この洞窟で数日も暮らしていたが、結果を先に言わせてもらうと、正直私がこいしに教えるようなものはなかった。
どういう事かと言うと、私とこいしがなった覚妖怪が原因であり、教える以前に私の心をこいしが読んで、理解してしまうからだ。私の記憶の中には魔法について細かく知っているからで、口頭で説明する場合はどうしても簡潔に説明しようと考えてしまい、漏れが出てしまい、場合によっては解りにくくなってしまう。しかし、私の心を読むことによって漏れの心配は必要なく、詳細に知ることが出来てしまうからだ。詳細なほど解りにくい場合もあるが、魔法に関しては基本的に自分の
そしてもう一つ、魔法を教えているときに気づいたことがある。正直こちらは私としても想定外なことで、覚妖怪という妖怪について少し侮っていたことだ――
「うーん、やっぱりお姉ちゃんが教えようとしている内容を私が読んで、その読んだ内容をお姉ちゃんがまた読んで、さらに私が同じ内容を読むから、わけ解らなくなるよ……」
「それは仕方ありませんよ。お互いに覚妖怪になってしまったのですから――」
私が想定外だと思ったことはこれだ。覚妖怪というのはてっきり心を読むだけだと思っていたが、相手が持つ記憶の内容を完全に記憶してしまうことだ。もちろん、人間と同じで一定時間が経過すると、どうでもいい記憶として消えてしまうが、もし覚妖怪が二人いるとしたらどうなるだろうか。
答えは簡単で、互いの記憶を完全に読んでしまい、それが何度も読み取ってしまう結果、完全に記憶として覚えてしまうため、半永久的に記憶していられる状態になってしまうからだ。さらに言えば、もう一人の覚妖怪を経由して他人の記憶も読み取れるので、それらの記憶を含めて忘れられることが出来なくなってしまう。実質的な完全記憶能力に近い状態になってしまい、現在の私とこいしの状況がこの状態になっていた。
ちなみに、この洞窟に人間は居ないのに、どうやってその完全記憶能力に近い状態になってしまうという結論に至ったかを言うと、覚妖怪は動物でも記憶を読めてしまうからだ。こいしが興味半分で近くにいた蝙蝠の心を読んだ結果、こいしを経由して蝙蝠の記憶が読めてしまい、その記憶をこいしがまた読み、さらに私がまた読んでしまったことによって、完全記憶能力に近い状態になってしまうと理解してしまったからである。そのため、既に数日も経過しているが、蝙蝠の記憶を忘れられずにいたりする。
「さて、私が使える魔法については記憶を読んで解りましたね」
「うん!! それで、どうするの?」
「この洞窟暮らしとさらばして、どこかの家で暮らそうかと」
本当であればもう少し早く洞窟を後にする予定で、既に居なくなっている筈でしたが、覚妖怪について詳しく知っていなかったということが理由で、少しだけ洞窟での暮らしを続けていた。
その結果、覚妖怪について解ったことは、先ほどいった心を読む能力についてと、人間の三代欲求についてどのようになっているのかという確認する事はできた。
性欲に関しては今のところ気にする必要もなかったし、たった数日では判断できないので確認していない。
睡眠欲については人間と同じで眠くはなるが、毎日寝る必要はない模様。とはいえ、私とこいしは元々人間だった事もあって、人間だった癖もあって毎日寝るようにはしているけども。
食欲についても睡眠欲と同じで毎日食べる必要はない模様。これも睡眠欲と同じで、私とこいしはできる限り食べ物を食べるようにはしている。
全体的な結論を言うと、人間の三代欲求については曖昧になっていると理解する事ができた。これは覚妖怪に限らず、他の妖怪についても曖昧な感じになっているのだろうと私は考え、原因としては人間たちの微妙な認識違いによるものだと私は考えた。要するに、妖怪というものは普通に食べ物を食すると考えている方と、食べ物を食さないと考えている方がいるからこそ起こっているものだと推測できた。
妖怪というものは基本的に人間のイメージによって生まれてくることが前提なので、人間の三代欲求が曖昧になったのも、人間が統一した考えになっていないからだろうと私は思っていた。
そう考えてみると、一部の妖怪によっては大きな違いがある妖怪もいるかもしれないと考えた。例えば、狐が油揚げを好きなように、元の動物によっての影響も考えられたからだ。私としては興味がある事柄で、さらに言えば覚妖怪ならば性格や好物も確認する事は容易なので、今後動物系の妖怪をペットとして飼ってみたいと私は思っていた。
――閑話休題
「それではこいし、行きますよ」
「はーい」
私とこいしは数日の間暮らしていた洞窟を後にして、方向を西に向けて移動し始めた。
何故西に向けて進めているかと言うと、私たちが妖怪になる前に暮らしていた場所が未来の山梨県にあたる場所であるからで、東に進めば江戸に向かうことになるので、逃げるならばその反対の西に逃げるべきと考えたから。ちなみに西の確認方法は太陽の沈む方向を前日に確認して、そちらの方向に向けて歩き続けた。現在は夏だということもあり、太陽はほぼ真上を進んでいくようになっているので、影を見て方向を確認する事も可能だった。
しかし、道というものがある以上、真っ直ぐに進むことは実質的に不可能な事であり、なるべく人通りがある所には出たくはなかった。一応、こいしに魔法を教えたことによって、私とこいしは人間だという認識させる魔法を常時使用しているが、常時というのは意識し続けないと行けないので、なにか起こった際も考えて森の中からを進んで、西へ向かうしかなかった。
「こいし、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよー というか、まだ洞窟から出て少ししか経ってないのに……」
「し、心配するくらいいいではないですか!!」
「あはははは、お姉ちゃん可愛い」
心配しただけでこいしにからかわれたりしたが、兎に角今のところ心配する必要はなさそうだと私は安心していた。
私がこいしを心配するのは実は訳があったりする。確かに心配するのは早すぎたかもしれないが、西へ歩いている間に確認したいことがあったからだ。
人間の三代欲求が曖昧になっているように、体力についても曖昧になっているのではないかという事だ。そのため、今日は休憩もせずに日没まで歩き続けるつもりで、こいしには前日に確認を取っていて、了承をしていた。
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結論を言うと、日没まで歩いても疲れないことが判明した。やはり体力についても曖昧な解釈をされているようで、普通の人間よりも体力は余裕に越えていた。とはいえ、まさかに日没まで休憩もせずに歩いても問題ないのはさすがの私でも驚きだった。というか――
「山を登って降りても全然大丈夫だったなんて思わなかった……」
「でも楽しかったよ。初めて登山なんかしたから、山の上から景色を観るのがあんなに綺麗なんて……」
そう、日没になるまでに何故か登山をしていた。きっかけは私が――
『そういえば、今度どこかの山に登っても大丈夫か確認しませんといけませんね』
『なら、今すぐ登山しようよ!! 一度でいいからしてみたかったんだ!!』
というこいしの一言で、急遽登山を始めることになった。正直今考えればあまりにも無謀で、夏だとしても防寒具を何一つ用意せずによく登山なんかしようと思ったものだ。しかもあの八ヶ岳に――
危なくなったら引き返そうというつもりではあったが、結局はどのくらいの寒さまで耐えられるかという馬鹿な考えを優先してしまい、そもそも夏だから正確な判断ができないことを下山してから気づく始末で、ほとんど登山する必要がなかった。体力を消耗させるために登山したようなものだが、こいしの楽しかったような顔をしてくれただけ良かったのかもしれないと私は思っていた。
「そういえば、今日の夕飯はどうするの?」
「今日は登山なんか急遽してしまいましたから、あまり手には入りませんでしたよ」
「そっか……まぁ、登山が楽しかったから今日はいっかな!!」
こいしはちょっと落ち込んでいたが、それよりも初めて登山したことが嬉しかったようで、すぐに気にしなくなっていた。転生して江戸時代にきているため、私としては登山なんか珍しくもないが、やはりこの頃の人間からしてみれば珍しいのだろう。その感覚は私には解らないが……
「それではもう寝ましょうか? 明日も移動しないといけませんから」
「うん!! それじゃあお姉ちゃん、いつものようにして!!」
「まったくもう、こいしは甘えん坊何だから……」
こいしはその場で横になり、私をこいしの隣に誘ってきた。妖怪になる前からだが、相変わらず私と一緒に寝たいらしく、そんな見慣れた光景に私は苦笑しつつもこいしの隣で横になった。現在、私たちが居る場所は森の中であり、このまま横になれば服などが汚れてしまうが、そんなことは洞窟で何度も寝てしまえば慣れてしまうもので、寝心地的にも洞窟より森の中で寝る方が良いだろう。
そして私とこいしはお互いに数分もせずに就寝してしまった――
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その後も、私とこいしは西を目指して歩き続けたが、私達が暮らしていた場所から離れた所まで歩いたところで、一旦里に寄って見ることにしました。
ここまで歩いている最中も、武士や商人らしき人間に遭遇することはあったが、私たちが妖怪だということに誰も気づくことはありませんでした。どうやら認識を変える魔法を使っているお陰で、覚妖怪だと気づくことはなく、ここまで余計な登山を一回行ったこと以外は想定通りだった。元々一度だけ登山をする予定であったが、こいしが八ヶ岳を登りたいと言いだしたがために二度も登山する事になってしまった。二度目の山登りをすると知ったこいしはまたしても嬉しそうな顔をしていたことは、言うまでもない。
ちなみに、二度目の登山を避けようとしなかったのは、山を避けて歩くことになるとかなりの遠回りをしなければならない理由があったから、一度だけ登山するつもりでいたからだ。
「ねぇ、どうして里に寄ることにしたの?」
「さすがにここまで追いかけてくる人は居ないからよ。二度目の登山をしてこの付近の里に来たなんて、さすがに思わないでしょう」
「ふーん……そういう事ね、お姉ちゃん」
今更言うことだが、私は昔から地理についてはある程度理解している人間だった。というより、魔法によっては場所を指定される場合もあったから、間接的に地理を理解する必要があった。正直苦手分野で、日本の地形を把握することですら時間を要したが、結果的に今に繋がっていると考えると良かったのかもしれないと考えた。さすがにどこに何の町や村があったかなんて覚えているわけないし、未来を見てみたら衰退した村や無くなった村なんて数え切れないほどあるだろうから、そんなところまで私が把握しているわけがない。結局のところ、過疎化と未来で何度も聴かされたくらいだが、どんなに対策したところで、不便な場所に暮らそうとする人間なんて、極少数だったことに変わりなかったのだから――
――閑話休題
この村に立ち寄った理由はこいしに伝えたこと以外に、もう一つだけ理由があった。というより、もう一つの理由の方が強かったりする。
――この里、さっきから様々な気配を感じ取れるからだ。こいしが私の回答に納得したのは、私の心を読んだからだろう。というより、こいしの反応からするに、私と同じで気づいていたのだろう。
人々の様子は他の里と変わらない。しかし、里の中にいる妖怪の数が他と比べて多かった。人間に化けて里を歩いているようだが、覚妖怪である私たちは勝手に他人の心を読んでしまうから、誰が妖怪で誰が人間なのか理解してしまう。
しかし、無闇に妖怪だと教えるつもりもないし、なぜこの里に多くの妖怪が潜んでいるのかという興味の方がかなり強かった。
「……こいし、ちょっとこの里で時間を潰しましょうか」
「……いいよ、お姉ちゃん。私も気になるから」
いつもなら、私に構って欲しいと無邪気なこいしだが、今のこいしは雰囲気が違っていた。そのことに私は少し驚いたが、考えてみたら私の記憶を全て知られているため、私並に知識は持っている状態だとすぐに理解した。
兎に角、私たちはこの里についてよく解らないので、調べることにした――