空母ヲ級はある場所で自分より上の存在と話をしていた。
「テイサツ?」
「ソウヨ、アナタニイライシタイノ」
「ドウシテ?」
「カズスクナイジョウイシュダカラ」
上位種。
この言葉はいつからか目の前の“彼女”が言い出したことだ。
ヲ級を含めたFlagShip級やEliteの中でさらに異質、変身能力を備えた艦隊隊たちを上位種と“彼女”は呼ぶのだ。
「ワカッタ」
ヲ級は彼女の提案を飲む。
なにより陸地に行くのは楽しみの一つだ。
変身能力も自由に動き回りたくて手に入れたようなものなのだ。
「アァ、ソレト」
しかし、彼女から告げられた言葉にヲ級は絶望する。
「コンカイノニンムニハチェイスモドウコウスルカラ」
「…ヲ!?」
「ソウイウコトダカラ、私ノシジにシタガッテネ」
「了解だ」
人間の姿に擬態すると片言の会話が少なくなる。
街を楽しもうと思ったのにもう一人がついているからその計画はおじゃんだ。
紫の上下の服、外側にはねる黒い髪、無表情の男。
腕には髑髏の指輪などをつけている。
外見は人だが、実際は違う。
詳しいことはヲ級も知らないが人間ではないことだけは知っている。
「所でチェイスはどんな任務か知っているの?」
「お前の護衛だ」
「あ、そうなの」
それは監視だろうな。
彼女は自分を含めた“すべて”の深海棲艦を信用していない。自分の目的を達成するための駒とみているのだ。
彼女の目的はわからないが何かを探していることはわかっている。
“彼”ということだから人間なのだろう。
詳しいことはわからない。ヲ級は楽しいことがあればそれを楽しむ。
だから、チェイスがいることで楽しみが半減だった。
「さて、私は街をうろつくから待機していてね」
「了解した」
少なくとも命令を守る。
ついてくることがないから安心できるが彼女から「全てを話せ」といわれたら洗いざらい話す。
そんなチェイスが嫌いなのだ。
ヲ級は街を歩く。
自分達、深海棲艦がうろついているから物価の上昇などで苦労しているのだろう。
頭で理解しているがここまで治安が悪くなるものなのだろうか?
「(ま、諸悪の根源が考えることじゃないか)」
そんなことを考えながらヲ級が角を曲がろうとすると一人の青年とぶつかる。
「ヲッ!?」
「わ、わ、大丈夫?」
慌てた青年が倒れたヲ級へ手を差し伸べる。
「ごめん、僕が前を見ていなかったから」
「い、いいえ、私も不注意だったから」
「そっか、ごめんね」
差し伸べられた手をヲ級が掴んだ時、奇妙な感覚に包まれる。
懐かしいような、暖かいような、不思議な感覚。
気づけばヲ級は青年の顔をまじまじと観察していた。
「えっと、あの?」
「あ、ごめんなさい。貴方、名前は」
「え?」
にこりとヲ級が微笑むと青年は少し頬を赤くしながら答える。
「み、南光太郎」
「みなみこうたろうね。覚えたわ」
微笑んでヲ級は立ち去る。
一度、振り返ると南光太郎は小さな子供と手をつないでいた。
「…なんだったんだろう?」
ドキドキする心臓を押さえながらヲ級は首を傾げて目的地へ向かおうとしたところで上から布を被されてヲ級の意識は真っ暗になる。
再び目を覚ました時、そこは薄暗い牢屋だった。
周りを見ると自分と同い年くらいの女の子たちの姿がある。
「(そういえば、陸のスパイが教えてくれたっけ?)」
ヲ級の脳裏に同じ仲間から教わった情報があった。
人間を誘拐して売りとばす組織があるとのこと。
同じ仲間を売りとばして金にする。
そこまで金に固執するのか?というのがヲ級の感想だ。
まさか自分が標的になるとは思っていなかった。ヲ級としては本性を現せばすぐに脱出できるのだが。
「(人間観察してみようかなぁ?)」
ここの人間がどのような存在なのか、少し興味が出てきたヲ級はすぐに動かないこととした。
そうしているとすぐ傍ですすり泣いている女性の姿がある。
「……大丈夫?」
気になったヲ級は尋ねた。
しかし、すすりないているだけで返事はない。
当然かいきなり拉致されてこんな状況になったらパニックを起こす。
ヲ級が冷静なのは相手が自分達より弱い人間だからである。これが噂に聞く“仮面ライダー”だったら少しは暴れただろう。
深海棲艦にとって艦娘と同じくらい危険な存在。それは“仮面ライダー”噂によるとFlagShip級やElite級の何隻かが轟沈させられている。
尤も仮面ライダーは自ら深海棲艦へ攻め込むことはしないらしい。噂によると深海棲艦が沈めようとした艦娘を守る為に自らの拳を振るっていた。
「(艦娘を守るかぁ…まぁ、自分達にもそんな存在はいるけれど、少しなぁ)」
ヲ級がそんなことを考えていると牢獄の向こうからゆっくりと歩いている人間の姿があった。
胸元に蛇が絡みついたマークがある。
そのマークがなんなのか考える前にもう一人に目がいった。
片方の目と頭部にでかい機会をのせた初老の男性。
どこか不気味だ。
「成程、中々に使えそうな素材ばかりだな」
「そ、そうですか…では、このことをシャドームーン様へ」
「うむ、報告しておこう。では、目的地へ運んでもらおうか」
「貴方は誰?」
ヲ級は男へ問いかける。
「ほぉ、随分と冷静な女もいるなぁ」
「もう一度、聴くけれど、貴方は?」
「私はゴルゴムのメンバー。お前達はこれから怪人の卵の面倒を見てもらうのだ」
「卵?」
首を傾げるヲ級だが、男はそれ以上応えるつもりはないらしく、鉄格子から離れていく。
入れ替わりに武装した男達が泣きじゃくる女性を連れて行こうと手を伸ばす。
「邪魔~」
ヲ級が拳を振るう。
受け身をとれず男は壁に体を打ち付ける。
内臓かどこかを傷つけたのか口から鮮血を吐いていた。
「さ、逃げようっと」
「ま、待って!」
出ていこうとしたヲ級の手を女性が掴む。
「私も連れて行って、助けて!」
懇願してくる女性を見て、ヲ級はまぁいいかと考えた。
「いいよぉ~」
女性を連れてヲ級は薄暗い道を歩く。
適当に歩いているわけだがどういうわけか誰とも遭遇しない。
暗い道を歩き続けて、ようやく出口へたどりつく。
これで外に出られるという所で地面が裂け、そこから鋭いハサミがヲ級の首を掴んだ。
「ヲッ!?」
突然の事に動きが鈍り、そのまま壁へ叩きつけられる。
裂けめから現れたのは赤いカニを模した怪人。
「ヲ、に」
「や、やりました!」
ヲ級が女性へ逃げろと言おうとした時、女性が入口へ駆け込んでいく。
そこにいたのは先ほどの機械男だった。
男はにこりと微笑む。
「よくやりましたね」
「は、はい!ですから、これで…私もゴルゴムの」
「裏切り者を入れることは決してない。貴方はもう用済みですよ」
機械化した右手で女性の心臓を貫く。鮮血と共に飛び出す臓器は未だにばくばくと動いている。
その姿を見てもヲ級は「あーぁ」と思った。
――人間は人間を裏切る。
刷り込まれたように与えらえた情報からヲ級は人間を信用していない。女性が同行することを認めたのも、まぁ、観察対象だからどういう結果になるかなという理由から。
それにしても、これは困ったとヲ級は思った。
目の前の改造怪人を自分なら潰せるだろう。但し、海の上ならばという条件がつく。
陸地で全力を出せない。
そんな状態で目の前の怪人を倒せるだろうか?
ヲ級がどうするか考えていた時、バイクが窓ガラスを割って侵入してくる。
黒と紫のバイクに乗っていた人物はヘルメットをとるとこちらへ視線を向けた。
「チェイス…」
「命の危機を感知、これより救助に入る」
「な、何だ、貴様!?」
男は乱入者チェイスに驚く。
チェイスは光に包まれると姿を変える。
異形の存在。
その姿を見た男が叫ぶ。
「か、仮面ライダー……」
「違う」
チェイスは否定する。
そして、自らの存在を名乗る。
自分は仮面ライダーではなく、深海棲艦を護るもの。
そう、
「死神だ!」
深海棲艦を護り、艦娘や仮面ライダーを滅ぼす存在。
敵対者に圧倒的な力と恐怖を植え付ける。死神。
それがチェイスの存在である。
カニ怪人はヲ級をハサミからはがすと死神に襲い掛かった。
ハサミで死神の体を何度も切り裂く。
火花を散らしながらものけ反る様子を見せない。それどころかカニ怪人の頭部を掴むとそのまま壁へ叩きつける。
叩きつけた後そのままあたまをがりがりと押し付けていく。
強固な硬さを持つカニ怪人だが、何度も攻撃を受け続けたことでダメージを受ける。
同じ個所を受けていた所で硬い皮膚が大きくへこんでいく。
次第に死神の一撃が怪人の体を貫く。
「ヌ…ゥォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオ!」
オレンジ色の複眼が不気味に輝く。メキィメキィと嫌な音がカニ怪人から響く。
やがて、上半身と下半身を引きちぎられたカニ怪人の現れな姿が地面へ落ちる。
「ひ、ひぃぃぃ!」
怪人がやられたことで男は腰を抜かす。
死神は亡骸を捨てるとゆっくりと男へ近づく。
「く、くるな!」
腰を抜かした男は手当たり次第、物を投げるが死神は止まらない。
触れ合う距離まで詰められたところで男はヲ級へ叫ぶ。
「た、頼む!何でもするからこ、この私を助けてくれ」
「ん~」
ヲ級は可愛く指を顎に当てる。
少し考える素振りをしてから。
「人間を“裏切る”ような人間を助けるほど、私達は優しくないんだ。だからさ」
死んじゃえとヲ級が男の頭をすり潰した。
他者を裏切る人間は守る価値なし。
それが今回の件で学んだヲ級の人間観察の結果だった。
「(人間は敵、深海棲艦を脅かすものは全て敵)」
チェイスはヲ級を後ろに乗せてバイクを走らせる。
記憶もない海に漂っていたチェイスを助けた“彼女”から与えられた使命。
それを果たすためならチェイスに迷いはない。
しかし、彼はあることに対すると非常に苛立ちを覚える。
人間を守るもの。
仮面ライダー。
特に仮面ライダーだ。
仮面ライダー。この単語を聞くたびにチェイスの頭は何かにわしづかみされたような痛みを訴えてくる。
まるで、この名前を忘れるなというように。チェイスも何度か仮面ライダーと戦った。その強さは驚くべきものがあった。何よりも強さとは別の何かがあった。
三人の仮面ライダー。
彼らを潰すことがチェイスの使命。
「俺は深海棲艦を護る…そして、仮面ライダー、奴らを潰す」
「ん~、何かいったぁ?」
「……何も」