遊戯部→由比ヶ浜の誕生日の流れが本来通りなのですが、
作品の都合上、由比ヶ浜の誕生日→キヨシの入部→遊戯部となっています。
脳内補完、よろしくお願いします。
ちなみに基本一人称はキヨシなのですが、今回は八幡視点になっています。
昨日藤野が新たに加わった奉仕部は四人になった。
一般的に考えれば人数が増えるということはプラス要素なのだろう。しかし、人と関わりたくない、でも関わらない、できれば一人で寝ていたい、勇気を出して、Zzz…!Zzz…!昼寝! という西◯カナ的な繊細な心を持っている俺にとってはどう見てもマイナスだった。
それ、繊細じゃなかったわ…。
まあ人が一人増えようが二人増えようが全体+一人になることは確定なので、俺はいつも通り影に徹していればいい。総武高校幻の六人目は人の前に姿を現さないのである。…ダメじゃん。
バスケ界のニュースターは今ここに現れなかった。
なんて放課後一人部室で考えていると、部室の扉がガラガラと開き、「こんにちは。」という挨拶とともに昨日入部した藤野キヨシが入ってきた。
「…うす。」
「あれ、比企谷さんだけですか?まだ全員揃ってないんですね。」
なんの気なしに藤野はそう言う。
…「だけ」ってなんだよ、母ちゃんの言う「今年も年賀状きてないのあんただけだね。」のだけかよ。
まあ最近では歯医者とかからくるから決してゼロではないけどな。
…自分で言ってて恥ずかしくなってきた。
正直なんて返事をしていいかわからないのであえて何も言わない。
「…いや、無視しないでくださいよ。」
そう言って俺から見て右側、つまり由比ヶ浜の席の正面に席を用意し、座った彼は不満そうに俺を見つめてきたのだった。
いや、俺にまともな返事を求めるお前が悪い。
なお無視を試みるが、藤野は俺から視線を外そうとしない。
なんなのお前俺のこと好きなの?
…考えただけで気持ち悪くなってきた。
はぁ…仕方がないな。
「…いや、クラスでなんかあるんじゃねーの?友達との会話とか。俺は友達いたことないからわかんないけど。」
俺はぶっきらぼうにそう返事をする。
「あー、確かにそうですね。そういうことってたまにありますもんね。…え、友達いないとかマジですか。」
返事をもらえたことに顔をほころばせた藤野であったが、それも一瞬。微妙な顔つきに変わる。
うるせぇよ。
後輩に友達いないことを知られ、同情される。
これは夜に枕に顔を押しつけて「アァーッ!」って叫んでしまうのレベルの黒歴史なんじゃないだろうか。
ついでに隣の部屋の小町に「お兄ちゃんうるさい!」って壁を思いっきり叩かれるまである。
スイーツ(笑)がいう壁ドンとかいうやつ。
もしかしてそこから恋が始まっちゃうのかしらん?
しかし、日本の法律では兄弟婚は認められていないので、始まる前に終わっていた。無念。
…にしてもなんとも微妙な空気になってしまった。
そのまま俺のこと無視し続けてくれればいいのにと思う。
しかし、事はそう上手くはいかなかった。
藤野は沈黙を嫌ったのか別の話に切り替えてきたのである。
「そういえば聞いてなかったですけど、比企谷さんって、巨乳派ですか?それとも貧乳派ですか?」
それも斜め45度の方向に。
「…え?お前何言ってんの?」
藤野の突然の質問にうろたえる。
いや、お前切り替え早すぎるだろ。
マイボ、マイボって叫ぶサッカー部かよ。
にしてもなんであいつら素人の俺がミスするとあんなに睨んでくるの、カルシウム足りてないんじゃないの?
…ってかそういえばってお前普段からそんなこと聞いてんのかよ。
ほぼ初対面の俺にすら質問するところからみてもかなりの人数にこの話を振ったとみえる。
これは正直童貞には酷な質問だ。例えば大岡とか。だって絶対キョドるし。
挙句に「ははは、そうだよなー。」とか相槌でごまかしちゃうレベル。ソースは中一の時の俺。
ちなみにそのリアクションをしたところ、「え?お前に話しかけてないんだけど」みたいな目を向けられた。
とにかくその質問は普通ではない上、この部室でそれに答えようものなら雪の女王が拗ねて、城を作り出してしまいかねないので答えられない。
「…いや、意味わかんねーし。」
こういう時はとりあえずごまかすに限る。
そして相手が「…あー、もう大丈夫だよ。ごめんね、急に話しかけちゃって…」と諦めるのを待つのだ。
だが、目の前にいる後輩はそれを許さなかった。
「意味わからないわけがないでしょう、この命題は男の人生そのものです!
そこに山があるから登るがの如く、そこに胸があるからこそ男は生きているのでしょう、答えられないはずがありません!」
八幡の逃げる!しかし後ろに回りこまれてしまった!こんな様子が頭に浮かぶ。
見れば、藤野の目はいたって真剣だった。
ヤバいこれは本格的にやばい。
何がやばいってお前それあれよ、「マジ、っべー」って感じで、「っべー」って感じよ。
つまり戸部になっちゃうくらいやばい。
どう逃げるか考えるも藤野の待ちのスタイルは変わらない。
どうやら答えないわけにはいかないらしい。
だから俺はそれに応えようと覚悟を決めて、息を吸い込んだ。
「俺が好きなのは、ーーー」
「ーーずいぶんと楽しそうね変態ヶ谷くん。」
まさに言おうとした瞬間、夏を目前に控えた空気が一瞬で凍らされたかの様な気がした。
扉の方を見ると白い目でこちらを見つめる目が四つ。
雪ノ下の後ろに隠れるように由比ヶ浜もいる。
なんていうかこう。
やはり俺の青春ラブコメは間違っている、そんな感じがした。
「勝手に締めないでもらえるかしら打ち切りヶ谷くん。」
終わらせてもらえなかった。
どっちかというと終わらせて欲しかったけど。
閑話休題。
あの後雪ノ下の「女性の価値は胸なんかで決まったりしないわ。胸なんてただの脂肪の塊なのだから百害あって一利なしだわ。」という内容の言い訳というか負け惜しみというかそういったものが延々と続いて、今ようやく解放された。
ちなみに由比ヶ浜は雪ノ下が話している間、エヘヘと照れていた。いや、俺何も言ってないんだけど。
藤野はそんな由比ヶ浜を見て、分かりやすくキョドっていた。
まあそりゃえっちぃお姉さんが目の前にいたらキョドりもするか。
仕方なかろう、まだ彼も高校生になったばかりなのだ。
ちなみにこれがもう一年もすればクソビッチが…と何をやっていても気にならなくなる。
少年よ強くなれ…。
ちなみに今のは死ぬまでに言ってみたいセリフ第八位だ。
そうしていつも通りに本を読んだり、携帯を触ったり、何をしていいか分からずそわそわしていて雪ノ下に睨まれたり、各々の思うとおりに過ごしている。
…やっぱこうやって仕事がないのとかマジ理想的。
働いたら負けっていうのがよく分かるわ。
俺は一人その心地よさに浸かる。
しかし、その静寂を破ったのは「助けてハチえもーん!」という暑苦しい男の声だった。
「材木座か…。ってかそんな呼び方すんじゃねぇ。知り合いかと思っちゃうだろ。」
声の主は材木座義輝。六月も半ばを過ぎたというのに相変わらず見るだけで暑い黒いコートに身を包んでいる。
「ハチえもん、あいつらひどいんだ!」
俺のセリフにも一切反応せず、材木座は話を続ける。
さすがにイラッとしたので部室から追い出すことにした。
「悪いな材木座。この部室、四人用なんだ。な、ジャイアン?」
「なぜ私を見るのかしら。」
雪ノ下のリアクションをよそに材木座は構わず話を続ける。
「まて、八幡本当にやばいのだ。
我は先日、ゲーム作りを将来の夢に設定してな、「ほぇ?ラノなんたらじゃなかった?」あるかな勢のみんなにも話をしていたのだが、それにケチをつけるやつがいてな、返り討ちにしてやろうかと思っていたのだが、話が流れに流れて我とそいつとがゲーム勝負で決着をつけることになってしまったのだ。」
途中の由比ヶ浜のリアクションも意に介さず、材木座は長々と話を続けた。
だが、正直話が見えてこない。
「まてまて、一度に話すんじゃねぇ。ゆっくり話せよ。つまり今お前が言ったことをまとめると、ケンカして、ゲーセンで対決して決着をつけようということになった。そういうことだな?」
「違う。あろうことかそいつはこの学校の生徒だったのだ。遊戯部に所属しているらしい。そこで格ゲーで対戦という算段になってしまっている。」
かぶせ気味に否定されてまたもやイラつく。
こいつ人をイラつかせる天才なんじゃねーの。
だが、ようやく理解が追いついた。
しかし、腑に落ちない点がある。
「それはあなた自身の問題ではないかしら。喧嘩をしたのはあくまであなたであって私たちではない。それとも何?あなたは自分の失敗も自分で拭えないの?うちの部活は餌の取り方を教えるのであって、餌を取ってあげる訳ではない。よって依頼は受け取れないわ。」
雪ノ下は俺の感じた疑問点をすぐに指摘した。
非の打ち所がないど正論は材木座の心に深く突き刺さる。
「ぐおはぁ!」
うざったらしくリアクションをした後に、地に倒れ伏す材木座。
今日も今日とて氷の姫の前に彼は敗れ、散る。どんまい。
ただいつもと違ったのは今回の彼は、ここで引き下がらなかったということだ。
「待ってくれ…今回は、今回だけは本気なのだ。確かに我は今まで中途半端だった。でも、一つのゲームに出会って我の価値観は変わった。楽しかったのだ。あんなに楽しいゲームは人生で初めてだった。
…なあ八幡よ、自分が楽しいと思ったことを他人にも伝えたいと思うことはそんなにいけないことか?我の夢のため、力を貸してくれ!」
そういって彼は頭を下げる。
確かに言っていることは正論ぽいし、もし本当にそうであるならば味方をしてやるべきだろう。
しかし、材木座は同じようなことをさんざん言った挙句、急に辞めると言い出した前科がある。
しかも、今回の件だってもっともらしく言っているが、喧嘩の仲裁をしてほしいというのが彼の本音であり、それがチラチラと見えている。
なぜ俺らがその尻拭いをせねばならん。俺が尻を拭うのは小町だけだ。
諦めろ。自分でまいた種だろ。
まあ、どうせまた今回もすぐ辞めるとか言いだすだろう。
悔しいならまず完成品を持ってこい。プロットじゃなくてな。
おそらく雪ノ下や由比ヶ浜も同じ考えなのだろう。
頭を下げる彼に対して彼女らがとった行動は無視だった。
…さすがだぜ!☆
誰の心にも響くことはなかった材木座の言葉。
しかしそれに反応したのは彼の今までを知らず、ここまで様子を見守っていた藤野だった。
げ…めんどくさいことに。
「待ってくださいよ。俺とこの人は今日初めて会った。だけどこんなにも自分の夢を熱く語れる人はあまりいません。少なくとも今俺は心を動かされました。俺からもお願いします!材木座さんの夢に手を貸してやってください!」
つまりだ。
誰もが本気にしていない材木座の戯言に、藤野はあろうことかに胸を打たれ、その夢を手伝いたいと言い出したのである。
俺たちと違って、藤野と材木座は初対面。
材木座の普段のブレブレな言動など彼は知りもしない。
だからこそ材木座の適当な言葉を信じてしまったのだ。
悲しきかな、材木座など信用するに値しない人物だというのに。
それに気づいてないみたいだけど、これ、材木座の夢どうこうじゃなくて喧嘩の仲裁に入れって言われてるだけだからね?
しかし、そんな藤野の姿に雪ノ下は何を思ったのか、はぁ…とため息をついて、
「藤野くん。正直突っ込みたいところはたくさんあるのだけれど、あなたがそこまで言うのなら、この依頼引き受けても構わないわ。」
そう答えた。
マジかよ、今回雪ノ下さん甘すぎじゃね?
「…彼には一度明確な力関係を見せつけるためにも頼みを聞いてあげてもいいかもしれないわね。」
…って一瞬思ったけど優しさと見せかけてまさかの調教計画の一環だった。
さらにはこの依頼を通して藤野には何も得るものがないところがまたエグい。
雪ノ下さん、やっぱまじぱねぇっす。
「お主…。」
しかも、疫病神まで取り憑いたと見える。
見ろよ材木座が、なんか藤野を仏を見るのかのような目で見ていやがるぜ。
つまりはこれからあいつは材木座につきまとわれるってことだ。
キングボンビーを誰かに擦りつけた気分になった俺はなんでか高笑いしたい気分になった。まあ、桃鉄一人でしかやったこと無いんだけどな。わはははは。
「ヒッキーきもい…。」
しまった。いつもの変な笑い方をしてしまった。
こうして、面倒なことに奉仕部は材木座の依頼を受けることとなってしまったのだ。