鎮守府の超能力アサシン   作:メイン盾

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子孫と末裔の違いが分かりませんでした。すみませんでした。
注意、ここに出てくる不適切な発言は、あくまで主人公の考えです。ディスってるとか、そういうものではありません。私自身もかなりビビっています


ep.3 発端

「カネになる話がある」

 

暖房の効いたファーストフードでそう言われた青年はジュースを飲みながら顔をしかめた。雪が外で降りしきり、通行人は滑らないためなのか、いつもより歩くスピードが遅い。なんてことを思いながら、目の前の人間に話しかける。

 

「はいはい、次は何をやらかしに行くんだよ。スリ?強盗?それともヤクの横流し?」

 

「最後が惜しいな」

 

テーブルに頬杖をつき、青年の向かい側に座る外国人はにやけながら言う。

 

「やっぱそれ系かよ...クライアントは?」

 

「まあ待て、まずは仕事の内容からだぜ」

 

「ああそうだったな。で、今回はどんな汚れ仕事だよ?」

 

「そう言うなって。今回俺らが派遣されんのはアメリカのキーウェストだな」

 

外国人はメモ帳を見ながら気だるそうに言った。

 

「また変なところに派遣されるな。フロリダか?」

 

「そうだな。で、依頼内容ってのが、どうも穏やかじゃねえ」

 

「穏やかな依頼なんて今まで無かっただろうが」

 

「話し合いに漕ぎ着けられねえって意味だよ。今回は、敵に気付かれた瞬間ガンファイアのパーティーだ」

 

「マジで危険じゃねえか。そんなもん、警察に任しときゃいいだろ?」

 

「まあ聞けよ。で、依頼内容はズバリ、フロリダを拠点ににヤクを売りさばくメキシコカルテルの壊滅だ」

 

カルテル、という単語を聞いた瞬間に、青年の顔がよりいっそうキツくなった。

 

「そりゃ笑えないな。密輸ルートさえ分かれば、国境警備隊か湾岸警備隊がどうにかしねえのか?どうしてわざわざ得体の知れないフィクサーにそんな依頼をしやがる?」

 

腰抜け(チキン)になってやがるのさ。ウワサじゃ、日本製のトンデモ兵器に番犬感覚で護衛させてんだと」

 

「そりゃ僕も聞いたことあるぜ。第二次世界大戦の軍艦がどうこう、ってヤツだろ?」

 

Ja(ああ)、その通りだ。だが妙だと思わねえか?」

 

「当たり前だ。その兵器ってのは、海軍が所有するっていうウワサもセットで付いてくる。もし本当にそうだとしたら、カルテルのアホが持ってること事態がおかしい」

 

「説明口調どうも。だがそこだ。そこが唯一にして一番おかしい。てか、存在するかも怪しい兵器にサツが怯えてやがるのか?」

 

「存在が怪しいから恐いんだよ。もしかしたらデマかもしれねえが、もしかしなかったら100パー殺されるんだからな」

 

外国人は白く、細い人差し指をくるくると円を描くように回す。

 

「.....いやちょっと待て。もしかして、それを僕一人で相手しろってのか?」

 

「オウ」

 

「この話は無かったことにしようぜ」

 

「待てコラ」

 

青年は舌打ちをして店を出ていこうとするが、外国人に肩を掴まれ、嫌々席につく。

 

「ふざけんな。なんで僕はヤクでラリってるマザー××カーとターミネーターを相手しなきゃいけないんだよ」

 

「落ち着け。だがな、この仕事、未だ類を見ないくらいに報酬がウマイんだよ」

 

「.....ちなみに、いくら?」

 

「ランボルギーニヴェネーノとLeica 35mmを買っても釣りが出てくるな」

 

「そんな羽振りの良いクライアントって誰だよ?政治家か?裏のボスか?」

 

青年は疑いの目を外国人に向ける。しかし、外国人は口笛を吹き、誤魔化す。

 

「軍人さ。海軍のChef(ボス)が、直々に依頼を出してきた」

 

「マジかよ....どこまでやれば任務達成だ?」

 

「まず、カルテルがどうしてそのトンデモ兵器を味方にできてるのかを解明、その上でカルテルを壊滅。皆殺しで構わないらしい。で、最後に兵器の無力化。壊したらアウトだ。報酬がチャラになる」

 

「あークソ...どうしてこうも注文が多いんだよ...」

 

「組織のトップってのはそういうもんだろ。前もそうだったじゃんか」

 

「そりゃそうだったけどよ...まあいい。作戦、考えねーとだから帰るわ」

 

「ハア!?俺が払うのかよ!?」

 

「ドイツ人は親切なんだろ?頼んだぜ」

 

「ユダヤ系だっつの...ああ、そうだ、一つ言うの忘れてた」

 

「あ?何だよ?」

 

「その敵のトンデモ兵器な、カワイコちゃんばっからしいぜ?ありゃソッチ系の仕事でバカ売れ確定だな。あんな美人さんだったら、殺されても本望だぜ、俺は」

 

「そーかよ。じゃ、明日までに口説き文句でも考えておくとするか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つかアイツ...ちゃっかり追加注文してやがる.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ.....最高に最悪だチクショウ。こんなことなら事務所でゴロゴロしてやがるあのファ××ンアイリッシュも連れてくりゃよかった.....」

 

翌日、嫌々依頼を引き受けた青年、裏の界隈で宗介(ソースケ)と呼ばれている男は、メキシコ湾を航行しているタンカーをキューバから見ていた。恐らく、あれがメキシコ発、フロリダ行きの麻薬密売船だろう。そして、タンカーの周りはどう見ても幼い少女が陣取っていた。海の上に浮かび、変な武装をしていなければ普通な少女だ。

 

「なんだありゃ?人型のアメンボか?にしてもまあ、あんながっちりコンボイ組んじゃって...どうしましょうかね.....」

 

あの船はキューバに寄り道しない。フロリダ直行便なので、どうにかしてあの船に失礼する必要があるのだが、いかんせんその方法が思いつかない。短距離瞬間移動(ブリンク)の限界距離も、アジリティ(大ジャンプ)の限界距離も伸ばしたが、それでもあのタンカーには届かない。では、どうするか?

 

「寄り道する理由が無いなら、つくればいいじゃない。あのドイツ人に頼るのは癪だけどしょうがねー」

 

宗介は背負っていた大きなカバンからそれを出す。黒く、長い筒状のもので、トリガーとグリップ、スコープが付いている。

 

SMAWロケットランチャー。肩撃ち式の多目的ロケット擲弾発射器で、彼はそれに対戦車弾を装填する。弾が大きすぎるという愚痴を溢しながら。

 

「オーケー、ばっちり射程外だぜこんちくしょうが」

 

舌打ちをしたものの、スコープを覗いてタンカーを標準に合わせる。正直、当たっても当たらなくてもいいのだが。万が一当たればラッキー程度の認識だ。というか、あたってもダメージになるか怪しい。

 

やや上機嫌の宗介が躊躇いなしにトリガーを引くと、轟音と衝撃が宗介の体に襲いかかる。木々から鳥達が羽を羽ばたかせて飛び立つ。普通なら反動でぶっ飛ぶレベルの衝撃だが、宗介はそれをものともしない。

 

「ああくそ...久しぶりに撃つとこれかよ。僕もぶっ放す前説明書を読んどきゃよかった」

 

肩を抑えながらタンカーのほうを見やると、少女達は警戒態勢を取っていた。当然、近くにそれらしき船がなければどんなバカでも陸を警戒する。

 

「さてさて...これでピナール・デル・リオに停泊とかやめてくれよ...」

 

宗介が知る限り、あそこに港はない。と、なれば、ハバナに来るはずだ。その宗介の読みは当たったらしい。厳戒態勢ではあるが、こちらに近づいてくる。

 

「ビンゴだ。後はまあ、頑張って色々やろう」

 

嬉しそうに声を弾ませ、懐から折り畳み式の刃物を取り出す。刃渡りの関係上、これをナイフと呼んでいいのかは疑問だが、これを宗介は剣という呼称で統一している。

 

跳び移る段階でバレるだろうが、別に問題無い。死人に口なしだ。あの少女達も、船の甲板には海上からジャンプできない。というか、軍艦が海上でジャンプなんてしてたまるか。

 

「さて、じゃあ失礼しますよーっと」

 

自分の素の身体能力+アジリティ+ブリンクを組み合わせれば、大体の溝は飛び越えられる。甲板には、スーツでビシッと決めた人達が大量にいらっしゃった。フルオートアサルトライフルにサプレッサーが付いているあたり、目立ちたいんだかドンパチしたいんだかよく分からない。

 

宗介が甲板に勢いよく着地すると、甲板の全員がタバコをふかし、あるいは談笑を止め、音のする方向を一斉に見やる。

 

「あ...えっと...は、ハロー?」

 

しばしの沈黙。先に動いたのはマフィアだった。

 

「テメェ、どっから来やがった!?」

 

「殺せ!鉛弾ぶちこんでやれ!」

 

「ただの肉塊にしてやれ!」

 

「てか何であんたらタンカーのデッキにいるんだよ!?」

 

そう叫びながら、船内に入っていく。金属製のドアが閉じ、ハンドルを回し鍵をかけたところで金属音とともにドアに無数の凸が出来る。向こう側から撃たれた銃弾のせいだろう。貫通するのも時間の問題だ。

 

「いや、どうしよ、これ。まさか得物があんなんだとは....」

 

あのマフィア達が持っていた装備、パッと見AK-47だが微妙に違う。

 

「自動歩槍か?僕の勘じゃ56式がクサイんだが...チッ、あいつに頼るかぁ...」

 

船内の廊下を進んで左に曲がり、一番奥にある扉を開ける。ドアが開かないようもたれかかってからポケットのスマートフォンを取り出す。

 

番号を押し、数回コール音が鳴ると、少々高めの声が宗介の耳に届く。小さくではあるが、ボタンを押す音も聞こえる。

 

「オウオウ、ソースケじゃんか。今度は何がお望み?銃か?爆弾か?青酸カリか?」

 

「残念だが調達の仕事じゃねえ。銃の種類が知りたいんだが、どうも分からん。AKに似た銃ってことぐらいしかな」

 

そう持ちかけられると、地味にウザったいボタンをカチカチ押す音が消える。

 

「持ち主は?」

 

「メキシコカルテルマフィアどもだ」

 

「数は?」

 

「22挺」

 

「カスタムパーツは?」

 

「全部サプレッサーが付いてる」

 

「56式だろうな。今のマフィアが持ってんのはだいたい56式だ。ただのマフィアがモノホンのAKをそんなに揃えられるワケがねえ。タンカーを貰ってんなら尚更だ」

 

「もしかしたらただお願いしただけかもな」

 

「お願いの会場にマズルフラッシュが見えたりしてな。つか、お前今どこだ」

 

「タンカーの中、地理的に言うならフロリダ海峡だな」

 

宗介は右手首に巻かれた腕時計を見る。タンカーを見つけてから30分。ここまで依頼を1つも達成していない。暗い部屋の中で、宗介のテンションはさらに暗くなっていた。

 

「おーいソースケ?どうしたんだ?死んだか?」

 

「んなわけねーだろ。聞きたいことはこれだけだ。サンキューな」

 

「ハイハイ、どういたしまして。じゃあな」

 

ブツン、という音が聞こえ、通話が切断される。腕を脱力させ、溜め息を吐く。

 

「あー.....どうしよ。剣と拳銃と瞬間移動だけでアサルトライフル持った紳士に太刀打ちできねえっつの.....ん?」

 

さっきまで緊張感と電話のせいで全く気付かなかったが、宗介と反対側の位置...部屋の隅から声が聞こえる。すすり泣くような声だ。

 

「誰だ?仲間か?勘弁してくれよ...熱烈に歓迎されたばっかなのによー...」

 

宗介がそう言ったら、声の主は怯えるように声を詰まらせる。声の高さからしてかなり幼い。女性というより女の子だろう。

 

「いや...いや.....」

 

女の子が、涙目ながら宗介を見て何かを訴えているようだった。もし宗介の心に余裕があれば、彼女は無惨に切り刻まれていただろう。

 

「どうしたってんだ?外にいるのはお前のお友達じゃないのか?」

 

「え?」

 

「は?」

 

どうも話が合わない。宗介は見えない相手に向かって話しかけた。

 

「All right分かった。まずは自己紹介といこうじゃないか。僕らが敵同士じゃないことを証明しようじゃないか」

 

「あ...あの人達とは違うのです?」

 

「そうさなあ.....僕はただのお尋ね者さ。とりあえず姿を見せてくれよ。実態が見えない幽霊みたいなやつと話なんてビビってできないって」

 

「はい.....」

 

暗がりから出てきたのは、宗介が予想した通り、幼い女の子だった。茶色の髪をアップヘアーにして束ねている。でも、なぜか左側は下ろしている。服装はセーラー服で、ハイソックスを履いている。上着の上側の裾に着いている「III」というバッジの意味は分からない。

 

「じゃあ自己紹介...という前に、やっておくことがある」

 

「なんなのです?」

 

「ん」

 

「へ?」

 

宗介はポケットから剣と拳銃を取りだし、少女に投げ渡す。少女はそれをキャッチし損ね、慌てて拾う。

 

「僕の武装の全てだ。僕が怪しい動きをすればそれで殺せ。眉間ぶち抜いても喉を切り裂いてもいい。抵抗はしねえ」

 

「そ、そんなのダメです!」

 

「駄目じゃない。知り合ってまだ5分も経ってねえ男と自分、どっちが大事だ」

 

「でも、私にはこんなこと出来ません!」

 

「だったらなんだ。つか、てめえ誰だ?マフィアのタンカーに閉じ込められるなんざ、どう考えてもカタギに見えねえ」

 

「も、申し遅れました!私、特III型駆逐艦四番艦、(いなづま)と申します。どうか、よろしくお願いいたします」

 

そう言って、電と名乗った少女は深く頭を下げた。

 

「んじゃ、今度は僕だな。宗介だ、よろしく。名字は知らねえ。親は顔どころか名前も知らなかったからな」

 

「.....驚かないんですね」

 

「ああ、駆逐艦の話か。そりゃあなあ.....」

 

宗介は立ち上がり、電の肩を思い切り掴む。

 

「ひゃっ!?」

 

「驚かねえわけねけねえだろうが!なんなんだよ、どうしちまったんだよ日本人!軍艦を女の姿にだと!?Holy shit!(冗談だろ)どんな脳ミソもってたらそんな発想に辿り着くんだよ軍人ども!」

 

宗介は肩から手を離し、体育座りでガックリと項垂れる。

 

「なんつーか....お前が救いようのないクズだったら、僕も躊躇いなく引き金を引けたってのに...」

 

「ええっと、ごめんなさいなのです?」

 

「いやうん...お前のせいじゃないよ」

 

サムズアップをするが、姿勢のせいで電を不安にさせる。

 

「あ、そうだ。海の上でプカプカ浮いてる女の子達は、あんたのお仲間?」

 

「みんな!!」

 

宗介がその話をすると、電は弾かれたように扉に向かって走る。

 

「落ち着け。今デッキに出たら穴だらけにされるぞ」

 

「離してください!」

 

「だから落ち着け。僕はお前に話を聞きたい。そのお仲間について聞きたいんだよ」

 

「第七のみんなについて...ですか?」

 

「Yes.幾つかね」

 

「.....答えられるものであれば」

 

完全に納得したわけではないだろうが、電は大人しくなった。宗介は電から手を離す。

 

「分かってくれて何より。で、早速聞きたいんだけど、あんた含め海の上の奴らは、軍属だな?それは間違いないかい?」

 

「はい」

 

「なんで軍のヤツがマフィアの護衛なんざしてやがる?どう考えてもオカシイだろうが。アウトローに憧れる年齢か?」

 

「それは.....分かりません」

 

「は?」

 

「分からないのです!あの人達が第七のみんなと少し話をしたら、あんな感じに...」

 

宗介にも予想外の答えだった。彼の見解では、マフィアは何かの理由で電に手を出せず、かといって野放しにしておくわけにはいかなかったので、こんな風に軟禁している。そう思っていた。

 

しかし、電が事情を知らないとなれば、閉じ込める理由がない。

 

(つか、なんで電だけこんなんなんだ?あいつらがただの電LOVEなだけ?いやありえねえ。その第七とかいうヤツしかどうこうできなかった?何かで釣ったか、脅したか...というか、なんでここに見張りみたいなのが一人もいやがらねえ?デッキでどうせ穴だらけにされるだろとでも思ったのか?)

 

宗介が頭を悩ませる主な理由として、

 

・なぜ第七のみを起用し、電を起用しなかったたのか、あるいはできなかったのか

 

・電が日本製のトンデモ兵器だとして、タンカーに軟禁で済ませたのか

 

・マフィアが第七を脅したと仮定した場合、マフィアはどうやって軍属の人体兵器を脅せるほどのネタを手に入れたか

 

・マフィアが第七を釣ったと仮定した場合、何で釣ったか

 

こういう連中はボスへの忠誠心が高い。拷問で口を割らないのがほとんどなので、宗介にとっても非常に面倒くさい。

 

「参ったな...生かしておく生かしておかない以前に、僕が死ぬ可能性もあるんだよな」

 

電に聞かれたら後々うざったいので、宗介は限りなく小さい声で呟いた。彼には超常的な能力が備わっているとはいえ、それ以外は普通の人間だ。不老不死でもなければ、器官が再生するわけでもない。痛みがあり、心臓や頭に命中すれば即死する。

 

「さて、電。ひとつ、僕の一族の初代の話をしてあげよう」

 

「あなたの一族、ですか?」

 

「僕らの一族には名字が存在しない。ってのも、初代に関する文献がアホみたいに少ねえ。分かってるのは、海軍にちょっかい出したのと、名前が悠介ってことだけだ」

 

「海軍に!?」

 

「ああ。非合法組織に繋がりがあった旧呉鎮守府の提督を切り裂いた後にソ連軍の航空機の機銃掃射で戦艦大和とともに死亡。なんつー無茶しやがるってんだ。海軍にケンカ売るなんざ、どう考えても手の込んだ自殺だろ」

 

あぐらをかき、頭をかきむしって苦々しそうな顔でつ言った。

 

「おっと、お話してる場合じゃねえ。さすがにあんな数はお相手できねえな。電、なんか役立つモン、無い?」

 

思い出したように言う。宗介も思っていることだが、一向にマフィアがやってこない。まだ探しているのか?とも思ったが、あれだけの人間がいるのに、ここに誰も来ないのは不自然すぎる。まさかとは思うが、

 

(恐れている?なんの武器も持たないガキンチョに?)

 

仮にこいつが第二次世界大戦の軍艦だとして、それらしい武装がないのだから恐れる理由などないはずだ。

 

そこで宗介はある嫌な想像をして、電の上着...というか、セーラー服を掴みはだけさせると、タクティカルベストにプラスチック爆弾がテープで巻かれている。タイマーが無いあたり、遠隔起爆式だろう。

 

「F××k!!なんてこった!」

 

電は唯一の手がかりだ。ここで爆発四散しちまったら迷宮入りして報酬がチャラになる。というか、今ここで起爆されたら宗介も一緒に四散する。

 

(ん?今ここで起爆?)

 

さきほどの角度からは見えなかったが、天井の隅に機械が据え付けられている。監視カメラだ。

 

「うーわ...見落としてた」

 

まあ、軟禁しているのだからそれくらいあるだろうが、問題はそこじゃない。

 

「ああクソ...こいつ助けて自分も助かるなんてできるか?」

 

想定外の出来事がポンポン出てくるせいで、宗介の脳は疲弊していた。マフィアに銃撃され、軍艦が人の形になったのとご対面して、今ここでいつ爆発するか分からない爆弾があるのである。急展開にも程がある。

 

「最悪だっつの...さてさて、これどうしようか...」

 

与えられた仕事は全力で取り組むのが宗介自身のルールである。動機と善悪の区別は別として。しかし、今この状況は非常にマズイ。宗介と電、二人の命は起爆スイッチを持っているマフィアが握っているのである。つまり、彼らの命はリモコンのボタンを押す感覚で無くなるのである。

 

「し、死刑囚ってこんな気持ちなのかな.....?」

 

最後の晩餐があれば良かったな、なんてくだらないことを考えている暇はない。電が持っている剣をひったくると、タクティカルベストの肩部分を切り裂き、部屋の隅に投げ飛ばす。まだ起爆はしない。

 

(ニセモノ?マフィアがそんなガキみたいなイタズラするか?)

 

宗介自身も未成年であるが、自分にとって不都合なことは脳内から消去される。いや、今は年齢をどうこう言っている場合ではない。まずは脱出を考えなくては。

 

「開かなくなってるとかいうオチはやめてくれよ....」

 

爆発オチはシャレにならない。顔に汗を浮かべにやけるというなんとも言えない顔の宗介はドアを開け、電の手を握り乱暴に引っ張り部屋から出す。紳士的にエスコートなどと言っている状況ではない。最初はずんずん廊下を進む宗介だったが、段々足取りが重くなっていく。

 

「逃げ道無くね、電?」

 

「あ」

 

「ああもう...なんでマフィアって無駄に用意周到なんだよ.....」

 

ここからではデッキに出る道しかない。だが、マフィア達に出会ったら銃弾で熱烈に歓迎されるだろう。

 

(鉛弾のフルコースにBGMはサプレッサー付きの陰気な銃声、堪能できるのは劇場の劇じゃなくてスーツの紳士どもとマズルフラッシュってか。やかましいわ)

 

マフィアどもに負けないためにはどうするか?アサルトライルの一斉に射撃になど、人間は耐えられない。ならば、人間じゃなければいい。

 

「電、なんかこう、通信機的なものとか持ってない?」

 

宗介は電に通信機の有無を確認したが、宗介も結果は薄々分かっていた。

 

「えっと.....盗られちゃいました」

 

ですよねと言いたげな、呆れたような諦めたような顔をした宗介は、自分の作戦が振り出しに戻ってしまったことに嘆いた。

 

ここまでずっと、マフィアに対抗するための策を考えてきたが、正直彼が能力をフル活用し、逃げに徹すれば逃げきることは難しくない。正面切って戦うにしても、2年前に大湊警備府の第一艦隊を攻撃し、戦艦、重巡、駆逐艦を轟沈させた。手口は簡単、民間の客船からブリンクによって艤装に乗り移り、致命傷を与えた。戦いの才能は初代よりも上かもしれない。そんな彼が自由に行動出来ない理由として、やはり依頼のせいだろう。逃げたら問答無用で依頼失敗。戦うにしても...

 

(銃弾って痛いじゃん。最悪死ぬじゃん。うわマジでやだ。一人だけだったら機関銃でも大丈夫だけど、あそこまで多いとなあ....)

 

である。超能力があるというのにこの男、まったくそれを自分から使おうとしない。平和主義者を自称する彼らしいが、大湊警備府という前科がある。幸いにも、電にはまだこのことはバレていない。情報が伝達されていないのか、電の頭が弱いのか、どちらかは分からないが。

 

(あれ?これ戦わないといけないパティーン?冗談だろ?海軍がピリピリムードの時に、マフィアが謎の死!なんて報道されたらヤバいって)

 

大湊警備府の第一艦隊急襲により、全鎮守府と全泊地の提督は警戒している。その時のクライアントは海軍上層部で、金と身分で黙らせることは簡単だった。しかし、今は違う。こんな目立った事件を起こせば、宗介の存在が明るみに出る。

 

パッと行ってチャッチャと依頼完遂してサッと帰ってこれれば良かった、なんて淡い期待も、今や無意味だ。

 

「何か、お悩みがあるのです?」

 

「まあうん、なんつーか、報酬が多い理由がわかった気がする.....」

 

「へ?」

 

「何でもない.....いや、落ち込んでる場合じゃない。とっとと艦娘について調べてマフィアの死体で山造らねえと」

 

しかし、非合法組織であるマフィアを殺すとなると、正義に加担しているようで気に入らない。

 

言うまでもなく、宗介が超能力で慈善事業をしない理由は至ってシンプル。正義らしいことが嫌いだからである。

 

自分の仕事の邪魔となり、別に無くても地球は回る。宗介にとっての正義は、人間にとってのゴキブリのような存在なのだろう。ただ、嫌悪する存在である。

 

宗介が依頼について愚痴るのは初めてだった。なぜ急にこんなことを考えたのかは分からない。自分らしくない、と頬を叩き活をいれ、デッキへ続くドアに手をかけようとしたとき――

 

「―――――!?」

 

「―――――!」

 

話し声が聞こえた。デッキからだ。声の高さから片方はマフィア、もう片方は電と同じくらいの年齢のやつだろう。

 

「おい電、ちょっとこっちこい」

 

小声で電に手招きをして、デッキの方向に人差し指を立てる。この声に聞き覚えは?という意味だ。数秒、電は扉に耳を当てる。そして血相を変え、大声とともにドアを開けようとする。

 

「あ、曙ちゃ―――」

 

「バカ黙ってろ!バレるだろうが!」

 

叫びそうになる電の口を塞ぎ、小声ながらも気迫がある声で言う。今ここで開けるなど冗談じゃない。猛獣の口に入っていくようなものだ。まずデッキがどういう状況か知る必要がある。

 

 

ダークビジョン。

 

誰がそう名付けたかは知らないが、とにかくこの能力はそう呼ばれている。遮蔽物の向こう側にいる生体のシルエットと、その視界範囲が見える能力。宗介は、電がいた部屋の前であらかじめこれを使っておけばよかったとも思った。

 

さて、ダークビジョンによって分かったことは、まずマフィアが円を描くように集まっており、その中央には別の人物がいる。数は4人。背丈からして子供、座っているのだろう。

 

「何だ何だ一体どうした?懺悔か?お説教タイムか?仲間割れか?」

 

「えっと、どうしたのです?」

 

「さあな。だが、あんたのお仲間を助けるのは一筋縄じゃいかないらしい」

 

どうしたものか?電の武器が見つかればとも思ったが、今から探す時間がない。というか、処分されていてもおかしくない。

 

「...しゃーない。これだけはやりたくなかったんだけど」

 

忌々しく舌打ちをして、どうして僕が兵器を救助するんだよ、普通逆だろと言う。

 

そして、今頃宗介のことを想像しながらコーラを口に流し込んでいるであろうドイツ人に電話をかける。

 

「おうおうソースケ、どうした。ピンチか?」

 

「ああ、ピンチだ。今から50秒後に、僕のいるところにヘリを送ってくれ。できるか?」

 

「あったりまえよ。なんなら、俺が操縦してやってもいいんだぜ?」

 

「まあそれは良いとして、アレ、積んでこい。それから事務所で寝てるヤツを蹴飛ばしてから行け」

 

「連れてかねーのにか?」

 

「今寝られたら夜の依頼に支障が出る」

 

「本音は?」

 

「こちとらマフィアの船で兵器を救助してるってのにアイツだけ寝てんのが気に入らねえ」

 

「素直でよろしい」

 

「うっせえクソが」

 

言葉とは裏腹に、微笑を浮かべる。

 

「電、いいか。さっきの部屋から例の爆弾持ってきてくれ。今僕は、あんたのお仲間が殺されないために見守るのに手一杯だ」

 

「は、はいなのです。ですが、カメラは....?」

 

「今は見られてない。多分な」

 

電は何も言わず、十数秒してから爆弾を両手に抱えて持ってきた。一見すると、人間爆弾の犠牲になった可愛そうな少女だ。さっき巻き付けられていたが。それを右手で持ち、ドアを開ける。当然、マフィア達の視線は一斉に宗介と、隣にいる電に注がれる。

 

「おいでなすったぜ、ネズミがよお」

 

「おう、てめえ、下手な動きでもしてみろ。身体の風通し良くした後に深海魚ツアーに案内してやるよ」

 

「面倒かけさせやがって。楽に殺しちゃつまらねぇ」

 

「あー...どうしよ、これ」

 

早速諦めたくなった宗介だが、その目はしっかりと一点を見ている。マフィアが臨戦態勢をとり、バラけたところで今回のターゲットを肉眼で確認する。海軍所属の第七駆逐隊の朧、曙、漣、潮。

 

(つか、何で四隻なんだ?先に助けられたか?編成的に、軽巡か?)

 

「まあ待て。ここで僕を殺るのは楽勝だ。だけどな、ここで僕がコイツを使えば、お前らも決してタダじゃ済まねえ。そうだろ?」

 

「てめえ、プラスチック爆弾なんぞで沈められるとか思ってんのか?」

 

「いやそこまでいってねえっつの。でな、こっちとしても契約だから、そいつら死なすわけにはいかんのよ。僕の身柄と、交換してくんね?」

 

「あ?てめえ、何言ってやがる?」

 

いやらしい笑みを浮かべ、銃を構えて宗介の方へ歩いていくマフィアをものともせず、宗介はチラリと腕時計を確認する。それと同時にヘリコプターの喧しいプロペラ音が聞こえる。それを不自然に思いながらも宗介と電を取り囲む。

 

ヘリコプターがぼんやりと見えてきたところで、宗介は行動を起こした。電の手を握り、ブリンクで爆破の衝撃が少ない高さまで移動し、拳銃によってプラスチック爆弾を撃ち抜く。次の瞬間、それはけたたましい音とともに爆発し、辺りに衝撃と熱風を撒き散らす。

 

「そ、想像以上に強かったんだけど.....」

 

「びっくりしたのです...」

 

予想以上の強さでデッキに叩きつけられ顔をしかめるが、爆発でバラバラになったり失神しているマフィアを見て笑う。

 

「してやったぜ!一瞬でこんな死体の山を築き上げるなんて、どんなシリアルキラーでもできねえぜ!」

 

一人ではしゃいでいる宗介の隣で、電は口を手で覆って震えていた。駆逐艦、兵器と呼ばれても、心は少女なのだろう。

 

第七駆逐隊は、お互いの身体を寄せあって宗介を見ている。

 

「い、今あんた瞬間移動....」

 

「疲れからくる目の錯覚だぜ」

 

今考えた、相手が冷静なら普通にバレるであろう嘘で誤魔化す。剣で手錠のチェーンを切り落とし、ヘリから垂らされた4つの紐に掴まるよう指示し、紐が引き揚げられた事を確認し、宗介は電の服の襟首を掴んでブリンクし、ヘリコプターのスキッドに乗る。電を乱雑に押し込んで。

 

「まーた随分派手にやったな。お前じゃなければ今頃石碑に名を刻んでたぜ?」

 

「ふざけんな。黙って操縦しやがれ」

 

「なんでだよー?かっこよく助けに来てやったんだぜ!?クリント・イーストウッドみてーによー」

 

「荒野の用心棒は他所でやれ。夕陽のガンマンもお呼びじゃねえ」

 

「ったく、お礼の一つくらい言えないもんかね?」

 

「9mmパラべラムをてめえの脳ミソにプレゼントしてやろうか」

 

「おー怖....ん?」

 

ドイツ人は肩をすくめる。すると、ドイツ人の携帯が着信音を鳴らす。

 

「もしもし?...はい、じゃ、代わりますね」

 

いくつか会話をすると、ドイツ人は自分の携帯を宗介に差し出す。

 

「クライアントの部下がお前に代われとさ」

 

「海軍上層部の部下?」

 

「自分をテイトクって言ってた。詳しいことは知らん」

 

「提督ってーと、鎮守府のトップじゃんか.....はい、お電話代わりました」

 

「.....あなたが依頼を受けてくれたフィクサーね?まずお礼を言うわ。ありがとう」

 

宗介は叫びそうになった。自分が想像していた提督と全く違った。もっと低く、静かな声だと思っていたその声は女性のように高い。というか、女性そのものだ。

 

「ええ、まあ、どういたしまして」

 

「それでね、一つお願いというか、頼みがあるんだけど、いいかな?」

 

「お聞きしましょう」

 

「直接会って話したいんだけど」

 

宗介は言葉を失った。

 




次回、ようやく鎮守府入り、提督と対面。

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