艦娘と改造人間   作:断空我

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39.キスと新参者

南光太郎が鎮守府の門へくぐろうとしたところで数人の艦娘に囲まれた。

 

「あの…」

 

艦娘達は無言で光太郎を見ている。

 

様々な服装をしているかの彼女達は背中に小さなリュックサックなどを背負っていた。

 

光太郎が話しかけようとすると目を見開いてガン見してくる。

 

あまりの怖さに多くの改造怪人と戦ってきた光太郎ですら恐怖を覚える。誰か助けてーと思っていた所で入口から誰かがやってくる。

 

緑色の長い髪を左右へ結った少女。服装は白と赤の巫女服。

 

「あれー、何やっているの?…っと、誰?」

 

「えっと、僕はこの鎮守府の手伝いをしている南光太郎と」

 

「あぁ~、赤城さんから聞いているわ。ほらほら、そんなガン見しないの。悪い人じゃないから!あ、そうだ。ID持っているよね?それ貸して~」

 

光太郎は戸惑いながらも彼女へIDを差し出す。

 

「ありがとう」といって彼女は鎮守府の中へ入る。

 

この時、光太郎が彼女の名前を聞いてヤマトへ問い合わせていたら。

 

この時、彼女がどういう目的でやってきたか聞いていれば。

 

鎮守府内はあれほどの騒ぎを起こすことはなかっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたの?」

 

「いや、どうも今朝から寒気がしてたまらないんだよ」

 

ヤマトは執務室で体を震わせていた。

 

本日の仕事は既に完了しており、明日の最重要なものは処理済み。

 

はっきりいって暇だった。

 

だからだろう、体を震わせている提督の姿を見て叢雲は心配そうな表情を浮かべている。

 

「風邪かしら?薬でも飲む?」

 

「いや、風邪ではないと思うんだ…なんだろう、悪寒だな」

 

「悪寒って、何か悪いことでもしたの?」

 

「いや、この類は…会いたくない奴が近くにいるような感覚なんだよ」

 

「アンタにとって会いたくないって、多すぎるんじゃない」

 

「いや、この手の感覚はあれなんだよ。そう」

 

ヤマトが最後までいう前に扉が開いた。

 

ブルルルとヤマトの体の震えが大きくなった。

 

「誰?ノックを」

 

叢雲は固まる。

 

扉を開けて入ってきたのは見知らぬ艦娘。

 

記憶によれば正規空母の瑞鶴だったはず。

 

叢雲がみていると彼女の目が輝いた。

 

この時、叢雲が一歩踏み出していれば。

 

さっさと「誰」と問い詰めていれば。

 

あんなものをみなくて済んだだろう。

 

「ヤ~~~マ~~~ト~~~さぁぁぁぁん!!」

 

轟音。

 

そう感じるしかできない音が執務室内で吹き荒れた。

 

叢雲が尻餅をついた間に入ってきた瑞鶴は執務机を飛び越えて、ヤマトに抱き付く。

 

「お前は!?」

 

相手の姿を視認したところでヤマトの目は白一色に覆われる。

 

「あ~~~、ヤマトさんの臭いだ。真面目にヤマトさんの臭いだよ~~」

 

「ふがもがぁ!」

 

「ん~ちゅぅぅぅぅぅ」

 

一瞬、ヤマトと瑞鶴の目が合う。

 

音を立てて二つの唇が混ざり合った。

 

マウストゥマウス。

 

「し、司令官!?今の音は一体」

 

轟音に気付いたのだろう。

 

吹雪と睦月達が執務室にやってきて固まった。

 

目の前で長く、五分くらいだろうか?未だに瑞鶴とヤマトの唇は離れない。

 

「あれ?扉が開いている…?ヤマト、実は…」

 

光太郎も絶句する。

 

さらに五分ほど続いて瑞鶴が離れた。

 

「……久しぶりだね!ヤマトさん!五航戦瑞鶴!これより舞鶴鎮守府に着任します。うふふ、これから一緒だね」

 

女の子の笑みを浮かべている瑞鶴に対してヤマトは珍しく。本当に珍しいくらい真っ青だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら、瑞鶴がやってきたのね」

 

「陸奥、説明しろ」

 

舞鶴鎮守府メンバーによって拘束されているヤマトをみて陸奥が微笑む。

 

叢雲はぶるぶると顔を赤くして槍を構えている。

 

愛宕は微笑んでいるがいつでも主砲を放てる状態。

 

足柄はなぜか灰色に燃え尽きて光太郎の足にしがみついている。

 

文月や皐月、睦月達はぶるぶると隅っこで震えていた。その中に瑞鳳も交じっていた。

 

そして、陸奥の視線の先では北上、大井、時雨によって説教を受けている瑞鶴の姿がある。

 

説教を受けているのだが反省している様子がない。それどころかじぃっとヤマトをみていた。

 

「えっと、陸奥さん、これは」

 

足柄によって下半身を抑え込まれている光太郎が訊ねる。

 

「彼女は瑞鶴、正規空母で遊撃部隊のメンバーよ…そして、唯一、ヤマトが苦手とする子かしら?」

 

「苦手?」

 

「苦手というか接し方で苦労する子ね」

 

「どういう…」

 

「あれが証拠よ」

 

北上、大井、時雨が説教しているのに対して瑞鶴はヤマトしかみていない。

 

どういうことだろうと光太郎が首を傾げていたらヤマトが口を開く。

 

「瑞鶴」

 

「はい!ヤマトさん!なぁに?」

 

三人の説教がまるで届いていないのか瑞鶴は勢い良く立ち上がる。

 

「ここへはどういう用件できたんだ?」

 

「あ、忘れるところだった。これ、書類」

 

瑞鶴は三人を突き飛ばしヤマトへ書類を差し出す。尚、取り出した場所はスカートの中からだった。

 

「お前、普通に取り出せないのか?」

 

「えへへへ、こういうことするのヤマトさんだけだよ~」

 

はにかんだ笑みを浮かべている瑞鶴を無視してヤマトが訊ねる。

 

「何々…」

 

書類を見ていたヤマトはあることを訊ねる。

 

「なぁ、瑞鶴」

 

「はぁい?」

 

「お前が連れてきた艦娘はどこにいるんだ」

 

「……」

 

「……」

 

「………」

 

「………」

 

「あぁ!」

 

「おい!?」

 

さすがのヤマトも叫ぶことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瑞鶴に案内されてぞろぞろ数名の艦娘がやってくる。

 

入ってきたメンバーを見て叢雲達舞鶴メンバーは目を見開いた。

 

「ヤマトさんに連絡行っていると思うけれど、今日から舞鶴鎮守府所属になる艦娘達よ」

 

あと、私も!と宣言している瑞鶴だが遊撃部隊を除く艦娘達の表情は険しい。

 

それは当然だろう。

 

目の前にいる艦娘達はかつて上条提督の所にいた者と心無い提督によって売りとばされた者達なのだ。

 

本来は仲間と迎えるべきなのだが目が死んでいる。

 

死んでいるというよりは絶望に染まっていた。

 

資料に目を通した後、ヤマトが立ち上がる。

 

ヤマトをみてあからさまに怯える艦娘と無表情の艦娘と反応は二つだった。

 

目線を合わせるようにして彼は膝をつく。

 

「舞鶴鎮守府へようこそ、俺が此処の提督だ。色々と不慣れなことが多いかもしれないが何かあればきいてくれ」

 

返事はない。

 

けれと、ヤマトは笑みを浮かべたまま立ち上がる。

 

「叢雲」

 

「…はい」

 

「宴会の準備だ。光太郎、今から買い出し行ってこい!」

 

「あ、あぁ!」

 

「吹雪と陸奥は光太郎の手伝い。他は会場の設営だ!」

 

ヤマトの言葉に鎮守府の艦娘達は慌てて走り出す。

 

残された艦娘達は呆然としていた。

 

その中で銀髪の小さな少女がおずおずと訊ねる。

 

「これから、何を」

 

「歓迎会だ」

 

「歓、迎会?」

 

「そ、お前達の歓迎だよ」

 

「……どうして?」

 

本当にわかっていないのだろう銀髪の少女は困惑して、その後ろにいる黒髪の少女がおずおずと顔を出す。

 

「新しい仲間が来たら歓迎する…まぁ、顔見せみたいなもんだよ。それが嫌なら辞退してもいいぞ」

 

「……なら、私と暁は辞退しよう」

 

「そうか、晩飯は持っていくから部屋で食べるか?」

 

「問題ない。自分たちで用意した」

 

そういって響は鞄からカロリーメイトを取り出す。

 

溜息を吐きたくなりつつもヤマトは扉を開けてあるものを与える。

 

叢雲達に見つからないように隠していたお菓子とパン等であった。

 

「これは…」

 

「餞別、いらなかったら捨てても構わない。とりあえずもらってくれ」

 

「……わかったよ」

 

銀髪の少女はそういうと黒髪の少女と出ていく。

 

残された少女達は動かない。

 

「お前達は、どうする?」

 

「それは、命令ですか?」

 

機械的な口調で話しかけてきたのは片側で髪を一まとめにして白い着物と青い袴をはいた少女。

 

「ンー、命令じゃない。提案だ」

 

提案という事で残りの艦娘達は困惑する。

 

ヤマトは機械的な態度にうんざりしつつも話しかけた。

 

「拒否する理由がないなら参加しとけ、顔合わせもかねているっていっただろ?」

 

「了解です」

 

敬礼をして少女達も出ていく。

 

彼女達の姿が完全に見えなくなってからヤマトは椅子へ倒れこむ。

 

また厄介ごとが転がり込んできた。

 

これはこれで面倒だなと思う。

 

そんなことを考えていたヤマトは失念していた。

 

瑞鶴が外に出ているかを確認し忘れていることを。

 

「ヤーマートさーん!」

 

「ぐっ!?」

 

背後から頭を抱きしめられる。

 

「ず、瑞鶴、お前、外に」

 

「何で?ヤマトさんと二人っきりになれるチャンスなのに」

 

ヤバイ。

 

全身から冷や汗が噴き出す。

 

「瑞鶴、いい加減、決着をつけようと思うんだけどさ」

 

「結婚の話!?」

 

「そうそう、って違う!」

 

「嬉しいなぁ~あ、でも瑞鶴はまだ二十歳になっていないのに若奥様!?」

 

「結婚の話はしてない!戻ってこい!俺が言いたいのは過剰なスキンシップを少しは控えろと言いたいわけであって」

 

「そう?普通だよ」

 

キョトンとした顔で言う瑞鶴。

 

騙されてはいけない。

 

油断したら最後、真面目に結婚までいってしまいかねなかった。

 

正規空母瑞鶴。

 

曲者ぞろいの遊撃部隊の中で、唯一といっていいほどヤマトへ猛アタックを仕掛ける艦娘。悪く言えばヤマトしかみえていない。ヤマトのいうことしかきかない。

 

何故こうなったのかわからない。

 

切欠はあるがそれだけでこうなるものだろうか?

 

その間に瑞鶴の顔が間近にあった。

 

「おい、何を」

 

「お目覚めのキ」

 

「させない!」

 

「ハイパー北上さん参上!大井っち!」

 

「はい!ヤマトさんから離れろやぁメス豚ぁあああああああああああああああああああ」

 

扉を壊して時雨と鎖を展開した北上と大井が現れる。

 

瑞鶴は躱す事すらできず雁字搦めに拘束された。

 

「や、ヤマト、大丈夫!?その、色々と失っていないかい?」

 

「例え失われていたとしても私や大井っちは見捨てないよ!」

 

「ヤマトさんは私と北上さんのものです!」

 

相当、テンパっていたのだろう。

 

好き勝手に暴走していた。

 

時雨と大井が瑞鶴へ説教しているが通じない。

 

北上がぽつりとつぶやく。

 

「これは真面目にヤマトっちの護衛した方がいいかもね~」

 

「基本的に不要だといいたいけれど…頼むかもしれない」

 

「任せてね~雷装北上様の本気を見せてあげる」

 

「助かる」

 

その本気は瑞鶴を轟沈させるものじゃないと思いたい。

 

雁字搦めに拘束した瑞鶴を引きずって出ていく時雨と北上。

 

ヤマトは置かれた書類をみてから大井と共に外へ出る。

 

書類には配属となった艦娘の名前が記載されていた。

 

駆逐艦、響。

 

駆逐艦、暁。

 

駆逐艦、島風。

 

軽巡洋艦、夕張。

 

正規空母、加賀。

 

新たに鎮守府配属となった艦娘達だった。

 

大井がその書類を見て、一瞬だけ表情を険しくしていることにヤマトは気づかない。

 

 

 

 

 

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