ゴルゴムのアジト。
シャドームーンは大怪人バラオムが倒されたという事実に驚きつつも、流石はBLACK、倒し甲斐があると喜んでいた。
いずれ決着はつけなければならない。その時までどんどん強くなれとシャドームーンは心の中で思う。
それに対して創生王は不安だった。表だって声に出すことはしないが自分の死期が近づいてきている。早く次の後継者を決めないといけない。
その時はいつくるのか、いつ決まるのか。
不安が創生王を包み込みつつあった。
同時に、ダロムとビシュムはこの状況に不安を覚えつつあった。
ダロムは仲間を失うほどの力を持つ仮面ライダーとシャドームーンが戦った時、もしかしたらBLACKが勝利するのではないかという不安がある。
自分たちが動いて有利な状況を作る必要があるだろうと計画を練り始めた。
「(そろそろ、あのコマを動かすべき、かもね)」
これからのことを考えてビシュムはあることを考えていた。
「深海棲艦が人間に擬態する?」
薄暗い酒場で水瀬隼人は滝竜介と飲んでいた。
定期的な情報交換…というわけではなく。単に気軽な飲み仲間みたいな感じで集まっている。
そんな中で滝が唐突に話題を変えた。
「噂でしかないんだけど、漁師が人の姿へ擬態する深海棲艦を見たらしい」
「アホらし、そんなものがいるわけないだろ?いたらとっくに海軍が見つけている」
「だから噂なんだよ。僕も出所を調べたわけじゃないけれど」
「酒が不味くなるから話題変えよう。元海軍に話していいことじゃねぇぞ」
「……そうだね。そういえば、光太郎君からキミに伝言を預かっていたんだ」
嫌な予感がした。
「なんだ?」
「これだよ」
滝が渡してきたのは手紙。
可愛いシールが貼られており「しれいかんへ!」とひらがなで書かれている。
ますます、嫌な予感がしてきた。
おそるおそる封を切る。
二日後、港警備府入口。
「隼人さん!早くいきましょう」
「やめろ雪風、まだ心の準備が」
ぐいぐいと服の裾を引っ張る雪風に隼人は抵抗を試みるが本気でない為、門前まできてしまう。
「そもそも雪風、お前がついてくる必要はないんだぞ?」
「隼人さん、雪風は思うのです」
「は?」
「雪風はいつもホテルの部屋で待つのは嫌です!どこまでも隼人さんについていきます」
「変なところで自信満々にいうんじゃねぇよ」
呆れつつ、隼人は門をたたく。
門を開くためには専用のIDが必要なのだが隼人はそれをもっていない。故に内側から開けてもらう必要がある。
ノックをしたところで誰かが応対する。
「はい…」
「えっと、水瀬隼人というものだけど、ここの責任者と話をしたいんだけど」
誰かが叫ぶ。
その途端、目の前の門が音を立てて開いた。
「あっさり開きましたね」
雪風が呆然としている傍で二つの閃光が過る。
続いて小さな悲鳴。
傍にいた隼人の姿がない。
「え!?」
雪風は慌てて見渡す。
すると大の字で倒れている隼人とその上に乗っかっている二人の少女の姿があった。
「司令官よ!雷の司令官が戻ってきたわ!」
「朝潮は一日千秋の想いで戻ってこられることを待っておりました!!」
「お前ら…どけ」
隼人の上から二人が退くまでに数十分を要した。
警備府の中を隼人は歩いている。
数か月ぶりの警備府だが、内装などに思った以上の変化はなかった。
「司令官、聴いているの!?」
「あそこをみてください。司令官!」
「あー、聴いているから腕を左右で引っ張るな。痛いっての。朝潮も頼んでいる場所へ連れていくだけでいいから引っ張るな」
駆逐艦雷と駆逐艦朝潮。
湊警備府において、水瀬隼人の人生に変革をもたらした艦娘であり、守るべき大事な存在。
そんな二人は無邪気に笑顔を浮かべて隼人の両手を握りしめている。
この笑顔を見られてよかったと思う反面、これからの事を考えると少しげんなりしてしまう。
「そういえば、司令官」
ふと、思い出したように雷が隼人を見上げる。
その顔はなぜか不満の色があった。
「司令官の背中に引っ付いているこの子はなに?」
「あ?」
まるで浮気を見つけた妻のような質問に隼人は一瞬面食らう。
見下ろせば説明を求めるという顔で頬を膨らませている二人の姿がある。
そういえば、隼人は自己紹介をしていなかったことに気付く。
「雪風」
「はい!」
「二人へ自己紹介してくれ」
「わかりました!駆逐艦雪風です。隼人さんのために日夜頑張っています!よろしくお願いします」
ぺこりとお辞儀をすると隼人の背中にしがみつく。
「司令官」
「朝潮たちは質問があります」
「言いたいことはわかる。説明するから」
ぐいぐい近づいてくる二人に隼人は手短に説明した。
そうしている間に、執務室へ到着する。
雷がノックをして扉を開けた。
そこには執務を代理して行っている戦艦榛名の姿がある。
榛名は隼人の姿を見つけると目を細めた。
「元提督が何の用ですか?」
「榛名さん!」
「そのような」
「いや、良い」
榛名の言葉に雷と朝潮が前へ出ようとするがそれを止める。
もっと罵倒されても仕方のないことを隼人はしてきた。
だからこれは正しいものであり殺されかかっても仕方ないのだ。
「久しぶりだな。榛名」
「気安く名前を呼ばないでください。それで、何の用ですか?元提督さん」
「このあたりにゴルゴムの改造怪人がいたらしい。警告に来た」
え!?と左右の二人が驚きの声を漏らす。
たいして榛名は冷静だった。
「そうですか」
「周辺で怪しいやつとかをみなかったか?」
「そんなことを教える義務はありません」
「…別に、義務とかじゃ」
「話はそれだけですか?でしたら早急にお引き取りください。こちらは忙しいんです」
取りつく島もなく隼人と雪風は外に追い出された。
雷と朝潮は納得できず室内で言い争いならぬ文句をいっている。
「追い出されちゃいましたね」
「ま、嫌われて当然だからな」
「…あの人、少し怖かったです」
「そりゃ、戦艦だからな。怒らせたら怖いだろ?」
「違います…言葉にできないですけど、雪風は怖いと感じました」
「怖いね」
彼女の直感めいた言葉は馬鹿にできない。
駆逐艦だった頃からか、雪風は提督たちの間で幸運の強い艦娘という共通の認識があった。
雪風と接することがなかった隼人はわからなかったが今はなんとなくわかる。
彼女の直感や考えは運もあるだろうが全てが良い方向に進むことが多い。そのことから幸運といわれているのだろうがそれを信じた人間も強いのだろう。
だから、隼人は雪風の言葉を頭の片隅に残すこととした。
「隼人さん、これからどうしますか?」
「どうも、ここにいると俺達は邪魔になるからな。外を見て回ろうと思う」
「外ですか?」
「あぁ、中の警備の心配はないからな」
「そうなんですか?」
ゴルゴムの襲撃を受けたことから普通の人間は気づかないが隠しカメラなどがいくつか設置されている。
それよりか外の方が心配だった。
深海棲艦が一度、警備府の心臓部といえる執務室までやってきたことから隼人は周囲の警戒が必要だ。
隼人の言葉に雪風はやる気を見せる為か握りこぶしをみせる。
「あ、雪風は室内で待機な」
「納得できません!」
「いや、一人の方が動きやすいし、お前にはここの連中に怪しいことがなかったかどうかを」
「嫌です!雪風は隼人さんと共に」
「司令官!ここは雷達だけに任せて」
「その通りです。我儘な駆逐艦は置いて朝潮にお任せを!」
話を聞いていたのだろう雷と朝潮が飛び出してくる。
我儘というところと自分たちだけという言葉に過剰反応を起こした雪風はブンブンと手を振り回す。
「雪風に任せてください!中に異変があればすぐに知らせます!」
宣言した雪風を見てにやりと二人は笑う。
「(女…っていうか、駆逐艦はこえぇなぁ)」
隼人はそんなことを考えて警備府内を任せて外に出る。
木曾や那智は任務に出ているのか姿が見えない。
外を歩いていた隼人は警備府の外観を眺めていた。
「前と変わってないな」
抜け出して一人となってから少ししか時間が経過していないのに懐かしく感じる。
それだけここに愛着を持っていたという事だろうか?
外を回っていた隼人は止まった。
海が見える場所に慰霊碑のようなものがある。
それをみて、本当に動きを止めてしまった。
「沈んだ艦娘達の墓ですよ」
背後から響いた声に振り返る。
感情が読めない榛名は花束を慰霊碑の前へ置く。
「……俺が沈めた艦娘か」
「いいえ」
榛名がゆっくりと立ち上がる。
その目は恐ろしいくらい冷たいもの。
隼人が言葉を発するより早く衝撃が襲い掛かる。
砲撃を近距離で受けた隼人は派手な音を立てて海岸へ落ちた。
「グッ…」
「やはり一撃で沈むことはないようですね」
冷めた目で榛名は艤装を構える。
「……復讐、か?」
「違います」
隼人の問いに榛名は冷たく言う。
「貴方を排除しないといけない。私の為に…」
同時に41cm連装砲が放たれる。
衝撃と爆風が砂浜に吹き荒れた。
その煙を引き裂いて仮面ライダーが現れる。
「現れましたね。貴方を潰します!」
叫びと共に連装砲と副砲の単装砲が放たれた。
仮面ライダーは飛来する砲弾を手で受け流す。
標的から外れた砲弾は砂にめり込み音を立てていく。
榛名は冷静に主砲と副砲を交互に使って仮面ライダーの接近を阻もうとする。
「沈んでください!」
「ウォォォォ!」
叫びと共に仮面ライダーが砲弾の雨を潜り抜けて拳を放つ。
艤装の一部で受け止めるが改造人間の力は艦娘と同等、それより上のため榛名は後ろへ倒れそうになる。
「それでも!」
殺意を込めた目で仮面ライダーを睨み、主砲を撃つ。
「チィィッッ!」
飛来する砲弾を掌で掴む。
回転を殺し消れず近くの木々に命中する。
反撃しようとした時、紫色の竜巻が現れて二人を飲み込む。
竜巻で吹き飛ばされた二人は崖に体を打ち付ける。
「オホホホホホホ!仮面ライダー、ここがお前の墓場となるのです」
現れたのは大怪人ビシュム。
妖艶な笑みを浮かべながらもその目は仮面ライダーに対する憎悪と殺意で満ち溢れている。
「お前達はゴルゴムにとって、シャドームーン様にとって害悪でしかない。ここで私が倒す。そしてバラオムの無念を晴らさせてもらいます」
瞳から灼熱光線を放つ。
仮面ライダーは咄嗟に体をひねって躱す。
接近しようとすると戦艦榛名が道を阻む。
「榛名!お前」
「黙ってください!気安く名前で呼ばないで!」
叫びと共に繰り出された拳を躱しきれず後ろへのけ反る。
「よろしい、よろしいですよ!このまま!」
「……はい」
榛名が主砲を構えた時、仮面ライダーは叫ぶ。
「榛名!どうしたんだ!お前、なんでゴルゴムなんかと」
「こうしないと、榛名はここにいることができないんです。ここにい続けるためにできることは貴方を潰す事!そうしないと、榛名は…榛名はぁああああああああああああああ」
叫びと共に全主砲が斉射される。
「ガッ…はぁ…」
飛来する砲弾全てを仮面ライダーはその身に受け止めた。
「オホホホホホ、仮面ライダーの最後ですわ」
ビシュムは笑いながら瞳から光線を放つ体勢に入る。
「させません!」
その時、茂みをかき分けてビシュムへ雪風が主砲を撃つ。
砲弾はビシュムの顔に直撃する。
光線に砲弾が直撃してドロドロしたものが地面へ落ちる。
「隼人さんは、やらせません!雪風が守ります!」
「あぁもう!なんであんなに…榛名さん!?」
「これは、司令官!」
朝潮と雷が膝をついている仮面ライダーへ触れようとして手を引っ込める。
砲弾の雨を受けたことで彼の体は高温に包まれていた。
艤装の一部を展開した雷達は目の前にいる榛名へ驚きの表情を向けている。
「榛名、さん、これはどういうこと?」
「どうして、司令官を、答えてください!榛名さん!」
「それは……」
「この姿で居る為の条件として私が仮面ライダー抹殺を命じたからよ」
ビシュムは笑いをこらえる表情で榛名の頬に触れる。
「どういう…」
「それはね、こういう」
「やめてください、それは!」
榛名が止めるより早く、ビシュムの手が触れた。
その時、信じられないことが起こる。
彼女から色が失われていく。
体の一部から色素がなくなり、白い、おぞましい腕へ変貌を遂げる。
「嫌!」
それをみた、榛名が腕を隠す。
ビシュムは悪魔の言葉をささやいた。
「彼女は、体のほとんどが深海棲艦となっているのよ?いずれ、完全な怪物となって貴方達を襲う。だから、契約を交わしたのよ」
――仮面ライダーを倒せば、その呪いを消してあげる。
「さぁ、仮面ライダーを倒しなさい、そうすれば!貴方は普通の艦娘に戻れる!」
ビシュムの叫びと共に榛名は主砲を仮面ライダーへ向ける。
しかし、撃つ前に三つの存在が前へ立つ。
「やらせません!」
「司令官は私達の仲間よ!榛名さん!私達の!」
「朝潮は司令官を守ります」
決意ある声に対して表情は険しい。
目の前の榛名の姿にショックを受けているのだろう。
ビシュムが笑いながら竜巻を起こそうとした時、頭上からいくつもの催涙弾が降り注ぐ。
「隼人ォォォォォォ!」
ジープに乗って滝竜介が現れる。
「滝さん!」
「雪風ちゃん!キミ達も早く乗るんだ!」
滝が隼人を担いでのせたところでジープが走りだす。
煙が晴れた時、彼らが去ったほうを冷たい目で榛名はみていた。
艦娘の深海棲艦化。
水瀬隼人は知らないが嘗て仮面ライダー1号、立花ヤマトと同行していた戦艦長門に起こった現象。
大本営の科学者が後に原因を調べたが結果は不明のまま。
当時、参加していた艦隊の報告からも突如、長門の体から色素が失われ深海棲艦に至ったという情報しかない。
戦艦長門を元に戻す手段を見つけられないまま仮面ライダーによって轟沈という結果に終わる。
一部からは何が何でも連れ帰って実験すべきという意見も出ていたらしい。
助け出した滝から教えられた情報に雷達は驚きを隠せなかった。
「そんな、艦娘が深海棲艦になるなんて」
「信じられません……艦娘は深海棲艦を倒すために存在しているんです!」
「……原因は今もわかっていない。未知のウィルスか…」
「榛名さんは…どうすることもできないの?」
「…なんともいえない。そもそも、彼女はどうしてゴルゴムに?」
「何か、何か理由があるに違いありません!榛名さんは……朝潮達の大事な仲間なんです」
初期からいたわけではないが苦楽を共にしてきた榛名は朝潮や雷、他の艦娘達にとって大事な仲間の一人だ。
そんな彼女が怪物の、ゴルゴムに入ることなどあり得ない。
現実というものは非情だ。榛名が攻撃したという事実は消えることがなかった。
このことをどうするか、その言葉を誰も出せない。
滝としてはゴルゴムを倒さないといけないということを考えた。そうすると榛名と戦わないといけなくなる。
こちら側は駆逐艦のみ。榛名は一人とはいえ高速戦艦。
勝てるかどうかわからない。
何より、仲間と戦えるかどうかだ。
おもぐるしい空気の中、
「わかっていることは一つだよ」
ふらふらと眠っていた隼人が立ち上がる。
「司令官、無理はしない方が」
「それよりもやらないといけないことがあるんだよ」
体を起こした隼人はゆっくりと動く。
「何をするつもりだい」
「……元提督として…あいつを傷つけた人間としての償い、かな」
振り返らずに隼人は出ていく。
「司令官、やはり、まだ朝潮たちにしてきたことを気にしておられるのでしょうか?」
朝潮の言葉に雷は「多分」と頷いた。
「どういう、ことです?」
会話の意味が分からず雪風が訊ねる。
二人は顔を合わせてから話し始めた。
水瀬隼人は元々湊警備府の提督で若いながらも艦娘達から信頼されていた。しかし、上層部からの命令やゴルゴムからの脅迫によって無茶な進撃をとることが多くなり、ショッカーによって改造手術を受けてより冷酷な存在となった。今となってはその面影はない。
雷と朝潮は歩いていく隼人の後姿で察してしまう。
彼は今も後悔している。
提督として多くの艦娘を沈めてきたことを。仲間に恨まれていることを。そのことを今も悔やんでいる。
「もしかしたら」
雷の中で嫌な予感がむくむくと湧き上がる。
彼女は走り出す。
――お願いだから、司令官。
早まったことをしないで。
隼人が警備府から離れた慰霊碑の前へ向かう。
慰霊碑へ手を合わせている榛名の姿があった。
「どうして…戻ってきたんです」
振り返らずに尋ねられた。
「……俺の責任、だと思ったからさ」
少し考えてから隼人が告げたのは贖罪。
自分がすべての原因だ。
悪いのは自分だと榛名へいう。
「そうですよ。貴方が原因です。貴方さえ、貴方さえ戻らなければ!」
震える声。
榛名の顔をうかがうことはできない。
けれど、水瀬隼人は感じた。
「そうだ、俺だ。俺がいなければ、お前はそんなことにならなかったんだろうな」
「はい、そうです。貴方、貴方と出会わなければ自決もできたのに…」
ふらふらと立ち上がる。
振り返る榛名はぽろぽろと涙を零していた。
「どうして、お前はゴルゴムと」
「元に戻せる…そう、いわれたのです」
ゴルゴムの大怪人ビシュムは協力すれば榛名の深海戦艦化を元に戻せるといった。藁にも縋る想いで彼女はそのために動いていた。
「何故、そんなことを」
「みんなと一緒にいたいからに決まっているからじゃないですか!」
堪えていたのか榛名の声が大きくなる。
「貴方みたいな最低の提督の下にいて、いつ沈むかわからない。そんな中で大切な仲間といる時間が全てだったんです。それを奪われない為ならなんだってします……貴方を殺す事だって厭わない!!」
「俺が、いなくなれば、お前は元に戻るのか?」
「そうです。榛名の為に…死んでくれますか?」
「あぁ、撃てよ」
榛名の訴えに隼人は両手を広げる。
それをみて彼女は目を見開く。
「ほら、撃てよ。そうすればお前は救われるんだろう?」
「……なんで」
なんで、と榛名は問いかける。
「どうしてそう簡単に命を捨てられるんで」
「お前達に死ねといわれるなら喜んで命を捨ててやるよ…贖罪になるなら、何でもするさ」
水瀬隼人の根底にあるのは艦娘のために動くこと。
そして、艦娘のために命を捨てる。
記憶を取り戻してからも隼人は変わらない。
彼女達が望むのなら……と、隼人は決意している。
榛名はその話を聞いて驚愕した。
「死ねと言われたら死ねというんですか!?」
「あぁ」
「おかしいです。私は貴方の事を恨んでいるのですよ!?」
「知っているよ」
「貴方なんか死んでしまえと思っています」
「そうだろうな」
「でも、みんなは貴方の事を信頼しているから…私は恨みたいのに、恨めない!」
「何で信頼されているんだろうな…あんなことばかりしていたのに…殺されてもおかしくないのに…お前みたいな態度が当たり前なのに」
「なに、勘違いしているんですか」
震える手で艤装を構えている榛名が言う。
「私、はとっくに貴方の事を許しています…けれど、こんな、こんな姿でいても」
「別にさ、いいんじゃないか?」
隼人は笑みを浮かべる。
「榛名は榛名だろ?どんな姿になったって彼女達は受け入れるさ。諸悪の根源たる俺がいったところで確証はないけれど、辛い毎日を乗り越えたんだ。それくらい乗り越えられるって」
仲間なんだろう?と隼人が続けることはできなかった。
光る刃が体を貫いたのだ。
口から血を吐いて水瀬隼人は地面に倒れる。
「て、提督!!」
榛名は驚き、駆け寄ろうとする。
風と共にビシュムが現れた。
控えるようにツノザメ怪人の姿がある。
「よくやりました。貴方のおかげで邪魔な仮面ライダーを一人潰すことができました」
「……それじゃあ」
「えぇ、怪人の餌にしてあげますよ」
オホホホホホと笑いながら残酷なことを告げるビシュムに榛名は叫ぶ。
「約束と違います!」
「約束?汚らわしい存在の約束なんて守るわけがありません……そもそも、元に戻す方法など知りませんし」
「そんな」
「腹を壊すかもしれないでしょう…ですが、ゴルゴメスの実の代わりになるなら次からは深海棲艦と艦娘を狙うのも手かもしれませんね。さ、いきなさい」
榛名は艤装の主砲を撃つ。
しかし、ツノザメ怪人は既に飛びかかっており、彼女の主砲を凹ませる。
「なら」
武器がなくても艦娘の拳はコンクリートを砕くことは造作もない。
改造怪人にも通用するだろうと思っていた。
しかし、それは相手が一体ならばという前提がある。
榛名が拳を構えようとした時、ビシュムの光線が彼女の両足を貫いた。
バランスを崩したところでツノザメ怪人が覆いかぶさる。
鋭い牙が彼女を食らおうと開く。
来る衝撃に身構えようとした時。
「気安く、そいつに触ってんじゃねぇよ」
ツノザメ怪人の頭部を水瀬隼人が掴む。
そして、ツノザメ怪人を投げ飛ばした。
「て、提督…」
榛名が顔を上げようとした時、ベチャリと頬に血が滴り落ちる。
隼人は口から血を零していた。
すぐに手当てをしないと、伸ばした榛名の手を隼人は掴む。
「大丈夫か?」
「私よりも、貴方が」
「問題ない。こいつらをぶっ潰して休めば治る」
「そんな!」
止めようとした榛名。しかし、隼人は一歩を踏み出していた。
起き上がったツノザメ怪人が唸り声をあげた時。
「撃てー!」
「やらせません!!」
雷と朝潮の主砲がツノザメ怪人に直撃する。
衝撃を受けてのけ反った所に高速で走ってくるジープが直撃した。
ジープから転がるように降りた滝をみて、二人が主砲を撃つ。
直後、魔が結い閃光と炎が吹き荒れて、ツノザメ怪人が地面に落下する。
炎の横で隼人は服をめくる。
タイフーンが高速で回転して炎などのエネルギーを集めた。
仮面を装着して構えをとる。
「俺は彼女達を守る。どんな姿であろうとそれは変わらない!てめぇらみたいなのに利用なんかさせるかよ!」
「死にぞこないが偉そうに…やりなさい」
ビシュムの言葉と共にツノザメ怪人が襲い来る。
仮面ライダーは咄嗟に手を前に出した。
ツノザメ怪人の牙が腕に食い込む。
「ぐぅ……ぉぉぉおおおおおおおおおおお!」
自由な手で何発もツノザメ怪人の腹を殴る。
殴る。
殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。
何発も同じ個所にダメージを受けてツノザメ怪人が離れた。
その際にツノザメ怪人の牙がボロボロと落ちた。仮面ライダーの特殊強化服は歯を抜くほどの強度を持っている。
しかし、ツノザメ怪人の牙はすぐに生えてきた。
「おいおい…再生するのかよ。歯が折れても安心か」
唸りながらツノザメ怪人が飛びかかる。
「うっせぇ!」
空中で拳を打ち付け、さらに蹴りを放つ。
地面に崩れ落ちたところでまたもや雷と朝潮、加えて雪風、滝の狙撃が降り注ぐ。
砲撃の雨で視界がふさがれる。煙を振り払うように手を右へ左に動かしていた時。煙を引き裂いて仮面ライダーのキックが体を貫いた。
ツノザメ怪人はくぐもった声を上げから爆発を起こす。
顔を上げてビシュムを仮面ライダーが捉えた瞬間。
「ゴボァ!」
クラッシャーと仮面の隙間から鮮血が飛び出す。
「ゴホゴホ…くそっ」
「どうやら体は限界のようですね?」
ビシュムは笑みを浮かべながら回転する。
竜巻が仮面ライダーを飲み込む。
「司令官!」
朝潮が竜巻の中へ飛び込む。
「あ、朝潮!」
「危ない!」
雷と雪風を滝が止める。
「(あぁ、ヤベッ、意識が朦朧とする)」
体から血が抜けすぎて隼人の意識は薄れつつあった。
さらにいえば、竜巻の中にいたことも原因になるだろう。
周りが見えなくなる中で水瀬隼人の耳に声が届く。
「司令官!」
気のせいかと思っていたが、続けて聞こえた。
「司令官!!」
うっすらと目を開けると朝潮が近づいてくる。
風が吹き荒れる中、必死に隼人へ手を伸ばしていた。
水瀬隼人はゆっくりとその手を掴む。
「司令官!諦めないでください!!」
朝潮の声を聴いていたら力が湧いてくる。
「少し、捕まっていろ」
「はい!」
朝潮をやさしく抱きしめながら仮面ライダーは自らを回転させる。
ものすごい勢いでビシュムへ向かっていく。
命の危険を感じて竜巻を止める。
しかし、仮面ライダーは狙うようにビシュムを追いかけた。
「うぉおおおおおおおおおおおおお!」
「コノッ!」
ビシュムが灼熱光線を放つ。しかし、狙いが甘く。当たらない。
回転しながら放つライダーキックがビシュムの顔を打ち抜いた。
断末魔をあげることすら許さずにビシュムは爆発を起こす。
煙の中、回転しつつ、仮面ライダーと朝潮が降り立つ。
「……大丈夫、なわけないか」
腕の中で朝潮は目をぐるぐると回転させていた。
夜、大きな騒動があったことから憲兵達に言われて警備府にとどまっている。
空き部屋がないことから隼人は執務室で休んでいた。
雷と朝潮はソファーで涎をたらし合って寝ている。決して何かしたわけではない。傍にい続けると騒いでいたら疲れて眠ってしまったのだ。決して憲兵のお世話になるようなことをしていない。
していないったらしていないのだ。
そんなことを考えた隼人は控えめなノックに気付く。
扉を開けると榛名と目が合う。
「どうした?」
「その、少し、時間をいただけますか?」
「まぁ、いいぞ」
二人は外に出る。
薄暗い月夜の下で榛名と隼人は歩いていた。
「その、提督は」
「俺はもう提督じゃない。どこにでもいる普通の水瀬隼人だ」
「…では、隼人さん」
「(いきなり名前呼びかよ)」
「今回は、ありがとうございます」
「俺は何もしていないぞ、やったのは背中を後押ししているだけだ」
戻ってきた木曾や那智に事情を話す。
二人は驚きながらも彼女の事を受け入れた。
上層部には秘密として今も戦う。
「ありがとうございます。私なんかの為に」
「それをいったら俺みたいな屑のために戦ってくれた艦娘達のため」
「…お話があります」
榛名が隼人を見る。
その表情は前までの憎悪を含んだものと異なる。憑き物が落ちた様なもの。
「私は……」
今回の話はここまでです。
榛名の深海棲艦化は治っておりません。
今後、それが悪化するかしないかは今はあかせません。
ちなみに前の話で那智たちとは和解していましたが榛名とは仲直りしていませんでした。
途中からだしていないから、誰か気づいていたかもしれないけれど。
次回はあるユーザーさんの感想から参考にした話になっているので人によっては受け付けられないものかもしれません。
感想、お待ちしております。