鎮守府の超能力アサシン   作:メイン盾

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ep.10 中立

「はぁぁ~だっりー.....」

 

「そんなこと言わずに、ほら、シャキッとして!」

 

宗介は崩れ落ちる。鎮守府が危ないだとか、艦娘の生死だとか、彼にとってはどうでもいいことで頭を使い過ぎたのだろう、やる気が全て失われてしまった。よくよく考えれば、彼は軍属ではないのだから。

 

「もー嫌だ~....好きに轟沈してろっつうの....あれ?地上でも轟沈なのか?つか軍艦が何で陸にいるわけ?いやそもそもなんで軍艦を女の形にしようと思ったわけ?気が触れるわけ?理解できねえ....」

 

本音が止めどなく溢れてくる。耳が痛い。実は提督も、どうして艦船が女性、女の子になっているのかは理解に苦しんでいた。宗介がいつも言っていた。

 

「兵器に情が移るだけだっての.....だからブラックだのホワイトだので争ってんじゃん。バカなの?30世紀の軍人ってバカばっかりなの?」

 

「言ってることは分かるけど、今はやる気出しなさい!女の子助けて王子様になれるかもしれないわよ!」

 

「資材で建造された女の子はちょっと守備範囲外かな」

 

「いーからさっさとやりなさい!」

 

「はいはい.....チッ」

 

「もっと聞こえないように舌打ちしなさい!」

 

現在、深海棲艦抹殺本隊の伊勢型航空戦艦は無線封鎖を実施しているが、宗介が気付いた、深海棲艦の罠に嵌められたという事実を伝えるために、無線封鎖をクラッキング、強制的に解除させようとしていた。尤も、本人はそれを渋っているが。

 

「もういいじゃん、封鎖されてんならそのままで。トラップにハマってもあいつらならどうにかするって。航空戦艦だし」

 

「なーらあんたが行ってきたら?強いし」

 

「なに言ってんだ。食堂(ここ)にたくさん防弾シールドがあるじゃねえか」

 

食堂をぐるりと見回し、自分の警護対象でもある錬度の低い駆逐艦や軽巡を指差す。

 

「チクショー何で僕がんなことを.....」

 

「慣れてないの?」

 

「こんな時代だぞ?生かすより殺す依頼の方が圧倒的多いに決まってんだろ」

 

「ああ.....うん.....そうね」

 

予想通りすぎる。むしろ、宗介が依頼とはいえ人助けをしている姿を想像すると、なんだか気分が悪い。犯罪者という先入観からか。

 

「やればいいんでしょ、やれば。天才クラッカー宗介さんをナメんなよ!」

 

ノートパソコンのキーボードを叩く。ヤケクソ気味だが、作業自体は効率的で恐ろしく速い。クラッキングを開始しておよそ10分が経過すると、もう鎮守府のルートクラックに成功してしまった。

 

「よーしよしよし、いい感じだ。さすがスーパークラッカー宗介、ケビン・ミトニックも裸足で逃げ出すレベルだ」

 

「どう?解除できる?」

 

「当たり前だ」

 

画面上に緑色でACCESSの文字が出る。これで通信可能な状況となったのが分かると、宗介からヘッドセットを引ったくり、装着することなくマイクに話し掛ける。

 

「抹殺本隊、罠に警戒されたし!繰り返す、罠に注意し慎重に発見せよ!こちらは―――」

 

宗介は目を細め、提督の声を遮るために自分の人差し指を提督の口に突っ込む。

 

「静かにしろ提督。妙だな.....」

 

「んー!むー!」

 

「うっせえ、騒ぐなバカ」

 

さっきから応答が全くない。伊勢はともかく、日向が不自然なくらいに静かだ。日向の無線機に周波数を合わせ、応答を求める。

 

「オイ、オイ日向?応答しろ。しねえんなら割りと本気で目玉をほじくるぞ」

 

「................五月蝿いぞ貴様、無線封鎖も分からないとはとんだ無能か」

 

「はン、これでお前がくたばってくれれば楽なんだがな」

 

「ふざけろ、貴様の喉を切り裂くまでは死なんぞ。鎮守府最強を気取っているだろうが、駆逐艦含め全員が貴様の命を狙っていると思え」

 

「無理だな。気取ってるんじゃなくて事実だ。ひっくり返したければサムライソード持って辻斬りが如く斬ってみやがれ」

 

おちょくるように宗介が言う。実際、昨日一緒に食事をした初霜と三日月も、共謀してミルクティーに青酸カリを混ぜたのだが、口に含んで噴き出すことで、宗介は青酸カリを摂取せずに済む、更に深海棲艦の話をすることで強行策を封じるという、駆逐艦にしか効かない手段を使った。それを聞いた日向は、これしかないと思ったのだろう、ドスの利いた声で言った。

 

「....いいだろう、貴様の墓に私の名前を刻んでやる」

 

「楽しみだね、ところで日向」

 

「何だ?」

 

一度マイクを手で塞ぎ、提督の口から指を話して簡単に問う。

 

「提督、今の日向の装備は?」

 

「無いわよ、彼女は日本刀以外に武装は持ってないわ。主砲なんてここで撃ったらマズイわよ」

 

「よし」

 

宗介は再度、マイクで日向にこう言う。

 

「日向、提督からの命令だ。瑞雲で索敵しろってさ」

 

「分かっているよ。丁度私もやりたくなってきたところだ」

 

日向の答えに、宗介は何も言わずに無線機の電源を切り、剣と拳銃を持って食堂を出る。

 

「提督、この場はあんたに任せた。エリクと頑張れ」

 

「ちょっと、どういうこと!?日向は何て?」

 

「応答したのは日向じゃない、深海棲艦だ。日向から無線機をスッたか強奪したか.....」

 

「どうやってそれが......」

 

「Tー800が使ってた手段さ」

 

「もしかしてあんた、大昔の映画、好きなの?」

 

「ホログラムよりフィルム派なだけだよ。それより、誰が来てもここを開けるな。あのヒトガタ野郎、声の模倣ができるかもしれねえ」

 

「分かったわ。はいこれ、スペアキー」

 

「どうも」

 

カードキーをポケットにしまい、液体窒素のボトルを持って廊下に出る。月明かりしか照明が無いせいか、心霊スポットのように不気味だ。

 

「うへえ.....怖いなー....クソが、呪いたいんなら土下座して懇願しやがれっての」

 

実は宗介は幽霊が苦手だ。映画からの先入観ではあるが、話が通じないし攻撃も効かない、有効なのは胡散臭い呪文とかお札とか。自分が超能力者という幽霊と同等に胡散臭い存在であることを忘れ、幽霊に毒づく。

 

「それ考えると、深海棲艦の方がマシだっつの。チクショー、なんで上陸とかしてくんだよ....そのまま一生北極のUMAでいろよ.....」

 

いつだったか、宗介の知り合いの環境学者が言っていた。人間は地球を破壊する害虫、地球は人類が消滅した方が豊かになる、と。彼自身がキチガイであることは知っていたから聞き流していたが、こういう形で彼の妄言が実現しつつある。深海棲艦は何者なのか?テレビじゃ地球征服のためにやってきた宇宙人だとか、人間が奇病で突然変異しただとか、色々囁かれている。勿論、真相を知る者は宗介が知っている中でも一人しかいない。

頑なに喋ろうとしないが。

 

「午前2時半.....丑三つ時じゃんか」

 

途中、タレットをぺしぺし叩いてご苦労と労った後、誰とも会わずに宗介は廊下を歩いていた。二階の曲がり角を曲がって暫く歩いたとき。

 

「!?」

 

ピッ、という電子音が耳に届く。咄嗟にブリンクで後方に瞬間移動すると、廊下の四隅が爆発し、壁の破片が宗介に向かっていくが宗介はそれを全て避ける。

 

「.....主砲はダメだけど爆発物は問題ないわけ?」

 

威力から軍用のセンサー爆弾だろう。問題は別にある。歩き回ると危険だと、一番近い部屋に入る。どうやら艦娘の部屋らしいが、宗介にとっては関係ない。鍵を閉め、ドアと反対側の壁にもたれかかる。

 

(仕掛けたのは間違いなく抹殺本隊。そこは別に驚きゃしねえが、何だって爆弾なんだ?僕がスーパーで今ある日本刀だけじゃ倒せねえってんならそれまでだが、深海棲艦騒動の真っ最中に?深海棲艦騒動に乗じて一緒に始末しようとしてんのか?僕が爆弾を逃れて敵対する可能性を計算しなかったのか?爆弾で完璧に殺せるとか思われてんのか?僕はそこまで甘く見られてるのか?)

 

普通の人間なら爆弾で一発だから、と声を大にして叫びたいが、宗介は普通じゃないから敵だらけの鎮守府でも生き延びられるのである。宗介に常識を求めてはいけない。

 

「ふぃ~.....それにしても盛大なパーティークラッカーだった.....あ、耳がキンキンする....艦娘がこんな手を使ってくるたぁな、てっきり砲撃バカかと思ってたが予想外だった」

 

気を紛らわせるためか、自分に言い聞かせるためか、あえて声に出して言う。トラップに注意しろ、と。

 

「.......よし」

 

抹殺出来てないどころか無線機を盗られてしまった抹殺本隊に悪態をつきながら、再度廊下に出て深海棲艦を捜索する。深夜のテンションというものなのか、先程まで恐怖していた幽霊とエンカウントしてみたいとすら思ってしまった。曲がり角で頭ごっつんこイベントは御免だが。

 

(しっかし、面白いくらいに出会わねえな。深海棲艦って実は潜入のが向いてんじゃねーの?)

 

時間も時間なせいで、睡魔が宗介を襲う。無意識に欠伸が出て、目尻に涙が浮かぶ。というか、周囲があまりにも暗すぎる。

 

(いいハンデになるかと思ったが、さすがにねみいしライトつけるか)

 

LEDペンライトをつけると、廊下の装飾が見えるようになった。咄嗟に右手が使えないがしょうがない。しかし、影ができているのもホラーゲームのようで妙に怖い。三階に行くために階段を登り、踊り場に到着してまた階段を登ろうとすると、意味不明な叫びが聞こえる。

 

「覚悟ぉぉぉぉぉ!!」

 

「うおおおお!?」

 

何かが踊り場に飛び降りてきた。宗介は横に跳んでそれを回避、影は木製の階段に着地、それと同時に、メキメキと嫌な音が聞こえる。

 

「何すんだ扶桑型を欠陥品にした戦艦の一番艦!しまいにゃ殺すぞ!」

 

「ん、その声、宗介じゃない。こんなとこで何やってんの?てか、その呼び方止めてくれない?」

 

「チッ.....深海棲艦が日向の無線機を盗りやがった。軍事的周波数でキャッチしたから間違いねえ」

 

「え?日向ならさっき会ったけど」

 

「どこでだ?」

 

「エントランスでよ。執務室を見てくるって」

 

その言葉を聞くと、宗介は口角を吊り上げる笑いを浮かべ、伊勢の胸ぐらを掴んで執務室に向かう。好奇心を抑えられない子供のようだ。

 

「ビンゴだ。執務室に行くぞ扶桑型の上位互換。やっぱり日向はクロだったぜ」

 

「ちょっと、犯人扱いはやめて。深海棲艦がたまたまキャッチしただけかもしれないのよ?」

 

「初霜と三日月と望月、あいつらが執務室にいる。そのうち真面目組が拘束されてて、望月はそのどっちかが深海棲艦だと思ってるから背中がガラ空きだ。それに.......」

 

「それに?」

 

「いや、それより行くぞ。あいつらが死んだら金が入らねえ」

 

「がめついなぁ.....」

 

三階の廊下を全力疾走し、執務室の扉を乱暴に開ける。ソファーで寝ている望月、拘束されたまま寝ている初霜と三日月がいるだけで変わったところは特にない。

 

「おい、おい初霜。ウェイクアップの時間だぜー?初霜ー?起きねえとイタズラしちゃうぞー?」

 

頬を軽く叩いたり、つまんでみたりしても起きる気配がない。ゴム弾を装填して、音を出すためにわざとスライドを引く。

 

「今ならこれで許してやるから、目ぇ開けろ、な?」

 

にこやかに笑いながら、喉に銃口を突き付ける。すると、先程の静かさが嘘のように初霜が目を開け、両手をあげて許しを乞う。

 

「分かりました!分かりましたからゴム弾はやめてくださいぃ!」

 

「ったく、寝たふりなんていいだろ。もっちーなら寝てるよ。暢気なモンだぜ」

 

「はあ、不安なんですよ。宗介さん、私達のこと囮にしたでしょう。死なないって分かってても怖いんですよ」

 

「で、だ。今からネタバレをしようと思うからもっちー叩き起こしてくれ。僕は男だから無理」

 

「んもう......望月さん、起きてください、宗介さんですよ」

 

「んー、さすがもっちー。お前よか強敵だぜこれは」

 

寝息をたてているあたり、フリではなく本当に眠っているのだろう。耳元で発砲すれば、起きるどころかそのまま失神してしまう可能性がある。鼓膜も無事ではないだろう。

 

「まあいい。もっちーがだめなら三日月でいいや。伊勢、そこで寝てるアホ毛、起こしてくれ。初霜には先に説明しておく」

 

「はーいはい。ほら、三日月、起きなさーい。初霜と宗介がいるわよー」

 

伊勢がぐっすり眠っている三日月を起こしているのを横目に、宗介は初霜に全てを話した。

 

「実はな、お前らにはもっちーが深海棲艦かもしれないって言ってたが、もっちーにはお前らのどっちかが深海棲艦かもしれないって言ってある」

 

「......え!?それじゃ私達、お互いを疑ってたってことですか?」

 

「ああ、そういうことだ。つまり、お前らが考えてる、[餌を目の前にぶら下げて化けの皮が剥がれるまで待つ]ってのはお前ら三隻の中だけだ」

 

「......つまり?」

 

「お前ら三隻がまとめて餌って意味だよ。深海棲艦からすれば、疑心暗鬼で仲間割れ一歩手前だし、絶好の獲物だろ?」

 

「そんなあ......私達、最初っから宗介さんの計画通りに動いちゃったんですか?」

 

「ああ、予想通りすぎて笑いそうになったな。すごかったぜ」

 

「そんなあ~......」

 

がっかりしたのか、今までの緊張感が馬鹿らしかったのか、初霜はその場にへたりこんでしまう。全て宗介の作戦だったという安心感からか、足に力が入らない。

 

「おはようございます、宗介さん」

 

「おー三日月、おはようさん。ほれ初霜、今の事情説明」

 

「はあ....あのね、―――ってことがあったのよ」

 

「.....宗介さん?それ、本当ですか?」

 

「おう、事実だ。ちなみに、これで深海棲艦もお前らもくたばっくれれば良かったとか思ってる」

 

「..........怒りますよ?」

 

「あー分かったよ。ほら、イチゴ味やるから」

 

「バカにしてるんですか!?」

 

三日月は受け取ったソフトキャンディーを宗介に向かって全力投球するが、残念そうな顔をした宗介にあっさりキャッチされてしまう。三日月は赤面しながら宗介を睨むが、宗介はソフトキャンディーを食べているだけで気にする様子はない。

 

「あー、イチゴ味うめえ。ちょっと酸っぱいかな?」

 

「......初霜、私ちょっと怒りが込み上げてきたのだけれど?」

 

「気持ちは分かるけど落ち着いて。そこで行動してしまったら宗介さんの思うつぼよ」

 

怒りで握った拳が震えている三日月を、初霜は必死に宥める。キャンディーを舐めて頬がだらしなく緩んでいる宗介を見ていると、余計にイライラしてくる。実力行使で殺せないのがさらにイラつきを加速させた。

 

「さてと、僕の見立てじゃ深海棲艦は他の生物に化けることができる。そんで、日向に化けたやつが今こっちに向かってる」

 

「はい。私達は誰かさんのせいで丸腰ですし、伊勢さんと宗介さんに任せる形になりますが......」

 

「よっしゃ、盾補充出来た」

 

「ちょっと」

 

「わーってるよ伊勢。冗談だから。半分な」

 

(いや、深海棲艦は執務室に来る前に僕を捜して殺したいはず。時間は充分稼げる。アレやるか、いい機会だし)

 

子供の頃、ゴミ溜めにあった古くさい紙製の教科書に書いてあった。それを実験するのにはいい機会だ。宗介は執務室にあるペットボトルを見る。昼よりも水位が上昇している。

 

「よし、おいお前ら、これドアの近くに運べ」

 

「どうして?」

 

「お楽しみだ。なあ頼むよ、時間が無いんだ」

 

「分かったわよ。二人も手伝って」

 

「はい」

 

「了解しました」

 

伊勢達がリサイクルに出す予定だった紙や、過去の書類をドアの近くに積み上げる。その間に宗介は、望月を寝ていたソファーの陰に移動させて机の後ろにある大きな窓に何やら細工をする。

 

(確実に短時間で殺せて、準備にはこいつらがいるからそれほど時間は食わない。最善だと思うよ、今はな)

 

しかし、科学というのは便利でありながら怖いものだ。宗介の細工.....IEDを作るのが簡単になった。起爆装置は完成した、後はこれをワイヤレスで起爆させるようシステムを組めば完成だ。旧式のスマートフォンを取り出し、システムを組む。

 

「さてと、宗介劇場は無事開幕できるかな?」

 

提督の量子コンピューターを操作してカメラにアクセスすると、もう三階を歩いていた。作業中の伊勢達に中止と、静かにするようハンドサインを送る。やがて、足音が聞こえてきた。小声で会話をする。

 

「ねえ、どうするの?これ」

 

「心配すんな。これなら日向がクロってことの証明と抹殺が一気にできる」

 

自信満々に呟く宗介を、伊勢と三日月と初霜が疑いの眼で見る。全く信用されていないのは明らかだが、宗介には少し予想外だったらしい。

 

「お前ら、ちったあ僕を信じろよ。心配すんな真面目組。身代わりには多分しねえから」

 

「......」

 

「おう、冗談だからそんな眼で見るな。僕にそんなシュミはねえぞ」

 

ジト眼で見る初霜に、宗介は拳銃を眉間に突き付ける。装填されているのはゴム弾だが、宗介に銃を突き付けるというのはそれなりの恐怖なのだろう、正面から宗介を見ているが小さく震えている。

 

「いいか、生意気はご法度だぞ、特に僕の前じゃな」

 

「........はい」

 

自分勝手とも言える物言いだが、それも悪い意味で宗介らしい。初霜からしてみれば、自己犠牲よりも利己的な人間の方がありがたい。

 

「まあいい。僕は心がウユニ塩湖クラスに澄みきってるからな」

 

しかし、今までの人間と宗介は明らかに違う。自己中心的だが、傲ることはない。実力で油断しても傲慢になっても、警戒だけは怠らない。それが宗介の恐ろしさである。

 

「そろそろ来るぞ。喋んな、つか呼吸すんな」

 

「そんな無茶な......」

 

しばらくして、ドアノブが回る。しかし、気圧によってドアが開かなくなり、今度は重い音が響く。タックルでもしているのだろう。

 

(砲弾でドアごと....いや、さすがにそんなマヌケじゃねえか。次はどうやってくる?)

 

すると、日本刀がドアの隙間から入り、そのまま突出したデッドボルトを切断する。

 

「ああ、そういう手があったね.....」

 

少しワクワクしていた。どうやって化けの皮を剥がすか、どれくらい強いのか、この手で殺した時はどんな快感があるのか。スリルを求めるとかそういうレベルではない。常人から見ればただのイカれた自殺志願者だ。

 

勢い良く扉が開く。瞬間的に日向の姿をしたなにかを認識すると、スイッチを押す。

 

「Fire in the hole!」

 

火薬が少ないため威力が低い。窓を窓枠ごと吹っ飛ばすと、気圧差によって執務室内に強い風が吹く。その風によって大量の書類が舞い上がり、視界の確保が難しくなる。

 

「目ぇ閉じてろ。紙って結構痛いぞ」

 

伊勢が初霜と三日月を庇うように抱き締める。日向も突然の出来事に動揺しているようだ。

 

「見える、僕にもお前の姿が見えるぞぉ!」

 

ふざけた口調で笑いながら宗介は実弾を装填して拳銃を構える。時々舞っている書類が拳銃に当たり狙いがズレる。

 

「フハハ怖かろう、盲目のまま死ぬ恐怖を味わえ!」

 

自分の作戦が上手く行き過ぎて、宗介の口調とテンションがおかしくなってきている。そのおかしくなったテンションとは対照的に、拳銃の狙いは精密で正確だ。人間でいうところの眉間、頸動脈、心臓部分に命中させていく。武器を持たせないために両腕も撃ち抜く。視界不良という射撃において最大級のハンディキャップを背負っているにも関わらず、15発のコンパクトサイズ徹甲弾は、全て日向の肉と神経と血管をかき回しながら貫通する。

 

「あー.....うん、さすがに拳銃だけじゃ無理だよねぃ」

 

落胆する。分かってはいたが、改めてこの耐久力を見せ付けられると結構凹む。9mm弾とはいえ徹甲仕様だ。当然といえば当然だが、深海棲艦は面倒くさい。宗介は弾切れの拳銃を投げ捨てて剣を抜く。

 

「死刑、死ね」

 

上体を低く保ちながら疾走し、すれ違いざまに日向の右足を切断、背中に一太刀入れ、振り向いた日向を喉を切り裂く。すると日向だったソレは姿を変え、肌は健康的な肌色から青白く変色していく。一切の反撃を許さない一方的な殺害だった。それを見た伊勢は恐怖した。いつだったか、宗介が戦い方を教えてくれたときに言われた。最強とは一方的な強さ、つまり一方的な殺し、と。生物に対して情けが微塵も無いことは伊勢に限らず鎮守府の全員が知っている。しかし問題は、有言実行してしまったこと。

 

「んー?深海棲艦の割には弱っちいな?刃も案外簡単に入ったし。何食ってんだこいつら?」

 

宗介(人間)深海棲艦(人外)を超えてしまったこと。しかも軍とは正反対、犯罪者が力を得ていること。

 

「というか、宗介さん腕前ならこんなことしなくても良かったんじゃ.....」

 

「バッカお前、深海棲艦殺したって貸しつくってここ片付けさせる嫌がらせに決まってんだろ」

 

「いやらしい......」

 

「シャラップ三日月、僕らしいだろ」

 

伊勢は、安堵からか表情が明るくなった初霜と三日月から視線を外し、それと会話する宗介を見る。表情は友達と会話する少年そのもの。この顔を見れば、誰も宗介が重犯罪者などとは思わないだろう。

 

「しっかし、何とも言えねえなあ.....そこまでな事件じゃ無かったじゃんこれ。これだったら僕、出る必要無かったじゃんかよ」

 

「宗介さん、私達を縛っておいてそれは無いのでは?」

 

「冗談。ちゃんと解いてやるつもりだったよ」

 

「......本当ですか?」

 

「公安に渡した後にな」

 

「......」

 

三日月が無言で上段蹴りを繰り出すが、宗介にあっさり受け止められてしまった。慌てて足を引っ込める。

 

「あ、すまん、見えなかったからもう一回頼む」

 

「~~~~!!バカァ!」

 

羞恥の涙目で宗介を一睨みした後に、乱暴にドアを開けて去っていった。その後を初霜が追いかけていく。

 

「宗介、駆逐艦の娘たちあんまりイジメちゃダメよ」

 

「愛情表現だよ」

 

「それどこの国のジョーク?」

 

「ジャパンのジョークだよ多分。メアリー・ベルが博愛主義者に見えるのと一緒だぜ」

 

「ミルウォーキーの食人鬼がノーベル平和賞候補になると思うのと一緒かしら」

 

「ああ。っと、提督に連絡しねえとな。」

 

「ちょっと、こいつは?」

 

「放置。さっさと行くぞ」

 

深海棲艦の血であるゲル状の何かを跳び越え、死体を放置したまま執務室を出た。ただ歩くだけということにさえ暇を感じたのか、空薬莢を蹴りながら食堂を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどなるほど、つまりあんたは初霜達を無断で囮にした挙げ句、使う機会が無かったから急遽私の部屋にIED仕掛けて窓を吹き飛ばして部屋をぐちゃぐちゃに汚したわけね?」

 

「ああ、その通り」

 

「その通りじゃないわよ精神異常者!他人の部屋で何やってるわけ!?」

 

「喚くなよ。いいだろ別に、深海棲艦ぶち殺してやったぜ。鎮守府側に損害はほとんどねえ、窓以外は全部無事だ。艦娘含めてな」

 

耳を塞ぎながら宗介は言う。宗介の作戦によって、もっと拡大するはずだった被害は、飛んだ窓と汚れた部屋掃除、死体の後始末だけで済むあたりいい方なのかもしれないが、それでも提督は気に食わない。そんな時。

 

「......動かないで」

 

宗介の後ろで言い合いを見ていた伊勢が、日本刀を宗介の首筋に添える。宗介は両手をあげて降参のポーズをとる。

 

「ああ、やっぱり疑ってる?」

 

「当たり前でしょ。あんた以外に、こんなことするメリットがある奴なんている?」

 

「僕だってねぇよ」

 

「信じられるわけないでしょう。軍を敵として見てるあんたが、こんなことしないとは思えない」

 

艦娘に武器で脅されているにも関わらず、宗介は動揺一つ見せない。汗もかかないし、しゃべり方も変わらない。

 

「探偵ごっこか、面白いな。じゃあ聞くが、僕が深海棲艦と癒着してるって考えてるわけね」

 

「ええ」

 

「じゃあなんであの時、僕は深海棲艦を躊躇なく殺した?」

 

「あんたが犠牲ゼロの作戦立案なんてするはずない。多少の犠牲なら....そう考えてるんでしょ?犯罪者」

 

憎々しげに、犯罪者を強調して伊勢が言う。並々ならぬ殺意が、一瞬伊勢を突き動かしたのか、刃が宗介の首に少し食い込み出血する。血の雫は肩を流れ、服に染み込んだ。小さい赤色ができる。

 

「あんたも見ただろ、仮に僕が深海棲艦サイドだとしても、レ級を作戦のための犠牲にするなんて無能だと思わねえか?それとも、僕は無能だって遠回しに言ってやがんのか?」

 

「......さあ、どうかしらね」

 

気味が悪い、何だこの男は。大事な線がプッツンしているのか?この状況で動揺もしない、刃を首に入れても身動きひとつしない。まともじゃない。脅しているはずなのにこちらが脅かされている。不透明な言葉で問いを濁らせることしかできない。

 

「あ、そうそう、一つヒントをあげよう」

 

「.......は?」

 

「もしも深海棲艦と癒着してるやつがレ級を鎮守府に送り込んだとしたら、それは軍だけじゃなく人類そのものに不満か怨み....とにかく負の感情があるやつだろうね。怖い怖い、イカれた人類学者か環境学者がいつだったか唱えてたな、覚えてるか?」

 

「ちょっと、何言ってんの?」

 

「でもさすがに軍を真っ向からケンカは出来ねえ、艦娘もいるが"運悪く"僕がいるしな。じゃあどうするか?」

 

「分かるように説明しなさいよ!どういう意味!?」

 

「力のある女王アリと数が多い働きアリ.....果たしてどちらが楽に消せるかな?」

 

「分かるように説め...い.....」

 

「ケケケ、いや、それでも女王じゃなくてその護衛が強いってパターンもありえるかな」

 

「あんた......まさか.......」

 

「でもバカだよな。いくら間違ってても常識は常識だ。人間が地球を汚してる?だからどうした。今地球を支配してんのは僕ら人間だ。悔しいんなら手に入れてみせろっての」

 

そんな持論を展開する宗介の顔は、イキイキしていた。汗を流して、化け物を見るような目で宗介を見る伊勢とは全く違う。

 

「いやしかし、"こういうスリル"も必要かもね」

 

 

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