艦娘と改造人間   作:断空我

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32.雷の気持ち、朝潮の想い

 

駆逐艦雷は機嫌が良かった。

 

司令官の仕事の手伝いがようやくできるのだ。これほど嬉しいものはない。雷は司令官の手伝い、彼の役に立つことが生きがいのようなものだ。他の雷がどうなのか知らないが艦娘として覚醒してからというものの、司令官の役に立ちたい、司令官の全てをやりたい。

 

頼ってもらいたかった。

 

けれど、司令官がそれを望まなかったことから雷は我慢してきた。そんなある日、偶然だが雷はみてしまう。

 

朝潮をさらう男と怪物と戦う司令官。

 

そして、改造人間という存在だった提督。

 

聴いた時、驚きはあったけれど、チャンスかもしれないと失礼ながら雷は思った。

 

――司令官の役に立てる。

 

理由はどうあれ、雷は直訴状を用意して執務室へ突撃した。

 

司令官は戸惑いながらもそれを許可してくれた。

 

嬉しかった。

 

やっと司令官の役に立てる。

 

周りからみたらわかるくらいキラキラと輝きながら執務室へ向かっていた。

 

本日の書類をまとめて扉をノックする。

 

「どうぞ」

 

「司令官~、来ましたよ」

 

「おはよう。雷」

 

「はーい、これが書類です!」

 

雷は司令官の水瀬隼人へ書類を渡す。

 

書類を受け取るともくもくと仕事を始める。

 

雷は傍に立っているのみ。

 

しばらくして、書類がひと段落ついたのだろう。水瀬隼人は顔を上げる。

 

「どうしたの?司令官」

 

「いや、隣で立っているだけでいいのかなって」

 

「当然!」

 

「座っていた方がいいよ?疲れるだろうし」

 

「司令官が言うのならそうするわ!」

 

雷はそういうとソファーへ腰かける。

 

隼人は複雑そうな表情を浮かべていると執務室の扉がノックされた。

 

「…本日の書類を」

 

「あら、榛名さん」

 

「……雷ちゃん、ここは立ち入り禁止」

 

「俺が許可した」

 

榛名が何かを言う前に隼人が制止をかける。

 

目を丸くしている彼女へ書類を渡す。

 

どういうことか?と目が語っている。

 

「雷の希望を尊重した」

 

「希望ですか?」

 

「そうだ」

 

「わかりました。ですが、私や他の子が望めば同席させてもらいますね?」

 

「いや、それは」

 

「貴方が不埒なことをしでかすかもしれないための予防策です」

 

「……わかった」

 

信頼されていないということを再認識して隼人は頷く。

 

確認を取った榛名は書類を受け取ると執務室を出ていった。

 

「ふぅ…」

 

わかっていたが信用も信頼もない。

 

用意していた紅茶を飲もうとカップを手に取ろうとした瞬間、派手な音を立ててカップが砕け散る。

 

「わっ、司令官。大丈夫!?」

 

「あ、あぁ」

 

「待ってて、すぐに片付けるわ」

 

「いいよ、破片でキミが傷ついたら大変だ。俺が片付けるから雑巾を頼んでいいか?」

 

「はい!」

 

雷が出て行ったあと、隼人はカップを片付ける。

 

“変身”してから油断しているとモノを壊すことが多くなっていた。

 

改造人間としての本来の力が戻ったのだろう。

 

「これが俺の力というわけか」

 

カップの破片を拾いながら隼人は自嘲気味に笑う。

 

記憶は戻らないがこの力でひどいこともしてきたのだろうか?

 

そんなことを考えていると執務室の扉が開く。

 

「あぁ、雷君か、すまないな。雑巾を」

 

「司令官、どうされたのですか!?」

 

入ってきたのは雷ではなかった。

 

朝潮は驚いた顔をして隼人へ近づく。

 

「手をケガされたのですか?」

 

指摘されて隼人は指を少し切っていることに気付いた。

 

「え、いや、少し切っただけみたいだから、絆創膏を」

 

「ダメです。消毒をしないと!」

 

隼人の指を掴んだ朝潮は自らの口へいれる。

 

唾液による消毒。

 

突然の事に隼人は驚いて動けない。

 

しばらくして指を離してポケットから絆創膏を取り出す。

 

「すぐに治ると思いますが」

 

指へ熊がプリントされた絆創膏を巻き付ける。

 

「…ありがとう、朝潮」

 

「いえ、これしかできませんから」

 

「そんなことないさ」

 

隼人は朝潮へいう。

 

「キミ達がいるから深海棲艦と戦える。俺はここで指揮をすることしかできない能無しだ。本当ならこんな小さなことで手を煩わせちゃいけないのに」

 

「違います!」

 

朝潮は叫ぶ。

 

「違います!司令官は、司令官が頑張っていることを朝潮は知っています。みんなの為に色々な改善をして、無理な進軍をしなくなって」

 

「今までが問題だったんだ。だから改善を…許されないことをしてきたんだ」

 

「それは何か理由があったはずです!」

 

朝潮は隼人の肩を掴む。

 

――やめろ。

 

彼女の目を見て何かがふつふつと湧き上がる。

 

ガシリと肩を掴まれる。

 

「朝潮は知っています。司令官はとても優しくて、いつも無茶なことをして」

 

――やめろ。

 

「今までも無茶な進軍をさせてきましたが入渠だけはさせてくれました!だから」

 

「やめろ!!」

 

気づいたら隼人は朝潮を突き飛ばしていた。

 

彼女の瞳が驚きに染まる。

 

胸が痛みながら隼人は叫ぶ。

 

「出ていきなさい。ここは許可なき限り立ち入り禁止だ。すぐに」

 

「嫌です!」

 

朝潮は揺るがない瞳で隼人を見る。

 

「朝潮はもう逃げません!」

 

強い瞳を向けられて隼人は困惑する。

 

何故、ここまで彼女を遠ざけようとするのか。

 

どうして、彼女は自分に近づこうとするのか。

 

しばらく沈黙が場を支配する。

 

「……司令官は覚えていないかもしれません」

 

朝潮はぽつりと呟く。

 

何かを懐かしむような顔だった。

 

「朝潮は司令官に救われたんです」

 

「……俺、に?」

 

「だから、今度は」

 

この時、隼人の耳は金属を引きずるような音を捉える。

 

それは確実にこちらへ近づいていた。

 

何かを装填する音が聞こえた時、隼人は駆け出す。

 

扉が砕け散って砲弾が朝潮へ迫る。

 

「う」

 

拳で砲弾を掴む。

 

回転する弾が掌の中で熱を持つ。

 

「…ぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

叫びと共に砲弾を床へ叩きつける。

 

音を立てて床が陥没した。

 

「司令官…!?」

 

隼人の奥、壊れた扉の向こうを見た朝潮は絶句した。

 

そこにいたのは深海棲艦。

 

レ級と称されるタイプだった。

 

鎮守府の、執務室のど真ん中に深海棲艦がいる事実に朝潮は絶句する。

 

ニヤリとレ級が不気味な笑みを浮かべた。

 

巨体が迫る。

 

朝潮は隼人を抱えてその場を離れた。

 

標的を失ったレ級の巨体は執務机を破壊する。

 

「司令官!無事ですか…」

 

「大丈夫だ」

 

片手を押さえながら隼人は答えた。

 

朝潮は隼人を抱えて執務室から離れる。

 

幸いにも陸地でレ級はかなり遅いようですぐに追いかけてこない。

 

ある程度、離れたところで隼人を離す。

 

「司令官は逃げてください。朝潮が時間を稼ぎます」

 

「何を」

 

「深海棲艦の相手は艦娘がします。司令官は安全なところへ逃げてください」

 

「馬鹿を言うな!お前ひとりで勝てるわけが」

 

「司令官」

 

艤装の一部を展開して朝潮は微笑む。

 

その笑顔はまるで華のように綺麗で。

 

「朝潮は司令官と出会えて本当によかったです。司令官のために戦えるのなら朝潮は何でもします」

 

そういって執務室へ向かっていく。

 

彼女の背中を隼人は見送るだけ動くことができない。

 

覚悟ある背中。

 

みてしまったことで隼人の脳を頭痛が襲う。

 

――空っぽ。

 

――覚悟がない。

 

その言葉がなぜかぐるぐると頭の中を駆け回る。

 

「俺は…」

 

ドーンと執務室から激しい砲撃音が聞こえている。

 

地面に座り込みながら隼人は願う。

 

早く、誰でもいいから、彼女を助けに行ってくれ!

 

あの子一人で戦っているんだ。

 

「何をやっているんだ!」

 

誰かの声がした。

 

いきなり胸倉を掴まれる。

 

「あの子が一人で戦っているんだぞ!?お前はここで何をしている」

 

「俺は…」

 

「キミは力がある!それならあの子を守れるだろ!」

 

「無理だ。俺は…最低の」

 

「お前の過去は知らない!」

 

壁に突き飛ばされる。

 

「過去にどれだけ非道なことをしてきたのか俺は知らない。他の艦娘から恨まれていたとしても…今は違う」

 

「何が」

 

「今のアンタは守れる力があるだろう」

 

「守れる…力」

 

「その力を無理に使えとは言わない。けれど、失って後悔するくらいなら…戦え!」

 

南光太郎はまっすぐに水瀬隼人を見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝潮は不思議と負ける気がしなかった。

 

本来なら絶望的ともいえるレ級へ単身挑んでいる。しかし、朝潮は必ず勝つ、後ろには大事な司令官がいる。

 

司令官を守るために力を振るう。今まで傍観、命令を聴くだけしかできなかった。

 

今度は逃げない。自分は――。

 

衝撃が朝潮を襲う。

 

「ぐっ」

 

痛みを追いながらも12.7cm連装砲を放つ。

 

攻撃を受けたレ級はダメージを負った様子がない。

 

あざ笑うように顔を歪めるレ級。朝潮は舌打ちしたくなりながらも砲撃を続けようとして体がぶれた。

 

何が起きたのか理解する暇もなく床に倒れる。

 

「…グッ」

 

もう一体、いた。

 

いつの間に姿を見せたのかわからないがレ級がもう一体現れた。

 

「グッ…だとしても」

 

連装砲を構えようとして朝潮は気づく。

 

レ級の一撃で砲身が歪んでしまっていた。

 

「撃てない」

 

魚雷を使おうかと朝潮が考えたところでレ級の手が彼女の小さな首を掴む。

 

足が地面を離れて呼吸ができなくなる。

 

笑っているレ級と目が合う。

 

――お前の命は私が握っている。

 

そう語っているような目に朝潮は反論する。

 

違う!と叫びたかった。しかし、喉を押さえらえて声が出ない。

 

後ろのレ級が主砲を朝潮へ向けた。

 

砲弾が装填される音。

 

あぁ――と朝潮は想う。

 

司令官を守りたかった、と。

 

「トゥア!」

 

砲撃をしようとしたレ級に黒い影が襲い掛かる。

 

突然の不意打ちで砲身がずれて朝潮のすぐ横へ直撃する。

 

爆風で朝潮は床へ落ちた。

 

頭を床へ打ち付ける瞬間、誰かが朝潮を包み込んだ。

 

朦朧とする意識の中、朝潮がみたのはバッタを模した仮面の男。

 

「司令…官?」

 

手を伸ばそうとして朝潮は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

仮面ライダーは意識を失った朝潮をゆっくり寝かせて立ち上がる。

 

目の前のレ級は現れた脅威に戸惑いつつも主砲を構えようとした。

 

しかし、仮面ライダーは既に砲身を掴んでいる。

 

レ級が何かをする前に砲身をもぎ取った。

 

絹を裂くような悲鳴が鎮守府の中に轟く。

 

人間のものではない血をまき散らしてレ級は外へ飛び出す。

 

海ではないため動きが遅い。

 

少しでも目の前の脅威から逃げたかった。

 

海が見えてきたところで爆発がする。

 

レ級が振り返ると仮面ライダーBLACKによって仲間のレ級が沈められていた。

 

このままだと自分も、という所で視界の片隅に何かを捉える。

 

気のせいだ、嘘だ、と思いながらもレ級は主砲を構えた。

 

上空なら避けようがないはずだ。

 

次々と主砲を放つ。

 

空中で爆発が起きる。

 

やった!とレ級が思った直後、それは煙を引き裂いて現れた。

 

飛蝗のような姿。

 

それがレ級の見た最後の光景だった。

 

断末魔すらあげることなくレ級の遺体は海へ落ちていく。

 

地面に着地した仮面ライダーは無言で沈むレ級を見つめる。

 

 




BLACKの方も同じ戦い方をしていたのでカットしました。

ヒロインというわけではないですけれど、今回、司令官の事が大好きな雷と朝潮が奮闘することになるかなと思います。
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