『新鋭の暴君』と『神速のインパルス』 作:tig
後悔はしてない
「バスケだぁ...?」
特徴的なドレッドヘアーの頭をだるそうに掻きながら、金剛阿含は心底気怠げにそうに聞き返した。
阿含が目に見えて不機嫌になったのを見て阿含の今日の「獲物」はびくり、と一瞬体を震わせながらも続きの言葉をなんとか紡ぐ。
「う、うん!
阿含くんと一緒に体動かしたいなあ、って思って。だめかな...?」
そういって金髪の少女は阿含の様子を伺うように阿含を上目遣いで見る。
「いや、構わないよ。
ただバスケなんてまともにやったことがなかったから少し不安になっただけさ」
先程の不機嫌な様子はどこへいったのかすぐさま顔にいかにも好青年といった感じの微笑みを浮かべながら対応する。
その様子に少女は頬を少しばかり赤く染め、阿含の手を引っ張って先導していく。
(あ゛〜かったりぃ。
なんで俺がバスケなんかやらなきゃなんねえんだよ?こいつがブスだったらすぐにでもほっぽりだしてやんのに。まあブスじゃねえからナンパしたわけだけどよ。)
内心なかなかにひどいことを考えながら手を引く少女を眺める。少女は阿含を引っ張ったまましゃべり続けており、阿含が見ているのには気付いていない様子だ。それに気づいた阿含はすぐに視線をドロっとしたものに変え、舐めるように足元から頭まで観察する。
(足はなかなかほそくて色白。スタイルも悪くねえが...如何せん胸が小せえな。B。盛ってC。顔もまあ悪くはねえが点数にすんなら70点くらい。初心な所はなかなかいいが性格が子供っぽいし、事に運ぶまで時間がかかりそうだな、こりゃ。)
総じて60点。
阿含は内心そうひとりごちて、
はぁ、としゃべり続けている60点の少女にきこえない程度のため息をつく。
(別にこんくらいの女どこにでもいるし、放置してってもいいが...同じ学校だし噂たったらたりいからなぁ。)
阿含と少女は同じ高校である。
阿含は学校からの帰宅途中、街中でたまたま目に付いた女子高生に声をかけただけだったのだが、話をしていたら少女が1つ上の学年の先輩であることがわかった。同学年の女子にはある程度目星を付けている阿含だが、流石に入学して間もない今では他学年までは目が届いていないようだった。
「....それでねー!
って阿含くん聞いてる!?」
少女がむっとした様子で阿含の方を見る。
「ああ、聞いてる聞いてる。
というかいま何処向かってるの?
近場でバスケできるとこあったかな」
「もう、露骨に話を逸らして!...いま向かってるのは学校の体育館だよ。今日は確かどの部活も休みでいまいったら多分貸し切り状態だよ!」
「あー、なるほど。学校ね、うん。確か最近桐皇、勉強だけじゃなくスポーツにも力入れ始めたんだっけ?」
「そうそう。進学校だけど私立だし、やっぱり学校側も勉強以外の面でもPRできるところをつくりたいんだろうねー。阿含くんは部活やるの?」
「部活、部活ねえ...。
俺はいいかな?」
「ええー!阿含くん運動できそうなのにもったいないなあ。」
「まあ、スポーツは得意だけど好きってわけでもないからね。それよりこうやって先輩と遊んでたほうが楽しいしね。」
そういってまた阿含はニコっ、と
笑みを浮かべる。
「そそそ、そう?わ、わたしも阿含くんと遊ぶの楽しいよ...?って、もう着いたよ、阿含くん!」
少女は赤く染まった顔を阿含から隠すように顔を前に向ける。
阿含は今到着した目的地のことなどどこかへ置いたまま、そんな少女の様子を観察していた。
(こりゃあ思ったよりちょろいかもな。ちょうどいいこったし、バスケでもなんでも適当にスポーツできるとこみせてやってから教える流れにもってって、ボディタッチできる状況を作るか。この様子なら多少のボディタッチくらいは許されそうだ。)
阿含は少女の態度からここからの一連の流れまでもを即座に頭の中に組み立てる。しかし、そんな阿含の思考は少女の声によって打ち切られた。
「って、誰かもうバスケやってない?」
ダム、ダム、とバスケット特有のボールが地面を何度もつくドリブル時の音が阿含と少女の耳に届く。ガラッと体育館の扉を開けると、コートには2人組の少年がバスケをやっている光景が目に入る。
「あ、あれれ?
今日はどこも部活なかったと思うんだけど...」
少女がつぶやく。
その呟きにバスケをしていた少年の一人が答えた。
「ワシらはバスケ部やけど、別に部活でやってるわけやないで?ただの自主練や。遊びにきたならワシらに遠慮せんでええよ。」
「ああ、成る程。ありがとうございます!じゃあ阿含くん早速遊ぼっ!ボールとってくるね」
そういって少女は体育倉庫へと駆けて行く。阿含は少女がいなくなったことで暇になったからかだるそうに欠伸をした。そんな阿含の耳に、バスケ部の少年の鼓膜を震わすどでかい叫び声が耳に届く。
『どっせーい!!!!』
(うっせえし暑苦しいしうぜえ。)
阿含が声の元へと顔を向けると身長190はあろうかというくらいのがっしりとした体つきの少年が叫んでいる姿が目に入る。
「うっせえぞカス!たいして上手くもねえだろうに声ばっか張り上げてんじゃねえよ!テメーは犬かよ?」
阿含の悪態が巨体の少年ーーー若松孝輔の耳へとしっかりと届く。
「は?お前いま、俺のことをバスケが下手つったか?」
突如見知らぬドレッドヘアーの男から罵倒されて困惑しながらも尋ねる若松。
「あ゛〜?いったよカス。聞こえなかったならもっかいいってやろうか?下手くそなくせに声ばっか張り上げてんじゃねえよカス。」
「なんだと!?てめえ、ふざけんじゃねえぞ!!」
阿含のあんまりな発言に若松は額に青筋を浮かべながら近付いていく。
「ちょ、若松。落ち着けや。」
近くにいた眼鏡の少年ーー今吉翔一が若松を宥めようと声をかける。しかし声をかけられた若松本人はというと、阿含の発言が余程頭に来ているのか今吉の発言を聞き入れる様子はない。
若松が阿含の首元を掴み、持ち上げようとする。
阿含が180cmほどなのに対し、若松は190cmをこえている。それに若松は力には自信があり、バスケでも比較的力が必要となるポディションでスタメンを獲得していた。
ーーーーしかし、動かない。
若松の力と体格をもってしても、阿含は1mmたりとも動くことはなかった。
(な、なんだこいつ。こんだけ力込めてんのにぴくりとも動かねえ...。)
若松は気味悪さを感じながらも仕方なしに首元から手を離すと、阿含に挑戦的な目を向ける。
「そんだけ俺のことを下手つうんなら、お前は俺よりバスケ上手いんだろうな?」
明らかな挑発。
しかし阿含はそんな挑発に黙るような性格ではなく、更に挑発で返す。
「あ゛〜?お前より俺が下手なわけがねえだろうが。」
「いったな!!なら1on1で勝負しろや!お前が下手つった俺の実力見せてやるよ!」
「あ゛〜?いいぜ、プチっと潰してやるよ。」
売り言葉に買い言葉、両者共に短気な性格が災いしたのか、流れるように勝負することが決まってしまった。止めようとしていた今吉はあちゃぁ、といわんばかりの様子で額を押さえている。
「勝利条件は先にゴール入れたほうが勝ちだ。3pの位置からうとうが、ゴール下から打とうが入りゃ勝ち。ハンデでもやろうか?」
若松は侮るような口調でそう聞く。実際若松から見た阿含は、髪型からかスポーツ等やるようには見えず、かつ身長も若松が所属する桐皇バスケ部の平均身長である185よりも明らかに小さく、あってもせいぜい180に見える。侮りが入るのは仕方のないことなのだろう。
阿含はそのことに気付いたのか、額に青筋を浮かべ、煽り返す。
「あ゛〜ハンデだぁ?てめぇみたいなカスからハンデとかいるわけねえだろうが。むしろ今上げなきゃやらねえかなあ、って思ってたとこだよ。」
「な、なんだと!?もうしらねえからな!!!後で後悔すんのはお前だ!」
バスケでの勝負だというにも関わらず、阿含と若松はいまにも殴りあいを開始しそうな勢いである。
「あ〜....わかったから怪我だけはせんようにしといてなお二人さんとも...」
そんな二人の様子に今吉はどうしようもない、といったふうにつぶやいた。
「あ、てか君名前なんていうんーーー
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
(あーらら...
まじでやるんか君ら...)
今吉はため息をはぁ〜、とつきながら思う。どうしてこんなことになったんだ、と。
そんな今吉の気持ちをまるで気付いていないだろう若松が阿含へと声をかける。
「ハンデなんていったんだから俺から攻撃でいいよな?つっても俺の攻撃からは始めたらお前の攻撃ターンはないまま終わるけどな。」
「あ゛〜んなもん別にどっちでもいいっつうの。強いていうなら俺が初めに攻撃したほうがその分早く終わるがな?」
ピリピリとした空気が両者の間を漂う。
(ほんま、水と油みたいな二人やな。なんだかこの様子見てると若松と青峰のいつもの感じ思い出すわ...。あって間もないのにむしろよくこんだけ険悪な仲になれるもんや...。)
今吉は若松と阿含の流れるような煽り合いにいつもの若松と青峰の掛け合いを思い出していた。
(まぁ、とはいってもーーーー青峰とあの...金剛阿含くんやったか。二人はちゃう。青峰は実際にバスケの実力があるが、阿含君はあの人髪型からしてスポーツマン、って感じやないし...。つうか、阿含君制服のまんまやる気なんやな。ならなおのことすぐに若松の勝ちで終わるやろうが...終わった後に収集つけんのが難しそうやわ、こりゃ。)
今吉がそう考えて憂鬱な気分でいると、若松が吼える。
「抜かせッ!俺が先取でこの攻撃で終わってやるよ!いくぞ!」
若松が叫び、ドリブルを始めた刹那ーー
空気が、変わった。
(な、なんや?)
先程までのへらへらとした巫山戯た態度は既に見られず、阿含は腰を低く落とし、迫る若松を静かに待ち構えている。
獲物を見つけた肉食動物が如き鋭い眼光。その口の端は吊りあがり、若松が来るのを今か今かと楽しそうに笑っている。ーーーーまるで蟻を潰す無邪気な子供のような、そんな笑みだ。
(こんなプレッシャー今までバスケやってきて感じたことないで...‼︎)
今吉は背中をひやり、と冷たい汗が流れていくのを感じた。
今吉は中学、高校通してバスケを続けており、多種多様な相手とマッチアップしてきた。しかしいまこうして感じる圧力はそれらの経験全ての上に行くものだった。
そんな阿含の変化を感じていたのは今吉だけではなかった。
阿含に相対している若松も、直にそのプレッシャーを受けて内心で動揺していた。
(なんなんだよこいつ...‼︎)
側から観戦しているだけの今吉よりも相対する若松は阿含から発せられる圧力を強く感じていた。
(この圧力、多分アイツよりも...重え...。)
若松の頭に浮かんだのは同じバスケ部の気に入らない青峰の顔。
若松は練習をさぼり続ける青峰のことを心底気に入らなかったがその実、青峰の実力だけはしっかりと認めていた。実力がある分だけに、なおのこと気に入らなかったのだ。
そんな負けん気の強い若松でさえ実力を認める青峰に近しい圧力を阿含から感じる。こいつはヤバい、と頭が警報を鳴らしているのが聞こえる。
だが、と若松は内心で続ける。
(いくら圧力で強く見えようったって、俺には今までバスケを続けて培ってきた経験や技術がある!俺がバスケやってないやつに、ましてや他のスポーツすらやってないような奴に負けるわけがねえんだ!)
若松は覚悟を決めて阿含へとドリブルで突っ込んでいく。
阿含は先程と同じ様に構えたまま動かない。その実、目だけはしっかりと若松へと定まっていた。
(右か、左か...どちらに切り込めば抜ける...?いや、ここは一度左にいくようにフェイントを混ぜてから右に即座に切り替えして抜く...!!)
若松が阿含の前で左に切り込む動作を見せる。若松の狙い通り、阿含はその動きに合わせて、即座に若松について行く。
(かかったなアホがッ!
本命は右だああああ!)
阿含から発せられるプレッシャーがむしろ若松に適度な緊張感を持たせ、普段よりも鋭いドリブルで若松は右に切り返す。
阿含はフェイントにかかった。
反対に切り替えした若松についてくるのはいまの若松のスピードや、阿含の体勢から考えて通常ではありえない。
ーーーそう、通常ではありえない。
「俺の...勝ちだッ!」
若松は勝ちを確信して呟く。
しかし、そんな若松の耳に悪魔の囁きが届いた。
「い〜や、違うね。
テメェの負けだカス。」
阿含を抜き去ったかに思えた若松の前にーーーー再び阿含の姿が現れる。
『!?』
若松と今吉の目が驚愕で見開かれる。
(な、なんで...!!俺はこいつを確かにいま抜きッーーー)
「はい、お疲れさん、と。」
バシッ、という音が体育館に鳴り響く。阿含は若松からボールを弾き飛ばし、そのボールがコートから出る前に即座に自分の元に確保していた。
ボールを奪われて困惑する若松とは対照的に、阿含が侮るような口調で若松を煽り始める。
「やっ〜ぱ、お前カスじゃねえか!俺みてえなバスケ未経験の、
ましてやスポーツすらもやってない初心者1人抜けねえとはなぁ?」
一体何が起こったのか理解できない若松は阿含の煽りにも反応を示さず、そんな阿含の姿を夢でも見ているかのような呆然とした様子で見ていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
(こりゃ、あかんわ。)
勝負はすぐに終わりを迎えた。
次に攻撃した阿含が、明らかに動きに力がない若松をあっさりと抜き去りレイアップで危なげなくゴール。
しかもその抜き方は、先程の若松が阿含に仕掛けた抜き方と全く同じだった。
失意のうちに立ち尽くす若松に、楽しげに笑い続ける阿含。
その光景を離れてみていた今吉は、すぐに冷静さを取り戻した頭でつぶやいた。
(今の1プレイでわかった。今の実力はともかく...阿含君の素質は青峰達【キセキの世代】と同列かそれ以上の....バケモンや。)
バスケの経験が長い今吉は確信する。
(今のプレー。阿含君は明らかに若松のフェイントに、かかっとった。あの体勢から反対側に切り替えした若松に追いつくのは普通の人間にはできるもんやあらへん。
ーーーやが、阿含君にはそれが出来た。)
今吉は先程の光景を思い出しながら考える。
そのありえないことを可能にしたのは、阿含の『反応速度』だと。
(若松が切り替えしたのと、ほぼ同時に阿含君はすぐに体勢を整えて若松の前に現れおった。若松の行動を「見て」から対応してたんやろが、圧倒的優位な体勢だった若松に難なく追いついた。
それは冷静に若松の行動を読みきっとったわけでも、経験から裏打ちされた野生の反応でもない。そんだけ若松を見てからの反応がありえへん速度だったっちゅうことや。これはもう努力とかでどうにかなるもんちゃう、先天的に与えられた天賦の才やで....。これでバスケ初心者、てのが信じられんくらいの動きや。
それに、
多分...阿含君はフェイントにまんまとかけられたんちゃう....わざとかかったんや。フェイントに掛かっても尚、それに反応できるだけの自信があったから...。
いや、正確には違うか?)
今吉は阿含へと目を向ける。阿含は未だに若松へと罵倒の言葉を吐き続けており、その顔には底無しの悪意がありありと浮かんでいた。
(初めから普通にボール奪うこともできたろうに、あえてフェイントにかかってからそれを潰す。自信があったから、というより若松のバスケへの自信や誇り、それを砕くためにこういうプレイをしたんかやろうなあ...。怖いやつやで...)
今吉はブルリと体を震わせる。
(やけど、)
今吉は緊張からか渇いた唇をペロリ、と舐めて考える。その姿は宛ら獲物を見つけた蛇のようだ。
(青峰に加えて、この阿含君もバスケ部に入れば....桐皇が全国1位になるのにも夢やあらへん...!!!)
そこまで考えて今吉は口を開く。
「なぁ、阿含君、やったよな?」
内心ではバスケを始めたばかりの昔の自分のように熱い思いで一杯だがそれをおくびにも出さずに今吉は阿含に声をかけた。
「あ゛〜?
なんだ?テメェもやるっつうのか?」
阿含は先程までの楽しげな雰囲気から一変し、刺々しい雰囲気を今吉へと向ける。
「いやいや、今の光景見てワシがやる気になるわけないやんけ。そんなことちゃう。」
「んじゃぁなんだっつうんだよ?」
「いや、何、ちょっとしたことや。」
ーーーーバスケ部、入らへん?
今吉の予想外の発言に、
【神速の反射神経】を持つ阿含は
しかしすぐには反射できず、硬直した。
ここまで読んでいただき
ありがとうございました。
続くかは未定です