それは突然の報告だった。
「何よ、これ?」
報告書を見た陸奥と叢雲は絶句する。
横須賀、呉といった練度の高い鎮守府が敵の襲撃を受けて壊滅したというもの。さらに舞鶴鎮守府へ近づいてきているという巨大な敵。
「敵の総攻撃かしら?」
「でも、何の前触れもなく起こるものなの」
「…そうね。何より大本営からの命令がもっと信じられないわ」
――舞鶴鎮守府は全戦力を投入して敵戦力を撤退、もしくは殲滅せよ。
「全戦力って…」
全戦力という事はここにいる艦娘達全員で戦えという事だろう。
しかし、本当にそれだけなのだろうかという疑問が浮き上がる。
もしかしたら。
「この命令書、送ってきたのは谷元帥じゃないわね」
「じゃあ、誰がこんなものを」
「私達、しいて言えばヤマトの事を快く思っていない連中の命令…でも、本物だから逆らうことはできない」
命令書をみた陸奥がいう。
「じゃあ、私達だけで」
「そう考えるべきでしょうね。もし、上がヤマトの存在を把握していたら確実に投入しているわ」
「とにかく、ヤマトへ報告を」
「…ねぇ」
叢雲はあることに気付いた。
「なに?」
「この報告書だと横須賀や呉も襲撃を受けているのよね?なんでうちはまだ襲撃を受けていないの」
叢雲の疑問が答えになるように鎮守府を揺れが包み込んだ。
続く音。
それは。
「執務室から…そんな!?」
「ヤマト!」
嫌な予感がして二人は走り出す。
その頃、爆炎の中から仮面ライダーが飛び出す。
彼の腕の中では意識を失った吹雪と睦月がいる。
赤い複眼は攻撃してきた戦艦級の深海棲艦を捉えていた。
「チッ」
舌打ちをしながら走る。
戦艦は攻撃が直撃してないとみるや仮面ライダーに向かって砲撃をする。
両手は艦娘二人がいることでふさがって攻撃へ移れない。
安全なところへ二人を連れて逃げること。
まずはそれを優先する。
「…ちっくしょう!」
前方に敵艦隊の艦載機が飛来する。
爆撃が次々と降り注いでくるのをギリギリの距離で躱す。
砲撃の雨もきつくなっている。
逃げるのも限界になりつつあった。
「ちっ、くしょうがぁ!」
待っていたように現れたタ級めがけて蹴りを放つ。
しかし、相手はそれを予期していたように腕を犠牲にして防ぐ。
「しまっ」
躱すことができず背中に砲撃を受ける。
近距離だったことで体を貫くような衝撃が襲い掛かった。
「グッ…らぁあああああああああああああ」
意識を失いかけることを無理やり堪える。
普通の人間なら死んでいただろう。
こんな時だけ改造人間であることに感謝してしまう。
派手に転倒しながら体を起こそうとして眼前に砲塔を突きつけられる。
仮面ライダーなら耐えられる。
しかし、この二人はどうなるかわからない。
動けない仮面ライダーだったが突如、一台のバイクが戦艦級を吹っ飛ばす。
ゴロゴロと巨体を揺らしながら戦艦級は海岸の方へ転がる。
「…立花、無事か!?」
「水瀬か!」
サイクロン2号に乗って現れたのは仮面ライダー2号こと水瀬隼人だった。
仮面ライダー2号はサイクロンから降りると仮面ライダー1号へ近づく。
「お前、こいつらを抱えたまま戦っていたのかよ」
「まぁな」
「雪風、二人を連れて安全なところへ頼む」
「は、はいぃ」
サイクロンの速度で目を回したのか、ふらふらしながら雪風に吹雪と睦月の二人を任せる。
「というわけで手が自由になったわけだけど、これはどういう状況だ」
「俺が知りたいくらいだ。なんでこんなことになっているんだか」
二人は会話をしながら右へ、左へ跳びながら深海棲艦を撃退していく。
途中、事態に気付いた瑞鶴や如月たちが戦闘へ参加することで敵の撃破に成功する。
所々壊れた鎮守の食堂でヤマト達は集まっていた。
「とりあえず、全員無事のようね」
「そうともいえない」
叢雲の言葉にヤマトが否定を入れる。
「光太郎の姿がない」
「あ」
「そういえば、足柄さんと加賀さん、望月、皐月の姿もない」
文月が周りを見て呟く。
この鎮守府にいるのは陸奥、時雨、北上、大井、瑞鶴、吹雪、深雪、睦月、潮、曙、朧、漣、暁、響、如月、長月、天龍、阿武隈、川内、愛宕、青葉、瑞鳳、島風、夕張だ。
そのうち、吹雪、睦月、川内、愛宕、響、暁は敵の襲撃でダメージを受けてこの場にいない。
「一体、どうして、こうなったんだよ?」
「大本営から通達が来ていたわ」
少し戸惑いを残しつつも叢雲は伝えた。
横須賀、呉が敵の襲撃を受けた事、謎の敵艦隊が舞鶴へ向かっていることを。
「敵の先制攻撃だな。まさか鎮守府に設営されているレーダーをすり抜けてくるとは」
「ありえないことじゃない。俺は何度か襲撃を受けているしな」
離れた所で会話を聞いていた水瀬隼人が言う。
彼は以前、警備府にいた時に深海棲艦の襲撃を受けたことがある。
万全でないといっても敵が来れば妖精は気づく。
その妖精が設置したレーダーをすり抜けて敵が来ている。
この事実に艦娘達は戦慄していた。
「敵の団体と戦う必要があるわけだ」
「そうなる」
「問題は、どこで敵と戦うかだな」
「そうだね。敵の数もわかっていない状態じゃどういう戦法でいくかだけど」
「瑞鶴としては艦載機による爆撃がおすすめだね」
「それもいいけれど、私と大井っちの魚雷の不意打ちもいいなぁ」
「私も北上さんと同意見です」
「ち、ちょっと待って!」
驚いた顔をして叢雲が止める。
「なんだよ?」
「アンタ達、戦うつもり?」
「それ以外に方法ある~」
「北上さんの言う通りよ。他に方法はないわ」
「ま、負けるとかそういう不安はないの?」
「ない」
「ないね」
「ないわね」
「あるわけないじゃん~」
「当たり前です」
「どうして?」
「だって」
陸奥達はそこで顔を上げる。
その顔は幾多もの戦場を潜り抜けてきた者の目だった。
「私達は負けに行くために戦うわけじゃないもの。勝つために向かうのよ」
叢雲達は目を見開く。
「数の多さが全てを左右するわけじゃない」
「どのタイミングで攻めるか、敵をどこで揺さぶればいいのか」
「艦隊といっても感情が少しあるなら付け入る隙は必ずあるんだよ~」
「当然、戦うからには勝利を。誰も沈まずに帰ってきます。貴方達もその覚悟はあるでしょう?それともただ絵空事を語るアマちゃんかしら?」
「ンだとぉ!ざけんな!天龍様を含めて、ここにいる奴ら絶対に沈ませて堪るか!」
「当然!もう誰かが沈むなんてみたくない!」
「わ、私も、戦います」
「みんながいれば怖くない!」
「漣も頑張りますよぉ!」
それぞれが戦う決意を出していく。
叢雲へヤマトがポンと肩に手を置いた。
「大丈夫だ」
彼の言葉は不思議と力がある。
何度も聞いてきたからだろうか、さっきまでの不安が嘘のように消えている。
「何があろうと俺がお前達を戦場から連れて帰る……絶対にな」
不安そうにこちらを見上げる叢雲の頭を撫でている立花ヤマトはいつもと違う。真剣な顔をしていた。
「俺が、絶対に誰も沈ませないさ」
舞鶴鎮守府のメンバーたちが戦場へ向かっている頃、南光太郎は一つの存在と対峙していた。
「この時を待っていた!」
目の前にいるシャドームーンは静かに、けれど喜びを露わにして目の前の南光太郎ことブラックサンを見据えていた。
対して、光太郎は目を閉じている。
「この戦いで俺達の全てに決着がつく!創生王になるのはこの俺だ!!」
シャドームーンの言葉に光太郎は反応しない。
やがて、静かに口を開く。
「信彦…」
「まだいうか!俺はシャドームーン!世紀王でありこの戦いで貴様を殺し創生王、世界を支配する魔王だ!!」
「俺は戦う」
静かに光太郎は構える。
ギギギと彼の感情を表すように拳に力が入っていた。
光太郎はカッと目を見開く。
眩いばかりの光と共に光太郎は仮面ライダーBLACKに変身する。
「お前を創生王にさせはしない!魔王などこの世に生まれることはない。シャドームーン、貴様はこの、俺、仮面ライダーBLACKが倒す!!」
「覚悟はできているようだな、行くぞ!ブラックサン!」
「うぉぉおおおおおおおおおおおお!」
叫びと共に両者がぶつかりあう。
「ライダーパンチ!」
「シャドーパンチ!」
赤と緑の光が激しくぶつかり合った。
その光景を少し離れた所で見ている艦娘達がいる。
「光太郎さん…」
「だ、大丈夫だよ!光太郎さんなら!」
「………私達は見守ることしかできません」
「そうね、そうすることしか…彼へしてあげることはないんだわ」
不安の表情を浮かべる彼女達。
彼らは光太郎が抜け出すことを知っていた。
少なからず彼へ好意を寄せる者達だ。
何か秘めた決意をしていた。
おそらく、決着をつけに行くのだろう。
加賀達はそれぞれが動き出して彼を見張っていた。
止めることはできない。
彼らが戦うことを止める権利を持っていなかった。
止めたとしても光太郎は苦笑いを浮かべるだけだろう。
誰かが傷つくことを良しとしない彼は自分を傷つける。
そんな彼を艦娘達はただみていることしかできなかった。
歯がゆい。
辛かった。
加賀は普段の表情ながらも険しかった。
皐月は今にも泣きそうだ。
足柄も辛そうに彼を見ている。
その間も決闘は続いていた。
シャドームーンが振るうサタンサーベルを躱す。
「うぉおおおおおおおお!」
渾身の一撃がシャドームーンの胸部に突き刺さる。
「グッ!」
くぐもった声を出しながらもシャドームーンが振り下ろすサタンサーベルを片手で受け止める。
追撃をしようとした時、BLACKの前にいたシャドームーンが信彦の姿へ戻った。
「信彦!?」
突然の事にBLACKは動揺してしまう。
「フン!」
シャドームーンの拳がBLACKに突き刺さる。
衝撃と共に彼は大きく後ろへ吹き飛ぶ。
止めを刺そうとサタンサーベルを倒れているBLACKめがけて振り下す。
起き上がろうとしていたBLACKに回避運動は間に合わない。
その時、二人の間に割り込む者の姿があった。
バサツツと刃が煌めく。
サタンサーベルが切り裂いたのはBLACK、ではなく加賀だった。
「か、加賀さん!!」
倒れていく加賀をBLACKは慌てて抱き止める。
「なんで、なんでだ。なんで、加賀さん!」
「体が、勝手に、動いたわ」
「だからって、こんな………僕なんかの為に」
「貴方だからよ」
加賀は震える手でBLACKの頬へ手を伸ばす。
その手は暖かい。
「貴方は私を守ってくれた。だからこそ、私は貴方を守ろうと決めた。あそこにいる子達も」
加賀は足柄達を指す。
「みんな、貴方の事を大事に思っている…だから」
「ダメだ。加賀さん!しっかりするんだ!」
意識が朦朧とし始めている加賀へBLACKは、光太郎は訴え続ける。
「邪魔が入ったか…だが、俺の勝利は変わらん!」
叫びと共にサタンサーベルを振り下ろすシャドームーン。
その刃をBLACKは手で掴む。
「…………もう、うんざりだ」
紡いだ言葉は激しい怒りを含んでいる。
サタンサーベルを握りしめている手も強い怒りで震えていた。
「運命だとか、戦う宿命、とか………そんな理由で俺の、大切な人達が傷つくなんて、もう、うんざりだ!!」
叫びと共にサタンサーベルを離し、拳を振るう。
攻撃を受けたシャドームーンは吹き飛ぶ。
加賀を抱えて、BLACKは足柄へ彼女を預ける。
「頼む。加賀さんを」
「任せて」
足柄は加賀を抱えて、手当てを始める。
BLACKはシャドームーンを睨む。
ふらつきながらもシャドームーンは地面を蹴る。
両者は空を跳ぶ。
「ライダーーーキック!!」
「シャドーキック!」
放たれた必殺技、シャドームーンの技を打ち消し、ライダーキックがさく裂した。
爆発と共にシャドームーンが地面へ倒れる。
「馬鹿な、この俺が、負けた、だと」
「……シャドームーン、俺の勝ちだ」
倒れて動かないシャドームーンへBLACKは静かに伝えた。
海上、巨大な島より先に鎮守府へ向かっている深海棲艦の艦隊がある。
彼らは目的地に向かってただ突き進む。
目的は艦娘とその施設の破壊。
邪魔するものは容赦なく沈めよ。
上位存在の命令を彼らはただ遂行するのみ。
そんな彼らの頭上を無数の艦載機が迫ってくる。
敵の艦娘が放ったものだ。
彼らが応戦しようとした時、海面から無数の魚雷が放たれた。
空へ視線を向けていたことで対応が遅れる。
魚雷によって何隻かが轟沈してしまう。
続いて、艦載機による爆撃。
いくつか撃墜はできたが深海棲艦側の被害もかなりのものだった。
それらの光景を少し離れた島で北上、大井はみていた。
「いやぁ、空母もなかなかやるねぇ~」
「あの“瑞鶴”がいるから当然と言えますね」
「よし、私達もがんばろー」
「はい!北上さん!」
大量におかれている魚雷を彼女達は装填していく。
同じように海面を移動している瑞鶴は矢筒から矢を取り出す。
「瑞鳳!ちゃんとついてこれている?」
「は、はい!いけます」
二人は揃って弓を構える。
「最初の攻撃、これで多くの敵を沈めるわよ!」
「はい!みんなの…立花提督の道を切り開きます!」
二人は矢筒の矢がなくなるまで放ち続ける。
作戦は簡単だ。
近づいてくる深海棲艦へポイントで待機している大井、北上、瑞鶴、瑞鳳による攻撃。
これによって数をできる限り減らす。
そこを別のポイントで待機している陸奥達が奇襲を仕掛けることで敵の命令系統を混乱させる。
艦隊から外れた敵は如月たち別動隊が排除する。
時間が勝負の電撃作戦は今の所、順調だった。
しかし、何事も予想外というものは存在する。
「っ!来たわね」
瑞鶴は静かに弓を構える。
海面、
ゆらゆらと揺れる波へ抗うように疾走する一台のバイク。
黒と紫、髑髏が象徴のバイクにまたがった存在。
死神が現れる。
「瑞鳳!撤退、奴との交戦は避けるわよ」
「は、はいぃぃ」
離脱しようとするが死神の光弾が速い。
「瑞鳳!」
「だ、大丈夫です」
死神の攻撃で瑞鳳は一撃で大破へ追い込まれた。
「瑞鳳ぅ!」
瑞鶴が救援へ向かうも間に合わない。
死神の一撃が彼女へ放たれるという瞬間、その拳を受け止める者がいた。
「させませんよ」
金色のグローブで死神の拳を受け止めた者。それは風見志郎こと、仮面ライダーV3だった。
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