彼らは体を作り替えられた時、見えない首輪をつけられた。普通の人間からすれば許されないこと、忠誠心が高いモノからすれば褒美と言った者もいた。
それは抗うことのできない運命ともいえた。
親によって生み出された体を機械と共にすることで起こる罰。
生命の神秘を踏みにじるような最低な行為として彼らは首輪を神から付けられた。
抗えば最後、命を落とす。
まるで作ってくれた相手へ全てを捧げよというかのように忠誠が必要とされた。
そんな中で彼だけがその輪から外れる。
首輪を付けたと思っていたが脆く、外れてしまい従うべき輪から抜けてしまう。
とりこぼされた彼は異端として消え去るはずだった。
世界は。
守られた彼女達は彼を必要とした。
しかし、彼は自らを。
叢雲が目を覚ますとベッドへ寝かされていた。
「ここは…」
「目が覚めたみたいだな」
「!?」
咄嗟に拳を構えようとしたが相手が誰か分かって溜息を零す。
「アンタなんで」
「倒れていたお前をここへ運んだ」
感情の読めない表情で立花ヤマトが事情を話す。
陸地へ戻ってきた彼はボロボロで倒れていた叢雲を見つけて医務室へ運び込み、手当てをしたということだ。
「そうだ、みんなは!?」
「行方不明。今憲兵も捜索しているそうだ」
「すぐに…」
「どこにいくつもりだ」
「みんなを助けにいくわ…」
「その体で?」
叢雲へ問いかけると彼女は鋭い視線で睨む。
普通の人間なら怯えるだろう。
しかし、立花ヤマトは何も感じさせない目で見ていた。
「私は仲間を見捨てない!アンタ達人間とは違う!私は絶対に見捨てないんだ。絶対に、もう絶対にあんな、あんな辛い思いをするくらいなら、私は!!」
ふらりと叢雲が崩れ落ちそうになる。
「…俺は今から外へ出る」
「ハ?アンタ何を」
「もしかしたら運良く時雨や他の仲間がいる場所へ着くかもしれない。そうだとしたら付いてくるか?」
ヤマトの真意は叢雲に理解できない。
しかし、仲間へ会えるかもしれないという言葉を信じる価値があった。当然の事罠だと疑いもした。
けれど、ここで立ち止まったままでは仲間へ会えない。
だからこそ、叢雲はついていくことにした。
ガスマスクの集団に連行された時雨たちは牢屋へ入れられていた。
彼女達はこれからどうなるのかその不安で支配されている。駆逐艦達は大破している天龍や阿武隈の介抱をしていた。二人は大破状態で少し意識が朦朧としている。
何人かが仲間の手当てをさせてくれと訴えたがガスマスクの集団は何も言わず、檻を蹴り飛ばして艦娘達を怯えさせた。
その中で時雨と陸奥だけは希望を失っていなかった。
「連中がこの鎮守府のことどうやって知ったのかな」
「わからないわ。もしかしたら」
「でも、その可能性は」
「考えてみないとわからない。とりあえずはここから脱出することを」
「おい」
陸奥達が動こうとしたところで集団の戦闘員が現れる。
「お前を連行する」
「え、な、なんで」
「スペックを調べたところ、お前が一番最初の実験対象へ選ばれた。さ、出て来い」
戦闘員が指したのは潮。
潮は怯えて逃げようとしたが戦闘員とバットに拘束されて外へ連れ出そうとした。
そこへ陸奥と時雨が飛びかかる。
艤装がなくても彼女達のスペックは高い。
戦おうとしたがバットによって一撃で弾き飛ばされる。
「平然としているお前達に興味があるが今はそこにいる娘を改造することが優先だ」
「そんなこと…」
「改造?」
傍で話を訊いていた漣が呟いた。
どういう意味かと。
バットが両手を広げる。
「我々ショッカーは世界を支配する。そのために先兵といえる改造人間が必要だ。しかし、改造人間は優秀な存在でなければならない。その点、艦娘はスペックが低かろうと普通に強い。だからこそ、素材に適している。まずはそこの娘で試す」
「ひっ、い、いや」
「栄光あるショッカーの戦闘員になれるかどうか、全てはお前次第だがねぇ」
バットは笑いながら潮を連れだす。
追いかけようとしたところで牢獄が閉じられる。
バチンと電撃が走って二人は弾かれた。
「し、時雨さん!陸奥さん!?」
「フン、これには特殊電流が流れている。あまり煩いと黒こげになるまでレベルを上げるからな」
小さく笑ってバットは去っていく。
駆逐艦、叢雲。
彼女はこの鎮守へ二番目に着任した艦娘である。
初期艦は吹雪。
同型艦ということですぐに仲良くなった。
しかし、彼女の所属している鎮守府は非道な扱いをする提督だった。
多くの艦娘が自分の目の前で沈んでいった。
どれだけ救おうと、拾い集めようと足掻いても叢雲が手にしたのは艦娘の、共に戦った仲間たちの亡骸のみ。
常に笑顔で自分を導いてくれた吹雪もいない。
彼女は自分や多くの仲間を救うために駆逐棲姫と戦い散った。
それから叢雲は一人で抗い続けた。
提督が憲兵にしょっ引かれてから終わったと思った。けれど、違う、
人間はどこまでも醜い。
次にやってきた人間も最低だった。
だから叢雲は決意した。
自分たちで生きる。
人間の手を借りない。
艦娘だけで生きてやる。
その決意を胸に今までやってきた。なのに。
「(何をやっているんだろう?)」
叢雲は不気味な施設の中を歩いていた。
先を歩くのは立花ヤマトという男。
人間なはずなのにどこかおかしな感じがする。
「!!」
急にヤマトが立ち止まったことで叢雲は慌てて止まる。
「チッ、そういうことか」
ヤマトが舌打ちした先を叢雲は追いかけた。
その先を見て絶句する。
白い空間。
その中心に潮が磔にされていた。
制服ではなく患者服のようなものを着せられ手足の自由を奪われている。
それを見た瞬間、叢雲は我を忘れて飛び降りた。
彼女に気付いた戦闘員が襲い掛かるが全て叢雲の手によって薙ぎ払われる。
地面へ叩きつけられた戦闘員は体から泡を出して消滅していく。
魚雷は使えないが主砲などを用いて敵を倒していた。
「叢雲、さん、や、ヤマトさん!?」
「潮、待っていなさい!すぐに」
横からヤマトが叢雲を突き飛ばす。
「なにを」
するのかという所でバットの蹴りがヤマトへ炸裂した。
派手な音と共に地面へ転がる。
「なっ」
動揺した隙を突くようにスパイダーが叢雲の動きを封じる。
『そこまでだ』
バットとスパイダーが動きを止めた。
鷲を模したマークから複数のスクリーンが現れる。
『驚いたな。こんなところで裏切り者に遭遇するとは』
『そうだね。逃げ出したと思ったらこんなところにいるなんて』
「裏切り…者?」
困惑している叢雲の前でヤマトは静かに立つ。
叢雲でもかなりのダメージを負ったというのに彼は平然としていた。その事実が叢雲へショックを与えた。
「裏切り者ねぇ、勝手に人さまの頭を弄くり回して忠誠心を持たせて、自我を取り戻したら裏切り者っていうことで排除する。あー、いやだいやだ。そんな目にあったからこそ、俺はお前達のやろうとしていることを認めない。許さない」
裏切り者をヤマトは否定をしない。
そのことが余計に叢雲を動揺させた。
「まさか、アンタ…」
「や、ヤマト、さん?」
「俺は、お前達を許さない」
スクリーンの連中へヤマトは告げる。
『殺せ』
無慈悲に告げられる言葉。
叢雲達を無視してスパイダーとバットが襲い掛かる。
ヤマトは服をめくる。
白いベルトが現れて周囲を旋風が巻き起こった。
繰り出された蹴りと拳、深緑のグローブを纏った拳が弾き飛ばす。
「嘘…」
叢雲は息を飲む。
潮も目を見開いていた。
ヤマトが立っていた場所、そこにいたのは人といえなかった。
漆黒の戦闘服、深緑のグローブとブーツ、胸部のアーマー、白いベルトを腹部へつけて頭部は同じ深緑の仮面。
顔はバッタを連想させた。
ブゥゥゥンと赤い複眼に光が灯る。
同時にバットとスパイダーが地面へ叩きつけられた。
ふと、叢雲はある噂を思い出す。
鎮守府の外“仮面ライダー”という存在がいること。
その噂とどういうわけか叢雲は目の前の存在を結びつけた。
『流石ホッパーといったところかな?』
スクリーンの声が楽しそうに喋る。
『プロトシリーズとしては最高の出来ね、成功作だからこそますます惜しい』
『ショッカーに従わない者は不要。処分だ。この基地で』
スクリーンへスパイダーを投げ飛ばす。
派手な音と共にスクリーンが砕け散る。
「ぐだぐだうるさい」
叩きつけられたスパイダーは覚束ない動きで起きる。
それをみて彼は動く。
爆音とともに地面が陥没、スパイダーへキックを繰り出す。
攻撃を受けたスパイダーは外へ放り出される。
彼らの攻撃よりもかなりの威力を持っているようで隔壁をいくつも壊していた。
「グッ…ガァアアアアアアアアアアアアアア!」
起き上がった直後、アーマーに火花が走り大爆発を起こした。
一体を倒したところで背後からバットが襲い来る。
振り返ると同時に壁へ叩きつけられる。
「裏切り者め、ここで!」
「お前が果てろ」
彼の拳がバットの体を貫く。
ダメージを受けのけ反りながらも逃げる。
翼を広げて空へ逃げる。
「逃がすかよ」
地面を蹴り、跳躍しながらバットを追跡、がら空きになっている背後へ飛び乗り、腕の翼を引きちぎる。
「ぎぃゃあああああああああああああああああああああああああああああ」
悲鳴を上げるバットを踏み台にして空高く飛び上がる。
バットが振り返る。
死神の鎌が静かに振り下ろされた。
派手な爆発と共に大和が地面へ降りる。
鮮血が飛び散る中で降り立つ彼の姿を見て叢雲と潮は言葉を失う。
カシャッと鮫を模した顎のクラッシャーを外しヘルメットを取る。
改造人間。
目の前にいるヤマトが改造人間だと二人が理解するまで数分もかからなかった。