ナーベがんばる!   作:こりぶりん

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第三十七話:法国から来た男

「嘘……だろ……?」

 

 王国に放っている諜報員から上がってきた「王都の怪人」の報告を受け、ジルクニフはたっぷり十秒間の沈黙の後、ようやっとそれだけを口にした。

 よろめきながら玉座に深く沈み込むようにへたりこみ、頭を抱える。

 フールーダ・パラダインの王都潜入は、およそ最悪の形で結実した。本人は今も尚消息不明で、王国王都近辺に潜伏中ではないかと推測される。

 

 じいを止められなかった時からこうなってもおかしくはなかったが……ジルクニフは信じていたのだ。彼が生まれた時からおそらくは死んだ後まで、変わらず枯れ木のような老人でありつづけた帝国の守護者、フールーダ・パラダインは……いくらなんでもこっそりと行って人知れず会って、ひっそりと帰還するくらいの分別はあるだろうと。

 ジルクニフは見誤った。フールーダ・パラダインの魔導に対する執念の重さ、深さ、覚悟の量を軽く見ていたのだ。頭では十分認識していたつもりだったが、実感はなかった。その結果がおよそ考えられる限り最低の馬鹿馬鹿しい事態となって現れている。

 

「……ただちに検討を始めよ。まずは王国から詰問された時に全面的に認めた場合、どのような対応を強いられることになるか。謝罪か賠償か、あるいは開き直ったらどうか」

 

 とりあえず、どんなに馬鹿馬鹿しくても起こったことには対応が必要だ。ジルクニフは秘書官達に思いつくままに指示を与える。

 

「もしくは……そうだな、例のガンマが近年突如として出現したように、『王都の怪人』もまたフールーダ・パラダインとは関係のない在野の人物であると誤魔化すことは可能か。……実現性およびその工作にかかる費用」

 

 目撃情報によると、顔だけは隠していたらしい。どれだけバレバレでも、そうであれば誤魔化すことは可能かも知れない。

 

「あるいは……あのクソジジイを切り捨ててウチとは関係ありません、とする場合に帝国が被る被害の算定。ま、これは計算するまでもなく非現実的な大損害を受けるだろうがな……」

 

 そこまで分かっていてこの台詞をジルクニフに言わせたのは、フールーダに対する怒りである。フールーダがくしゃみをすれば帝国が風邪を引く、あの老人の国家における重要性はかくのごとしであるが、どうにかお灸くらいは据えてやりたいものである。

 と、その時。内心煩悶とするジルクニフに、秘書官の一人がぽつりと言った。

 

「……そもそも、そのように後ろ向きな対応が必要なのでしょうか」

 

「ん?……どういうことだ、どんな与太話でも構わんから言ってみるが良い」

 

「はい。……フールーダ様が友好国で暴れられたのであれば、それはもう賠償が必要となるでしょうが、王国とは目下戦争中な訳で。あのフールーダ・パラダインが、とうとう自ら重い腰を上げて王国での破壊工作に乗り出した、という形にできれば、王国には威嚇になるだろうし、国内に対する格好もつくのではないかと思ったのですが……」

 

 秘書官の説明を聞くと、ジルクニフは顎に手を当てて考え込んだ。

 

「ふむ……傾聴に値する意見だ。参考にさせて貰うとしようか」

 

 鮮血帝の憂鬱は止まらない。

 

 

 一方、ナーベラルである。

 <転移>(テレポーテーション)でフールーダの前から逃げ出した後、とりあえずはハムスケと合流、その背中にしがみついたままひたすら南東へと急かした。ハムスケが疲労で音を上げると、<飛行>(フライ)を唱え、背中に担いで飛行した。そうして休む間もない強行軍を重ね、城塞都市エ・ランテルまで逃げ込んだのである。

 

 その首にぶら下がったアダマンタイトのプレートの威光を十全に振るって堂々と入門待機列に割り込み、バレアレ治癒薬店に直行すると、急な来訪に驚く家人にしばらく泊めてくれとだけ頼む。

 戸惑いながらもエンリが発したとりあえずの了承を聞くや聞かぬのうちに、飛びついてきたネムをひっつかんで、現在の彼女が一番安心できる体勢を整えて引きこもった。すなわち、背中をハムスケの毛皮に預け、腕の中にネムを抱きかかえた陣形である。

 バレアレ家の若夫婦は戸惑いのうちに互いの顔を見合わせたが、ナーベラルの挙動の節々から、彼女が人間大の何かを怖れているのを見てとると内心困惑した。あのナーベラルを怖れさせるとか、世界を滅ぼせる化け物でも現れたのだろうか。

 その疑問はネムが解決してくれた。ナーベラルの様子とハムスケの言葉から、どうも変態に襲われて精神的外傷(トラウマ)を負ったらしいと推論を立ててみせたのである。エンリとンフィーレアは彼女も女の子だったのだなあと大いに同情し、彼女の心の傷が癒えるまでそっと労ってあげようとの決意を新たにしたのであった。

 

 だがナーベラルは落ち込んでいた。

 色々抜けた面はあれど、基本的には生真面目な彼女は、自分が追い詰められた時に至高の御方に助けを求めてしまったことに自己嫌悪を覚えていたのである。己の命をかけてお守りすべき至高の御方に、逆に助けを求めるとは何事だ、そのようなことでナザリック地下大墳墓のシモベたる資格があるか……

 本人が聞けば咄嗟に出た叫びにそこまで意味を求めなくてもと一笑に付したであるだろうが、当然その言葉を発する本人の姿はなく。それでも鬱々としながら引きこもり生活を数日続ければ、それなりに気持ちに折り合いはついてくるものである。そろそろイビルアイからの<伝言>(メッセージ)に居留守を使うのはやめようかしらんなどと思いながらごろごろしていた時、エンリが来客を告げた。

 

「……あの、ガンマ様。ガンマ様を訪ねて来た方がいらっしゃるのですが、お会いになります?」

 

 客、とナーベラルは首を傾げた。

 

「……変なジジイじゃないでしょうね?」

 

 この状況下で最も気になることを半眼で問いかけると、エンリは首を横に振った。

 

「いえ、若い男の人です。ガンマ様にお会いしたことはないと言ってます。……とてもハンサムな方ですよ?」

 

「……」

 

 別に最後の言葉に釣られたわけではないが、まあとにかく会ってみることにする。彼女がのそのそと居間に這い出て、窓際のテーブルに腰掛けると、エンリが若い男を案内してきた。

 軽装だが武装した長髪の若者で、確かに美男子であった。唯一の武装である長剣を鞘ごとエンリに預けると、敵意のないことを示すように両手を広げてみせる。暗器の類を持っている可能性がないわけではないが、まあ大体丸腰になったのは確かなようであった。若者はエンリに外してくれるようお願いすると、ナーベラルに一礼して向かいの席に腰を下ろした。

 

「……初めまして、ガンマ殿。私はスレイン法国の特務部隊、漆黒聖典の隊長を務めている者です」

 

 スレイン法国。行ったことがないが、その国の人間とは一度関わったことがある。なんちゃら聖典という名称にもなんだか聞き覚えがある。ナーベラルは内心警戒を強めた。

 

「……その漆黒聖典さんが、何の用かしら」

 

「……そう警戒しなくても結構ですよ、敵対したいわけではありませんので。本日はとりあえず、お願いがあって来たのです」

 

 若者は害意が無いことを重ねて強調し、ナーベラルに頼んだ。貴女がお持ちの、叡者の額冠を返していただきたいと。ナーベラルはその言葉に首を傾げたが、形状についての説明を受け、ああと納得した表情で収納(インベントリ)に手を突っ込んだ。

 

「これのこと?」

 

「はい、まさしく。そのサークレットは元々我が国秘蔵のマジックアイテムなのですが、馬鹿な裏切り者によって奪われ持ち去られていたのです。行方を追っていましたところ、貴女がお持ちであることが判明しましたので。貴女がそれを手に入れた経緯は分かりませんが、我々に返して……いえ、お譲りいただけないでしょうか。無論、正当な対価は支払わせていただきます」

 

 ナーベラルが取り出した金属糸のサークレットを目にし、若者はそう言った。ナーベラルはふむと頷くと、ハムスケを呼ぶ。

 

「なんでござるか、姫?」

 

 ハムスケが窓の外から顔を突っ込んで部屋を覗き込むと、若者は軽く仰け反った。ナーベラルがエ・ランテルに着いた日襲ってきた女……クレマンティーヌの人相を(彼女自身はろくに覚えていなかったので)ハムスケに説明させると、若者は感じ入ったように頷いてみせた。

 

「まさしく、その女こそは私共の仲間を殺害してマジックアイテムを奪い取り逃げ出した裏切り者、クレマンティーヌに相違ないでしょう。そうですか、貴女を襲って返り討ちに……馬鹿者に相応しい末路です。それで、いかがでしょう、譲っていただけますか?」

 

 ナーベラルは頷いた。どうせ死蔵していた戦利品に過ぎないのだ、欲しいというのなら譲ること自体は構わない。

 

「おお、ありがとうございます。それで対価ですが……」

 

「対価については、条件があるわ。金銭は結構よ、代わりに調べて貰いたいことがあるの」

 

 ナーベラルが求めた対価は無論、ナザリック地下大墳墓およびアインズ・ウール・ゴウンについて。スレイン法国が持てる力全てを尽くして調査した結果を教えることである。その条件を聞いた若者は頷くと、やや躊躇った後に口を開いた。

 

「……もしかして、貴女は”ぷれいやー”なのでしょうか?」

 

「ぷれいやー?」

 

 ナーベラルが聞き返すと、隊長は首を振った。

 

「いえ、なんでもありません、気にしないでください。では取り急ぎご依頼の件について調べて参ります。ご期待に添えるかは分かりませんが……」

 

「何も見つからなかった場合には、別途交渉に応じなくもないけど。まずはちゃんと調べてきなさいよ」

 

「……畏まりました、感謝致します。それではこれにて」

 

 若者が一礼して退出すると、ナーベラルは首を傾げた。”ぷれいやー”……それは確か、至高の御方々がご自身のことを指してそう呼んでいたのではなかったか。もう少し突っ込んで聞いた方が良かったかも知れないが、それはこちらの情報を相手に晒すことも意味する。そのような駆け引きは得手ではない、どこまで晒してよいものか……少なくとも、彼がもう一度来るときまでに、聞くべきことは考えておかねば。ナーベラルはそのように考えると、骨休めの日々を終わりにすることを決意した。

 

 

 隊長がバレアレ家を辞して宿に戻ると、漆黒聖典の面々が部屋で出迎えた。

 

「どうでした?」

 

 隊員の言葉に、隊長は頷きを返す。

 

「ああ、想像以上に穏便に済みましたよ。とりあえず、”叡者の額冠”はすんなり返してくれそうです……対価は情報。こちらの台所事情も決して良くはありませんからね、買い戻しに必要な予算が浮くのは助かります」

 

 へえ、と隊員達の間に驚きが広がる。アダマンタイト級冒険者になったと言う情報を加味し、話くらいは通じる相手であるだろうとして接触する許可がようやく降りたものの、極めて剣呑な人物である可能性が高いと思われていたため、いささか拍子抜けした形である。

 

「何の情報です?」

 

「ナザリック地下大墳墓およびアインズ・ウール・ゴウンに関するどんな些細な情報でも。皆さん、聞いたことは?……ないようですね、それもそうか」

 

 ここでちらっと聞いてあっさり出てくるような情報なら、わざわざ頼み込んで調べさせたりもすまい。隊長はそう考えると、ふと思い出したように隊員の一人に目を合わせる。

 

「そういえばクアイエッセ、クレマンティーヌの奴はやはりなんらかの目的をもって彼女に襲いかかった結果、返り討ちに遭っていたそうです。エ・ランテルでは身元不明として処理されていますが、本人から人相を聞き取った限りでは間違いありません」

 

 正確にはハムスケから聞いたのだが、ややこしいので省略する。クアイエッセと呼ばれた男は感慨深げに目を閉じた。

 

「そうか……あの馬鹿め。俺が引導を渡してやりたかったが、まあ是非もないことだ」

 

 そこでやりとりを見守っていた隊員の一人、若い女性が口を挟んだ。

 

「ところで、それ以外の話はしたの?ウチに勧誘するとかしないとか、そんな話もあったんでしょ?」

 

 その言葉に隊長は頭を振った。

 

「いや、思ったよりも好感触で話ができましたのでね、余計な話を持ち出してこじれてはたまらないので今回は見送りました。まずは”叡者の額冠”を取り戻すのが最優先、その先は無事返して貰ってからの方がいいかと」

 

「へえ~……」

 

 一応それはそれで正論ではあったので、女性は表だっては相槌を打つにとどめ、へ・た・れ、とこっそり口の形を作るだけにしておいた。それを目撃した別の隊員が唇を噛みしめて噴き出すのを堪える。

 

「とにかく、彼女との約束です、まずは調べ物をして貰わなければなりません。一度帰還して報告し、裁可を仰ぎましょう」

 

 隊長がそう言うと、隊員達は揃って頷いた。

 だが結局、慎重になりすぎた彼らの動きは遅きに失したのである。

 

 

 漆黒聖典の隊長を名乗る男の訪問を機に一念発起して、三日ぶりにバレアレ家の外に出たナーベラルは、おっかなびっくり周囲を見回しながらハムスケにしがみついて冒険者組合へと向かった。いつの間にこちらへ来ていたのかと驚く受付嬢に挨拶していつもの確認……前質問を突破した情報提供者が居ないことを告げられた。まあ、そもそも情報提供者自体が居なかったというのは言わぬが花である。

 なんとはなしに掲示板を冷やかして、周囲の耳目を集めながら特になにか依頼を受けるでもなく組合の外に出る。そのままハムスケを引き連れて帰路につき、帰る前に寄り道して買い物でもしようかと考えながら歩いていると、その声が彼女の耳朶を打った。

 

「ばっ、化け物……!」

 

 それは、囁き声と言ってもいいくらいに小さな呟きであったが。

 がばと振り向いたナーベラルの目に、人形めいて整った目鼻立ちをした、魔法詠唱者(マジック・キャスター)らしき格好の美少女が、額に脂汗を浮かべ、目と瞳孔を大きく見開いて立ちすくんでいる様子が飛び込んできた。

 

 

 




 タイトルは被せたが、出演者は至ってまとも。
 ルビ用の隙間があるからAA映えしないですね。

 ……この24時間というもの、自分でも不思議なくらい胃が痛かった( ´∀`)
 ようやく落ち着いてきたというか、ギャグ回だった癖にそこで起こったことが
 これからの展開の骨子に絡んでくるから開き直る以外の手段がねえ。


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