『お前は――』
『裏切り者を――は許さない』
『ふざけるなぁあああああああああ』
激しい雨の中、誰かが叫んでいた。
それは誰の叫びかわからない。
『お前、空っぽだ』
唐突に誰かの声が響いた。
その声を理解する前に拳が目の前へ迫り。
「うわぁぁぁぁ!?」
情けない声を上げて水瀬隼人は体を起こす。
全身は汗でびっしょりと汚れており軍服の中のシャツがぬれている。
「今の…夢、いや、俺の記憶、か?」
「目を覚ましたかい」
扉が開いて見知らぬ青年が入ってくる。
誰だ?と思うよりも前に隼人は思い出す。
スーツ姿の男、サイの怪人、そして朝潮。
「貴様!」
隼人は置いてあった拳銃を青年へ向ける。
「何者だ!朝潮をどこへやった!」
「お、落ち着いて!俺はキミの敵じゃない」
「黙れ!一体」
「はいはーい、失礼します~」
青年を押しのけてやってきた少女が前へ立つ。
「はじめまして、青葉は重巡青葉です。警備府の水瀬隼人提督ですね?」
「そうだ」
「こちらは舞鶴鎮守府の南光太郎さん、あ、提督じゃありませんよ?提督補佐です」
「ま、舞鶴?」
「はい。私達はある任務でこの地へやってきました。その際、怪しい男を見つけたのと倒れている貴方を見つけて介抱しました。尚、駆逐艦の朝潮ちゃんは無事ですよ」
朝潮が無事という言葉を聞いて隼人は拳銃を下す。
銃を下されたことで光太郎は安堵の息を吐いた。
「助かったよ。青葉ちゃん」
「でしたら、提督へのフォロー頼みますよ」
「…わかったよ」
「アンタ達は、何の目的でここへ?」
「その前に」
「司令官!」
光太郎と青葉を押しのけて朝潮が彼のもとへやってくる。
「大丈夫ですか?お怪我はありませんか!?」
「あ、あぁ…大丈夫だ」
「そうですか…安心しました」
「…朝潮、この部屋は原則、立ち入り禁止だ。すぐに出ていけ」
「嫌です」
「命令だ。すぐに」
「嫌です!」
「出ていけ!」
隼人が叫んだ拍子に手が壁に当たる。
メキリと音を立てて拳が壁にめり込む。
朝潮は「ヒッ!」と小さな悲鳴を上げて下がった。
隼人は自分の拳を見る。
「…すぐに部屋から出ていくんだ」
傍の朝潮の顔を見ることが怖くて隼人は早口で言うと横になる。
青葉が朝潮を部屋の外へ連れていく。
横になっている隼人へ光太郎は言う。
「やはり、キミは改造人間か」
「…改造人間、それは?」
「覚えていないのか?改造されたことを」
「俺は…記憶がないんだ」
隼人は自身の記憶がないことを伝える。
気づいたらここにいたということ。先ほど、スーツ姿の男がいきなりやってきて襲われたことを話す。
「そうだったんだ(おそらくあの男はゴルゴムのメンバー…だが、この提督はショッカーの改造人間だ。なぜ?)」
「南光太郎といったな」
「あぁ」
「改造人間は普通の人間じゃないんだな」
「…そうだ、俺達は普通の人間じゃない」
「アンタも…」
「そうだ。僕も改造人間だ」
「…どうして、こんな」
光太郎は推測でモノをいうわけにいかず沈黙を保った。
「南、改造人間っていうのはなんなんだ?」
「それを聞いて、後悔しないか?」
「しないさ…何よりも知らない方が怖い…そう、怖いんだ」
隼人は拳を握りしめる。
めきめきと手の中で音がした。
さっきまであった拳銃が音を立てて形を変えていく。
「普通の人間ならできないことでも改造人間ならできる。俺は怖いよ。これほどまでに違うなんて」
そして、今まで艦娘達に暴力を振るわれて無事だったのは。改造人間だったから。
普通じゃないからこそ、艦娘の攻撃に耐えられた。
体が震える。
異常ということへの恐怖。それが隼人を支配している。
「…改造人間は普通じゃない。それはさっきもいった。でも」
光太郎は続ける。
「改造人間だから、普通の人間として生活できないわけじゃない。色々と大変なことが多いけれど、生活はできる。生きていけるんだよ!」
同じ改造人間だからこそ光太郎は断言する。
改造人間だからじゃない。
大事なのは。
「自分がどうありたいか。どういう存在で居たいのかそれが大事なんだよ」
光太郎は復讐心から改造人間としてゴルゴムと戦っていた。
しかし、今は違う。
仮面ライダーBLACKとして普通の人たちと艦娘を守る為にゴルゴムや深海棲艦と戦う。
それが自分の生き方。
いつか親友と戦うことになったとしても。
言葉が響いたのか隼人のやつれた表情が少し変わる。
「少し休むといい。かなり無理をしているみたいだし」
「いや、提督業が」
「それなら舞鶴の提督が引き継いでいるから大丈夫だよ」
舞鶴の親友が大量の書類を秘書艦から渡されて「面倒だー」と叫ぶことになるのは後日のことである。
青葉はスーツ姿の男を尋問していた。
「どうも~、艦娘の青葉です」
「…」
「おやおや、挨拶はちゃんとしてくれないと困りますよ?」
「…」
「黙秘ですかぁ、残念ながらここは陸軍ではないのでそういうことは通用しませんよ?しいて言うなら痛い目をみることになるかもしれないです」
青葉はそういって置かれている資材の一つを片手でへし折る。
その姿を見て男に変化はない。
「おやおや、改造怪人を見慣れているからこの程度なら恐怖しませんか、でしたら」
会話しながら青葉は男の指をへし折った。
あっさりと折られたことで一瞬、呆然としながら男は悲鳴を上げる。
「ほらほら、こうなるから早くいった方がいいですよ?あ、なんでこんなことをするかといいますと」
男へ顔を近づけた。
「司令官と同じで、青葉、仲間を傷つけられるのが大嫌いなんです。人間であろうと何だろうと仲間を無下にするなら容赦しないので」
瞳に光がない青葉を見て男は今更ながら理解する。
こいつを敵に回したら自分の命はない。
ゴルゴムのメンバーとして怪人と共にしてきたから裏切ることの恐怖は知っている。しかし、この艦娘の恐怖はそれすら上回る。
逆らったら最後、自分は死ぬ。
本能で男は理解してしまった。
「さてさて、青葉の質問に答えてくださいね」
青葉の問いに男は全てを吐いた。
ゴルゴムの制裁よりも目の前の艦娘から生き残ることを男は選んだ。
どのような結果になったとしても男は命を取った。
水瀬隼人は執務を再開する。
季節が冬のため背中が寒い。
後ろを向ければサイ怪人の襲撃によって半壊している壁。
そこから冷たい風が吹き抜けている。
「壊れるなら夏が良かったな」
どうでもいいことを思いながら執務を再開しようとすると扉が開いた。
「司令官!」
「キミは…」
入ってきたのは駆逐艦雷だった。
「ここは艦娘立ち入り禁止だ。すぐに」
「直訴よ!」
茶色の髪を揺らしながら「じきそ」と書かれている紙を隼人へみせつける。
「…直訴、だって?」
「そうよ!」
「話を訊こうか」
「雷は司令官の手伝いをしたいの!雷に仕事を手伝させて!」
「秘書艦になりたいと?」
「そうでなくてもいい!司令官の手伝いをさせて!」
「…どうなるかわかっているのか?俺の手伝いなんかすればキミも」
「司令官が過去にしたことなんて関係ないわ!手伝させてくれないの?くれるの?」
ずぃっと詰め寄ってくる雷に戸惑いながら隼人は頷いてしまう。
「艦娘が希望することなら仕方ない…」
「よっし!これから雷に頼っていいのよ!司令官」
にこにこと輝く彼女。
それをみて少し複雑な感情を抱えながら隼人は書類を差し出す。
数分後、書類のやり方がわからず涙目になった雷へ指導をする隼人の姿がそこにあった。
鎮守府の中、青葉の姿を見つけた朝潮は彼女へ駆け寄る。
「青葉さん」
「はい、あれ?朝潮さん。どうされました」
「お話があります」
「ふーむ、もしかして昨日の事ですか?」
「はい」
「困りましたね。青葉は話してもよいんですけど、厄介な権限がありまして」
「…無茶なことは承知しています。ですが、お願いします」
「どうして知りたいんですか?好奇心だけでしたら教えられません」
「…私は司令官が着任した時から知っています」
「へ?」
朝潮は水瀬隼人にとって初めて接した艦娘だった。
初期艦娘なのだ。
「あれ、普通は」
「警備府は鎮守府と違います。建造されて様々な理由で回された子が初期になるのです」
「へ~、青葉の知らなかった事実ですね」
「最初は普通の頼りない司令官でした」
朝潮にとって二人目ともいえる司令官。
今と異なり優しくとても頼りなかった人。
そんな彼が突然変貌した。
やってくる艦娘達に冷たくなり無茶な進軍をとる。
殆ど艦娘が彼の事を嫌っているが朝潮は違う。
いつか彼が元に戻ることを期待して今まで奮闘してきた。
しかし、あの姿を見た朝潮は疑問を抱いた。
彼は何者なのだろう?自分の知っている司令官なのか、それとも。
「あやあや~。そんな理由があったのなら仕方ありません!青葉が一肌脱ぎましょう」
「皮が脱げるんですか!?」
「違います!言葉の綾です。もう…話してあげますよ」
「本当ですか!?」
「その代わり、一つだけ約束してください」
青葉が真剣な顔で朝潮を見る。
「あの人、水瀬隼人さんのことを大切にすると拒絶しないで上げてください」
それが約束できますかという青葉の問いに朝潮は少しの間を置かずに頷いた。
青葉は語る。
深海棲艦と異なる人類にとっての脅威。
暗黒結社『ゴルゴム』と秘密結社『ショッカー』。
改造怪人と改造人間。
それと戦い続けている『仮面ライダー』について。
朝潮は戸惑いつつも話を訊き続ける。
この時、青葉は気づいていなかった。
他にも彼女の話を聞いている者達がいることを。
そして、様々な感情が警備府の中で入り乱れ始めることに気付かなかった。