ショッカーの施設を破壊して戻ってきたヤマトはそのまま死んだように眠る。
時雨が心配そうに眠っているヤマトを見ていた。
「あの、ヤマト、さんは?」
おずおずと部屋の入口から潮が顔を覗かせる。
「今は眠っているから大丈夫だよ。それよりも君は休んだ方がいいんじゃないかい?怖い目にあったわけだし」
「……確かに、怖い、です。でも」
「心配?」
こくん、と潮は頷く。
優しい子だ。時雨は彼女を信頼してもいい子だと判断する。
「あの」
「なんだい?」
「あの、ヤマトさんと付き合いは長いんですか?」
「そうだね、少なくとも二年の付き合いかな」
話しながら時雨は思い出す。
彼と出会った時のこと。
彼に、助けられた時。
「ヤマトは、傷ついてばかりなんだ」
「え」
潮へ時雨は話す。
「ヤマトは僕達を助けてくれる。僕等が望めばどんな状況でも手を差し伸べてくれる。けれど、その代償は大きい。いつも、いつも、ヤマトは傷ついてしまう。だから――」
最後の言葉を飲み込む。
時雨の決意を潮へ伝えるべきか。そこは濁すことにした。
潮はもう一度死んだように眠っているヤマトを見る。
彼の事をどうするか、目を覚ましたら一度話そう。
潮は決意を固める。
陸奥は叢雲に、未だ反抗的な態度をとっている艦娘達へ現状を話すために会議室に集めていた。
「ショッカー?」
「そう、この話を訊く場合、大本営が定める超重要機密へ触れることになる。秘匿条件があるから覚悟をしておいて」
なければ立ち去ること。
陸奥の言葉に何名かが席を立つ。
残ったのは叢雲、漣、天龍、曙、朧と他数名。
「まずはショッカー、この組織はかつて存在したナチスと繋がりがあるといわれている。詳細は大本営も掴んでいない。わかっていることは非人道的なことをしているということよ」
「…非人道的って?」
「一つは組織を知ろうとするもの、阻むものを容赦しない。かつて大本営でも実態を掴もうと動いた。けれど、密偵は一人も帰ってこなかった。帰ってきたときもあったけれど、そいつは敵となって私達に襲い掛かってもきた」
「そんな」
「続いて、これが一番厄介ね。改造人間
改造人間、
それは文字通り人間を改造した連中の事を指すの。彼らは自らの姿を仮面や別の姿へ変えることで隠し、暗躍する。
普通は持ちえない特殊能力を有している。あのスパイダーの糸やバットの動きが例としてあげられるわ」
陸奥の言葉に鎮守府所属の艦娘達は言葉を失う。
深海棲艦の他に厄介な敵がいることを知らなかったこと、それと戦ったヤマトの実力。
あの姿を見た叢雲は体を震わせる。
彼へ行った仕打ち、もし、本気で怒ってしまったら自分たちは太刀打ちできるのだろうか?
もしかしたらあの改造人間たちのような末路を自分たちも…。
「一つだけ、教えてあげるわ」
陸奥の言葉に全員が現実へ戻された。
「彼は貴方達へ暴力を振るわれたことを気にしない」
「…気にする価値がないっていいたいわけ?」
「違うわ」
曙の言葉を陸奥は否定した。
彼の事を知らない者かすればあの態度は上の者が下をみおろしていると感じたのだろう。
「私が伝えたところで彼の本質を理解できるわけじゃないわ。彼の事を知りたかったら彼と話をしなさい。そうすれば」
陸奥が最後まで言う前に会議室の扉が開いて軍服を纏った男と武装した連中が現れた。
突然現れた男達へ陸奥が訊ねる。
「貴方達、一体」
「我々は大本営から派遣された部隊である!ここの秘書艦はどこだ?」
「私だけど」
叢雲が立ち上がると男はタブレットを見てから部下へ指示を出す。
部下達が一斉に叢雲へ銃を向ける。
「上からの命令だ。貴様を解体処分にする」
「おい!」
天龍が起き上がろうとするが全員へ銃を突き付けられた。
「これはどういうつもり?」
男は陸奥を一瞥する。
「お前は」
「私は長門型二番艦陸奥。大本営の特殊遊撃部隊所属です」
「特殊部隊…あぁ、問題部隊か」
男の言い方に陸奥は一瞬、顔を歪めつつも再度訊ねる。
「ここは大本営の谷元帥の管理下に入っています。元帥から何の連絡も来ていませんが?」
「知らんね。我々は命令を果たすためにココへいる」
「ハッ!よくいうぜ。前の提督の腰巾着が」
「黙れ!艦娘風情が!」
天龍の言葉で陸奥は察した。
「命令書を見せていただけるかしら?」
「貴様にその権限はない。連れていけ!」
銃を突きつけられていた曙と天龍が立ち上がる。
瞬間、銃が火花を噴いて二人が倒れた。
朧が悲鳴を上げる。
二人は麻酔弾を撃たれたらしく床へ倒れた。
「貴方!」
「逆らうなら貴様もこうなる」
陸奥へ銃口を向ける。
「……くっ」
「わかったわ!」
立ち上がった叢雲へ全員の視線が集まる。
「私を解体したいんでしょ?ついていくからこれ以上みんなへ攻撃しないで」
近くの艦娘を突き飛ばして叢雲へ手錠をかける。
「ここで解体するわけにはいかんな。別の場所へ連行する」
男の指示で叢雲を連行して外へ連れ出そうとする。陸奥達に邪魔されると思ったのか別の理由があるのかはわからない。
彼女達は後を追いかけた。
大本営の命令でないなら止めることができる。
しかし、その証拠がない。
陸奥達ではどうすることもできないのだ。
唯一、止められるのは同じ人間、さらにいえば提督という地位についている男。
しかし、そんな男はいない。叢雲達が否定したのだ。
提督など要らない。自分たちでやっていると。だから、提督代理であるヤマトを追い出そうとした。
護送車へ叢雲がのせられることをみるしかできない。無力感が彼女達にのしかかった。
走り出した護送車だがすぐに止まる。
「え?」
誰かが驚いた声を漏らす。
走り出した護送車を一人の男が止めていた。
面倒そうな表情で手を前に出して車を抑えている。
護送車の車輪の速度があがる。
しかし、彼、立花ヤマトは片手で車を止めていた。
無駄だとわかったのか車から男と部下が降りてくる。
「貴様!何の真似だ」
「何のって、勝手に艦娘を連れていくなよ。あいつはここの所属だ」
「何だと…そうか、貴様が提督代行になったという小僧だな」
「その小僧かどうかときかれたら多分そうだろうな。ンで、てめぇは誰だ」
「私は」
「あぁいい、すぐに叢雲を解放しろ。こいつはここに必要な」
一斉にヤマトへ銃が突きつけられる。
「化け物が偉そうに口を挟むな。誰のおかげで生きていられると思っている?」
「少なくともお前達のおかげでないことは確かだな」
「貴様ァ」
「今すぐ叢雲を解放しろ、でないと」
旋風が巻き起こる。
変身したヤマトが男の傍へ拳を繰り出す。
ただ拳を放った。
それだけのことなのに拳圧で男達は薙ぎ払われる。
赤い複眼が男を捉えた。
それだけのことなのに男達は恐怖する。
「ば、化け物!!」
誰かが叫んで武器を放り投げて逃げた。
一人を皮切りに全員が逃げていく。
残されたヤマトは仮面を外すと護送車へ近づき鍵を壊すと叢雲を外へ放り投げる。
「あ、アンタ…なんで」
「何でも何も人が気持ちよく寝ていた所を「助けてください!」っていって泣きじゃくった奴らがいた。それだけのことだよ」
あぁー、ねむてぇといいながらヤマトは鎮守府の中へ入る。
入れ替わるようにして潮と漣、他の仲間たちがやってきた。
心配される中で叢雲は複雑な目でヤマトを見る。
ヤマトは陸奥と話をしていた。
「どうして助けたの?」
「寝ていた所をたたき起こされた。イライラした八つ当たりした後悔はしていない」
「そう…やっぱり、貴方は誰かのために動くのね」
陸奥の言葉にヤマトは応えない。
「そして、傷つく」
「…疲れた、寝るわ」
陸奥の言葉に返すことなく与えられた部屋へ向かう。
もし、振り返っていたら少しは違っていただろう。
陸奥は決意を込めた目をしていた。
「貴方がこれ以上、傷つかない為に…」
今回で着任編?は終了になります。
というか章分けしていないからあまり意味ないですけど。