湊警備府はあれからおそろしいくらいの変化がやってきた。
まず食事。
今までカロリーメイトといった最低限のものだったが間宮がやってきたことで食事状況が改善、当たり前のように“普通”の料理を食べることができるようになった。
続いて、出撃。
当然のことながら艦娘なので出撃はある。しかし今までは大破していても進軍することが基本だったのに対して現在は中破したら撤退、もしくは現場の旗艦に任せるという流れに変わる。
旗艦である榛名は周りに対しての気配りができているので危険だと判断したら即撤退を実行した。
その結果、戦績は問わず轟沈者0という記録を出している。
大本営からすればこの突然の変化に驚きつつもきっちりと戦果をだしていたことから問題視することがなくなった。
最近、結成された鎮守府、警備府の査察チームもこの湊警備府を対象外とすることが決まる。
その警備府に所属している艦娘は六人と非常に少ない。元々、警備府は鎮守府と比べると規模が少なく、所属する艦娘も建造か戦闘によるドロップで、大本営から艦娘が送られることはない。
戦艦榛名を筆頭に今日も彼女は出撃する。
同艦は軽巡木曾、重巡那智、駆逐の朝潮、夕立、雷だった。後数名、警備府にいるが現在、待機中の筈。
新規で入った雷と夕立は司令官の事について話をしていた。
「この作戦も楽勝っぽーい」
「そうね!もう少し戦ってもいいのに、私を頼ってほしいわ!」
二人は提督の作戦に少し不満があるようだ。夕立としてはもっと敵と戦いたい。雷は司令官に頼ってもらいたいという気持ちがある。
それに同意するのは木曾と那智。
「ハッ、臆病になったからな。この程度でも不安なんだろうさ」
「提督にふさわしくない器ということだ」
戦っている艦娘達の理由は違いあれど、まだまだ戦える。
しかし、提督の決定である以上、これ以上の進軍は認められない。
撤退を言おうかと榛名が言おうとしたところで遠くから別の艦隊がやってくる。
「あれは…」
「舞鶴鎮守府の艦隊だな」
「ほう、あれが噂の」
舞鶴鎮守府。その名を知らない艦娘はいない。最前線の場所であるという事もさることながら少し前に提督が不祥事で憲兵によって捕まり、あろうことか提督不要を掲げて、今は艦娘達で運用されている。
「そういえば、あそこは艦娘のみという話だったが一応、提督代理なる者がいるそうだ」
那智が離れていく艦隊を眺めながら呟く。
「フン、提督代理か、そいつが優秀なら話は別だろうよ」
木曾は面白くない顔をする。
榛名は去っていく艦隊を見て、あるものを見つけた。
「あれは…」
艦娘に交じって何かがいる。
離れすぎていてはっきりと確認できないがあれは何だろう?
深緑色の人の形をしたナニか。
あれは何だろう?
榛名は再度疑問を浮かべながらも進路を警備府へ向ける。
戻ってあの人へ報告をしないといけない。
そのことを考えると少し気がめいる榛名だった。
提督が記憶喪失になってから榛名は秘書艦を外された。さらにいえば、それから誰かを秘書艦へ指名することすらしなくなった。
独りで執務室にこもりっぱなし。
最低の提督でも倒れるのではないかと心優しい榛名は少し心配になっていた。
さらにいえば、榛名自身、気づかぬふりをしているが木曾や那智は時々、あの男へ暴力を振るっている。勿論、加減はしている。
殺してしまったら元も子ないことを理解しているからだろう。
定期的な袋叩き、榛名はそれを止めるつもりはない。しいて言えば、放置している。
あの男への憎しみが消えたわけではない。さらにいえば、死んでしまえばいいと何回か思っているのだ。
いくら改善されたといえど、今までしてきた仕打ちが大きすぎるのだ。故に許すことができない。許そうという気持ちすらない。
「(記憶がなくなったとしても榛名はあの人を許せない…)」
顔を顰めつつ、見えてきた警備府を見て榛名はそんなことを思っていた。
その頃、提督という地位についている水瀬隼人は送られてきた書類の整理をしていた。
書類は鎮守府から送られてくるものや大本営の連絡事項など様々ななものがある。
いくつか書類を見ていた隼人はある項目を見て目を細めた。
艦娘の暴動。
此処とは別の警備府で艦娘が暴動を起こして提督を殺してしまったらしい。
そこの提督は艦娘達に性的な行為を強制したそうだ。
「性的な行為…」
項目を見てあることが浮かんだ。
もしかしたら自分も彼女達にそんなことを及んだのではないだろうか?それも恨まれる理由の一つでは?
今まで非道なことをしてきたのだから恨まれるのは当然だ。
いずれ、自分も。
「そうなったら…」
その先の未来を想像して体が震える。
どちらにしろ、そうなる可能性が高い。
「過労死か…彼女達に殺されるか」
無理な労働、積みかさまれた恨みの数々、今は無事だがそのうち木曾か那智辺りに殺されるだろう。
止める奴はいない。ここにいる艦娘達は自分の事を恨んでいる。わかりきっていることだ。
もし、死ぬなら。
「誰にも迷惑をかけないようにしないとな」
そんなことを呟きながら立ち上がる。
執務室から外へ出る。
トイレを出たところで不運にも艦娘と遭遇する。
慌てて、彼は彼女から離れる。
不意に接して他の艦娘達があらぬ誤解を持たれるわけにいかない。
離れていった提督の背中を彼女はジッと見続けていた。
その日の夜。彼は報告を終えて執務椅子に深くもたれていた。
あまりに疲労がたまりすぎている。
少し休んだりしているが蓄積の方が早い。
おそらくここにいることでストレスもたまっているのだろう。
いつ彼女達に殺されるかわからない毎日。
状況は彼女達にとって良い方向へ進んでいる。
しかし、このままだと提督という地位にいる自分は間違いなく死ぬ。
そう遠くない未来に起こり得る。
艦娘達の怒りは自分が死んだら収まるのだろうか?という疑問を打ち消す。
仮にそうなったとして、後任が最低だったらと考えたら動けなくなる。
自分の間違いを他の人が繰り返したら…。
考えるだけで彼、水瀬隼人は彼女達のために動こうと考える。
「少し休んだら」
「あぁ、申し訳ない。遅くなりました」
その時、扉が開いてスーツを着た中年男性が現れる。
白髪交じりに長身の男の出現に彼は困惑した。
「…貴方は」
「何を言っておられるんですか?今日ですよ」
「はい?」
「本当にお忘れ何ですか?今日は回収日です。さて、どの子を差し出すのですか」
男はぺらぺらと話し続ける。
水瀬隼人は困惑しながら立ち上がった。
この男をなぜ警備府の受付係りはとうしたのだろう?
疑問を抱きつつも男と応対する。
「悪いが今日は疲れがたまっていて、お引き取りを」
「いえいえいえ、何をふざけたことを抜かしているのですか?前々から連絡しておりますよ?さて、今日はどの子を」
ガチャリ、
男の態度に水瀬隼人が言葉を発しようとした時に艦娘が入ってくる。
腰にまで届きそうな黒髪。水色のような瞳。
隼人は彼女の事を知っている。
駆逐艦、朝潮型のネームシップ朝潮だ。
彼女は何か話が合ったのだろう。隼人の他に客がいることに気付くと頭を下げる。
「申し訳ありません。提督、お客がおられるとは」
「おーおー!今回はこの子ですか」
スーツの男は朝潮の姿を見ると目を輝かせる。
隼人を置いて彼女をまじまじと観察していた。
「ふむ、練度に多少の問題がありますがこれは問題ないでしょう。この子を連れて」
「おい!いい加減にしろ!」
隼人の言葉に朝潮は体を震わせる。
怒鳴るとは思っていなかったのだろう。朝潮の目に恐怖が見えた。
「…チッ、うるさい奴だな」
スーツの男が聞こえる音の舌打ちをした。
隼人は懐から拳銃を取り出す。
セーフティを解除していつでも撃てるぞ脅しをかける。
「これ以上わけのわからないことをいうのなら貴様を撃つ」
「…どうやら本格的に我々へ逆らうようだな。こいつは不要だ。消せ」
直後、壁を砕いて黒い影が突撃してくる。
その姿を確認する前に隼人は外へ放り出される。
コンクリートや木片をまき散らしながら姿が消えた。
「司令官!」
朝潮が悲鳴を上げる横で異形が姿を見せる。
全身がごつごつした黒い肌。小さな瞳、鼻から天井に向かって伸びる角。
図鑑で朝潮はみたことがあった。
サイという動物だ。
人の形をしている怪物だった。
「さて、邪魔者が消えた。目的を」
男が朝潮へ手を伸ばそうとした瞬間、壊れた壁から手が現れる。
「朝潮から手を離せ」
サイ怪人の突進を受け、コンクリート木材、ガラスと一緒に外へ放り出されたはずの水瀬隼人。彼は全くの“無傷”だった。
ふらふらと姿をみせた彼にスーツの男は驚きながらも傍のサイ怪人へ指示を飛ばす。
「殺せ」
雄叫びを上げてサイ怪人が突撃していく。
普通なら体がバラバラになるはずだった。
それほどの威力をサイ怪人は持っている。
なのに、彼は片手で突進を防いでいた。
朝潮はみた。
水瀬隼人の腹部に赤いベルトが現れる。
ベルトの中心が回転したと同時に軍服から黒い特殊戦闘服。
薄緑のグローブとブーツ、胸部のアーマー。
顔を覆っているマスク。しかし、そのマスクの大半はぽっかりと大きな穴が開いている。
彼は変身した。
その姿を見たスーツの男は叫んだ。
「お前の姿!くそっ、ショッカーに関わっているのか!サイ怪人、そいつを始末しろ!」
プスッと朝潮へ注射針を差し込む。
倒れこんだ彼女を抱えて男が逃げようとする。
「待て!」
隼人が後を追いかけようとすると横からサイ怪人が突貫してくる。
躱すことができず、彼は地面をゴロゴロと転がった。
南光太郎はバイクに乗って夜道を疾走していた。
「くそ、見失った」
「あらら、これはマズイですね」
光太郎の後ろには重巡青葉がくっついていた。
彼らは艦娘を拉致する組織を追跡していた。最近、鎮守府や警備府、特にブラック鎮守府と呼ばれるところに大金を渡す代わりに艦娘を受け取るというブローカーが姿を見せており、摘発された鎮守府のほとんどがこのブローカーと接点を持っている事実が発覚する。
光太郎はそれに何かを感じて調査をしていた。尚、青葉は勝手についてきており、ばれたら罰則だった。
光太郎は怪しいトラックを見つけてそれを追跡していたのだが途中で見失ってしまう。
「あれ、このあたりって湊警備府の近くですね」
「警備府?」
「鎮守府と比べると規模は小さいですけれど、艦娘達がいます」
「…そこなら何かわかるかな。青葉ナビゲーションを」
その時、光太郎の耳が何かを砕く音を捉える。
改造人間となったことにより遠い音も聴こえるのだ。
「青葉捕まって!」
「え、はわわわわわわ!?」
光太郎はバイクを走らせる。
しばらくすると警備府の入口で停車しているトラックがあった。
「青葉!」
「はい、あれです!」
二人がトラックへ近づこうとすると入口からスーツ姿の男が現れる。
彼の腕の中には気絶している艦娘がいた。
「何をしている!」
「うるさい!」
男は懐から拳銃を取り出す。
それよりも早く光太郎が男を殴る。
腹部に一撃を受けて男の意識を奪う。
「光太郎さん!」
艦娘の様態を調べると意識を失っているだけのようだ。
安堵の息を吐いていると光太郎の前に何かが転がってくる。
「ゴルゴム!」
現れたのはゴルゴムの改造怪人。
しかし、既に弱っておりふらふらと動きがぎこちない。
「…これは」
光太郎が困惑していると靴音が暗闇から響いた。
音を聞いてサイ怪人は怯える。
ゆっくりと暗闇から人が現れた。
否、それは人ではない。
肉体を改造され、より強靭な存在へと変貌した者。
改造人間だった。
「あれは…」
仮面が半壊しているが間違いない。
「…ホッパータイプの改造人間」
ブゥウンと赤い複眼が光を灯す。
サイ怪人は唸り声を上げて突撃する。
ホッパーは拳を握り前へ踏み込む。
放たれた一撃はサイ怪人の角をへし折り、顔を粉々に打ち砕く。
脳を破壊された怪人は断末魔すらあげずに倒れる。
ゴルゴムの改造怪人を倒したホッパーを見ていると赤い複眼がこちらを捉えた。
「待ってくれ、俺は」
光太郎が声を発する前にホッパーが殴りかかってきた。
横へ躱すと追撃するように足蹴がくる。
「(仕方ない…)」
空へ飛ぶと同時にBLACKに変身する。
取っ組み合いながら二人は地面を転がった。
一定の距離でにらみ合いながら横へ滑るように走る。
片方が拳を放ち、蹴りを受け流す。
それらを繰り返していた途端、ホッパーが頭を押さえて苦悶の声を出した。
しばらくして、地面に倒れる。
その時には変身を解除して白い軍服の青年に戻っていた。
「一体…何が」
光太郎は倒れた青年を見て戸惑いの声を漏らした。
壊れた仮面はTHENEXTの宣伝ポスターの一文字隼人をイメージしてください。