やはり俺の出所後生活は間違っている   作:ミーアキャット

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毎話投稿期間が少しずつ長くなってきていますね。
その代わりといっては何ですが、今回は二話分を一つにまとめたので今までで一番長くなってます。
それにしても年末年始は本当に忙しいです。
次回は正月くらいにまた更新したいとは思っていますが…どうなるんでしょうかね。

やっぱりガクトや花がいないと監獄側の疾走感やエロさがなかなか出ませんね。はやく出したいです!

では最後に、メリークリスマス!


6話 思惑は動き出し炎と氷はカーニばる

 

 

男子 薪調達班

 

 

「…あれ?そういえばキヨシは?」

 

 

俺は頭の中で思ったことをぼそっと口にだす。

薪が中に高く積み上げられている小屋からせっせと薪を運び出す単純な作業をしつつ、一人色々と考え事をしていたらふとあいつがいなくなっていたことに気がついたのだ。

てかなんで夏休みなのにこんなに働いているんですかね。

俺ったらいつから社畜になったのかしらん。

今すぐにメーデーを起こすまである。

と思ったけど俺集団行動とかできないから無理だった。

お一人様メーデーとか何それ罰ゲーム?

それに時はすでに八月だ。

つまり次回のメーデーはあと丸々一年近くも先なわけで…

というわけで何もかもが手遅れなのである。

 

 

「え、キヨシくん?あれ、そういえばいないね。」

 

俺としては誰に語りかけたわけでも無いのだが、すぐ近くにいたため聞こえたのか、マイエンジェルこと戸塚がそう返事をする。

その瞬間、ふわーっとした清涼感が俺を駆けめぐった気がした。

まるで風鈴がなったかのようなこの清涼感、さすがの戸塚ボイスである。

戸塚風鈴、アリだと思います。

 

 

「あれーキヨシどーこいっちゃったんー?」

 

おい戸部、てめぇはしゃべるんじゃねぇ。

せっかく戸塚が俺を涼ませてくれたのにまた暑苦しくなったじゃねぇか。

多少当たりは強い気もするが相手は戸部なのでしょうがない。

 

 

「というか翔たちが戻ってきた時にはすでに藤野くんはいなかったと思うけど。」

 

葉山も続けてそう言う。

だーもう鬱陶しい…なんなの?お前らワザとなの?それとも戸塚に魅せられて嫉妬しちゃってるの?戸塚はかわいいから仮にそうなっても仕方ない。いや、やっぱ俺のものだから誰にも渡さん。…って俺のものでもなかったな。

 

「あれ?そうだったっけ?」

 

「あーれそういやキヨシいつからいなかったんだっけー?」

 

頭にクエスチョンマークをつけ、考えこむ戸塚と戸部。

まるで考える像、別名考えてるフリをして働かない像のようにうーんと一同は考える。

ああ…俺も何もせずただじっとしているだけでいいあの像になりたい…

 

 

「…とりあえず、キヨシを探さねーとな」

 

俺はそう結論づけ、周りも頷く。

全員の意見が一致したため、手分けして探すことになった。

そしていざ、探しに行こうとなった時、

 

「すいません遅くなっちゃって…」

 

キヨシはやってきた。

遅れてやってくるとかお前なんなの、ヒーローなの?

 

「あーキヨシくん!どこいってたの?」

 

爽やかな風を纏いながら戸塚が聞く。

何それ、なんか中二っぽくてかっこいい。

 

「え?いや、俺腹痛いんでトイレに行くってさっき言いましたけど…」

 

キヨシはしれっと言う。

でもお腹が痛くなって遅れるヒーローとかないな。

うん、キヨシは所詮キヨシ。問題ない。

 

「あれ、そうだったっけ?最後の方走ってたからよく聞こえなかったや。」

 

戸塚は首をかしげながらそう言った。そんな仕草もかわいらしい。

 

「んだべー。危うく集合時間に遅れかけたしなー。」

 

戸部もまたそう言う。

おい、お前はちゃんと把握しておけよ。何やってんだ、人の話くらいちゃんと聞いておけよ。

そしてキヨシは一瞬考えたような様子を見せた後、

 

「…そうっ!多分そういうことですよ皆走ってたから聞こえてなかったんですね」

 

小さく笑いながらそう答えた。

 

 

× × ×

 

 

(ふぅ…なんとかごまかせたか)

 

俺はひとまず安心をし、ほっと胸を撫で下ろす。

正直今まで薪を集める作業をしていた男班には自分がいなかった本当の理由を説明しても良い気もするけど、信頼関係がまだ出来上がっていない今、彼らには言えない。

これを言ったら下手すると比企谷さんとかは敵にまわるかもしれないし。

…というか戸塚さんと戸部さんが抜けてる人たちで本当に良かった。

この様子だとおそらく小町ちゃんと海老名さんも気づいていないだろう。

小町ちゃんもまた結構抜けてるところがあるし、海老名さんはほんわかとしていて、あまり深く考えそうなタイプじゃないし。

多分大丈夫なはずだ。

 

俺はオリエンテーリングの班を二つに分ける際に少し工作をした。

雪ノ下さんや比企谷さんなど頭の回転が回りそうな人たちと、そうでない人たちとにこっそりと分けたのだ。

理由としては全体が十人なので五対五に分けるべきだというもっともらしいことを挙げた。

ただ、そうすると戸部さんたちは元々四人グループで来ているので一人奉仕部側から人員を送らねばならなくなってしまう。

普通に考えて向こうにおくられた人は急に知り合いの人以外と組まされる訳であって嫌だろう。

それを察した由比ヶ浜さんが向こうに行こうする前に、俺がそれを制止し、せっかくだからそれぞれ半分にしてグループを組まないかと提案したのだ。

親睦を深めるとかまたも適当なことを言って。

 

雪ノ下さんや比企谷さんはもしかしたら渋るかもしれないと思っていたけれど、葉山さんの同調もあったからか意外にもすんなりと決定した。

あとは俺が適当を装って、自分に有利なようにライン引きをした次第だ。

俗にいうここから半分があっち側のチームで、ここから半分がこっち側チームね!ってやつ。

 

勿論班を分けた先でも、念のため五人をバラけさせるような小学生たちの手伝い方をとった。

より簡単に一人抜け出す時間を作るためである。

正直先ほど言った親睦を深めるということとは矛盾した発言だったけれど、狙い通りこちらの班ではそれについて誰も疑いもしなかった。

ふっ…ここまでくると我ながらあっぱれな作戦だ。

むしろちょっと上手く行きすぎてる気もするけどまあ心配ないだろう。

俺もいよいよ知将の称号を名乗ってもいい頃かもしれない。

 

ここまでである程度本来の作戦の目処はたった。

決行は今日か明日。

もしかすると実りのある結果が生まれるかもしれない。

 

 

 

× × ×

 

 

 

「あー!おかえりー!」

 

由比ヶ浜さんがぶんぶんと手を振る。

どうやら向こうは食材の準備をしているらしい。

男たちとの会話の中で、俺が離脱していた時の流れはなんとなく把握できている。ボロは出さずに済みそうだ。

 

しばらくすると小学生グループがぽつぽつと戻ってくる。

小学生たちが全員戻るまでの間、男子は平塚先生のレクチャーを受けた後、火起こしの作業に移る。女子は依然として食材の準備をしているみたいだ。

 

パタパタパタパタ

 

うちわを振って火がよく燃えるように酸素をおくる。

暑さはあるけれど、近い内に夢が叶うかもしれない俺のモチベーションは高い。

今ならなんでもやれる!

 

 

× × ×

 

 

カレー。それは野外で作るものとしては鉄板といっていい料理だ。

誰が作っても一定以上の味になるし、失敗する確率も限りなく低い。さらに作ったのが同じ班の女子というだけで男子にとってはもう一種のスパイスが追加されたとも言えるだろう。

ましてやこの炎天下の中でのカレー作りだ。汗の一滴や二滴混じっていてもおかしくない。

女子の汗入りカレー。どんな香辛料よりも食欲と性欲をかきたてる隠し味だ。

 

 

「暇なら見回って手伝いでもするかね?」

 

そんなことを考えていたら大きな乳を揺らしながら平塚先生がそう聞いてきた。

正直、全然行きたくない。

俺は今、キャピキャピしながら料理をする女子の胸を見るので忙しいのだ。

トントンと小気味よく野菜を刻む包丁に呼応して、胸が揺れるのである。ほら、由比ヶ浜さんとか見てみろよ、バインバインだぜ。

リズムはなんかめちゃくちゃな感じがするけど。

その点雪ノ下さんの刻むリズムは一定で、聞いてる分には楽しい。あくまで聞いてる分には。

 

「いえ、俺はしっかりと(おっぱいを)見ていたいので大丈夫です。」

 

「気にするな藤野。私が(火を)見ていてやろう」

 

「え?先生が見るんですか?」

 

一体どういうことなんだ?

女が女の乳を見る。なんて官能的な言葉の響きだろう。

先生ってもしや、そっちの趣味なんじゃ…

 

「ふん!!」

 

「ごほぁ!」

 

「すまんな、何やら不穏な気配を感じたんだ。許せ。」

 

なんで…俺の思考が読まれたんだ…

前から思っていたけど平塚先生はちょこちょこ人の心の中を読む。

邪なことを考えたりした時なんかは一発だ。

…ってことはやはり俺の計画の実行に脅威になるのはこの人かもしれない。一応最大限に警戒しておかないといけないな…。

 

「ほら、つべこべ言わずに行け、あの比企谷ですらもう行っている。それに小学生と話す機会なんてそうそうないぞ?合法的に女子小学生と話ができるんだぞ?」

 

まぁ、確かに普段の生活の中で小学生に話しかけたらロリコン扱いされるけど。

だが、俺はあくまでも育ちきったおっぱいが好きなのであって、小学生の小さいおっぱいなどに興味などないのだ。

「ほらほら、行った行った」と平塚先生に背を押され、仕方なく小学生たちのところへ歩いていく。

その後辺りのいくつかの班の小学生たちの手伝いに回り、その胸を舐めるように眺めまわしていると気づいたことが一つ。

 

(あれ…この子たち雪ノ下さんとカップ数変わらないんじゃないのか…?)

 

そう考えた瞬間、背後から凍えるような視線を感じ背筋がゾクっとする。

おそるおそる振り返ると食材の準備は終わったのか、今の今まで考えていた雪ノ下雪乃さん本人がそこにいた。

 

「あら、ずいぶんと暇そうね、キヨシくん。」

 

…これ、ヤバいんじゃないのか?

特に何も声にして発していないし、雪ノ下さんも何も言っていないけれど、すでに詰んでしまっている気がする。

 

「…ホント、ばかばっか」

 

しかしちょうどいいタイミングで横から声が聞こえ、危なげな雰囲気の会話が止まる。…あっぶなかったぁ

見ると比企谷さんの隣でボソッと呟く少女が一人。

その声はとても冷たく寂しげに響いていた。

 

「世の中は大概そうだ。早めに気付けて良かったな」

 

「……」

 

「あなたもその大概でしょう?」

 

少女が値踏みするような視線を俺たちに向けていると雪ノ下さんの氷点下の毒が飛んで来た。

 

「あまり俺を舐めて貰っては困るな。大概とかその他大勢でも1人になれる自信がある」

 

「それを誇らしげに言えるのはあなたくらいでしょうね……。呆れるのを通り越して軽蔑するわ」

 

てか、そこは普通尊敬じゃないんですか…。

 

「名前」

 

比企谷さんたちの会話を聞いていた少女が不意に言った。

というかやべぇ、俺うっかり会話に入るタイミング逃した…。

 

「そういう言い方じゃ駄目だよ。名前を聞く時は自分から言わないと。」

 

出遅れを取り戻すべく俺は彼女に注意をする。最初のセリフがこれとか俺、大丈夫か?

ちょっと説教くさいことを言ってしまったかもしれないけど、今このタイミングで俺がこれを言わないと彼女が雪ノ下さんに泣かされてしまう。

こんな小さい少女にそれはさすがにかわいそうだ。

急に注意をした俺を見てびっくりしたのか、少女は少し気まずげに視線を逸らす。

 

「鶴見留美」

 

少し間をあけた後、自分が悪いと理解したのか留美ちゃんは素直に小さい声で自分の名前を言った。

言われたことを素直に直せるなんて、こんな小さいのに偉いと思う。

 

「まあ心配するな。ここはぼっちしかいないから。」

 

「いや、俺ぼっちじゃないんですけど。」

 

「大丈夫だキヨシ。学校中の女子に嫌われている時点でお前にもその素質はある。」

 

「そうね、第一年上しかいない部活の活動に後輩として一人だけ参加しているのだから、その点は問題ないと思うわ。」

 

それってむしろコミュ力高いんじゃないのか…?

確かに俺も「人間はそもそも一人なんだ…」とか思ってた時もあったからあながち間違ってるとは言えないんだけど。

もう少しオブラートに言ってほしかった。

 

「……なんかそっちの2人はあのへんの人たちと違うような気がする」

 

唐突に留美ちゃんが比企谷さんたち(俺以外)を見ながら言う。あれ、俺今ナチュラルにはぶかれた?やっぱり俺もぼっちなのか…?

 

「私も違うのあのへんと。周りはみんなガキばっか。その中で上手く立ち回ってたけどなんかそういうのくだらないから止めた。1人でもいいかなって。別に中学に入れば余所から来た人と仲良くすればいいし」

 

留美ちゃんはそんなことを言う。まあ人数が増えれば確かにそれはあるかもしれない。

 

「残念だけどそうならないわ」

 

と、俺は思っていたのだけれど、ぼっち代表として雪ノ下さんが留美ちゃんの言葉をぶった切った。

………えぇ。まじですか。

やっぱり俺は流石にこの人たちよりはマシなんじゃないだろうかと思う。

 

「あなたの通っている小学校からも同じ中学に進学する人もいるのでしょう? なら、同じことが起きるだけよ。今度は余所の人も一緒になって」

 

「……やっぱり、そうなんだ」

 

それを聞いた留美ちゃんは諦めたような声で小さく呟く。

いや、それこの人たちが特殊なだけだと思うけど…。

 

それから彼女は教えてくれた。誰かがハブられることは何度かあり、しばらくしたらそれは止むと。そして誰かが言いだすと他の子もそういう雰囲気になり、また別の誰かを孤立させる。そして、それが今回は留美ちゃんの番になっただけ。

そこで彼女は放っておけばいいと思い何もしないでいたのだと。

 

「中学校でも……こんな風になっちゃうのかな」

 

嗚咽が入り混じった震える声音。瞳には悲しみの色が写っている。それがとても印象的だった。

 

 

× × ×

 

 

カレーも完成して後は食べるだけとなった。

全員で1対のベンチに座って食べる。細かい部分を言うのは面倒なので省略するが、左半分が奉仕部で右半分が葉山さんグループ。

両グループの間に俺と由比ヶ浜さんがクッション的に入るというフォーメーション。つまり正面は由比ヶ浜さん。視界は良好である。

 

「なんだか給食みたいだね」

 

戸塚さんがそう言う。

 

「まあメニューもカレーだしな」

 

「男子ってカレー好きだよね。献立見ただけで超騒いでるし。」

 

また、そう言う比企谷さんと由比ヶ浜さん。

 

「そうそう。で、給食当番がカレーの鍋ごとひっくり返して、すっげぇ非難浴びたりするんだよな」

 

「あったわー、それマジあったわー」

 

なんだかんだでカレーあるあるで盛り上がる。せっかくなので、俺も乗ってみることにした。

 

「そういう時ってなんとかごまかさなきゃって、代わりに水足してカサ増しさせたりしますよね。」

 

「いや、キヨシそれはさすがにねーわ」

 

「うん、それはやり過ぎかな…」

 

「普通に皆、気づいてると思うよ…」

 

しかし、なぜか皆から凄いものを見る目で見られてしまった。いや、なんで俺だけ…

 

 

 

それから時は過ぎ、孤立していた留美ちゃんの話になった。

まず、助けるか助けないかの話になり、結局助けようということになった。

三浦さんの『他の子に話しかければオールオッケー作戦』、海老名さんの『趣味に生きよう! 出来れば、腐腐腐作戦』などの案がでるがイマイチパッとしない。

ちなみに俺から言わせてもらうと海老名さんのそれは本当にやめてほしい。

俺からすれば、ガクトと互いのケツを掘りあっているという嫌な疑惑をかけられたこともあったので、BLという言葉を聞いただけで悪寒が走るのだ。

まあだけどまともな意見が出てこないのも当然である、これはあくまでも本人たちの問題であって、部外者でしかない俺たちにはどうすることもできないから。

俺たちは同情することはできても、共に戦ったり、支えてあげたりなどできやしない。

酷ではあるが、これはあくまでも彼女が自分で乗り越えなければならないことなのだ。

 

「やっぱり、皆で仲良くできる方法を考えないと根本的に解決できないか」

 

不意に葉山さんがそう呟く。それを聞いた比企谷さんが、乾いた笑いを漏らす。

 

「そんなことは不可能よ。ひとかけらの可能性もありはしないわ。」

 

そして雪ノ下さんもまた凛とした口調で、冷徹に葉山さんの意見を突っぱねた。

 

「ちょっと雪ノ下さん?あんた何様?」

 

しかし、それに納得がいかなかったのか、三浦さんが噛みつく。

 

「何が?」

 

「その態度こと。せっかくみんなで仲良くやろうってのに、なんでそんな態度なわけ?別にあーし、あんたのこと全然好きじゃないけど、楽しい旅行だからって我慢してんじゃん」

 

「まあまあ優美子」

 

「あら、意外に好印象だったのね。私はあなたのこと嫌いだけれど」

 

「ゆ、ゆきのんも抑えて抑えて」

 

「ちょっとユイー?」

 

「…あなたは、どちらの味方なのかしらね?」

 

両者の間に挟まれて、フォローにまわったはずの由比ヶ浜さんが小さく縮こまってしまった。南無。

 

「…材木座のやつ元気にしてるかなぁ」

 

「…きっと今頃新しく買った抱き枕と会話してるんじゃないですかね」

 

「…現実見ようよ、八幡、キヨシくん」

 

 

その後火花を散らす両名がその場を立ち去り、静まり返ったベンチで残された者たちは話し合いなんかできるわけもなくすぐに解散となった。

 

 

 

× × ×

 

 

 

あれから部屋に戻った俺たちは風呂に入ることになった。

最初は今日計画を実行しようか、なんて思っていたけど、女子側のギスギスしたあの状態を見るに決行は明日にしておいた。

それにもう少し準備することもあるし。

 

「……」

 

カポーン

内風呂を使わせてもらえることになった男子が一人ずつ入る。

ちなみに女子は大浴場。時間によって男女の入れ替えがあってこの時間は女子の時間なのである。

今日のように夜も遅い時間であれば、向こうは貸し切り状態になっていることだろう。

俺は一番年下だから、順番的には一番最後に風呂に入る。そこに不満は特にない。

ただ今日はなんだかんだ疲れたし、明日もやることは山積みだ。

しっかりとリフレッシュしておかないと。

 

 

風呂から出た俺は平塚先生の部屋を訪れる。

いや、決して夜這いなどではない。

ホントだぞ。さすがにまだ死にたくない。

コンコンと部屋をノックする。

 

「なんだー?」

 

ドタドタと足音が聞こえ、ガチャリと扉が開き、先生がでてきた。

 

「ん?藤野じゃないか、どうした。」

 

先生は一応部屋着に着替えていた。やっぱ部屋着ってちょっとエロいと思う。

 

「先生、明日の予定を今日の内に聞いておきたいのですが。」

 

「おぉ…どうした、いつになくやる気じゃないか。」

 

「はい。明日は頑張ろうと思っているので。」

 

俺がここに来た理由。

それは、明日の予定を聞くためだった。

俺の計画を実行する上でスケジュールの把握は絶対に必須である。

少なくとも今日の内に絶対に聞いておかなければならない情報なのである。

 

「ーーーだ。こんなもんでいいか?」

 

「はい、ありがとうございました。」

 

情報を無事に得た俺は部屋へと戻る。

 

 

× × ×

 

 

部屋に残されたのは俺と戸部と葉山。

キヨシと戸塚を除いた三人だ。

二人は今、バルコニーに出ている。

戸部は暇を持て余しているようで携帯をいじっていて、葉山はタブレットを操作してPDFを見て勉強していた。

てか、イケメンがあれやると様になっていると思う。結局世の中顔なのだ。それでいくと俺も結構イケメンの部類なのになぜ俺があれをやるとあんな風になりそうにないのか。原因は目ですか。そうですか。

仕方のないことだが小町の持ってきた荷物には何も暇つぶしになるようなものは入っていなく、俺はやることがないので携帯をポチポチといじるに落ち着いていた。

しばらくすると風呂から上がった戸塚が帰ってくる。

 

「なぁー、キヨシのこのデカいカバン。隼人くん何が入ってると思う?」

 

「いや、さすがに俺も分からないな。」

 

バルコニーから部屋の中に入ってきた戸部の第一声がそれだった。

不意に誰もが思っていただろうキヨシのデカいカバンにふれる。

…というかあいつらいつの間にキヨシと仲良くなってたんだよ。男子限定でキヨシコミュ力高すぎない?

 

「てか、女子でもないのにこんなデカいカバンやっぱ変じゃね?

 

ちょこっとだけ見てみない?ちょこっとだけ。」

 

「やめとけよ。人のカバンを勝手にあさるなんてよくないぞ。」

 

葉山の言っていることは確かに正論なのだが、正直俺もカバンの中は気になっていたので、戸部を応援する。いいぞ、戸部もっとやれ。

 

「まあまあ、大丈夫だって。キヨシのやつのことだから、どうせ入っててもせいぜいエロ本くらいだってー」

 

「でも…ボクもちょっとだけ、気になるかも。」

 

戸塚も気になっているのか戸部の援護にまわる。

なら俺も乗るか、このビッグウェーブに!

 

「…戸塚が見たいって言ってるんだ。開けちまおうぜ。」

 

「お前ら…俺はパスするからな」

 

葉山…場を乱さないように振る舞っているみたいだが、俺はさっきからあいつの視線がキヨシのカバンに移っているのを知っている。

やはりあいつも気にはなっているのだろう。

 

「ちょっと隼人くーん!ノリ悪くない?ヤバそうだったらすぐやめるってことで。ここにいる皆が内緒にしてれば問題ないって。な?」

 

「はぁ…わかったよ。でも絶対に内緒だからな。」

 

こうして最後の砦である葉山も折れたのであった。

なんというかずいぶんと脆い砦だったな…

 

それにしてもたいていの場合こうした内緒話はどこからか漏れてしまう。

あれってなんでなんだろうね?あんなに話すなっていってるのにね。なんなの?ダチョウ倶楽部なの?

まあ、何にせよ満場一致で、キヨシのカバンの中身を見ることに決まったのだった。

 

「じゃあ、いくぞ」

 

戸部がそう言い、カバンのチャックを開ける。戸部はまず開けてとりあえず一番上に置かれたものから、思いっきり引っ張りだした。

一品目。

 

 

「…黒の全身タイツ」

 

 

「「「黒タイツ!?」」」

 

いや、何でだよ、何に使うんだよ。

そう思ったのは他も同様だったようでその場にいた全員が絶叫する。

つい俺も気持ち悪い声だしちまった…

 

「あ、待って。なんかタイツの下に紙が…」

 

戸部がカバンの中にあったそれを取り出し、そして、そこにそこに書かれていた文字を読み上げる。

 

「ドンキホーテ…3,480円+税」

 

「わざわざ買ったのか!?」

 

葉山がすかさずつっこむ。

というかレシートごと持ってきてるのかよ。

葉山だけでなく、男子四人とも既に『キヨシのカバン』の異常さに冷や汗を垂らしていた。…てかキヨシ…お前マジでなんなんだよ…

 

「…なあ、やっぱもうやめとかないか?」

 

不穏な空気を察知した葉山がすぐに撤退を提案する。だけど、

 

「…いや、最初にこれきちゃうとこの次何くるか気になっちゃわね?」

 

そう言う戸部の言葉に、反論するものは誰もおらず、全員が無言で頷き次に進むのだった。

 

二品目。

 

「…セ、セルフィースティックっ!」

 

「「「いや、だから何のために!?」」」

 

本当に訳が分からない。…ていうかこれが必要になる合宿ってねぇよな?俺がボッチだから知らないとかじゃないよね?

というかそんな世界を見なければならないのなら俺は一生ボッチでいい。

空気は大分あれになってしまったが、戸部はさっさと次の品を取り出す。

三品目。

 

「…ウィッグ」

 

「「「セルフィースティックと繋がった!!」」」

 

まさかのリンクに一同は驚愕する。

というかキヨシてめぇ一体どうなっちまってるんだよ。女装して自撮りしちまうのか?そんでもって「わたしたちズッ友だよ」とか言って、Twitterにあげちまうのか?

 

「…しかも、ツインテールバージョン」

 

「きっと強いこだわりがあるんだね…」

 

戸塚が神妙な面持ちでつぶやく。

というか女装趣味に強いこだわりとかマジでなんなの。

 

「…やっぱ、もうやめといた方がいいかもな。」

 

俺はすかさずそう言ってしまう。

だってこれ以上見てしまったらこの後あいつと顔合わせたとき気まずくなるじゃん。

…今でも二人だったら気まずいけどさ。

 

「いーや、こうなったらやけっしょ!」

 

しかし、戸部は止まりはしなかった。

 

四品目。

 

「…セロハンテープ」

 

「「「ここにきて普通!」」」

 

普通すぎて逆に怖かった。

 

「…いや、普通セロハンテープとか持ち運んだりしないと思うけど。しかもこれ、土台付きのやつじゃないか。」

 

一人葉山が冷静に分析する。

確かにこれまでに比べると普通すぎるのだが、冷静に考えてみると今ここにあるような代物ではなかった。

 

「…次いくべ」

 

五品目。

 

「…エロ本」

 

 

「「「………」」」

 

 

………………。

 

それを見た俺らは真顔、そして無言のままそっとカバンのチャックを閉じたのだった。

 

 

 

「あれ…皆さん何してるんですか?」

 

「…!!」

 

突如として後ろから声がかかり、振り返ると後ろには風呂から帰ってきたキヨシがいた。

やっべぇ、カバンに集中し過ぎて戻ってきているのに気がつかなかった。

しかし、ちょうどカバンを閉めたのがラッキーだったのか、キヨシがカバンを開けられたことに気づいた様子はなかった。危なかった…。

 

「…やあ、キヨシ。風呂、長かったな。」

 

「はい、つい長風呂しちゃって…」

 

ごまかすためか葉山がキヨシに話しかける。というか逆にここですっと話しかけられるリア充すげぇ。俺には絶対にできない。

ただ、こんな時に限ってキヨシは妙に鋭かった。

 

「…あれ?皆さんなんか雰囲気ぎこちなくないですか?」

 

「そんなことないよ、ちょっと留美ちゃんのことを話していたから気持ちが盛り上がらないだけだ。」

 

むしろさっきまでは異様に盛り上がっていたけどな。

 

「そうだべー!いーや、やっぱ難しい問題っしょー!」

 

おい戸部、お前はやめておけ。ボロが出そうだ。

 

「そうですか…まあ、ならいいんですけど」

 

なんとかキヨシが引き下がり、俺たちはひとまずホッとする。

こうして、キヨシのカバン捜索は終わりを告げたのである。

 

 

× × ×

 

 

このまま横になっていても寝れる気がしない。

手元にある携帯電話を見るとまだ二十三時を少しまわったくらいだった。

仕方なく、少しだけ夜風に当たろうと思い、俺は四人を起こさないようにこっそりと部屋を抜け出す。

ここは千葉村という都市部から離れた土地。そのため、街灯もなく真っ暗だ。

だけどこの静かな夜は俺は嫌いではなかった。

高原の夜というものはひんやりと涼しくて気持ちがいい。

部活の合宿としてよく選ばれる理由がわかる気がした。

そんなことを考えながら歩いていると暗闇のなかで綺麗な歌声を聴いた。目を凝らすと雪ノ下が独りで歌っているところに出くしたみたいだ。邪魔しては悪い、と引き返そうとしたのだが小枝を踏んでしまう。パキッ

 

「…誰?」

 

簡単に見つかってしまった。俺ってばずいぶんとうっかりさんね。…我ながら気持ち悪い。

 

「…俺だよ」

 

「…誰?」

 

なんでさっきと同じ問いなんだよ。一応顔見知りだろうが。

キョトンと首を傾げた雪ノ下は顔がかわいい分余計に腹がたつ。

 

「…で、なんでこんなところに?」

 

「ちょっと三浦さんと揉めてしまってね。…三十分ほどかけて徹底的に論破して泣かせてしまったわ。」

 

何故こんなところにいるのか聞いたらどうやら、氷(雪ノ下)vs.炎(三浦)の戦いは氷の完全勝利に終わったらしい。氷の女王強すぎだろ。

サイヤ人化したベジータかよ。

いや、キャラ的にどっちかっつーと人造人間18号の方か。

 

「そんなことより……キヨシくんの行動が少々引っかかってね」

 

「……何かあったのか?」

 

深刻そうな顔で俺を見る雪ノ下。

キヨシ?あのキヨシがなんかしたのか?いや、俺にはあいつが何かをしているとは思えない。だって現に今日もいつも通り変だったし。

 

「…まず、オリエンテーリング集会での遅刻ね。いくらなんでも来るのが遅すぎるわ。」

 

「ああ、あれはトイレに行ってたんだとよ。お腹壊してるんだとさ」

 

「それに……班行動での手伝いね。あの子、戻って来たときは居なかったわ」

 

「それも、同じ理由だ。お腹壊してる時はどうしてもトイレが近くなるしな。小町たちに一応行くことは伝えたらしいけど、あいつら聞いてなかったみたいだ。」

 

「でも、ちょっと理由として完璧すぎやしないかしら。違和感の割に理由がきちんとしすぎてるというか。」

 

「…それはあいつが最初から意図的に抜けだしていて理由まであらかじめ用意していたということか?考え過ぎじゃないか、第一そんなことをしたってあいつにメリットはない。

……いや、仕事をサボれるか。よし、じゃあ俺も明日やろうかな」

 

「…もしあなたがあした腹痛になっても引きずってでも働かせるわ。あなたそんなことばかり言っていて恥ずかしくならないの?」

 

「ならないね。むしろこれが俺のアイデンティティーだ」

 

「まさか無い方がましに思えるアイデンティティーがあっただなんて」

 

雪ノ下はこめかみに指を押しあて、溜め息をこぼした。

 

「何にせよなんとなく嫌な予感がするのよね。あくまでも予感なのだけれど」

 

しかし雪ノ下が明確な理由もなしにこうやって相手を疑うことは珍しい。

いつだって雪ノ下雪乃は何かに基づいて行動をしているのだから。

そんな雪ノ下のなんとなく違和感を感じるという発言は俺にとっても衝撃であった。

とっさに言葉が出てこない。

 

「……それじゃ、私はそろそろ戻るわ」

 

「……ああ」

 

普段とは少し違うように感じた雪ノ下。その意外さに俺は彼女が去った後もその場に立ち尽くすのであった。

 

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