々ありまして準備が間に合わなかったです」
佐世保の提督からのフォローにヤマトが同意する。
「あの、提督」
朧がおずおずとヤマトへ話しかける。
その途端、早瀬提督がギロリと朧を睨んだ。
「提督同士の話し合いに艦娘が口を挟むな!」
「ひぃっ!」
朧が怯えた声を出す。
そのため、場が静まり返る。
「……おい、朧は関係ないだろう」
ヤマトの目が鋭くなる。
それだけのことなのに早瀬提督の顔が恐怖へ染まった。
「う、うるさい。人間が話しているんだ。そこへ艦娘が話しかけるなど、上官へ口をはさむことと同じだぞ」
「上官とか下だとか以前にここの海を守っているのは艦娘だという事を忘れているんじゃないか?」
「なんだと、そもそも指揮さえなければ満足に動けない艦娘が」
「もういい」
ヤマトは席を立つ。
「呉と佐世保の提督には申し訳ありませんが自分は席を外させてもらいます。これ以上はお二方の気分も害されることもあり得ますので」
「いや」
「我々は気にしないよ」
「ありがとうございます。朧、如月、周りをみてこよう」
「は、はい」
「はーい」
「逃げるのか?」
離れようとしたヤマトの背中へ早瀬が投げかける。
「やはり民間上りというのは腰抜けばかりのようだな。前に採用された民間人も一か月もたなかった。お前もそうなることを切に願うよ」
早瀬の言葉に我慢ならなかったのだろう朧と如月が振り返ろうとしたがヤマトへ止められる。
「行くぞ」
一度も振り返ることなく歩き出したヤマトへ朧が抗議する。
「提督!どうしてあんな好き放題いわせるのさ!」
「私も朧ちゃんに同意。あれはさすがに我慢できないわ」
「仕方ないさ。あぁいう人間もいる。何より…俺の評判はかなり悪いからな」
その言葉に二人は思い出す。立花ヤマトが艦娘殺しという十字架を背負っている。
あれ以上騒いでいたらヤマトの古傷をあの男が抉るかもしれない。そこの考慮が欠けていたことを二人は思い知る。
「ごめんなさい」
「私も」
「お前達が謝ることじゃないさ。ま、他の提督がまともだったことに感謝だな。さて、暇だからこのあたりでも」
「あの!」
周りを散策でもするかとヤマトが提案しようとした時、前から一人の女の子がやってくる。
「はい?」
「あれ…?」
「貴方、さっき壇上で歌っていた」
「はい、私、アイドルのChiharuといいます!」
笑顔が綺麗なChiharuに如月と朧は驚く。
「どうして、ここへ?」
「その、艦娘さん達と話がしたかったんです」
「私達と?」
「はい!いつも私達のために戦ってくれてありがとうございます」
笑顔を浮かべ、頭を下げるChiharu。その顔は本当に感謝している者の表情だった。
先ほど、不快な気分を味わったばかりの二人は嬉しさに包まれる。
それをみていたヤマトがある提案をする。
「えっと、Chiharuさん。少し時間があるならこの二人の話し相手になってくれないかな?」
「え?」
「提督?」
「私、なんかでいいんですか」
「同い年くらいだし、仲良くしてくれると俺としてはありがたい」
「はい!私なんかでよければ!」
そういってChiharuと朧、如月の二人は近くのテーブルへ向かう。
朧と如月の二人はがちがちに緊張していた。
その理由としては目の前にアイドルがいるから。壇上で輝くように歌っていた存在が目の前にいることで戦場にいる時とは別の緊張に包まれている。
「その、緊張しています?」
Chiharuはなんとなく二人が緊張していることを察する。
「その、うん」
「アイドルが目の前にいると思うとなんか緊張しちゃって」
「私だって報道でしか聞いたことのない艦娘さんと話をしていると緊張しますよ?そうだ、私の事、ちはるって呼んでください。Chiharuは芸名なんですけど、私の本名はちはるなんです。風見ちはるです」
「えっと、そういえば自己紹介していなかったよ。朧だよ」
「私は如月よ。よろしくね?ちはるちゃん」
Chiharu、以降、ちはるは笑顔で話しかけてくる。
最初は緊張していた二人だったが段々と仲良くなっていた。
朧は自分たちに姉妹がいることや普段はどんな生活をしているのかを話す。
ちはるは兄がいること、艦娘もファッションをするのかといろいろなことを訊ねた。
時間にして三十分程度のものだが、その間に三人は親友という間柄を構築していく。
最初は人間という事で緊張していたが朧も如月もちはるのことを受け入れる。
ちはるもニュースとかでしか聞いたことのない艦娘の存在に緊張していたが親しい友人として話していた。
楽しい時間というのはあっという間に過ぎ去る。
しばらくしてちはるのマネージャーをしている山崎という人が「仕事があるから」とやってきた。
「うーん、もっと話していたかったなぁ」
「そうだね」
「そうだ。これ、私の連絡先、また連絡して!」
「えぇ、絶対、連絡するわ」
如月と朧はまた会う約束をする。
ちはるは最後に二人へ向き合う。
「私の想像よりも大変かもしれないけれど、これからもよろしくお願いします。また会おうね!」
「ありがとうございます。私達も頑張ります。絶対だよ」
「ありがとうございます。任せて、如月たちとの約束よ」
三人は指切りをして別れる。
「横須賀に来ているんだったら俺のところまで挨拶に来いよ」
「いやぁ、あまりに記者とかそういうのが多かったからさ、少し遠慮しようかと」
「単に面倒だっただけだろ?」
ヤマトへジト目でみている男は高丸、横須賀鎮守府の提督である。
軍服の上越しにわかる鍛えられた肉体、髪も短く切っているあたり規律を重んじているだろう。
但し、彼はおそろしいくらい負けず嫌いだということをヤマトは知っている。
「あぁ、それと戦艦大和着任おめでとう。よかったな」
「そうだな。自分でやっていたら素直に喜んでいたよ」
「…どういう意味だ?」
「戦艦大和の着任は上の勝手な建造が原因さ。お前が鎮守府着任前の事だ。大本営から重点的に建造、戦艦大和と戦艦武蔵の建造を行うよう指示が来た。といっても強制力はない。俺も一回だけ実行してみた…うまくいかなかったがな」
「それなら…」
「だが、先日、大本営からやってきたとかいうお偉いさんが二名、無理やり建造をさせた。その結果、戦艦大和着任という流れさ」
「…随分と乱暴だな」
「上は結果が欲しいのさ。海域解放というより深海棲艦全てを殲滅できる希望が欲しいともいえるな」
「殲滅、ね」
高丸の言葉にヤマトは苦笑いを浮かべる。
「そういうお前はどうするんだ?提督になったんだから建造命令とかいろいろ来るはずだぞ」
「さぁね、俺はやることをやるだけさ」
肩をすくめながらヤマトはいう。
深海棲艦全てを殲滅することは彼の考えることではない。
立花ヤマトは守るために戦う。全てを滅ぼすために拳は使わない。それが自らに決めた誓いであり覚悟である。
お前らしいな、と高丸は苦笑した。
それは闇の中にいた。
否、消え去る者のはずだった。
深い海の底、本来なら存在しない肉体。
その片眼に光が灯る。
オレンジ色の複眼が深海の中で輝く。
『俺は、深海棲艦を、守る』
尚、あとがきで主人公の描写について指摘が入りましたが。基本的に作者はオリキャラや原作キャラについてあんまり描写を入れません。
オリキャラについては想像に任せていますし、原作キャラは調べたらわかるだろうという感覚でいるからです。ある程度、必要だと思ったら描写は要れます。
決して、面倒だからというわけではない。多分。
あと、平成ライダー登場についてかなり意見をもらいましたが、音声については描写にいれるかどうかで変わってくるので、もし、今後登場することがあっても最低限の描写で済ませることになると思います。