「こ、怖かったよ、お姉ちゃん!!」
「……私としてはこいしが無事で良かったです」
こいしはなんとか私の近くに来て、ここまで逃げ切ったことに少し安心していた。
こいしの心を読んで、情報共有や私と離れた後の経緯について調べたいところだが、今はそんな心を読んで、考えている場合ではないと思い、兎に角この状況をどうにかしなければと私は思った。
八雲紫の心を読んで、あの妖怪がルーミアという名前だと知ったが、それくらいしか状況が把握していなかった。兎に角、あのルーミアはこいしに敵意を向けているので、まずはそこからなにかしようと私は考えていた。
「……そうね。ここはそこにいる姉の覚妖怪に任せてみましょうか」
「……はい?」
私が考え事をしていると、八雲紫から耳を疑うような内容が聞こえてきた。素っ頓狂な顔をしていたと思うが、八雲紫が言った内容に、何故私が戦わないといけないのかと。
「あら、別に強制はしないわよ。断ったら私も稻河神社を襲おうとしたという理由で参加するだけですから」
「……半強制的じゃないですか」
確かに私は博麗沙良や八雲紫からしてみれば不審者なので、襲われても理由としては問題なかった。さすがに私もルーミアと八雲紫の二人を相手にするのは嫌なので、ため息を吐きつつも仕方ないと割り切ることにした。
「……解りましたよ。それに、ルーミアという妖怪は待ってくれなさそうですからねっ!!」
私が話している間に、ルーミアが先ほどこいしに使った黒い槍を私たちに向けて放ってきたので、私やこいし、そして博麗霊幡と稻河神社を囲むように三重に重ねた防御魔法を展開させた。未来では何重に重ねるほどの防御魔法でなければ、もし襲撃にあった際に防ぎきれないような世の中だったので、三重に重ねるなんて当たり前の魔法で、これでも少ない方なのだ。
「お、お姉ちゃん?」
「こいし、心を読んでいるから解るでしょうけど、これが私の魔法だということを見ていなさい」
私は術式を唱えることはせず、自分の右手に魔法陣を展開させた。すると、そこから機械らしき円柱の物が現れた。
八雲紫は私の魔法を見て、驚いているようだった。それもその筈、この時代の魔法というのは科学的な魔法と言うことでもなく、炎を唱えることや、砲撃を唱えるのが常識で、私が使う魔法みたいな人は誰もいないからだ。
科学技術が進化していくように、魔法も進化していった。世間に対抗出来るような魔法に、科学技術を取り入れた魔法にと――
私が使う魔法は科学魔法。転生前の魔法使いにとっては当たり前の魔法とされ、効率性を追求された結果生まれた魔法だ。今の魔法使いからしてみれば面白みのない魔法になってしまっているが、昔と変わらず魔法の研究をする事には変わりがなく、私としてはそれが魔法使いとして常識だと思っていた。正確には、科学魔法以外にもう一種類別の魔法があるのですけどね。
今出現させた機械らしき物も、実は私が考えた魔法で、私が一番愛用している魔法だった。私はそれを手に装着させ、ルーミアに放った――
「……
私が唱えた刹那、手に装着させた機械からルーミアに向けて炎が放たれた。
なぜドイツ語なのかについてだが、特に意味はなく、私が転生前にドイツ語を専攻していたからだけに過ぎない。英語も話せなくないけど大学生の頃は英語よりもドイツ語の方が身近だったからだ。
「ふん、そんな炎の攻撃、当たると?」
「さぁ、どうでしょうね」
私が意味深な笑みを見せた直後、先ほど私が放った炎が突然数え切れないほどの炎に分裂した。分裂したと言っても小さくなった訳でもなく、同じ大きさの炎が沢山に生まれたと言ってもおかしくなかった。
「なるほど。どうやら私が追いかけていた相手の姉なだけあって、面白い術を使うのだな」
「避ける場所なんて与えません……と言いたいところですが、弾き返せると」
「姉なだけあって、やはり私の心が読めるのか。だが私がやることに変更はない!!」
ルーミアは槍を生み出した用法で、真っ黒な刀を生み出していた。そしてその刀を横に振りかざすと、弧を描くような形をした闇のような物が、私の後ろにある神社を飲み込むような勢いで迫ってきた。私の背後にはこいしと霊幡が居るので避けることは出来ないので、私がすることは一つだった――
「……
直後、私が装着している右手から銀色した液体が溢れ出し、私たちを護るように壁を生み出した。
シュタール――日本語訳でいう鋼だが、そもそも私が使っているものは、科学的に言えば鋼という分類にあたらないし、そもそもこの世の中にあるような金属ではない。それ以前に先ほど使用していたフランメも、燃焼に使用しているものに関しては、この世にある金属ではなかった。
この時代で言わせれば錬金術によって生み出されるものに近い物を私は使用している。これは転生前の父方の一族による影響で、物質的な魔法を使用する際は、どうしてもこの世にない物質を過程にしなければ、炎や水を生み出さないといけないという問題があった。その代わり、この世にないような物質などを生み出せるのだが、この部分は物凄く頭を使わなければ生まれてこないし、私の場合は炎や水などのこの世にあるような物しか作れなかった。零から一を生み出す発想は科学技術が進化していく度に減っていき、転生前の家族もそうだったが、当たり前の物しか生み出すことしか出来なかった。言ってしまえば、宝の持ち腐れになってしまっている魔法を私は使っているようなものだった。
閑話休題
私はシュタールを展開させたが、闇や光というのは物質を持たないと考えているので、防ぎきれるか難しいところだった。
闇や光は言ってしまえば光源による変化で、それを攻撃として扱われたら受け止められるのか疑問だった。しかし、光源と言うことはそれを妨げるものがあれば防げるのではないかと私は考えていた。
しかし、妨げるものがあれば防げるという考えは、絶対にあり得ないことだと、私はシュタールを使用してから気づいた。妨げることによって防げるということは、人間や妖怪に当たったところでダメージがないということを意味してしまうので、そのような攻撃をルーミアがするとは思えなかった。願う事なら、シュタールによって攻撃が防げることを祈るしか、私はなかった。
そしてその願いを願えるかのように、シュタールの魔法によって、ルーミアの攻撃を防いでいた――
「ふぅ、少し危なかったです。それと八雲紫、こいしと博麗霊幡を別の所に移動させるべきでは?」
「……それもそうね。二人を私の近くに置いとくわ」
八雲紫と話している場合ではなかったが、こいしと博麗霊幡がこのままでは巻き込まれる可能性を考慮して、八雲紫にお願いした。博麗霊幡のことを考えれば、八雲紫が同意してくれると思ってお願いしたが、予想通りの返答が帰ってきた。こいしまでしてくれるかは微妙だったけども、こいしも移動させてくれるようなので、私としては助かった。まぁ、八雲紫の心を呼んだ際に、私の力が本気出せなさそうという理由だったらしいが。
「わ、わわわっ」
八雲紫の能力によってこいしは突然宙に浮いたような感覚になって驚いていたが、博麗霊幡は慣れているようで、驚いていなかった。こいしと博麗霊幡を移動した後、八雲紫は移動させたからには本気出しなさいと、心の中で敢えて思い、私に伝えてきた。確かにルーミアの実力
を試すために科学魔法を使っていたが、私が使う科学魔法だけでは勝ち目が無さそうと思い、右手に装着させていた物を解除した。
科学魔法を突き詰めれば強力な魔法を生み出せなくないのかもしれないが、昔から発想を浮かばせるのは苦手なもので、私自身魔法に向いていないと考えていた。まぁ、一つを除いてですけどね。
「どうした? もう諦めたのか」
「違いますよ。今使っている魔法では勝てないと解っただけです。さっきは防げましたけども、あれは本気の攻撃ではないでしょう?」
「ほう、解っているのか」
「えぇ、覚妖怪ですからね。そして、あなたの感情も全て、私には筒抜けですよ。心を読まれていると知ったから、あなたは即座にこいしを殺そうとしたのでしょう?」
「……そうだ」
ルーミアの心をようやくゆっくり読むことができたから、わたしはこいしを追いかけていた理由を述べた。特にルーミアの場合は生まれた切欠が負の感情によるものなので、他人に知られたくなかったのだ。
「私は人間の負によって生まれた存在だ。だからこそ私を生み出した人間が憎いし、殺したいとも思うくらいだ!! 何故私に負の感情を投げてくる人間に怒りが出てくる!!」
「……怒りですか」
「そうだよ!! そして、それを知られたお前たち姉妹は絶対に殺す!! なにがあってもっ!!」
ルーミアの思っていることは心を読んでいたので解っていた。そしてそれが、私による誘導だとも知らずに――
覚妖怪といえば、心が読めることよって、忌み嫌われている。そんな覚妖怪に私はなってしまったが、覚妖怪なったおかげで、私が一番得意としている魔法を気軽に使えるようになったという利点が実は存在した。
転生前の母方の一族が受け継いでいた邪の魔法で、魔女の一族と言われていた過去があるくらい。しかし相手の感情を表に出さなければ使えないという、物凄く扱いにくい魔法だが、覚妖怪になったことによって扱いにくさについて心配する必要がなくなった。元々私は母方の魔法を得意としていたこともあり、覚妖怪になったことは、私にとって利点でしかなかった。
『――
刹那、私を中心に魔法陣が展開される。先ほどの科学魔法で使用した魔法陣と描かれているものが違っていた。
「な、なんだこれは」
『――それは憤怒という大罪の一つ――』
「……物凄く嫌な予感がする。仕掛けられる前に殺す!!」
ルーミアは私が使った魔法を見て、嫌な予感をしていた。その予感は正しいもので、これから私がしようとしているのは禁忌魔法でもあるから――
しかし、ルーミアの行動は既に遅かった――
『――大罪を犯したものに自らの罪と罰を与えよ』
「っ!?」
私が唱え終えると、ルーミアは思わず動きが止まった。嫌な予感を覚えたしたから動きが止まったわけではなく、自分自身の心に違和感を覚えたからだということを、私は知っていた。まるでそれは、平衡感覚を失ったかのような、何かしらのものが抜け落ちたかのように――
そして私は右手を地面に殴るかのように突っ込んだ。すると、魔法陣が右腕ごと飲み込むように波立ち、それから私は右手に何かを持ちながら引っ張った。引っ張り出した物は赤黒い色をしていて、
ルーミアは自分の身に何が起こったのか未だに理解できず、私が何かしたと思って睨んでいた。しかし、その表情には怒りがなく、私が心を読んでも怒りと言う先ほどまでの感情はなくなっていた。
「……何をした」
「簡潔に言えば、あなたの怒りという心を奪いました」
「怒りを……だと……」
「はい。そして、その心をこの剣の力として変換しただけです」
そう――相手の大罪である感情を奪う魔法――大罪魔法であり、カテゴリー自体が禁忌魔法とされているものだ。禁忌魔法とされている理由として、最大限で使用すると、与えた相手の感情が壊されてしまうからだ。今回で言えば、怒りという感情が奪われ、一生怒るという感情が出来なくなってしまうほどだった。そのため、さすがの私も最大限まで出してなく、一定時間が過ぎればまた怒りが出せるくらいの吸収量に留めてあった。
とはいえ、これでも転生前の時代の時では弱体化させたもので、昔の大罪魔法はもっと酷かったと言われているくらいだ。なんせ、大罪に合わせた悪魔の力を借りていたと言われているのだから、禁忌魔法の中でも危険と言われていた魔法だからだ。
「さて、怒りを失いましたけど、まだ私を殺そうとしますか?」
「……何故だか解らないが、お前を見ていると何故か殺したくなる」
「まぁ、怒りを失っただけで、根本的な感情は消えてないですからね。なら相手しましょうか……この自分の怒りとね」
私は飛び上がり、ルーミアへ一気に近づいていった――