艦娘と改造人間   作:断空我

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3.仮面(前編)

潮と親しくなって翌日。

 

立花ヤマトは目の前で繰り広げられている展開に頭を痛めている。

 

「うん、僕がヤマトの面倒を見るから大丈夫だよ」

 

「い、嫌です。私が見ます」

 

どうしてこうなった?

 

そう言いたい衝動を必死にこらえる。

 

陸奥は離れたところでにこにことみていた。助けるつもりは毛頭ない様だ。

 

食堂。

 

本来なら艦娘と提督をはじめとする人間が食事をする場所だが、そこで変な火花が散っている。

 

一つは白いエプロンを付けた時雨、その手の中にあるのはカレー。

 

「ヤマトの好みは熟知している。だから僕に任せてほしいね」

 

「だ、ダメです」

 

もう一つは黄色いひよこがプリントされたピンクのエプロンをつけた潮。時雨が持っているカレーの反対側をもっている。

 

「や、ヤマトさんに少しでもお礼をしたいんです。だ、だから私に任せてください!」

 

気の弱い潮にしてはやけに積極的だなとヤマトはどうでもいいことを思いながら口を開く。

 

「あのさ」

 

「そうだ。ヤマトに選んでもらおう」

 

「ヤマトさん、この潮に任せてください」

 

「別にさ、俺のカレーをよそうのはどっちでもいいから早くしてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、流石はヤマトね」

 

「褒めても何もしねぇからな」

 

食堂にいるのは三人の艦娘と一人の人間。

 

カレーを一口食べて目を緩ませている陸奥。

 

「ヤマトさんって料理ができるんですね」

 

「元々、一人で生活していたからな、自炊しないと生きていけなかった」

 

「それもあるけれど、ヤマトは一流レストランのシェフに鍛えられたらしいよ」

 

「すごいなぁ」

 

潮がキラキラと尊敬した目を向ける。

 

「それにしても」

 

カレーのお代わりをとってから周りを見る。

 

敵の襲撃を受けたこともさることながら厨房はほとんど人の手入れが行き届いていなかった。

 

機材や食材など痛んでいるものがいくつかみつかった。

 

「鎮守府は…なんだっけ?」

 

「間宮さんと伊良湖さんのことだね」

 

「それだ、いないんだな」

 

「その、提督がけ、経費削減だからって追い返して」

 

「阿呆だな」

 

「そうね」

 

「その通りだな」

 

潮の言葉に三人が前提督を否定する。

 

「食事は一日の原動力だ。それを削減して何をするっていうんだか、阿呆らしい」

 

「ヤマトの言う通りだね」

 

「あ、あうぅぅぅ」

 

困ったように潮が周りを見る。

 

陸奥は苦笑するのみ。

 

そこへ食堂の端から小さな手が炊飯器へ伸びる。

 

「…」

 

音もたてずに立ち上がるときれいな皿を机に置く。

 

「!?」

 

びくっとした顔で一人の艦娘がこちらを見る。

 

「お腹すいているなら皿によそって食え、汚い手で食うと腹壊すぞ」

 

「あ、はい」

 

驚いた顔をして桃色のツインテールのような髪形をした艦娘は頷く。

 

「あの子…」

 

「漣ちゃんです」

 

「あ、あのぉ」

 

恐る恐ると漣がヤマトへ視線を向ける。

 

「なんだ?」

 

「これ、いただいてもいいんですか?」

 

「要らないなら食べるな」

 

「要ります!」

 

突き放すような物言いに慌てて漣はカレーを食べ始める。

 

しばらくして目を輝かせて食べ始める。

 

「おいしい、おしいです!」

 

「そうかい…というわけだからお前らも食いたいなら食べろよ」

 

ヤマトは入口で隠れている艦娘達へ声をかける。

 

しばらくして小さな少女達がぞろぞろと出てきた。

 

その中で髪の長い艦娘が訊ねる。

 

「本当に、その、食べていいの?」

 

「あぁ」

 

確認をした途端、群がるように艦娘達がカレーへ向かう。

 

おいしい!やこれはいけるね!といった騒ぎが食堂へ広がる。

 

「全く、面倒だ」

 

新たなご飯を作る為に厨房へ踏み込む。

 

ここからは戦争だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「疲れた」

 

二時間後、お腹を膨らませた艦娘達との戦いは僅差でヤマトの勝利に終わった。

 

「お疲れさまです」

 

「いやぁ、凄いですね~」

 

潮と漣が汗だくになっているヤマトの顔をタオルで拭いていた。どうやらカレーを食べたことで漣は心を開いてくれたようだ。

 

この程度の事で開くってどうなんだろうとが思っていると叢雲がやってくる。

 

「あら、まだいたのね」

 

「まぁな…何か用事か?」

 

「貴方へ連絡が来ているわよ。すぐに通信棟へきて」

 

「わかった。時雨、陸奥」

 

「片付けは任せてよ」

 

「仕方ないわね。やってあげるわ」

 

「何で上から目線、まぁいいや」

 

ヤマトは面倒だといいながら食堂を出る。

 

叢雲が食堂を出たところで唐突に尋ねてきた。

 

「ここから帰るつもりはないの?」

 

「生憎、俺も仕事でね。帰りたくても帰れない」

 

「そう…」

 

だったらと叢雲が続けていった途端、背後から気配がした。

 

振り返る。

 

刀が喉元へ向けられた。

 

「おっと、動くなよ」

 

眼帯をした艦娘がギラギラした目でみている。

 

「残念だわ。人間っていうのは本当に学習してくれないから」

 

「殺すのか?」

 

刀を向けられているというのにヤマトは平然と訊ねる。

 

「そんなことしないわ。私達だって畜生じゃないもの。アンタ達が二度と私達へ関与できないように海へ放り出すの」

 

するとおずおずと一人の艦娘がロープを持ってやってくる。

 

「無駄な抵抗すんじゃねぇぞ?動いたら喉元掻っ切ってやるからな」

 

「はいはい…あ、ロープはあまりお勧めしねぇんだけど」

 

「しゃべるな!」

 

眼帯少女の蹴りがヤマトへ突き刺さる。

 

寸前で彼が受け止めていた。

 

「ぐっ!?」

 

受け止めようとしたが衝撃が強すぎて壁へ叩きつけられる。

 

「天龍さん!?」

 

「安心しろ、手加減はしている。気絶しちまっているな。おい、阿武隈、早くそいつを縛れ」

 

「は、はいぃ」

 

倒れているヤマトを阿武隈が縛り上げて天龍と共に鎮守府の外に置かれているぼろいボートへのせて流す。

 

「(こんなことして、いいのかなぁ?)」

 

流れていくボートを見て阿武隈が小さく思う。

 

彼女は後期に建造された艦娘だったため、他の子達よりも人間不信は少ない。

 

悪い人間だと気づいたところで憲兵によって捕縛されたのだ。

 

だから、ここまでやることに少なからず抵抗がある。

 

しかし、潮を守る為やむなく阿武隈は動いたのだ。

 

「天龍さん?どうしたんですか」

 

「いや、なんでもねぇ」

 

手を開いたり閉じたりを繰り返していた天龍へ阿武隈は尋ねる。

 

「ほぉ~、早速見つけたぜぇ」

 

聞こえた声に二人は振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

轟音が鎮守府を包み込む。

 

「今の」

 

「外ね」

 

食堂で片づけをしていた陸奥と時雨は異変に気付いて外へ出る。

 

少し遅れて漣と潮が続く。

 

「嘘…」

 

「鎮守府の壁が」

 

周囲を覆っている鎮守府の壁は外敵からと外界をシャットアウトするために作られている。

 

その外壁の一部が崩れていた。

 

崩れた個所、そこに複数の影がある。

 

「!?」

 

 

時雨が驚いた目で陸奥を見る。

 

陸奥も信じられない者を見るような目をしていた。

 

壊れた壁の周囲にいるのは黒い特殊服を纏った集団で顔の部分はガスマスクで隠しており額に鷲のマークがある。

 

「おっ、出てきた出てきた」

 

集団の一歩前、そこに立っている男がいた。

 

全身を黒い特殊服のようなもので身を包み、手には花束が握られている。

 

「アンタ達、何者よ」

 

遅れてやってきた叢雲が叫ぶ。

 

「さて、お前達は名誉ある素材に選ばれた、大人しく来てもらおう。さもなければ」

 

ザツと団体の一部が割れて大破状態の天龍と阿武隈の姿があった。

 

「ひっ!?」

 

「酷い、です」

 

漣が悲鳴を上げて潮が涙をこぼす。

 

鎮守府の同僚の哀れな姿に二人は声を出せない。

 

対して、時雨と陸奥は艤装を纏う。

 

それよりも早く、叢雲が叫び声をあげて飛びかかる。

 

手にある槍を男へ向ける。

 

「ほう、我々に歯向かうつもりか?」

 

笑顔を浮かべていた男は花束を投げ捨てる。

 

ガスマスクをかぶった男から仮面を受け取るのと叢雲がやりを振り下ろすことがほぼ同時。

 

しかし、派手な音を立てて叢雲の艤装が折れる。

 

仮面をかぶった男が小さく笑う。

 

「さて、次は」

 

「させないよ!」

 

砲撃が男へ炸裂する。

 

衝撃の余波でガスマスクの集団が吹き飛ぶ。

 

「何しているの!逃げるわよ」

 

陸奥が呆然としている叢雲の手を引いて走り出す。

 

「逃げられると思っているのか?」

 

煙を切り裂くようにして現れたのは先ほどの男、時雨の砲弾を受けたというのに平然としていた。

 

「何で!?」

 

巨大な翼を広げて男は陸奥と叢雲を追いかける。

 

コウモリを連想させる姿に叢雲は恐怖した。

 

何だ、こいつ?

 

これは一体なに?

 

何かの悪夢!?

 

困惑している叢雲はただ手を引かれるだけ。

 

「建物の中へ逃げるわ。そうすれば少しは時間稼ぎが」

 

「残念だが」

 

「それはできないな」

 

建物の扉が見えるという所で上空から白い糸が大量に降り注ぐ。

 

気づいたところで既に遅く、陸奥と叢雲は糸によって雁字搦めに拘束された。

 

「しまっ」

 

「何よこれぇ!」

 

「叢雲!陸奥!」

 

「動くな!」

 

駆け寄ろうとした時雨の前に蜘蛛を模した男が現れる。

 

コウモリと蜘蛛。

 

二人の存在に時雨は舌打ちを堪える。

 

「不審な動きをすれば拘束している奴らを殺す。なぁに、素材はまだまだいるからな」

 

目の前に現れた蜘蛛男の言葉に時雨は動きを止める。

 

漣と潮は事態を理解できておらず動けないようだ。

 

「ここは今から我らのものとなる!抵抗するならば命はない」

 

 

 

「この、くそっ!」

 

叢雲は壁に縫い付けられた糸を引きちぎろうとするがびくりとも動かない。

 

戦艦の陸奥も同じように繰り返しているが徒労に終わっていた。

 

「無駄だ。その糸はお前達で解くことはできん」

 

「うるさい!すぐにほどけ!とっととでていけぇ!」

 

暴れる叢雲を見て蜘蛛男は小さく声を漏らす。

 

「ほぉ」

 

「おい“スパイダー”」

 

何かを察したのかコウモリの男が呼び止める。

 

「なぁに、見せしめは必要だろ?こいつらでは足りなかった様なのだ。分からせる必要がある」

 

「やれやれ…やりすぎるなよ」

 

「あぁ」

 

蜘蛛男が指を鳴らすと叢雲を拘束していた糸が音を立てて外れる。

 

「俺達を追い出したいんだろう?だったら力づくで来るんだな」

 

蜘蛛男“スパイダー”の挑発に叢雲は折れた槍を拾い、攻める。

 

スパイダーはおちょくるように攻撃を躱すのみ。

 

時々、叢雲へ気づかれないように背中や肩へ手を触れている。

 

気づいていない叢雲は当たらないことへ苛立ちを覚えながら蹴りを放つ。

 

それがスパイダーの仮面を掠る。

 

ようやく攻撃が当たったことで叢雲に余裕の表情が浮かんだ。

 

瞬間、体が動かなくなった。

 

「なっ!?」

 

体を動かそうともピクリと動かない。

 

何が?

 

困惑する叢雲の前にスパイダーが逆さまになって見ていた。

 

「え…?」

 

余計に混乱する叢雲へスパイダーが顔を近づける。

 

「お前は俺に踊らされていたのさ」

 

「どういう、意味よ」

 

「よーく見てみな」

 

スパイダーは水滴を空中で落とす。

 

地面へ落ちる途中で何かにあたり水滴が分断されていく。

 

「糸?」

 

艦娘として視覚も常人より良い叢雲は周囲へ張り巡らされている糸に気づいた。

 

「こんな、卑怯」

 

「卑怯?作戦だ。何も考えずに突っ込んでくるような奴が悪い」

 

「くっ!」

 

バチンとスパイダーが叢雲を殴る。

 

殴られた叢雲は悲鳴を漏らさない。

 

つまらないというようにスパイダーが舌打ちする。

 

「おい、泣けよ」

 

もう一発、スパイダーが殴る。

 

それをみた時雨や陸奥が糸を引きちぎろうとするがほどけない。

 

「誰が…」

 

「ぁ?」

 

「誰が……泣くか」

 

決意を込めた目で叢雲が睨む。

 

その目に少し、スパイダーは仰け反る。

 

隙をつくようにして拘束を解いた叢雲の足がスパイダーの仮面を蹴り飛ばす。

 

派手な音と共にスパイダーの仮面が地面へ落ちた。

 

「グッ、貴様ぁァアアアアアアアアアア!」

 

「そこまでだ」

 

殴りかかろうとしたスパイダーをコウモリ男が止める。

 

「邪魔するな!バット!こいつは」

 

「命令が優先だ」

 

コウモリ男、バットの言葉にスパイダーは渋々従う。

 

「連行するぞ」

 

バットの指示でガスマスクの戦闘員たちが時雨や動けない艦娘達をトラックへ載せていく。

 

暴れようとしたがスパイダーとバットの実力を見せられた後だと抵抗も無駄だった。

 

「先に行け、俺は後から行く」

 

スパイダーが言い、トラックが走り出す。

 

残ったのはスパイダーと叢雲。

 

落ちていた仮面を被り憎悪が叢雲へ叩きつけられる。

 

「貴様は嬲り殺す!俺の素顔を見た奴は全て!」

 

ギリギリと全身を締め付ける糸が強くなってきた。

 

艦娘が頑丈だとしても限界がある。

 

締め付けられる拘束に意識が朦朧としてきた瞬間、

 

爆音を上げて何かが突っ込んできた。

 

そしてみたのは人の姿をした何か。

 

「貴様…!?」

 

スパイダーが驚きの声を漏らす前で叢雲の前に誰かが立つ。

 

叢雲が覚えているのはそこまでだった。

 

 

 

 

 

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