ナーベがんばる!   作:こりぶりん

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 お待たせ致しました。第四部です。
 最低ラインは越えたのでたぶん大丈夫だとは思うけど……万一変なところで止まったらスミマセン( ´∀`)
 
これまでのあらすじ:

エントリーNo.1 王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ
 この世界で初めてナーベラルに唾をつけた信義と忠義の男。
 王国最強の実力と戦士長の地位を引っ提げ、
 宮廷魔術師の座を持ってナーベラルに言い寄るも、すげなくあしらわれる。

エントリーNo.2 漆黒聖典第一席次
 神人の力に覚醒した人類最強に近い生物。
 番外席次にナーベラルの嫁取りをけしかけられるも、
 一貫して部下を使って遠くから見守るだけの由緒正しいストーカー。

エントリーNo.3 (シルバー)級レンジャー ルクルット・ボルブ
 単なる銀級冒険者チーム「漆黒の剣」の斥候。
 他の面子に比べて大分見劣りするが、
 どれほど冷たく突き放されてもめげない愛が取り柄の愚直な(ラブ)アタッカー。

エントリーNo.4 ”不死王”デイバーノック
 王国を闇から牛耳る裏組織『八本指』の実戦最強部隊『六腕』の一人だった(過去形)。
 エルダーリッチという本来ならナーベラルの好感度を最も稼ぎやすい種族であったが、
 ナザリック一温厚なセバスですら嫌悪で顔を顰める二つ名のために瞬ころされて故人。
 もともと死んでたけどな!

エントリーNo.5 ???←newcomer!

 なよ竹のナーベ姫から出された無理難題は、ナザリック地下大墳墓を探してこいというものただ一つ!はっきり言って叶えて貰ってから詐欺る気満々だ!ナーベ姫は執拗な求婚者のアプローチを躱して無事月の都(ナザリック)に帰還することができるのか?



第四部 アインズ・ウール・ゴウン
第三十四話:蒼の薔薇+1


 鬱蒼と茂る森の際に伸びる街道を六人の人間と一匹の獣が警戒しながら進んでいく。

 人間は全員女性。王国が誇るアダマンタイト級冒険者チーム『蒼の薔薇』の五人と、ナーベラルである。先頭にはガガーランとラキュースが立ち、その後ろにイビルアイとナーベラル。その左右をティアとティナが挟んで、殿をハムスケが務める隊形であった。

 

 彼女たちは現在アダマンタイト級の討伐依頼の遂行中である。事の起こりは、城塞都市エ・ランテル近郊で近隣のモンスターを間引いていた銀級冒険者チームが、住人の多くが石化して壊滅したゴブリンの集落を発見したことに始まる。街道周辺に生物を石化するモンスターが潜んでいる、その報は一目散にエ・ランテルに駆け込んで急を知らせた冒険者により組合にもたらされ、直ちにミスリル級冒険者チームによる偵察隊の編成と、王都の冒険者組合本部に対するアダマンタイト級の出動準備要請が発せられた。

 ミスリル級冒険者チーム『天狼』の偵察内容を分析した結果、想定されるモンスターはギガント・バジリスク。石化の魔眼と猛毒の体液を持ち、ミスリルに匹敵する硬度を持つ皮膚で覆われた恐るべき魔獣であった。冒険者組合による認定難度は83。熟練のオリハルコン級冒険者チームならかろうじて勝負になる程度の相手であり、アダマンタイト級の相手としても全く不足はない。もう一つのアダマンタイト級冒険者チーム『朱の雫』は別件で出払っており、『蒼の薔薇』に指名が入ることとなった。リーダーのラキュースは討伐対象を聞いて緊張に張り詰めた顔で頷き、いつものように半部外者のナーベラルに協力を要請した。

 

 ナーベラル……アダマンタイト級冒険者ガンマの立場は、現在微妙な位置にある。本人は『蒼の薔薇』に所属したつもりはないと言い張っているが、まあ現実的には彼女たちと組むしかない状況も多々あるわけで。よく知らない人間からはナーベラルが『蒼の薔薇』に加入したものと思われているし、逆によく知る人間からは『蒼の薔薇』に所属していない、という彼女の台詞自体が一種の照れ隠しであり、正式に加入するのも時間の問題だと思われていた。まあ、要するに、世間的には『蒼の薔薇』のメンバーが六人に増え、アダマンタイト級冒険者チームの実力は益々盤石になったと思われているのであった。

 ともあれいつもの如く参加を了承したナーベラルとペットのハムスケを加え、蒼の薔薇の一行は石化したゴブリンが見つかった集落跡に移動した。現場に残った痕跡から集落を襲った怪物は森の中に入っていったものと思われ、まずは街道の安全を確保するため近辺の状況を確認しようと街道に沿って移動中である。

 すると、殿を務めるハムスケがひくひくと鼻を鳴らして言った。

 

「姫、皆の衆……森の際に何か居るでござるよ」

 

 ハムスケの索敵能力は相変わらずの異常射程と看破性能を誇り、盗賊系職業として忍者姉妹が勝負を挑むも、「負けた、完敗」「強すぎ、ずるい」と完全にシャッポを脱ぐ程、人類とは実力差が開いている。故に、自身には何も感じられずとも、彼女の言葉をいちいち疑う者はこの場に居ない。その言葉を聞いた一同の顔に緊張が走り、ガガーランが握る刺突戦鎚(ウォーピック)の柄が僅かに持ち上がり、ラキュースが持つ魔剣キリネイラムを握る手に力がこもった。忍者姉妹もクナイを抜いて片手にぶら下げる。

 

「……見つけたわ。あそこ、木の幹に巻き付いている」

 

 そう言ってナーベラルが数十メートル先の木々をすっと指さす。前に立つ二人も横目にその指先を確認し、全員の視線がそこに集まった。

 ごくり。誰かが息を呑む音がした。

 そいつは、その長大な体躯を木の幹に巻き付けながら、静かにこちらを観察していた。巻き付いているために正確なところは測りづらいが、頭部の大きさからして全長は十メートルを超えるものと思われる。全身を覆う鱗は明るい緑から暗い緑と、金属めいた光沢を放ちつつも微かな身震いに合わせて色を変えていく。その胴体の長大さは蛇のそれだが、八本の足が生えた様は蜥蜴とも思わせる。頭部には王冠にも似たトサカを持ち、何よりも睨んだ相手を石化させると言われる邪悪な眼。

 それが、ギガント・バジリスク。その巨体を木々の間に同化させながら、ひっそりと街道の様子を静かに見つめるその様は、対峙した蒼の薔薇の面々に不気味な身震いをもたらした。

 

「――作戦通り行くわよ。<抵抗力強化>(メジャー・レジスタンス)

 

 ラキュースが、呪文を唱えてガガーランの肩に触れた。まずは魔眼殺し(ゲイズ・ベイン)の鎧を持ち、石化の視線を怖れる必要のない彼女がギガント・バジリスクの注意を引きつける。ただし猛毒の体液にも警戒が必要なため、抵抗力の強化は必須であった。

 

「おっしゃああああああああああああ!!」

 

 ガガーランが雄叫びを上げて駆け出すと、ギガント・バジリスクのカメレオンじみた目玉がぎょろりとそちらを向いた。魔眼を無効化できるのは彼女だけのため、他のメンバーから注意を逸らすためには突出せざるを得ない。だがそれは彼女の孤立も意味する。

 石化の視線を封じたところで、ミスリルの鎧にすら匹敵する固く分厚い皮膚を持ち、いざ傷つければ噴き出す返り血が即死級の猛毒をもつギガント・バジリスクは、接近戦を挑むには危険すぎる相手である。石化の視線を怖れてガガーランを孤立させれば、彼女の方が返り討ちに遭いかねない。

 だがそれも無用の心配であった。突進していくガガーランの後方から、二人の魔法詠唱者(マジック・キャスター)が前方に手をかざす。

 

「<砂の領域(サンドフィールド)()対個(ワン)>」

 

 イビルアイが唱えた行動阻害魔法により、ギガント・バジリスクの周囲を砂嵐が包み込む。アース・エレメンタリストである彼女の得意分野は土属性、砂を纏わり付かせて相手の行動を阻害する彼女特製のオリジナル魔法である。

 もっともこの場合重要なのは、行動阻害そのものよりも、相手の視界を塞ぐことである。これで石化の魔眼が誰かに振るわれる可能性は完全に排除された。

 

<魔法抵抗難度強化(ペネトレートマジック)()溺死>(ドラウンド)

 

 それに遅れること数秒、困惑の鳴き声を上げたギガント・バジリスクにナーベラルの魔法が襲いかかる。格上の術者に、ご丁寧にも抵抗難度を強化されて仕掛けられた魔法の抵抗に失敗したギガント・バジリスクの肺を水が満たす。

 砂嵐に塞がれて見えないながらも、魔獣の驚愕は明らかだった。悲鳴を上げようとするも肺を満たした水によってそれは叶わず、口からごぼりと水が溢れる。驚きと混乱の中のたうつ身体が木から解け、落下して地面に激突する。その巨大な身体がのたうちくねるが、そんなことには何の意味もなかった。抵抗に失敗すれば、手遅れになる前に術者を殺さない限り溺死あるのみの凶悪な魔法である。

 ギガント・バジリスクがその身体をぴんと伸ばし、やがて巨体から力と命が抜け落ちていくのを、蒼の薔薇の一同は戦慄を込めて見守った。

 

「……死んだようでござるな」

 

 ハムスケがそう言うのに合わせ、一同から緊張が抜ける。構えを解いてぞろぞろと未だ僅かな痙攣を続けるギガント・バジリスクの死体の前に集まった。

 

「あのギガント・バジリスクを一撃とは……本当にとんでもないわね、ガンマさんの魔法は。頼もしい限りだわ」

 

 ラキュースがそう言うと、一同は深く頷いた。ガガーランが肩を竦めて声を掛ける。

 

「お前一人でも片付いたんじゃねーかこの分じゃあ?俺たちは要らなかったな」

 

 卑下して見せた彼女をナーベラルはちらりと見ると、静かに首を横に振った。

 

「いや、抵抗(レジスト)する自信はあったとは言え……絶対はないわ。ギガント・バジリスクの初手を引きつけて貰えたことと、石化を回復できる信仰系魔法詠唱者(マジック・キャスター)が居てくれたことは助かった」

 

「そーかよ。お前さんが世辞や慰めを言うような奴じゃねーと知らなきゃ謙遜も度が過ぎると思うところだがな……ありがたく受け取っとくわその評価も」

 

 慰めめいたナーベラルの言葉を聞いてガガーランが苦笑する。

 

「……イビルアイの魔法も中々のものだった。あの調子で魔眼を封じていれば、私抜きで戦っても倒せたんじゃないかしら。見たことのない魔法だったけど……」

 

 ナーベラルがそのように水を向けると、イビルアイが心持ち胸を反らしていった。

 

「ふふ、驚いたか?あれは私のオリジナルなんだ」

 

「へえ……」

 

 ナーベラルの声に確かな感心が含まれたのを感じ、イビルアイの胸がそっくり返る。

 

「おいおい、幾ら反らしたって、ない胸があるようには見えねーぜ?」

 

「……!!ふざけるな、この大胸筋女!貧乳はステータスだ、希少価値なんだよ!大体知ってるんだぞ!お前だってアンダーがでかすぎるせいでカップは大したことないだろうが!!」

 

 茶化すガガーランに激怒して、意味不明の反論を叫ぶイビルアイ。蒼の薔薇の面々に笑いが広がる。

 

「ガガーランはいい、盾職の役目を果たした」

「ボスもいい、万一の回復役として控えてた」

「索敵はハムスケにとられて」「私たち何もしてない……」

 

 笑いが収まると、忍者姉妹がそのように落ち込んでみせる。それはたぶんにおどけた調子であったが、その中に隠れた微妙に深刻な気持ちを感じ取ってラキュースが真面目な顔になる。

 

「私たちだって実質何もしてないようなものだから、二人だけで落ち込むことはないわよ?……困ったわね、イビルアイとガンマさんのおかげで、随分なまっちゃいそうだわ私たち」

 

 お守りをするのはご免だ、そのように言ったのはナーベラルの方であったが。あるいは自分たちの方こそが、己の意地にかけて足手まといはご免だ、そのように思うべきであったのかも知れぬ。

 

「ま、とにかく、証明部位を回収して帰りましょうか。ギガント・バジリスクの討伐証明部位は眼球だったわよね」

 

 気を取り直し、そう言って剥ぎ取りナイフを取り出したラキュースに、ハムスケが口を挟む。

 

「ふむ、その目玉も確かに禍々しくて迫力十分でござるが……どうせならカブトごと持ち帰るでござるよ。その方が姫の武功をよく証明できるでござる。身体全体は流石に重いでござるが、首だけならそれがしにとっては余裕で運べるでござる故」

 

「そう?確かに頭ごとの方が色々と都合はよさそうね。……じゃあ、お願いしようかしら」

 

 ラキュースが頷くと、ハムスケがその鋭い爪でギガント・バジリスクの首を切断しようとしたので、呆れたナーベラルが止めた。

 

「馬鹿ね、そいつの体液は猛毒なんだから爪で切り裂くのは止めておきなさい」

 

 そう言って風の刃で魔獣の首を切り落とす。溢れる猛毒の体液に顔を顰めながら血が抜けるのを待ち、布に包んでハムスケが口に咥えた。

 

「じゃあ、エ・ランテルに帰還しましょう」

 

 

「いやあー、ギガント・バジリスクの頭部をこんなに完全な形で持ち帰るとは驚きです!おかげで初めてギガント・バジリスクがどんな怪物かわかりましたよ。さすがは私のライバルです!」

 

 エ・ランテルに帰還して組合に報告すると、ギガント・バジリスクの頭部を差し出された受付嬢はそう言って感心した。

 石化の凝視を防ぐなら、まずその魔眼に集中攻撃して潰すのは攻略上の常道である。そういう意味で言えば、まっさきに潰されるその眼球を討伐証明部位に指定する組合は意地が悪い。勿論、組合としてもその目玉こそがギガント・バジリスクが危険視される原因なのだから、その魔眼を潰したことを証明して欲しいと思うのは当然だとの言い分はあるのだが。

 

「うむ、王都でも相変わらずの活躍のようだね、感心なことだ」

 

 なぜか胃の辺りを撫でながら、重々しく頷いてみせる組合長のアインザック。できれば会いたくなかったと顔に書いてあるが、難度83の凶悪なモンスターを討伐して貰っておいて顔も出さない、そういうわけには行かないのだ組合長としては。

 そんな様子を見ながら、エ・ランテルでの評判が悪名先行なのはやっぱりそれだけのことをしでかしたんだろうなあ、と密かに得心する蒼の薔薇の一同であった。

 

 ともあれ、感心する受付嬢と組合長の指示によって、ギガント・バジリスクの頭部は冒険者組合の前に高々と掲げられた。この采配には、『蒼の薔薇』の功績を称える目的と、組合としての功績を周囲に喧伝する目的、そして周辺住民にこの通り、危険な魔物は討ち取りましたよと証明して安心させる目的がある。せっかく頭部ごと持ち帰ってくれたのだから有効活用しなくては、とイシュペン嬢は宣った。

 

 組合前に掲げられたおどろおどろしいギガント・バジリスクの生首に、たちまちのうちに人だかりが遠巻きにできる。なんとも恐ろしげな魔獣だと戦慄するざわめきと、それを仕留めてきた蒼の薔薇を称賛する囁き声が周囲を走る。

 

「ガンマさん、お久しぶりですね。あなたが仕留めてくださったんですか!」

 

 すると、人混みの中からそのような声がかかり、ナーベラルがはたと振り向いた。視界に飛び込んできたのは銀のプレートを下げた軽装の戦士である。

 

「あー、あー……久しぶりね。えーと……」

 

「姫、ペテル殿でござる。漆黒の剣の」

 

 ハムスケが耳打ちして、「そう、それ、ペテル」と手を打つナーベラルを、銀級冒険者チーム「漆黒の剣」のリーダー、ペテルは苦笑して眺めた。石化したゴブリンの集落を発見したのは彼らなのであった。

 

「あっという間にアダマンタイトですからね、登録前にたまたま関わっただけの銀級冒険者なんて覚えて無くても無理はないですよ」

 

 ペテルが自虐的にそういうのに構わず。ナーベラルはきょろきょろと周囲を見回した。

 

「……あのチャラいのも居るの?」

 

「いるぜ、ガンマちゃーん!」

 

 ペテルが答えるより早く、ナーベラルの背後から抱きつこうとして飛びついてきたルクルットをさっと躱す。ルクルットが笑顔を崩さずに言った。

 

「ああん、相変わらずつれねーなあガンマちゃん!」

 

「ルクルット、女性にいきなり抱きつくのはちょっと失礼では済みませんよ……!」

 

「というかアダマンタイト級冒険者にそんな真似ができる度胸に驚くのである」

 

「あら、あなた達」

 

「お久しぶりでござる、ルクルット殿、ニニャ殿、ダイン殿!息災そうでなによりでござる!」

 

 ハムスケが機先を制してさっさと名前を呼ぶ。どうせナーベラルに聞かれるだろうと予想しての処置であった。ナーベラルが心中ああ、そんな名前だったっけと頷く中、漆黒の剣の面々とハムスケが旧交を温め始める。

 

「ガンマさんのお知り合いかしら?」

 

 そこに興味津々のラキュースが飛び込んできて、漆黒の剣の面々は眩しそうに眼を細め、背筋を伸ばして居住まいを正した。目の前にいる六人と一匹こそは、王国冒険者の頂点に立つアダマンタイト級冒険者のうち、女性陣が勢揃いした姿なのだから。ついでに言えば、リーダーのラキュースが持つ大剣こそは、彼らがいつか手にすることを夢見た「漆黒の剣」の現物なのである。憧れの視線が向くのも自然と言えよう。

 

「はい、ガンマさんとは大森林近くの開拓村、カルネ村に行ったときに知り合いまして……」

 

 緊張でガチガチになったペテルが開陳するナーベラルとの出会いの話を、興味津々でかぶりつく蒼の薔薇の一同。話しかけてくるルクルットの浮ついた台詞を聞き流しながら、ナーベラルはその様子を横目で見た。

 

「あなたは気にならないの?蒼の薔薇の面々も、結構な美人揃いだと思うけど……」

 

「ん?勿論彼女たちも美人揃いさ!あの魔法詠唱者(マジック・キャスター)の子だって、仮面の下はカワイコちゃんに違いない!でも今の俺はガンマちゃん一筋だから!」

 

「……聞いた私が馬鹿だったわ」

 

 むしろ話しかけてしまったことを後悔しつつ、ナーベラルはルクルットとの会話を打ち切った。漆黒の剣の面々にまあ適当に頑張りなさいと声をかけ、手を振って別れようとしたところ、ニニャに呼び止められる。

 

「あの、ガンマさん……ずっとお礼を言いたかったんです、本当にありがとうございました」

 

「……?」

 

 首を傾げるナーベラルに、ニニャは説明した。ナーベラルが王都で助けた娼婦の中に、ニニャが幼い頃貴族に連れ去られ、ずっと行方を捜していた姉が居たのだと。現在はニニャが引き取って、エ・ランテルで療養中だという。

 ずきん。

 ニニャの言葉に、ナーベラルの胸が軋みをあげた。目を閉じればすぐにでも思い浮かべられる、姉達と妹達の顔。

 

「まだ他人に会うことも怖がるような状況ですが……生きて再会できたのはあなたのおかげです、本当に……ありが……」

 

 感極まって涙を流すニニャ、貰い泣きをする漆黒の剣とハムスケ、それに蒼の薔薇の一部の面々。ナーベラルは曖昧に相槌をうって、今度こそ別れを告げた。逃げるように。

 

「さて……せっかくエ・ランテルまで来たことだし、私は知り合いの家に寄っていくわ。泊まっていくからここで臨時パーティーは解散ということでよろしく」

 

 ニニャの話を聞いたからか、人恋しい気持ちがむくむくと湧き起こってくる。気づけばナーベラルはそんな台詞を口に出していた。

 

「へえ……私たちもご一緒しては駄目ですか?」

 

 ラキュースの反応を予測していたのか、ナーベラルは即座に首を横に振る。

 

「駄目よ。流石に人数が多すぎるし……貴族のご令嬢が泊まるなんて言ったら家主が引っ繰り返っちゃうわ」

 

 まあ、正直に言うとそろそろ鬱陶しかったので口実に使っただけではある。ナーベラルは名残惜しそうに手を振るラキュース達と別れると、バレアレ家に足を運んだ。

 

 

「いらっしゃいませ……あっ、ガンマ様!!お帰りなさい!!」

 

 とりあえず店の入り口から中に入ると、元気良く挨拶してきたネムが顔を輝かせた。その声につられて顔を上げたエンリがにっこりと微笑む。

 

「まあ、ガンマ様……お久しぶりです!そしてアダマンタイト級への昇格、おめでとうございます」

 

「……久しぶりね」

 

 ナーベラルはそう言って、飛びついてきたネムの頭を撫でた。彼女の身体を離すまいとするかのようにぎゅっと抱きしめながらネムが叫ぶ。

 

「ね、ね、今日は泊まっていってくれるんでしょ!?」

 

「……まあ、一応泊めてくれるならそうするつもりだったけど」

 

「ガンマ様に対して閉じる門はうちにはありません。遠慮無くどうぞ」

 

「やったぁ!お話聞かせてね!」

 

 ナーベラルの言葉にエンリが即座に反応し、ネムがはしゃいで飛び上がる。その後ンフィーレアやリイジーとも挨拶し、ギガント・バジリスクの生首を見物にいって興奮したネムを宥めたり、ハムスケの上にのってはしゃぐネムを宥めたり、夕食時にこれは私が作ったの、味はどうかなとそわそわするネムを宥めたり、お風呂にも寝床にも当然のようについてくるネムを宥めたりしてその日は床についた。

 

 

 




 気がつけば章開始時はネムのターン。

 そういや軽い気持ちで原作再現してしまった<溺死>(ドラウンド)だけど、このSSでのルール的に周囲に見せていい札だったのだろうか……原作では特に隠す必要ない状況だったからなあ。
 えーと、抵抗失敗から即死しない時点で<死>(デス)よりだいぶ格落ちする魔法だよな。<死>(デス)が八位階だから、二枚落ちさせても六位階くらいと推定される……のか?ま、まあ、奥の手をちょっとくらい見せてもいいというくらいには打ち解けてきた状況だと思ってくだしあ( ´∀`)

1/25 表現の微修正。


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