里の宿で一泊した私とこいしは、とりあえず里の様子を観察することにした。
何故宿に泊まれるだけのお金を持っていたかと言うと、両親と離れる際に一年分生活できるくらいの金額を渡されたからで、半年間宿で泊まれることを考慮した分の金額だった。その一年の間に仕事先を見つけて、二人だけで暮らせるようにということを考えて渡されたものだが、覚妖怪となってしまった今では、最低でも食費に多少使ってしまうだけで済んでしまうくらいなため、両親が今日までに使うだろうと思われた金額以上は残っていた。余っている分には問題ないかもしれないが、正直使い道があまりないということもあって……
「お姉ちゃん、ここのお団子美味しいね!!」
「えぇ、確かに美味しいですね……」
とまぁ、こいしが甘味処を見つけ、こいしが食べたいと言われたものですから寄ることになったのです。まぁ、休憩しながら周りの様子や心読むことは可能なので、何か問題があったかと言えばないですが。
お団子を食べつつ、私は甘味処を通りがかる人間たちの様子を観察していた。人間たちは他の里と同じように、これといった違いはないが、通りがかる中には人間に化けた妖怪も少数だが見かけることができた。私たちも魔法で妖力を押さえ込み、人間だと思い込ませているので、妖怪側からも私たちが妖怪だと気づく気配はなかった。また偶然にも、目の前で妖怪同士がすれ違う様子を見かけることができ、妖力でお互いに妖怪だと気づいていたようだ。近くの甘味処で覚妖怪がのんびりとお団子を食べていると知らずに。
「すみません!! お団子のお代わりを!!」
「……こいし、いつの間にそんなにお団子食べていたのですか」
「うん? ついさっきかな?」
私が観察している間に、こいしの皿にはどう見ても二桁を越えている串が乗っていて、さすがに食べ過ぎだろうと思ってしまった。
またこのとき、私は妖怪って太ることはあるのだろうかと、ちょっとした疑問が出たが、自分で試してみるのは嫌だったし、こいしに溜めさせるなんてそれこそ私が許さないので、とりあえず気にしないことにした。変なことを考えていたと、こいしに知られるだろうと思いつつも――
「お、今日は空いてるね。すみません!!」
そんなくだらないことを考えていたら、女性っぽい誰かが甘味処に寄ってきていた。声が聞こえたので私は思わずその声が聞こえてきた方向に顔を向けたが、私はその女性を見て思わず驚くことになった。
長い髪をしていて、転生前の名前で言うと先天性白皮症――要するにアルビノと言われているように髪の毛が真っ白だった。この日本では珍しく、さらに今が江戸時代と考えれば、その若さでの真っ白な髪をしている人は居ないだろう。
私は思わず、彼女を観察したいと思ってしまい、彼女の様子を見続けていた。覚妖怪故に自然と彼女の記憶を全て見てしまうことすら忘れてしまい、彼女の記憶を知ったときに私は表情に出してしまうほどに驚いてしまった。
まず驚いたことは、彼女の生まれは平安の頃で、苗字も藤原だったこと。この時点で妖怪よりも長生きしている場合があり、妖怪になったばかりの私やこいしでは比べものにならないほどの長生きをしていることだ。
次に驚いたことは、先ほどの生まれからして妖怪なのかと思っていたが、一応人間であるということ。どうやら、ある薬を飲んだことによって不老不死となってしまい、そのおかげで死ぬことが出来ずに生き続けていられるらしい。その不老不死のせいで、里などを転々と移動しなければならなくなったらしいが、この数十年はこの里から少し離れた所にある森林の中で暮らしているようだ。
そして何よりも驚いたことは、彼女が何もないところから炎を生み出せることだ。正直私としては不老不死なんかよりも驚きで、長年生きていたから炎を生み出せるようになったということに驚いた。要するに独学で身につけたようなもので、また魔法と違って能力みたいなものだということに私は驚いた。
私が驚いたままの表情で彼女を見ていると、彼女がお団子を買って振り向き、私が彼女を見ていたことに気づかれてしまった。というより私が驚きすぎて、見ていたことを気づかれないようにする事を完全に忘れていたからということが原因ですが――
「うん? なんか私に付いているのか?」
「あっ、いえ、そういうことではなく」
「……まぁ、いいや。隣に座らせてもらうよ」
「あっはい。別に構いませんが……」
なんか怪しまれたような気がしますが、彼女は私の右隣に座り、先ほど買っていたお団子を食べ始めました。
「…………」
「…………」
「お団子もう一つお代わり!!」
私と彼女は何かと気まずい空気になっていたが、空気を斬るかのようにこいしは気にせずにお団子を追加していた。というより、こいしはお団子に夢中で周りの重い空気に気づいていないだけのような気がした。
そんなこいしをいつの間にか彼女は見ていて、こいしを見ながら私に話しかけてきた。
「……いいのかい?」
「……なにがです?」
「いや、私が来る前からお団子を食べていたけど、お金は大丈夫なのかと思って」
「お金については心配しなくても大丈夫ですよ。無駄に使えるお金はたくさんあります……し」
私が話しながらこいしを一度見たとき、皿に乗っていた串の数が一目で見ただけでは数えられないほどの量になっていた。別に払えない訳ではないですけど、いくら何でも食べ過ぎではないかと私ですら思ってしまった。
「……こいし、さすがに食べ過ぎだとお姉ちゃんは思うのですが……」
「だって美味しいんだもん!!」
「確かに美味しいと思いましたが、食べ過ぎです!! ほら、店員が本当に支払ってくれるのかと、こちらを睨んで来たじゃないですか!!」
「なら、これで最後にする!! もうちょっと食べたかったけど……」
「……当分の間はこの里付近で休憩するという事になりましたから、別に今日だけ食べられるということではないでしょう」
「あっ、そうだったね!!」
ようやく納得してくれたのか、こいしが残り一本を食べ終えたことを確認した後、私は支払いをするために店員に近寄った。しっかり支払いしてくれたお陰で店員は表情を笑顔に変えていた。
お団子も食べ終えたことなので、私とこいしは甘味処を後にすることにしたが、その前に一応彼女にお礼しておくべきと思い、私は彼女に近づいた。
「さっきは気づいてくれて、ありがとうございます。言ってくれませんでしたら、こいしはもっとお団子を食べていたでしょうから」
「別にお礼されるようなことはしてないよ。それよりも、ちょっと気になることがあったからいいかな?」
「はい、別に構いませんが……」
「ここじゃあ、ちょっと人通りが多いから森の中に移動しよう。ちょっと待っていてくれ」
そう言って彼女はお団子の会計を済ませに立ち上がり、料金を払いに店員へ向かった。
この時すでに、彼女が私――いや、私たちに聴きだい事は心を読んでしまったために知っていた。どうやらこいしがお団子に夢中になりすぎて、妖怪だと完全に隠しきれていなかったようだ。でも、意識し続けながら別のことをやるなんて難しい事なため、前々からこいしには酷なことをさせているとは思っていたので、その内気づかれるだろうとは思っていた。それに、今後のことを考えれば今の内に気づかれて改善してもらった方がよろしかった――
その後、会計が終えた彼女が戻ってきたことを確認した後、私とこいし、そしてアルビノっぽい彼女の三人で人通りのない森の方へ向かっていった。
その途中でこいしは何故彼女がついて来るのか疑問に思ったようだが、私や彼女の心を読んで、自分のせいだと落ち込み始めたが、励ますのは彼女の聴きだい事が終えてからにしようと私は考えていた。
そして、二、三十分歩き、私たち三人は人通りのない森に来ていた――
「この辺で大丈夫かな? さて、聴きだいことだが――」
「私たちが妖怪ではないかということでしょう?」
「……よく解ったね。で、その答えを教えて貰っても構わないか?」
「いいでしょう。どの道隠したら私たちは妖怪ですと言っていることに変わりありませんし。まぁ、あなたが思っている通りですよ。藤原妹紅さん」
名前を教えてすらいないのに、彼女こと藤原妹紅さんは一瞬だけ驚いた顔をした。誰だって教えていない名前を知られていたら驚くだろうが、藤原さんの場合は驚きはしたが何故か納得もしていた。
「……なるほど、ここ最近話題になっている覚妖怪か」
「名前を知られただけでよく解りましたね」
「昔妖怪退治をしていたこともあってか、そういう察し能力は自然と身についてしまったんだよ。まぁ、君たちには私が何をしていたかなんて知られていると思うが」
「……えぇ、解ります」
確かに藤原さんの記憶は生まれてから今に至るまでの過去を覚妖怪故に知ってしまいます。とはいえ、ここでその過去のことを話すために来たわけでもないし、穏便に済ませるために余計なことを言うつもりはなかった。
「それで、私たちは確かに覚妖怪ですが、どうするつもりでしょうか?」
「別に何もするつもりはないよ。というか、そのことすら心を読んで解るのだろう」
「口頭でしっかりと聴きたかったもので」
「……人間みたいなことを言うのだな」
「元々人間でしたからね」
私とこいしは妖怪になったのはここ最近ですし、私に至っては、転生前を含めてしまえば35年近くも人間生活していたものですから、妖怪歴1年も経過していないことに比べてしまえば、人間らしさの方が多く残っているに決まっていた。
藤原さんは私たちが人間だったということについて気になったようだが、それを口にしようとは思わなかったようだ。気を使っての判断だろうが、別に話しても構わないし、魔法については話したくなかったから、その辺の経緯を削りながら、私は話し始めることにした。
「人間だった経緯を知りたいようでしたら話しますよ。隠しておきたいことでもないですし」
「しかしな……いや、そっちが大丈夫というのなら聴いてもいいか?」
「解りました。覚妖怪になった経緯を話しますね」
他人にわざわざ話すことでもなかったが、やはり両親の情報が多少でも欲しかったからだ。藤原さんは過去に妖怪退治をしていたから、妖怪に関する情報は自然と入ってくると先ほど言っていたので、もしかしたら何か知っているかもしれないと思ったのだ。別に心を読んでその中から情報を探せばいいのかもしれないが、藤原さんの生まれは平安時代の頃ということを考えれば、膨大な記憶がある中から心を読んで探すよりも口頭で答えて貰った方が良いと考えたからだけだ。今考えていることならすぐに解るのですけど。
兎に角私は、藤原さんにこれまでの経緯を全て話した。両親が相手の表情を読んで、アドバイスをしたりするような仕事をしていたことを。そしてそれによって妖怪だと勘違いされ、私とこいしが逃げている間に覚妖怪となってしまったことを――
「……成る程ね。でもまさか、人間から妖怪になる場合があるなんて知らなかった。噂が真になるか……」
「はい。私たちも噂によって覚妖怪になってしまいましたし……藤原さん?」
「ん? あぁ、ちょっと考え事をしていた。そういえば、覚妖怪は処刑されたという情報が少し前に入ったけど、あれはそういうことか……」
「それって――」
「それって本当っ!?」
今まで黙っていたこいしが、私の声を遮って藤原さんに思わず聞き返した。さすがに私としても気になり、処刑されたということからして嫌な予感しかなかった。というより、藤原さんから口頭で言う内容が、先に心を読んでしまい、こいしも多分私と同じように心を読んでしまい、私たちは絶望した。そして、藤原さんは私たちが絶望していた内容を、口頭で話し始めた――
「確か一昨日のことだったかな。民衆の前で二人の覚妖怪が火あぶりの刑にされたとか」