ナーベがんばる!   作:こりぶりん

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 クレマンティーヌ
 原作ではガチのキチガイで度し難い悪役なのだが……アニメ化で獲得したコアな人気という名の翼を持って、ニグン=サンが捕らわれた触より酷い逃れられない死の運命からあっさり飛び立って見せたマルチ芸人。
 性根をたたき直されて改心したり、修行して強くなったり、金的でお手軽にレベルアップしたり、ヒロインになったり、若返って性奴隷になったり、猫耳生やして萌え路線を追求したり、別の人生を追体験する力を持った主人公になったりとその人生は波瀾万丈であり、運命の分岐本数はオーバーロード二次界隈で間違いなくトップ。今も新規路線の開拓に余念がないと思われる。
 ……ただしこのSSでの扱いは極めてシンプル。

 前回のあらすじ:
アインザック「おかしいだろ!?異世界転移テンプレだというならチンピラをもっと綺麗にあしらって、周囲の賞賛の視線が集まる中私が実力を見込んでミスリル辺りに推薦しようかと言ったら相手の方が目立ちたくないから今は遠慮しとくとかそういう……!!」
ガゼフ「まあまあ胃薬どうぞ^^」



第十八話:クレマンティーヌとカジット

 最初に反応したのはナーベラルだった。

 ンフィーレアの襟首をひっつかみ、猫の子のように軽々と後ろに投げつける。ぐぇっと悲鳴を上げながら飛んできたンフィーレアを、ペテルが慌てて抱き留めた。

 

「が、ガンマさん?」

 

「逃げろ!さっさと!!」

 

 そのまま抜刀して構えるナーベラルを見て、クレマンティーヌは笑みを深くする。

 

「んー、いい反応じゃん(カッパー)にしては。顔もめっちゃ好み。すっげえ壊したくなっちゃう。手足もいで(はらわた)引きずり出して口に詰め込んだらその綺麗な顔にどんな絶望が広がるのかおねーさん見てみたいなー」

 

 そう言いながらスティレットを取り出すクレマンティーヌを目にし、ようやく事態を把握した漆黒の剣の面々も慌てて武器を構える。

 

「邪魔よ!足手まといを連れて失せろ!」

 

 だがナーベラルが一喝すると、漆黒の剣の面子は緊張した視線を交わし合った。狭い屋内ということもあり、数が必ずしも有利になるとは限らない。そして三人の非戦闘員という弱点を抱えてはハンデになる。つまり、ここは従うが上策との判断で、ペテル達はンフィーレア達を囲んで外に向かう。わりとどうでもいいが、「漆黒の剣」自体が足手まといだと言わなかったあたり、ナーベラルも少しは丸くなっているのかもしれない。

 

「んん、変なの?(シルバー)(カッパー)に従ってるよ」

 

 クレマンティーヌは怪訝そうな顔をしたが、すぐににんまりと笑った。

 

「でもねえ……ざーんねんでしたー」

 

 ペテル達が向かった先の扉から、病的に白くミイラのように細い魔法詠唱者(マジック・キャスター)が姿を見せる。

 カジット・デイル・バダンテール。秘密結社ズーラーノーンの幹部「十二高弟」の一人である。ンフィーレアの異能(タレント)に目をつけて、それを悪用すべく攫いに来たのであった。

 

「……遊ぶのは程ほどにしろ。獲物を捕らえて次の段階に移行せねばならん」

 

 ナーベラルは舌打ちすると、立て続けに魔法を起動する。<鎧強化>(リーン・フォースアーマー)<盾壁>(シールドウォール)<打撃力強化>(ストライキング)<韋駄天>(ヘイスト)、……それを目にしたクレマンティーヌは、腹を抱えて笑い出した。

 

「きゃはっ、何それ何それ!?剣持って自分に強化魔法とか、魔法剣士ってやつのつもり!?駄目だ、笑い死ぬ!今年一番のジョークだわぁくひひひひ!!」

 

 それを目にしたカジットがため息をつく。クレマンティーヌのムラっ気は今に始まったことではない。かくなる上は自分が手早く目の前で立ちすくんでいる雑魚を処理し、対象を確保するしかないだろう。

 クレマンティーヌが笑うのにもそれなりの道理がある。普通、戦士が強化魔法をかけようと思うなら仲間に頼む。強化魔法を習得するくらいならその分も戦士としての修練を積み、能力強化系の武技を習得する方が余程お得だ。

 だがまあ。勿論魔法剣士なんてものになった覚えのないナーベラルにはその嘲笑は響かない。勝手に決めつけて勝手に笑って、滑稽なことである。

 

「<疾風走破><超回避><能力向上>……これで強化魔法で詰めた差分くらいはまた開いたよぉ?ねぇどんな気持ち……おおっと」

 

 戯れ言を無視してナーベラルが切り込むと、クレマンティーヌは真面目な顔に戻って応戦する。あるいは受けて、あるいは躱す。クレマンティーヌがニヤニヤ笑う。

 

「おおっ?意外、剣捌きはまだまだ素人だけど、(カッパー)とは思えない身体能力だねぇ。ま、私には及ばんけどさあ。残念だねえ、魔法の分も修行してれば、私の領域まで近づけたかもよ?」

 

 クレマンティーヌが反撃する。繰り出される鋭い突きの数々を、剣で逸らし、避ける。避けきれなかった一撃が魔法の鎧に止められる。二撃、三撃……ナーベラルの体から血が噴き出す。かすり傷だ、今のところは。ナーベラルの技術というよりは、相手が手を抜いている――遊んでいるのが感じられる。

 現状は芳しくない。狭いし、近い。何重もの意味で攻撃魔法の行使が躊躇われる。かといって純粋な剣技では、ナーベラルの技量は相手に及ばない。格下とは言っても、クレマンティーヌのレベルはナーベラルの三分の一よりは強い位置に達している。これまで見た中で言うと、王国戦士長に匹敵するだろう。つまり、近接戦闘の技量は遠く及ばず、身体能力でも下回るナーベラルには本来接近戦での勝ち目はないということだ。現状余裕ぶって遊んでいるが、そうこうしてるうちにも漆黒の剣の面々が現在進行形で蹴散らされつつある。時間がない。

 

<ハムスケ!まだ!?>

 

「お待たせでござる姫!!ハムスケ、推参!!!」

 

 その時、<伝言>(メッセージ)で呼びつけたハムスケが、ナーベラルの指示に従い、表に通じるドアを周りの壁ごとぶち抜いて突っ込んできた。

 

「なっ……」

 

 突然の乱入に虚を突かれたカジットが、背後から吹っ飛んできたドアを躱すこともできず押し潰される。実際に潰れはしないだろうが、それは明確な隙だ。といっても、ナーベラルが以心伝心なのはハムスケだけ、漆黒の剣側も驚愕するし、既に負わされた怪我でとっさに反応できない。身を寄せ合って震えている一般人三名は尚更である。

 だからナーベラルは魔法を行使する。

 

「……!させっか、よ!!」

 

 クレマンティーヌは甘くない。ナーベラルが魔法を行使する気配に素早く反応すると、余裕の態度をかなぐり捨てて必殺の突きを繰り出す。カジットがピンチであると見て、遊び心を放り出したのだ。これは勿論麗しい友情などではなく、今ここで、儀式の完成前にカジットが害されるのはクレマンティーヌとて困るのである。カジットには盛大な花火を上げて貰って、せいぜい目くらましになって貰わねばならないのだ。

 それに対するナーベラル、とっさに空いた左手でクレマンティーヌの突きを受け止めた。細身のスティレットが手のひらを貫通する。上がる血しぶきに顔色も変えず、刺さったスティレットを握り込むと、右手の剣を投げ捨てるや空いた右手を後方――()()()()()突きつける。

 

<魔法最強化(マキシマイズマジック)()空圧波>(エアロ・バースト)

 

「「「うおあああああああ!?」」」

 

 叩きつけられた空気圧の塊が爆裂し、室内に突風を巻き起こす。局地的に巻き起こった暴風が、棚に並べられた薬草の箱・壺・瓶といった貯蔵品をなぎ倒し、カジットに倒れ込んだドアの残骸を押さえつけ、そして漆黒の剣の面々とンフィーレア達を文字通り吹き飛ばし、あるいは転がして、家の外まで押し出した。屋内にこだました皆の悲鳴が、屋外に遠ざかっていく。

 直接当てないように一応気を遣ったとは言え、味方に攻撃魔法をぶちかますという大胆極まる策で、足手まといを敵から引きはがすことに成功した。別に味方に被害が出てもいいじゃないと思ったからかどうかは、ナーベラル本人の胸の裡にしまいこまれた。

 

「ハムスケ!」

 

「合点!!」

 

 それと同時に、四肢を踏ん張って突風に耐えるハムスケの尻尾が鋭く伸び、クレマンティーヌはとっさの判断でナーベラルに刺さったスティレットを手放して飛び下がった。スティレットに封じられた魔法による追撃も、スティレット自体の確保も潔く諦めての判断は、流石に歴戦の戦士である。

 

「なんだこいつは……!!」

 

 敵の援軍として現れた屈強な魔獣を生半可な敵ではないと判断し、クレマンティーヌは遊び心を完全に投げ捨てる。ナーベラルが投げ捨てた剣を素早く拾い、もう一本のスティレットと併せて大小二刀流の構えを取る。

 

「へぇ、特に魔法とかはかかってなさそうだけど、中々の……いや、凄え業物じゃん?どこで手に入れたのさこんなもん」

 

「ハムスケ、牽制!!」

 

「お任せあれでござる!」

 

 しかしこの時既にナーベラルの眼中にクレマンティーヌの姿はない。時間稼ぎを任されたハムスケは、(棚がなぎ倒されて多少は広くなったとは言え)狭い屋内で器用に尻尾で攻撃し、クレマンティーヌを後退させる。その間に、ナーベラルは<次元の移動>(ディメンジョナル・ムーブ)で、ようやくドアを押しのけて体勢を整えたカジットの背後に現れた。

 

「しまっ……!!カジッちゃん後ろ!!」

 

 クレマンティーヌの絶叫にカジットが身をよじると同時、ナーベラルは左手から引き抜いたスティレットをカジットの胸に突き立てた。

 

「が……」

 

 大層な背景も、悲惨な過去も、遠大な大望も知られることなく。

 こうしてカジット・デイル・バダンデールは漆黒の剣(銀プレート)に多少の怪我を負わせたことだけを戦果に、呆気なく死んだ。

 

「くそ、てめぇこの……!!」

 

 クレマンティーヌの口から罵声が漏れる。目的を果たすことなくカジットが死んだ瞬間、彼女の計画はおしゃかになったのだ。カジットがエ・ランテルを死の都市に変え、その混乱で追っ手を撒く。彼女の目算などその程度の、大雑把な代わりにいくらでも融通が利く筈のものであったのに。

 

「第三位階……!!魔法剣士気取りの馬鹿、じゃない……!!」

 

 馬鹿は私の方か、と呻くクレマンティーヌ。目の前の女は一流半の戦士などではない。一流の魔法詠唱者(マジック・キャスター)だ。魔法詠唱者(マジック・キャスター)は間合いを詰められると弱い。クレマンティーヌ流に言えば「スッと行ってドス」で終わりだ、先程のカジットのように。故に一流の魔法詠唱者(マジック・キャスター)は、当然接近されたときの対策を持っている。大概は<飛行>(フライ)<次元の移動>(ディメンジョナル・ムーブ)でとにかく距離を取る、といった手順のパターン化だが……

 戦士としてみれば一流に届かぬ雑魚。そう思った人物の剣技が、実は魔法詠唱者(マジック・キャスター)の護身術に過ぎなかったとしたら、その人物の魔法の腕はどれほどのものなのか。クレマンティーヌの背筋を悪寒が駆け抜け、恥も外聞も後先も捨てて一目散に逃げるべきだ、との直感が浮かぶ。

 だが既に手遅れだ。距離は離れ、前衛(ハムスケ)を挟み、足手まといは逃がした。ナーベラルは後三手で決めるとの目算を立てる。

 

<二重最強化(ツインマキシマイズマジック)()魔法の矢>(マジック・アロー)

 

「ちょ、おま」

 

 次の瞬間ナーベラルの頭上に浮かび上がった十二発の光弾を目にし、クレマンティーヌが口を大きく開いて愕然とする。

 

(<流水加速>!いや、くそ、この魔法は……!!)

 

 反射的に武技で加速し、回避性能を向上させたクレマンティーヌであったが、<魔法の矢>(マジック・アロー)で生み出された光球は、物理的手段では防御も回避も不可能な必中攻撃である。

 その分一発あたりの威力は軽く、クレマンティーヌ程の手練れであれば耐えることは容易い筈であった。しかし、片方毎に六発ずつ、両の足首に重ねるように着弾して炸裂した光弾は。反射的に回避行動をとりつつも、痛みに備えて歯を食いしばった彼女の覚悟を凌駕する激痛を与え、バランスを崩したクレマンティーヌはそのまま床面に転がった。

 苦悶に顔を歪めながらも、慌てて上体を起こしたクレマンティーヌが立ち上がるよりも早く、ナーベラルの追撃が彼女を襲う。

 

<範囲拡大化(ワイデンマジック)()電撃網>(ライトニング・バインド)

 

 ナーベラルの右手から放たれた光の網が、床に伏したクレマンティーヌの視界を埋め尽くす。その綱の一本一本が、電撃で構成された雷の網である。麻痺の追加効果には抵抗したものの、クレマンティーヌの体が反り返り、その顔が激痛に歪む。

 

「これでお終い……<二重最強化(ツインマキシマイズマジック)()龍雷>(ドラゴン・ライトニング)

 

 己に殺到する二頭の雷の龍を目にし、網に絡め取られて動くことも敵わぬクレマンティーヌが最期に浮かべたのは絶望の表情であった。

 

 

 打ち身と擦り傷に悶絶しながらンフィーレアがどうにか立ち上がり、エンリとネムに手を貸して立ち上がらせたところ、その眩い輝きが宵闇を切り裂いて周囲を白く染め上げた。

 同じくボロボロになりながらも立ち上がったペテルの先導で、壊れた壁から家の中をおそるおそる覗き込んだ一同は。

 

(やっべ、これやりすぎたかもしれん)

 

 足下に襲撃者の死体を転がして。いつもの仏頂面ながらもどこか焦りを感じさせるナーベラルが、(主にナーベラルの魔法で)惨憺たる有様になった倉庫内をおろおろと見回しているのを目撃することになった。

 

 

 




 ・倉庫の壁とドア……全面補修
 ・貯蔵品の薬草……拾い集めれば半分以上無事
 ・棚と梱包材……買い直し
 ・ンフィーレアの命……プライスレス( ´∀`)

12/25
魔法の矢って回避不可能じゃね、
という指摘を頂いた気がしたので戦闘内容を少々修正。
1/3
脱字修正。


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