鎮守府の超能力アサシン   作:メイン盾

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ep.11 方法

この世は不条理に満ちている。

 

いくら善人が人道的な行動を起こそうと、いくら聖人が平等を説こうと、この事実は変わらなかったし、これからも変わることは無いだろう。善良な人間など、厳密には"人間"と呼べない。自己犠牲など狂言でしかない。それを宗介は痛いほどに知っている。知ってしまったとも言える。

 

(だから宗介はとことん自己中になった....ねぇ....)

 

執務用の机に突っ伏して、エリクが言った言葉を提督は脳内でもう一度再生する。エリクの話は驚くほど正論だった。腐った大人や、自分の心の闇を知っている提督にとって、返しようのなかった。長門はじめ、艦娘のほとんどは彼らを犯罪者と蔑んでいるが、犯罪者なのはこちらも同じだ。

 

(ま、あの娘達がそんなこと分かるはずもないんだけどね)

 

そろそろ執務を再開しないと、宗介にタブレット端末のカドで殴られる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フルハウスだ」

 

「ロイヤルストレートフラッシュ」

 

「チクショー、またかよ....」

 

一方その頃、宗介とエリクは食堂でポーカーに興じていた。これで宗介の3連続ロイヤルストレートフラッシュ。イカサマしていますと言っているようなものだが、バレなければ問題は無い。バレなければイカサマではない。

 

「あーもうやめやめ!こんなん一方的な虐めだっつの」

 

「僕にテーブルゲームで勝とうなんざ100年早い。出直してこい」

 

「お前ギャンブラーに向いてるかもな」

 

「てめえ、昨日は弁護士に向いてるって言ってただろうが」

 

「それだけ多才なんだよ、お前は」

 

嫌味ではない。嫌味ではないが、彼のようになりたいと思ったことは一度もない。なってしまえば人間として大事ななにかを失ってしまう。

 

「笑えねぇな」

 

「ああ、世界の未来が心配だ」

 

「正義のヒーローが欲しいところだ、なあ宗介?」

 

「今は悪役が活躍する時代なんだぜエリク」

 

「それもそうだったな」

 

「なーに言ってんの、よ!」

 

いい加減執務に戻らない宗介に痺れを切らし、提督自ら食堂に出向いた。後ろから書類を纏めるバインダーで殴ろうとするが、あっさりと避けられてしまうのもお決まりだ。

 

「おう」

 

「おう、じゃないわよバカ!ほら、さっさと戻るわよ!」

 

「ああ、わーったよ。予算は3000万まで、資材管理として本営からの支援分は差し引いて書いてある。あとこれ、大湊との合同演習の予定な」

 

バインダーを奪い取り、挟んである書類について細かく説明する。仕事ぶりは上層部よりも出来ているが、いかんせんやる気にムラがありすぎる。

 

「大湊?思いっきり北じゃない。嫌だわぁ.....」

 

「ここ広島県だもんな」

 

「佐世保か舞鶴がよかったわ。横須賀もまあまあ遠いしね。で、裏はありそう?」

 

「時期が時期だもんな。つい最近、所謂イベントが終わって北太平洋まで神風と春風のこと迎えに行ったばっかだぜ」

 

基地航空隊兵力を展開するためにニューブリテン島まで行ったり、友軍泊地を奪還したり、友軍を救援したりと、とにかくあっちこっち回ったせいで、資材を予定よりも多く消費してしまったという、鎮守府式赤字になってしまったこの時期に、何故ここまで大規模な演習を申し込んで来たのか。今回特に資材消費が激しかったのは、最強要塞こと呉鎮守府、それから北側にある大湊警備府と幌筵(ぱらむしる)泊地の三ヵ所。演習をするメリットは無いに等しい。

 

「そうよねえ。なーに考えてんのかしら」

 

「さあな。ま、受けるってことでいいワケ?」

 

「構わないわ。それと、キールみたいにはならないように。今回は同じ日本だからね?」

 

「心配すんな。今回は盾がたくさんあるからな」

 

「殺しちゃダメよ?分かってる?」

 

護衛にあるまじき肉盾宣言に、提督の顔が曇る。

 

「分かってる、冗談だよ。利用価値は他にあるしな。こんなとこで死なせるなんてもったいない」

 

「間違っては無いけど、言い方ってあるでしょう....」

 

「ケッケッケ、僕に倫理も道徳も求めんなよ?」

 

「もう.....勝手にしなさい....」

 

人間、常識も良心も全て投げ捨てれば目覚ましい発展をすることが出来るだろう。その典型的な例が宗介だ。宗介は悪人"なのに"天才なのではなく、悪人"だから"天才。他人の犠牲もいとわない自己中心的な性格だから、罪悪感に押し潰されることもなく知識を吸収することが可能になるのである。

 

(だからって頭良すぎでしょ.....)

 

あらゆる分野の学問において、博士号レベルの知識を持つ宗介は最近、深海棲艦の艤装の元となる物質を突き止めるあと一歩のところらしい。海軍が最重要機密として隠蔽し、世界中の天才学者達を集めてもなお解き明かせない謎を、たった一人で解明一歩手前まで来てしまっている。

目の前で駆逐艦娘とバカ騒ぎしている18歳の子供は、既にあらゆる分野で頭脳において頂点に君臨している。

 

「夕立ぃ、お前ちょっと髪どーなってんの?これ」

 

「髪が乱れるっぽい!やめるっぽい宗介ー!」

 

夕立に組み付いて、犬のように束ねられた髪を延ばしたり、髪の毛をわしゃわしゃとかき回している少年がそれだ。組み付きから解放された夕立は、何とかやり返すために組み付こうとするが、華麗な体さばきで避けられてしまう。

 

「ぽーいー!!」

 

「惜しい惜しい。あともうちょっと」

 

「遊ばれてるなあ....」

 

「遊ばれてるわねぇ....」

 

それを見守る時雨と村雨。微笑ましく見ているが、片方はソロモンの悪夢、もう片方は175か国で4年前から指名手配されている国際犯罪者である。

 

「まあ落ち着け。はい、飴ちゃん」

 

「わふっ!」

 

((餌付けされた....))

 

リコリス飴だけどな、と宗介は心の中で嘲笑う。夕立がこういうことに騙されやすいせいだろう。

 

「提督、とにかく大湊について色々情報が必要だ。そこの提督、艦娘と資材の数の数、平均錬度、一番錬度が高い艦娘の艦種、重要なのはこの辺りだろうな」

 

夕立の口に一つずつリコリス飴を入れながら提督にそう要求する。リコリス飴の不味さのせいで涙目になっているが、そんなことお構い無しに、人差し指に乗るレベルで砕いた飴を入れ続ける。

 

「お、おいしくないぃ~.....」

 

「食べ物は粗末にするなよ、な?夕立」

 

「はいはい、その辺にしときなさい宗介。夕立が噛みつくわよ」

 

「それは困るな。ほら夕立、水」

 

「.....生き返るっぽい!」

 

(犬だよなぁ....)

 

時雨含め、犬に似た髪型をする駆逐艦には心当たりがある。秋月型とか、陽炎型とか。彼女達も餌付けは可能なのか?いや、陽炎型はともかく、秋月型の方は逆に砲撃されかねない。

 

「提督、もしもの時のために大湊のパイプは切れるようにしとけ。一番デカイとこはどこだ?」

 

「マニラの化学兵器工場、それからクアラルンプールの銃工場ね」

 

「よし、見事に東南アジアに集中してんな。そうさな、遠征っていうことにしてマニラの方はカラパンに待機、クアラルンプールの方はメダンに待機。指示があるまでマラッカ海峡は渡らせるな」

 

「ルソン島の北側から上陸して南下していくルートは?地峡を越えるルートは?」

 

「アホ言え、陸路は海軍アレルギーの陸軍が監視してる。それによ、マニラに陸路から近づいてドンパチ始まってみろ、お隣のケソンシティが丸ごと無くなるぞ」

 

「あー...うん、まあ、その通りね、うん」

 

「ただでさえ扱いに細心の注意が必要な火薬と毒なんだ。あくまで艦娘は最終手段、"こっち側"の人間が対処する」

 

「知り合いに軍人でもいるわけ?」

 

「軍人より頼りになるやつらだよ。仕事人さ」

 

「.....想像出来ちゃった私って.....」

 

「あんたこっちの世界のでもやってけると思うよ」

 

「マワされて野垂れ死ぬなんてゴメンよ」

 

「そう言うと思ったよ」

 

宗介と同じ職場なんて、自殺志願者を通り越したキチガイだ。果たしてそれを望んだ人間はいるのか、いたとしたら何時間ぐらい持ったのだろうか。

 

「とにかく、大湊にいるヤツは全員―――」

 

「ハイハイ、そーいう物々しい話は執務室でね。ほら、エリクもさっさと戻る!」

 

Jawohl(了解)。じゃあな宗介、頑張れよ」

 

「ケッ。工厰で機械いじってる以外にも仕事しやがれ」

 

「俺にゃそれしか能が無いんだよ。お前と違ってな」

 

「言ってろ」

 

彼なりの悪態をつくと、提督と一緒に食堂を出る。宗介らしい子供っぽさを見て肩を竦めると、エリクも明石と一緒に食堂を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったくよ、軍の施設で物々しくない話なんてしたことあるか?別にいらねーだろそこまでの配慮」

 

「もう、彼女達だって女の子なのよ?任務以外の時くらい人間らしく、ね?」

 

「ふーん.....」

 

罵声が飛んでくると考えていたが、間の抜けた返事に拍子抜けしてしまう。そしてそれを、口にも出してしまう。

 

「ちょっと意外ね。いつもと反応が違うけど」

 

「言ってただろ、人間"らしく"って。僕から言わせりゃそっちの方が意外だっての」

 

「流石に私も...堂々と"建造"って言っちゃってるし....ねえ?」

 

「ま、そんなこったろうと思ったよ」

 

艦娘について、海軍らしく堂々と建造だの損害だの言っている提督が、艦娘を人間として扱うなど今更過ぎる。艦娘が確認されてからおよそ1000年、懺悔も贖罪も時間切れだ。もう遅い。そんな感情を捨てて艦娘を人として扱う提督も、それを知りながら開き直ってバンバン捨て艦する提督も、宗介から見れば両方バカだ。

 

「それに気付かねえ軍艦共もバカだけどな」

 

「そう言わないの」

 

「まあいい、問題はそこじゃない。提督、柱島泊地と宿毛湾泊地と連携するべきだ」

 

「別に敵対するわけじゃないわけだし、まだ早いわよ」

 

「僕的には可能性大だ。一般市民が考えるアメリカとロシアの陰謀説くらいある」

 

「それ結構あるわよ.....」

 

「あぁ、軍基準じゃなくて一般市民基準だかんな」

 

都市伝説のような陰謀は、どの国にも存在しない。アメリカが所持しているトンデモ兵器を使えば地球をまるごと破壊出来るわけも無いし、ロシアが巨額の金を隠蔽して惑星開発を進めているわけでも無い。

 

「手っ取り早く片付けよう。流石に軍の内戦に巻き込まれんのはゴメンだ」

 

「なーに言ってんのよ、軍と契約してんならあんたも軍人みたいなもんでしょうが」

 

「勘弁してくれ。無差別殺人はしない主義なんだ」

 

角砂糖が十数個入った紅茶を啜って、提督にそう抗議する。自分は仕事人で、快楽殺人鬼でも無差別殺人犯でもないと宗介は考えているらしい。

 

「はいはい、差別主義者(レイシスト)じゃないもんね、あんたは」

 

「提督、これは真面目な話だぜ」

 

ティーカップを音が出るほど乱暴に置くと、やや低めの声で提督に言う。元々声が男性的ではない宗介だが、威圧感は充分過ぎるほどあった。

 

「てめえら自分が何したかわかってんのか?日本海軍が歴史の教科書に載って悪い模範になって、海外じゃJAPが流行語になってやがる。400年経てばとも思ったが、寧ろ反日化は増してってるんだぜ。そのくせ当の加害者達は自分を棚上げする始末だ、僕じゃなかったらこんな低俗どもの巣、今頃心霊スポットになってる」

 

「宗介、言ったはずよ。その話はもうしないって」

 

「アホか。誰が軍人の話なんざ聞くかよ。あんたにゃ金について感謝してるが、それだけだからな」

 

「ねえ、分かって。あれについては私達人間が悪いのよ。ただ命令されただけで、あの娘達に非は無いの」

 

「やっちゃったんだから"しょうがない"だろ。それとも、まさかあんた、本営の言ってること信じてんのか?」

 

「......そう、かしら?」

 

「僕に分かるわけねえだろ」

 

射抜くような宗介の視線を受けて、やっと口に出したのがその言葉だった。正直、提督自身にもよく分からない。世間的に極悪犯罪者として悪名高い彼に、直接手を下そうとした軍人は一人しかいないのも奇妙な話だ。とすると、あの時の話は既に嘘かもしれないが、そう主張するにはあまりにも証拠が少ない。

 

「よく考えろ。侵攻から帰還まで都合よく記憶を差し替えて、しかも艦娘の脳ミソに異常なしなんて今のテクノロジーじゃあ無理だ。それと、結構前にあんたを名前呼びしてた誰かさんも、わざわざ出向いてあんたを説得してた」

 

「未知の技術を持ったエンジニアがいるとでも?」

 

「多分の話だよ。僕だってわかんねえもん」

 

宗介が鎮守府に来てから、本営はおかしな行動ばかりとっている。鎮守府に乗り込むのにライフルで援護させる将補に、犯罪者を野放しにして動こうとしない上層部。おかげで宗介がやりたい放題しようとしている。

 

「僕がいい人なんて言わねえ。ただ、僕よりお前らの方がタチ悪いってことは自覚しろ」

 

「そりゃあもう....」

 

私達がいい人になってしまったら、軽く世界が崩壊する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、夕張はあいつのこと見んの初めてだったな」

 

「性格と対照的に....なんというか.....イケメンでしたね」

 

「私も思った。全然悪いことする人には見えなかったよね」

 

時期的に蒸し暑くなった工厰で、ハンマーをくるくると回している夕張と、作業に邪魔な長い髪を結っている明石、意味もなくバーナーから青色の炎を出しているエリクは、どうしても働く気が起きずにトークしていた。

 

「ま、あの容姿も仕事に必要なんだと」

 

「そういえばエリクさん、宗介さんってプライベートではどんな感じなんですか?」

 

「気になるのかい?」

 

「それは、お金のためとはいえ、仲間になったわけですし」

 

「私も気になる。宗介って自分のこと話さないし」

 

「しょうがねえなあ....」

 

頭を掻きながらも、エリクは宗介について自分が知っていること、聞いても宗介に口封じされないことに限り全てを話す。

 

幼い頃に両親を何者かに殺害され、ストリートチルドレンとして生きた。東京のストリートでは有名人だったらしい。

 

その後孤児院に入り、孤児院の大人の暴力支配から救った救世主として、エリク含め孤児院の子供達の憧れだった。

 

非科学的な超常能力をいつ身に付けたのは定かではない。ただ、14歳になった時に孤児院から姿を消したことを考えると、その辺りからフィクサーになったと考えられる。

 

闇社会で有名になったのは16歳の時、民権主義団体からの依頼で、日本警察に潜入して人種差別や横領等の黒いデータを根こそぎ奪うということを超常能力無しでやってのけた。

 

「ちなみにここで能力使わなかった理由は分からん。気乗りしなかったのか、それともまだ使えなかったのか」

 

「16歳で警察署に乗り込むって....」

 

「もう驚かないわよ」

 

明石は宗介と既に会い、会話もしている。これしきのことではもう驚かない。

 

「まあ正直、僕も詳しいこたぁよくわかんねえんだわ。両親が死んで、孤児院に来て、大人ブチのめして、姿消した。僕が見つけたのはあいつが18になってからだしなあ」

 

「そういえば宗介さんって物凄く強いけど、どうも真正面から戦う人には見えないんですよね」

 

「99%使わないけど、1%を取り逃がすって言ってたな」

 

「完璧主義者ね....」

 

「日本人らしいな」

 

日本人の血ではなく、仕事に妥協したくない18歳らしからぬ考えあっての発言なのだが、全日本人をバカにするように鼻を鳴らしてエリクは言う。

 

「宗介さんって甘いものがお好きだとか」

 

「ああ、あれな....本人曰く、好きになったから仕方ないらしい」

 

「恋愛モノの主人公ですか」

 

「あいつには一生縁が無いジャンルだな」

 

「宗介だもんね」

 

「そうですね、宗介さんですもんね」

 

本人がいたら間違いなくバラバラにされて魚の餌にされるレベルの会話で、話は盛り上がった。その後夕張が宗介に問い詰められ、夕張は尋問された時の宗介の笑顔が軽くトラウマになったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「We all came out to Monstreux~♪」

 

最近聞いたばかりの歴史的名曲を完璧なネイティブ発音で歌う。夜の鎮守府は無駄にだだっ広く、どこかのお化け屋敷のようだが、宗介は幽霊というか、怨霊の類を信じない。職業柄恨まれることが多い。そんなものが存在すれば、宗介はとっくに呪い的なアレで殺されている。

 

「んー、暇だなぁ.....」

 

これも職業柄だが、宗介は体調不良の悪化によって死ぬことが少ない。飲まず食わずならおよそ1ヶ月、徹夜ならば2、3週間ほど持つ。1日くらい寝なくても体調に変化は無い。

 

「始めに神は天と地を創造された。地は形なく、むなしく、やみが淵のおもてにあり、神の霊が水のおもてをおおっていた。神は"光あれ"と言われた。すると光があった」

 

創世記第一章一節から三節。宗介は宗教が嫌いだ。もう30世紀にもなるのに、神にすがるなど間違っている。地球は科学で説明できるようにつくられ、科学者が言った通りに生命は誕生し、革命の指導者が言うように人は間違った。それが事実である。

 

「.....ま、あくまで僕の意見だけどな」

 

誰かに言い訳したのか、紛らわしい独り言なのか、宗介は付け加えた。もしかするとイデオロギーが面倒だったのかもしれない。決して爽やかではない夜風に顔をしかめる。

 

「あのー.....」

 

「....んー?」

 

声がした。暗くてよく見えないが、声には聞き覚えがある。

 

「夜更かしは感心しないな、三日月」

 

「宗介さんは他人のこと言えませんよ」

 

「僕はいーの」

 

深海棲艦の件以来、宗介の危なっかしさを何回も近くで見てきた三日月だった。呉鎮守府の中でも世話焼きな彼女は、宗介の唯我独尊ぶりをかなり心配、というか手を焼いている。いつかこの人、足元掬われて死ぬんじゃなかろうか。

 

「それよりも三日月、お前何でまたこんな時間に起きてんだよ」

 

「えっと、姉妹喧嘩が....」

 

「.....長月と菊月だろ?」

 

「どうして分かったんですか?」

 

「勘。何となくそんな感じがした。で、議題は?」

 

「....宗介さんの限界について」

 

まずどこから指摘すればいいのか分からない。宗介は頭を抱え、とりあえずこれだけ言っておく。

 

「それはくだらねえを通り越して無関係だろうが。お前ら何気に僕のこと気にしてんのね」

 

「戦い的な面では寧ろ尊敬してる方々が多いんですよ。まあ、あの二人については、宗介にも強さの限界があるから私達にもチャンスはある!っていう派と限界があっても倒せるとは限らないっていう派で喧嘩が...」

 

尊敬している、というのは単純な戦闘能力でしかない。当然、宗介は艤装も装着出来なければ水上を滑るように移動出来ない。そういう意味では、戦闘能力しか尊敬するべきところが無いとも言える。

 

「そうなんだよなぁ、今時じっくり苦しませてから殺すとかいう何世代か前の小物悪役みてーなことやってるのにな」

 

「自覚あったんですか.....」

 

「当然。自分のことは"全部"分かってる」

 

「全部...?」

 

「ああ、全部。自分のことくらい100%わかんねえと、他に完璧に分かることなんて無いじゃん?」

 

「そう、ですよね....」

 

自分のことくらい100%分からなければならない。それは人間の話でしかない。鉄の(フネ)の記憶は、どういうワケかこの姿になってからも頭にこびりついて離れない。進退不能になってしまった三日月は、駆逐艦"秋風"の到着をもって放棄された。ゆっくりと朽ちていく前世の自分自身は、今も夢に出てくる。

 

「.....宗介さんは、どうしてそんなにお強いのですか?」

 

「.....は?」

 

ふと気になった。宗介が強いなんて呉鎮守府の中では今更だが、どうしても聞きたくなった。理由はよく分からない。沈んでしまった、宗介と比べられないほど弱い自分を後ろめたいのか。

 

「僕さあ、結構素性とか過去とかよく聞かれるけどさ、さすがにその質問は初めてだぞ」

 

「し、失礼しました!」

 

「いーよ。初めて聞かれたってだけだし。で、なにが聞きたいわけ?強さの秘訣?」

 

「私、結構ここの中じゃ結構練度が低い方でして、強さも平均的というか、目立ってこれがすごい!っていうのが無いというか.....」

 

自分で言ってて悲しくなる。三日月は涙を必死に堪える。

 

「誤魔化さなくていいよ。要するに怖いんだろ?"どっちにしろ"後が無くて」

 

「.....やっぱり宗介さん、すごいですね。エスパーみたいです」

 

「まあな。伊達に他人のこと見てねーからな」

 

三日月は心優しい。前までは戦いを戦いと割りきっているシビアで艦娘らしい考えを持っていたが、人間の言葉で恨み言を呟きながら沈んでいく様を見て、最近は心が弱くなってきている。

 

「深海棲艦を沈めたら、何というか、こう、理屈抜きの....何でしょう、恐怖、なのでしょうか?そういう、心に悪い意味で残るものがあるんですよ」

 

そう言っている今でも、深海棲艦の片言で無機質な喋り方が、脳に直接語りかけてくるように重く響く。深海棲艦は仲間に危害を加えるただの化け物、そう思うことで何とか抵抗をもみ消していた。しかし、それも今や限界を迎えつつある。

 

「軍として失格なのは分かっています。しかし、もう普通の化け物として、どうしても見れないんですよ....」

 

「それこそ僕に言うことじゃねえだろ。僕はお前専門の聞き上手じゃねえんだぞ」

 

「それは.....」

 

「僕がたまたまココにいたからか?」

 

「.....」

 

理由は特になにもない、なんて言ったら切り刻まれる。

 

「まあ良い。そんなくだらねえコト気にして沈まれても困る。つってもまあ、簡単だよ、そもそもあいつらは人じゃない。そう思えれば勝ちだ」

 

「出来るでしょうか....?」

 

「やれ。そうじゃないとお先真っ暗だぞ」

 

「宗介さんはどうして、惨殺してもどうも思わないんですか?」

 

「ああ?分かるだろ。"同じじゃない"からだよ。あいつらと似てるとこなんて、姿と言語だけだろ。所詮殺戮と征服しか出来ねえ人のなり損ないさ」

 

「それは私達もですか?」

 

「私達もって、お前な、それは...」

 

深海棲艦はそうだろう。しかし、ならば艦娘はどうだ?自分の中では、艦娘と深海棲艦は全て違うと断言できる自信が無い。

 

「宗介さんにとって、私達は資材次第で無限に造れる駒なんですよね?じゃあ、私達も宗介さんの心境の変化で殺されるかもしれないってことですか?」

 

「僕が個人的にってことは無い。どっかの誰かさんがあの提督よりも多く出して殺害を依頼したってんなら話は別だが」

 

「そうですか.....」

 

実は、宗介は仕事と自己防衛以外に殺しをしない。正しくは、「プライベートで殺す価値がないやつしかいない」だが。

 

「まったく、シケた話なんてやってらんねーよ。要件は?」

 

「来ているんでしょう?私達を皆殺しにする依頼が」

 

「......だったらどうする?ここで僕を止めてみせるか?」

 

別に驚きはしなかった。いつか言ってくるヤツはいるだろうな、とは思っていたが、それが三日月だったのが意外だった。

 

「まさか。艤装も着けていない駆逐艦なんて時間稼ぎにもなりませんよ。確認です」

 

「そうかい。ま、さっきの質問はYesだ。ここが邪魔なお上から依頼が来てね。詐欺られそうになったけど危なかったぜ」

 

働かせるだけ働かせて最後に裏切るという典型的な詐欺に引っ掛かりそうになったが、上層部はこれで宗介を騙せると思っていたらしい。それが宗介にとっては屈辱だった。

 

「まー心配すんな。金額的にはまだここの護衛だよ」

 

「そうですか。だったらまだ安心ですね」

 

「まあ、そういうこったな」

 

軍との契約破棄のための金額なんて、金でパンパンのスーツケース1ダースでも足りないのだが、三日月はそれを知らない。

 

「宗介さん、最後に一つ、よろしいですか?」

 

「なんだね?」

 

「"私達"はあなたのこと、信じてますからね」

 

「.....そうかい。期待してるよ」

 

三日月も宗介も、そんなこと言ったぐらいでは心など変わらないことは知っている。三日月はせめて負担を軽くしようとこれを言い、宗介はそれを嘘と思い込んで見破ろうとしてくる。

 

「それでは。長々と失礼しました」

 

宗介に背を向け、三日月は自分の部屋へ戻っていく。それを見送ることも無く、窓の外に広がる別に星空いっぱいでもない夜空を見上げた。

 

「まったく、いつからこんなにヒネくれちまったんだ?僕って」

 

最近、独り言が多くなってきた。慣れない環境のせいだろうか?




確認回。鎮守府での宗介の立ち位置、それから工厰の明石さんと夕張さんがイメージする宗介についてなどなど、色々と確認するためのお話でした。ご都合主義は大好きですが、あえてここではご都合を出来るだけ無くしていこうと思います。悪人主人公なんだし、大丈夫。大丈夫ですよね?(震え)
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