「何の事かわからないですね」
「…それは本当に言っているのかしら?」
Chiharuのいるアイドル事務所。
如月と朧は滝竜介の力を借りて事務所の社長と会っていた。
真実を問い詰めた所、メガネをかけた男は二人の話を否定する。
「ここにいるんでしょう?Chiharuちゃんの顔を模した偽物のアイドルが」
「人として最低なことだと思う!」
冷静な如月の言葉と朧の熱のある言葉に対して男は一切動じない。
朧は男の胸倉を掴みたい衝動を必死にこらえる。
ここで暴れて警備員を呼ばれたらすべてが台無しになってしまう。
「悪いけれど、証拠は揃っているのよ?それ以上とぼけるのならマスコミや公的機関に」
「話になりませんね。さ、お帰りください」
表情を変えず帰るように促す男に朧の怒りが爆発する。
「ふざけるな!この偏屈おやじ!」
朧がつかみかかろうとするのを如月が慌てて止める。
艦娘が本気を出せば人間など簡単にひねり殺せてしまう。それだけは抑えないといけない。
「とにかく…」
男が口を開いた時、部屋の奥から悲鳴が響いた。
「…お引き取りください」
早口に言うと男は部屋から立ち去る。
少し遅れて如月と朧も何かを感じて追いかけた。
ショッカーの地下基地。
燃え盛る炎の中、風見志郎の前に現れた風見ちはる。
片手は捻じれた腕に鋭い爪、足はぶよぶよした肉塊になっており、顔の半分は崩れて、目が肥大化している。
背中に細い無数の光で構成された翼
ちはるの姿は改造人間として異形ながらに別の美しさがあった。
風見志郎は呆然と妹をみていることしかできない。
朧と如月が悲鳴のあった部屋へ入ろうとすると扉があかなかった。
「開かない!?」
「そんなはず」
如月も試しにドアノブを回すが反応しない。
艦娘の力を以てしても開かないのだ。
しばらくして何もなかったかのように扉が開く。
「…誰も、いない?」
「そんな、さっきまでいたはずよ!?」
二人はきょろきょろと周りを見る。
しかし、先ほどの社長も、誰もいない。
朧は設置されているオーディオに近づく。
画面に表示されているのは問題とされているChiharuの曲。
如月は朧がヘッドフォンへ手を伸ばしたことに気付いて訊ねる。
「朧ちゃん、まさか」
「聴けば何かわかるかもしれない」
「…でも」
「このままじゃちはるのこと何もわかんないじゃん!そんなの…嫌だよ。だから、私は!」
ヘッドフォンを被ろうとした手を如月がそっと触れる。
「私も同じ気持ちよ」
「……うん」
二人はヘッドフォンを耳に当てる。
しばらくして流れ出すメロディー。
緊張した表情で二人が曲を聴いているとノイズが走る。
ノイズ交じりが続く中で二人は真剣な表情だったが、やがて目を見開いた。
「ちはるちゃん……貴方」
「そんな、そんなことなってないよ!!」
ぽろぽろと涙を零す如月と地面に座り込んでしまう朧。
曲から伝わってきたのはちはるの気持ちだった。
ナノロボットによって醜い顔になったちはるは生きていくことが嫌になって自殺を選んだ。
失敗したといえど改造手術された彼女はビルから落ちても死ぬことがない。
そんな彼女はショッカーに回収され、言葉にできないことばかりが待っていた。
ちはるの苦しみ。悲しみ。怒り。激しい憎悪。
混ざりに混ざった負の感情が暴走を始めておそろしい怪物を生み出した。
それが多くの人達を傷つけていく。
彼女は悲しんだ。
自分が大勢を傷つけていることに、多くの命を奪っていることを。
だからこそ、
ちはるは最愛の人に頼む。
「お願い、殺……し、て」
呆然としている兄へ懇願する。
「殺して……お兄、ちゃん」
涙を零しながら兄の風見志郎へ訴える。そうすることでしか自分を止めることができないのだ。
親友の二人には感謝する。
自分の想いを兄へ伝えてくれた。
本当に、最高の友達だ。でも、これだけは二人に頼むわけにいかない。
こんなことを頼めるのは、一人だけ、自分を止めて、終わらせてくれることは。
「お兄ちゃん……殺して」
妹の懇願を受けて風見志郎はゆっくりと立ち上がる。
「わかったよ……ちはる」
ふらふらと涙をこらえながら笑みを浮かべる。
家族の為に。
最愛の妹が望むのなら、と風見志郎は立ち上がる。
「お前の友達に怒られたよ。本当に…最高の友達を持ったな…でも、これは」
これだけは彼女達に背負わせることはできない。
ちはるは笑みを浮かべて涙を流す。
志郎も微笑みながら仮面を被る。
「これだけは…」
被る際、一筋の滴が頬から地面へ落ちていく。
震える手を腰辺りで構える。
「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
叫びと共にV3のベルトが高速回転をはじめて、周囲のエネルギーを集めていく。
V3の特殊能力“ダブルタイフーン”が発動する。
炎を全身に纏いながらゆっくりとちはるへ近づいた。
迫る死を前にちはるは瞳を閉じる。
炎の拳をV3は、風見志郎は放った。
炎が燃え盛る中、風見志郎はちはるの傍に腕時計を置く。
周りの高温に耐えられず時計のガラスが割れる。
時計の針や周りの装飾も解けていく。
もし、自分もこうなれたらという考えが志郎の中で浮かぶ。
死ぬことは許されない。
けれど、今だけは。
願いが許されるのなら、今だけは。
この悲しみに浸らせてほしい。
声を押し殺しながら志郎は泣き続ける。
炎の中、三人の仮面ライダーが現れた。
倒れている遺体と泣いている志郎の姿を見て察したのだろう。
誰も声を出さず、彼の肩に手を置く。
派手な音が周囲で響いた。
どうやら炎が基地全体を包み始めているようだ。
動かない風見志郎と共に三人は地面を蹴る。
天井を砕き、室内へ、窓から外へ飛び出す。
ごろごろと地面を転がりながら四人は着地する。
ヤマト、隼人、志郎は仮面を外して、光太郎は変身を解除した。
四人の前でショッカーの基地が倒壊する。
爆風で顔を撫でられながらも様々な表情を四人は浮かべていた。
しばらくして、最初に動き出したのは水瀬隼人だった。
「水瀬!」
「何だ?」
「元気でな。滝さんによろしく」
「何度もあっているわけじゃねぇよ。向こうが追いかけてくるんだ。ったく…」
「一度、警備府に顔を出せよ」
「……前向きに検討しておくよ」
仮面を肩あたりにぶらさげて水瀬隼人は去っていく。
「アンタ、どうするつもりだ?」
立花ヤマトは風見志郎へ問う。
「生きていきますよ。貴方がそうしたように…ちはるもそれを望むはずですから」
風見志郎はゆっくりと歩き出す。
妹を失ったばかりなのに、その姿は自立した人間のようなものだった。
「あと、二人に感謝していると伝えておいてください」
「それは自分で伝えるものだろ」
「……そうですね。いずれ、伝えに行きます」
ヤマトは振り返る。
光太郎へ告げた。
「帰ろう、鎮守府に」
「あぁ」
帰って、少し休みたい。
激しい戦いを終えた二人はとにかくフカフカのベッドで休みたいという気持ちだった。
色々なことは後で考えたかった。
例え、答えの先延ばしだったとしても。
どうやら戻っても二人に安らぎの時間はなかったようだ。
鎮守府へ戻ったヤマト達は叢雲によって強制的に正座させられる。
抵抗しようものなら背後に立つ大井と北上の魚雷を受けてしまうだろう。
艦娘全員が怒っていた。一部、潮や暁がおろおろしているが全員が満場一致で怒っている。
「司令官」
響が一歩前に立つ。
普段から表情の読めない響が立つことで自然と警戒してしまう。
「叢雲から敵と戦うという事で私達は準備していた。しかし、司令官たちは勝手に出撃して敵を倒している。私達の苦労が水の泡だ」
「…それはすまなかったな」
「そこで、私と暁は要求がある」
え!?と動揺する暁を横に置いて響が言う。
「明日、司令官の時間を一部、もらいたい」
「…時間を一部?内容は?」
「その時に語る。それでいいなら私は許す」
「…まぁ、俺はそれで」
「ちょっと待ちなさいよ!」
響を横に押しのけて叢雲が前に立つ。
「なぁに、勝手に話を進めているのよ!?私達は許したわけじゃないわ!」
「じゃあ、叢雲さん達も何か要求すればいい」
「……え?」
ギラギラしていた叢雲がぽかんとした表情を浮かべる。
それも一瞬の事で艦娘達が集まって話し合う。
結果、ヤマトと光太郎は艦娘達から一回だけお願いを聞くことを誓約づけられてしまった。
その日の夜。
執務を終えたヤマトを待っていたように朧と如月が現れる。
話の内容はちなるについて。
わかっていたことだが、ヤマトは二人にありのままを伝えた。
ちはるが命を引き取ったことも。
無言を保っている朧と如月へヤマトは静かに言う。
「俺は今から耳が遠くなる。部屋に誰も入れさせない」
「え?」
「司令官…?」
扉へ手をかけながら。
「泣けるうちに泣いとけ…親友がいなくなった日は特に、な」
静かに扉を閉める。
改造人間であるヤマトにとって執務室の防音はあまり意味をなさないが、この日ばかりはどんな音も聴こえないふりを続けた。