ナーベがんばる!   作:こりぶりん

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 前回のあらすじ:
 魔樹「ドーモ、ナーベラル=サン。ザイトルクワエです」

 この状況下で出し惜しみする理由がないんで第八位階魔法の設定を創作しました。
 捏造設定がじりじりと増えていく( ´∀`)



第十一話:ザイトルクワエと三十七番目の兵法

 枯れ木の森に天を貫く柱がそびえ立っていた。その数は六本。長さを考えるのも馬鹿馬鹿しいサイズの、木の枝めいた触手であった。それが繋がる元はそれらの触手の中央にせり上がってきた巨大な大木。ただしその木の幹には、邪悪な光を宿す目玉と、鋭い牙の並んだ口がついているのだ。歪んだトレント。ザイトルクワエの本体であった。

 その口から咆吼が吐き出され、周囲の大気を奮わせる。遠雷の如きその轟きは、森中の生物を酷く怯えさせた。

 

「あ、ああ、あわわわ……ほ、ほほほ、本体が蘇っちゃったよお……あ、あああ、あんなのなんてぇ……」

 

「ほら、目覚めちゃったでござる……それにしてもでかいでござるな……」

 

「うむむ、本体の高さはおよそ百メートル。そしてその三倍はありそうな触手が六本か……なんとも途方もないスケールじゃな……おお、触手が周りの枯れ木を引っこ抜いて食い始めましたぞ。起き抜けの腹ごなしですかな」

 

 慌てるピニスンと、どこか呑気に感想をもらす二匹の魔獣。ナーベラルは難しい顔をして唸った。

 

「うーん……思ったよりまずいわね。とても勝てそうにないわ」

 

「だだだだだだよねえ!?すぐにここから逃げよう君達、あんなに凄いなんてこれっぽっちも思ってなかったよ!!もう私たちにできることなんて何一つないんだよ!!」

 

 両手を振り回して叫ぶピニスンを、ナーベラルは呆れ顔で見る。

 

「そもそもあなたが逃げられないから困ってるんでしょうに。それで、あなたの本体の位置はどこかしら」

 

「へ?あ、あの辺……だよ」

 

「ふむ、南側か……スケール比から言うと大した距離もないし、あまり猶予はないわね。ハムスケ、リュラリュース。あなた達はこの子と一緒にいなさい」

 

 ピニスンが指さした方向を確認すると、ナーベラルはハムスケの方を見てそう命じた。ハムスケが心配そうに答える。

 

「了解したでござるが……姫はどうするのでござる?」

 

「あいつを少し誘導してみるわ。東側に回って攻撃を仕掛け、注意を引きつけて釣り出してやる」

 

「危険ではないですかガンマ様?貴方様の強さは疑うべくもありませんが、ご自分でも勝てそうにないと言ったばかりではありませんか」

 

「釣り出すのなら反対側の方がよいのではござらんか?どうして北じゃないのでござる?」

 

「……万一あいつの知性が想定より原始的だった場合、攻撃を仕掛けられた方角を単に嫌がって反対側に移動する可能性もあるからよ。釣れれば東、そうでなければ西に移動して貰えば、ピニスンの本体には近づいてこないことになるでしょ……竜王とやらが事態に気づくくらいの時間は稼げるかも知れない」

 

 そう言って体を翻したナーベラルの背に向けて、ピニスンが声を掛けた。

 

「あっ、あのっ、なんでそこまでしてくれるのかわからないけど……ありがとう。気をつけてね」

 

 ナーベラルは肩越しに振り返って微笑んだ。

 

「まあ、成り行きよ。……<転移>(テレポーテーション)

 

 その瞬間、ナーベラルの姿がその場から掻き消え、本人の予告通り、ザイトルクワエ東側の遙か上空に出現した。大地に向かって自由落下を始める中、全身に風を受けながら落ち着いて次の呪文を唱える。

 

「――<飛行>(フライ)

 

 徐々に落下速度がおち、ナーベラルの体は空中で静止した。高度およそ百五十メートル、ザイトルクワエを見下ろす位置である。まあこの高さでも触手の射程圏内ではあるのだが。

 

「――さて、やりますか」

 

 現在ザイトルクワエは特にナーベラルに意識を向けては居ない。気づいていないのではない。脅威と認識していないので注意を払っていないのだ。人間で言うなれば、道の端をアリが歩いていたって気にも留めないのと同じことである。

 ナーベラルの両手に魔力が溢れ、轟々と風が唸りを上げて集まっていく。その時ようやく、ザイトルクワエの目がナーベラルの方を向いた。逆巻く魔力の暴風が、トレントの注意を喚起したのである。

 

<二重最強化(ツインマキシマイズマジック)()吼え猛る竜巻>(レイジングトルネード)

 

 ナーベラルが自身の持ちうる最大火力――第八位階の攻撃魔法を解放する。狙いはザイトルクワエの触手の一本。

 そして、天を切り裂く風の柱が発生した。

 

 ユグドラシル時代。第八位階魔法<吼え猛る竜巻>(レイジングトルネード)は真空の刃を発生させて範囲内のものに風属性の斬撃ダメージを与える攻撃データの処理に過ぎなかった。だがしかし、この世界に現実化したことで、想定を超える威力の物理現象としてその攻撃が結実する。

 ザイトルクワエの左側に配置した右回転の竜巻、そして右側に配置した左回転の竜巻。風の刃が回転しながらぶつかり合うその中心は、全てを巻き込み破砕する刃のローラ-!二つの竜巻の間に生じる真空状態の圧倒的破壊空間はまさに歯車的砂嵐の小宇宙!!

 ザイトルクワエがその回転圧力にビビッたかどうかはさておいて、狙い定めたその触手の一本は、二つの竜巻が生み出した破壊空間に引き寄せられ、吸い込まれ、切り刻まれ、破砕され。そしてついには切断された。ザイトルクワエがたまらず咆吼をあげた。痛みに喘ぐ悲鳴である。

 

 ザイトルクワエはその時初めて、己に痛みを与えた魔法詠唱者(マジック・キャスター)を認識し、脅威と見なし、怒りを覚えた。

 ザイトルクワエが再び咆吼する。今度の叫びは悲鳴ではなく、ちょこざいな敵を殺してやらんとする怒りの叫びである。その邪悪な目玉が、ナーベラルに焦点を合わせた。

 

「効いてはいるけど、堪えてはいないわね……まあ注意は引けたか」

 

 ナーベラルはそう呟くと、飛行速度に注意を払ってゆっくりと後方に下がり始めた。その彼女に向かって、ハエ叩きで潰すが如く、唸りを上げた触手が叩きつけられる。その攻撃は当然予測して居たため、ナーベラルは<飛行>(フライ)の制御をコントロールして速度を上げ、旋回して軽々とよける。そのまま触手は勢いを保って地面に激突し、大地を揺らした。森の各所で生き物の押し殺したざわめきが上がる。

 

<魔法最強化(マキシマイズマジック)()龍雷>(ドラゴン・ライトニング)

 

 これ以降は飛行の制御と、万一の場合の回避に重点を置くため、大技は控えて小技で牽制していくことになる。ナーベラルが魔法を放つと、雷撃がザイトルクワエの体表に吸い込まれるように着弾し、その表皮を焦がした。ザイトルクワエは不快そうに身じろぎすると、その口から弾丸を吐き出した。

 人間の子供ほどにも大きな、種の弾丸である。機関銃のようにばらまかれた高速で飛来する種の弾丸を、ナーベラルは余裕を持って回避する。なにぶん、距離があるため、見てから余裕でよけられる。

 ザイトルクワエもそれは感じたのか、じりじりと遠ざかりながら牽制を繰り返すナーベラルに再度怒りの咆吼を挙げると、根元の地面がぐらぐらと揺れだした。魔樹の根が地面から引き抜かれ、うねりながらゆっくりと動き出す。

 

 

 ――スレイン法国、土の神殿。

 ノックすら忘れ、息も絶え絶えに駆け込んできた老婆、土神官副長の姿を目にするや。ただ事ではないことを察した土の神官長はマナー違反を咎めることも忘れ、椅子を蹴立てて立ち上がった。

 

「どうした、何事だ!!例の魔法詠唱者(マジック・キャスター)に動きがあったか!」

 

 現在土の神殿の最優先業務は陽光聖典を壊滅せしめた謎の魔法詠唱者(マジック・キャスター)の監視であり、特に目の前の副長と土の巫女姫はつきっきりで休息と魔法儀式の執行を繰り返している。その副長が慌てて知らせに来ることと言えば、当然その魔法詠唱者(マジック・キャスター)の動向のことに他ならない。

 

「はぁ、はぁ……し、神官長、魔封じの水晶が、起動……されました」

 

 息を切らしながらその場にへたりこんで、やっとのことで絞り出した副長の言葉を聞き、神官長の顔色が変わる。

 

「なんだと!!状況はどうだ!相手は、あるいは目的は!?」

 

 魔封じの水晶に封じられた召喚魔法で呼び出されるのは威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)、かつて魔神の一体を単騎で滅ぼした、都市の殲滅すら容易とする恐るべき存在だ。

 魔封じの水晶が使われてしまったことは予想外であり、手痛い被害である。だからさっさと取り戻すべきだったのだと主張する生の神官長の姿が目に見えるようだ。確かにその損失は大きなものではあるが、問題はそこではない。なぜ今、このタイミングで魔封じの水晶を起動したのか。その目的の方が重要だ。

 

「は、は、目的は、一目瞭然でございます、相手は、途方もなく巨大な植物型モンスター、推定では、竜王クラス、最悪そのくらいの強さ、の可能性が、ぜぇ、ぜぇ」

 

「なん……だと……」

 

 土の神官長は絶句した。思わず停止しかけた思考を慌てて切り替え、早急に必要な対応について頭の中で検討する。

 

「わかった、そなたはここで少し息を整えるがいい。落ち着いたらトブの大森林にそのような強大なモンスターの発生記録があるかどうか、過去の文献をあたってくれ」

 

 副長にそう命じると、神官長はお付きの神官に顎をしゃくった。

 

「すぐに各神官長に連絡を。臨時で神官長会議を開く、場所は土の神殿の聖域だ。何?お前も聞いていただろう、男子禁制などとの戯言をこの期に及んでほざく気か?わかったらすぐに行って手配しろ!……お前は死の神官長に別の言伝を頼む。内容は漆黒聖典に第一種警戒態勢をとらせて貰いたい……いや、少し待て、書いて渡そう」

 

 命令を受けた部下の神官達が青い顔で散っていくのを見送ると、土の神官長は冷や汗を流しながら黙り込んだ。副長が息を整えようとする荒い音だけが室内を満たす。

 

「なんたることだ……あるいはこれこそが破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)の再臨だと解釈された予言の内容なのか……?」

 

 

「おお、動き出したでござる……さすがは姫、ここまでは作戦通りの展開でござるな」

 

 ザイトルクワエとナーベラルの戦いを遠くから見守る中、ハムスケが呟いた。

 

「あ、あの人凄いねえ……!たぶん約束の七人より強いんじゃないかって気がするよ!でもあんなに凄い人でもあの魔樹には敵わないって言ってるんだよね……だったらあの七人を探してきて貰っても駄目なのかな……はあ、本当に世界は大丈夫なんだろうか……」

 

 ピニスンが感動と心配をミックスさせてため息をつくと、リュラリュースが答える。

 

「さて、世界がそれで終わるというのならそれはしょうがないことじゃろうて。そうならずに済んだ場合にお主だけ死ぬのはかわいそうだからと、ガンマ様が助力してくれたことを忘れるでないぞ」

 

「しかし、注意を引きつけたのはよいでござるが、ここからどうするつもりでござるかなあ……下手に逃げるとあのトレントがその後どうするかわからないでござるが」

 

 その時、ナーベラルを中心に、白い閃光が膨れあがった。太陽がもう一つ出現したかのような輝きが周囲を白く染め上げる。

 

「うおっまぶしっ」

 

「え、何これどうしたの!?……あれ、なんだか羽のオバケが居る」

 

 閃光が収まると、腕の生えた光り輝く翼の集合体としか言いようのないクリーチャーが宙に浮いていた。見守るハムスケ達にその名前を知る術はないが、それこそが威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)。第七位階魔法を使いこなすスレイン法国秘蔵の天使族モンスターである。その手に持った笏が掲げられると、天から光の柱が降ってきた。

 青白い輝きを放つ清浄な光の柱に飲まれ、ザイトルクワエが苦悶の叫びを上げる。

 

 <善なる極撃>(ホーリースマイト)。相手のカルマ値に応じてダメージボーナスが加えられる第七位階魔法であったが、ザイトルクワエにはそれほど痛打を与えたようには見えなかった。相手がタフ過ぎて堪えていないというのもあるが、異次元の本能で生きる生物というのは、カルマ的に言えば邪悪と言うよりは中立寄りであるのだろう。

 それでもザイトルクワエの怒りを買うには十分な威力があったようで、たちまち触手が、種の弾丸が、輝く翼のクリーチャーに襲いかかる。威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)は緩慢な動きで防御と回避を繰り返しながらゆっくりと東方に後退していく。それはさながら、先程までナーベラルが行っていた釣りの引き継ぎであった。

 

「……どうやらあの翼野郎に誘導を引き継がせてその間に姿をくらまそうという算段なのじゃろうな。本人は何処に行ったのやら」

 

「……ここよ、今戻ったわ」

 

 その時ハムスケ達の下にナーベラルが<転移>(テレポーテーション)で帰還した。

 

「あ、お帰りなさいでござる姫。あのモンスターはなんでござるか?」

 

「あれは威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)。魔封じの水晶に封じられていた魔法で召喚した天使族のモンスターよ。あいつの背中に隠れて転移してきたから、後はあいつに任せるわ。生存優先で召喚時間いっぱいまで釣り出しを続けるよう命令してあるから、そこそこ持つでしょあの様子なら」

 

「なんか凄いマジックアイテムをぽんと使われた気がするんですけどッ!!?どどどどうしよう、私そんな凄いものに見合うお礼なんてできないよよよ」

 

 威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)を追いかけて遠ざかっていくザイトルクワエを横目にひたすら慌てて挙動不審になるピニスンの頭を、ナーベラルは優しく撫でていった。

 

「……気にしなくていいわ、ただの拾いものだし」

 

「そんなマジックアイテムがその辺に落っこちてるわけがあるかっ!?」

 

 思わず絶叫したものの、ピニスンはそれで大人しくなった。頭を撫でられるままうーうー唸る。

 

「そんなことより、ちゃんとあいつを退治できる竜王だかなんだかが来てくれることを祈っておきなさい」

 

「うん、ありがとう……ついでにもう一つお願いしてもいいかな……」

 

 ピニスンが唸るのを止めてナーベラルを見上げると、ナーベラルは微笑んで首を傾げる。

 

「なにかしら。約束の七人を探してきて欲しいって話?悪いけど……」

 

「ううん、それはもういいや。君の方が強いよたぶん。だからあの七人を探しても無駄になるだろうね。そうじゃなくて、これを受け取って」

 

 ピニスンはそういうと、彼女の小柄な体には一抱えもある植物の種子を差し出した。

 

「種……ね。もしかして、これはあなたの?」

 

「うん、私の本体の種。私の力を精一杯込めた特別なやつだよ。これを持っていって、私が行けないくらい何処か遠くで育ててくれたら嬉しいな。もしザイトルクワエが気まぐれを起こしてこっちに戻ってきてもさ。それを育ててくれたら私の生命は繋がっていくと思うから……」

 

「むほぉーっ、生物として種の存続に努めるのは当然でござるなあ!それがしも子供を作らねば……!」

 

 なにかのスイッチを刺激したらしく、横からはしゃぎ出すハムスケをチョップで黙らせると、ナーベラルは種を受け取って懐にしまった。

 

「わかったわ、これは何処かで育てましょう。じゃあ私たちはもう行くけど」

 

「うん、ごめんねろくなお礼もできなくて。本当にありがとう……!」

 

 ハムスケに飛び乗って去っていく一人と二匹を、ピニスンはいつまでも手を振りながら見送ったのであった。

 

 

 




 Q.ザイトルクワエに勝てる要素ないけどどうすんの?
 A.たたかわない。ヽ(´・ω・`)ノマルナゲー
 いい話風に〆たけど、レイドボスをトレインしてから逐電とかかなりのDQN( ´∀`)
 
蛇足解説:ナーベラルの使用する最強の魔法について
 
 1.ナーベラル・ガンマはエア・エレメンタリストであるため、他属性の八位階魔法を使用した場合、下手をするとその威力は七位階魔法<連鎖する龍雷>(チェイン・ドラゴン・ライトニング)に劣る。
  よって、最強の魔法は風属性でなければならない。
 2.風属性の中でも電撃系の攻撃魔法については、三位階<雷撃>(ライトニング)、五位階<龍雷>(ドラゴン・ライトニング)、七位階<連鎖する龍雷>(チェイン・ドラゴン・ライトニング)の存在が原作で確認されている。
  この状況で電撃系の最上位魔法が第九位階でなかったとしたら、ユグドラシル開発チームの美意識を疑わざるを得ない。
 3.上記2点の考察から、ナーベラルが現時点で使用しうる最強の攻撃魔法は、電撃系ではない風属性の攻撃ということになる。(余談になるが、原作でレベルアップする初のNPCになって第九位階の雷撃魔法を放ってくれることを作者は超期待している)
 故に、考えられる攻撃としては、真空波、竜巻、かまいたちなどが挙げられる。
 ここまでは結構真面目な考察です。
 ……神○嵐については、そこまで考えた後に、ヤリタクナッタダケーです( ´∀`)


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