いやぁ、年明けで休めた気がしないなぁ。なんでだろう。
舞鶴鎮守府。
その寝室で立花ヤマトはあまりの寝苦しさで目を覚ます。
「くそっ、こいつら」
布団を少しめくるとヤマトの左右に北上と大井が抱き付くように、腹部と足元辺りに潮、漣、朧、曙といったメンバーがしがみついている。
「前よりも増えている」
少し前までは北上と大井の二人だけだった。それがいつの間にか第七駆逐隊メンバー全員きているではないか。
「扉の鍵、頑丈なものにするか?」
そうしたら少しは対処できるだろうかと考えたところでヤマトは面倒になる。
かさかさした唇を触りながらヤマトは再び眠りにつく。
「ヤマトっちは優しいからね~~」
北上ののんびりした声が聞こえた様な気がした。
叢雲の叫び声が舞鶴鎮守府内に響くのはそれから一時間後の事だった。
「ぱんぱかぱーん!提督、いいかしら?」
いつも通りの毎日を送るのかと思っていた矢先、食堂で愛宕が両手を広げてやってくる。
「どうした?てか、お前、今日は休暇だったんじゃ」
「そのことなんだけどぉ、提督。責任を果たしてもらおうかと思って」
「……責任?」
「そうよぉ」
ニコニコと笑顔な愛宕が顔を近づける。
「前に約束したわよねぇ?忘れたはなしよぉ」
その一言でヤマトは強制的に思い出す。
「あぁ!お前に恥ずかしい思いをさせたから罰として責任をとれとかそんな」
「でかい声でいわないで~~!」
ぶんぶんと手を振り回す愛宕。
改造人間のヤマトはたいして気にしていないが直撃すれば骨は折れる勢いである。
「それで、俺にどうしろって?」
この時、ヤマトは今の自分をのちに呪うこととなる。
まずは場所。
ここは食堂で多くの艦娘が行き交う。
さらにいえば、時間。
朝食であるので食べるために来ている艦娘が多かった。
最後に、愛宕が言うことを予測できていなかったこと。これが痛かった。
「愛宕とデートよ」
その瞬間、ヤマトの時が止まり、
食堂の時間が凍り付いた。
直後、どうしょうもない悲鳴が鎮守府内を包み込んだ。
「アンタは一体なにをやっているのよ!?」
執務室で叢雲の叫びがこだまする。
目の前で信じられない速度で書類作業をしているヤマトがいた。
「って、何しているのよ?」
「しょうがないだろ、愛宕に責任とれって…よし、終わりと」
ヤマトはまとめ終えた書類を机にまとめる。
叢雲は呆然としつつ、確認した。
「嘘、終わっている…」
「あとの書類は今日の夜に処理するから任せるぞ」
立ち上がるヤマトをみて叢雲は不安そうな表情を浮かべる。
「デート、してくるの?」
「まぁ、そうなるかな」
「…もし、いえ、何でもないわ」
顔を俯かせた叢雲を見てヤマトは彼女の頭を乱暴に撫でる。
「ちょっ、何するのよ!?」
「いや、こうしたほうがいいかなって」
「髪が乱れるじゃない!」
「悪い、悪い、もうやらないって」
「…ぁ」
ヤマトの言葉に悲しそうな表情を浮かべる叢雲を見て「冗談だ」という。
「お前の反応が楽しいからな」
「アンタぁあああああああああ!」
怒鳴る叢雲から逃げるようにヤマトは執務室を出る。
はぁ、はぁと荒い息を吐いていた叢雲だが、彼の姿が見えなくなるとそくささと部屋を飛び出した。
鎮守府の外、
外出許可をもらった愛宕がそわそわと立っている。
普段の軍服と異なりワンピースにカーディガン、ふわふわした帽子をかぶっていた。
「悪いな、遅れた」
「大丈夫よ。私もさっき来たばかりだから」
本当は一時間も前に来ていたという事はいわない。
さらにいえば、このデートを楽しみにしていたという事を言うつもりはなかった。
「さて、行くか」
「どこにいくか決めているの?」
「デートだからな。あまり変なところにつれていくわけにもいかないだろ?まぁ、あまり自信ないけど」
「ううん、嬉しいわ!」
愛宕はそういうとヤマトの腕に抱き付く。
「お、おい!?」
「デートなんだからこれぐらい当然よ~」
「そうだな、わかったよ」
微笑む彼女を見てヤマトは苦笑を浮かべつつ、同意して歩き出す。
そのはるか頭上を一機の艦載機が飛んでいた。
「瑞鳳さん、このカメラ、もう少し近づけられないの!?」
「ダメよ。これ以上近づいたらヤマトの耳に届くわ」
食堂、そこに全員が集まっていた。
設置されたスクリーンへ顔を近づけながら叢雲が叫ぶ。しかし、彼をよく知る陸奥によってストップがかけられる。
スクリーンには仲睦まじくしているヤマトと愛宕の姿が映っていた。
「いいのかなぁ、こんなことして」
「ばれたら怖いだろうね。ボクとしてはどうなるか気になるけど」
離れたところで光太郎と皐月が話をしていた。
ヤマトと愛宕がデートをする。
この事態にいちはやく動いたのは意外にも舞鶴メンバーだった。
彼を信頼しているが何か間違いが起こったらとめないといけないという建前で遊撃部隊メンバーへ手助けを求める。
陸奥達、もとよりヤマトへ好意を抱いている彼女達は三秒経たずに同意。瑞鳳の艦載機に特殊カメラを搭載。
現在に至る。
ちなみに、文月は昼寝の時間のためすやすや寝ており、足柄は負のオーラ全開で近寄りがたいため誰も声をかけない。
天龍は実弾と刀の演習で不在。
潮、漣、朧、曙は目の前のスクリーンにくいつくようにみていた。
尚、遊撃部隊の方はというと。
「大井っち、気持ちはわかるよ」
「北上さん」
「戻ってきたら地下室へヤマトっちを連れて行こう!」
「はい!そうして……」
二人はにこにこと笑いだす。
吹雪は両耳をふさぐ。
そこから先は聴くことが怖かった。
スクリーンに映っている二人は建物に入る。
「レストラン?」
「みたいね…あ、お腹がすいてきたわ」
「今日の当番は光太郎さんだね」
グルン!と視線が光太郎へ集まる。
あまりの眼光に少し怯えつつ、光太郎は厨房に駆け込む。
「急いで作ります!」
監視されていると露知らず愛宕とヤマトはフレンチレストランでパスタを食べていた。
「…どうした、口に合わなかったか?」
「うーん、お店の人には悪いんだけど、司令官の料理の方がおいしいかな」
「プロと比較するなよ」
流石にそれは無理があるとヤマトがいう。しかし、愛宕にとって彼の料理の方がおいしかったのだ。
料理を食べ終えると二人は映画館へ向かう。
ヤマトがチョイスしたのは某国民的人気キャラクターの映画。
内容は仲間たちと家出で石器時代まで向かうというものだった。
映画がはじめての愛宕にとって無難なチョイスだとヤマトは思った。
思っていたのだ。
「おいおい、これで泣くとか…マジか」
「ぐす、仕方ないじゃない~」
「はいはい、ハンカチ」
「ありがとう~」
ハンカチを渡すと愛宕は涙をぬぐう。
「洗って返すわ」
「わかった」
そうして、ヤマトが次のエリアへ向かおうとしたところで。
「こっちよ」
急に愛宕がヤマトの手を引いていく。
突然の事に戸惑いながらもついていった。
しばらくして、海が見える公園らしき場所についた。
「よくこんなところを知っていたな」
「貴方が着任する前に何度か外へ抜け出していたから~」
「ま、あれは仕方ないな」
俺がうるさい軍人じゃなくてよかったよとヤマトは言う。
「さ、て、と」
愛宕が艤装の一部を展開すると空に向かって放った。
ドーンと小さな音がする。
ヤマトが視線を向けると艦載機が海に落ちていく。
「……あれって」
「瑞鳳ちゃんの艦載機でしょうね~もう」
「俺が気付かないギリギリの距離だな…よく気づいたな」
「運よく見つけちゃったのよ」
頬を膨らませながら愛宕は言う。
その表情は可愛いものだった。
「ねぇ、司令官」
「何だ?」
急に手をあわせてもじもじし始める愛宕。
その姿をみていると彼女は頬を赤くし始める。
「あの、司令官、その私は貴方にいいたいことがあるの」
「……」
その途端、ヤマトの表情が真剣なものに変わる。
「その、私は」
「なぁ、愛宕、そこから先はやめておけ」
「え?」
表情を変えずにヤマトは続ける。
「お前が思っている気持ちは他の、俺よりも良い人間が見つかるまで大事にしておけよ。俺なんかのためにな」
「やっぱり」
ヤマトの言葉を遮って愛宕は微笑み。
前触れもなくヤマトを抱きしめる。
「お、おい!」
「貴方が改造人間だという事で悩んでいるのはなんとなくわかったわ~、みんなの態度から見てもね」
「だったら」
「でも、そんなのそっちの都合じゃない」
真剣な表情で愛宕はこちらをみる。
その瞳はとても強い意思を宿していた。
「私のこの気持ちは私のモノ、例え、自分が恋愛できない、改造人間だからという理由があったとしても、その気持ちを消し飛ばすくらいのアタックをするから覚悟してね」
チュッ、と愛宕が頬へキスをする。
その事態にヤマトはただ苦笑することしかできなかった。
――強い。
遊撃部隊のメンツとはまた違った強さがある。
ただただ、ヤマトは戦慄させられた。
「覚悟してね。私達は本気だから~」
「勘弁して、くれよ」
愛宕の表情にヤマトはひたすらに苦笑することしかなかった。
尚、ヤマトと愛宕が鎮守府へ戻るとほとんどの艦娘達に囲まれてしまう。そして、足柄が光太郎へギラギラした瞳を向けていた。
さて、次はある人物とある人物のお話し。
飢えた狼さん、出番ですよ~~~