鎮守府の超能力アサシン   作:メイン盾

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ep.4 契約

どう考えても罠だ。

 

宗介もドイツ人もそう直感で分かった。セネガルで飛行機に乗り換え、インドで燃料を補給しまた日本に帰ってきたとき、宗介は決心し鎮守府に乗り込む決断をした。どのみち第七駆逐隊と電を届ける必要もあったし、もしものときのために頭数を減らしておくに越したことはない。そう考え、彼は新呉鎮守府にやってきた。西暦2000年代が終わろうとしているというのに、赤レンガで建造された時代を感じさせるものとなっている。

 

「ソースケ、分かってんな?」

 

「ああモチロンだ。怪しい動きした瞬間に、閻魔様の前におっ立ててやるぜ」

 

気合い十分な彼らが扉を開けると、そこには一人の女性が立っていた。駆逐艦とは違う、可愛いというより綺麗という言葉が似合うような人物像だ。彼女は、凛々しい顔つきでこう言った。

 

「あなた方がそうですね?お話は聞いております。私、大和型戦艦一番艦の大和です。提督がお待ちです。こちらへ」

 

大和と名乗った女性は、宗介達を先導するように歩く。宗介達は横に並んで歩き、小さな声で会話する。

 

「あのセクシーな人、なんでわざわざ自己紹介なんざしたんだ?」

 

「平和なパターンとそうじゃないパターン、どっちから聞きたい?」

 

「平和なパターンからで」

 

「ただの礼儀さ。日本人ってのはそういうの気にするからな」

 

「日本人は神経質だよなー....じゃ、できれば聞きたくなかったけど、一応聞いておこう。平和じゃないパターンってのは?」

 

「僕らが厄介事を起こさないためさ。[お前らの傍には超弩級戦艦の私がいるんだから、妙なマネはするなよ]って意味だよ」

 

「起こしたくて起こしてるわけじゃないんだがな。そういやよ、俺、さっきからずっと気になってたんだけどよ」

 

「あ?んーだよ?」

 

「何だって軍艦を女の姿に変えるんだ?敵にハニートラップでも仕掛けんのか?」

 

「さあな。その辺は僕にもよく分からん」

 

「日本人っていいやつだけど、たまにわかんねえよな」

 

「分かりきってちゃつまらないのさ」

 

「ああ、まったくだ」

 

いつの間にか二人は笑ってしまいそうになるが、声を殺して抑える。

 

「着きました。ここに提督がいらっしゃいます」

 

目の前の扉は、途中のどの部屋よりも装飾が細かい。おそらく他の物よりお高いのだろう。

 

「リッチな扉だこと。なんだ、資本主義か?」

 

「それ微妙に違うぞ。とにかく入ろう。提督サマにご無礼をはたらいたら主砲でミートパテになっちまう」

 

「おお、怖や怖や」

 

もはや言葉が態度に出ており、若干にやついている宗介が扉をノックする。扉のすぐ横では、大和が横目で宗介を親の仇のように睨み付ける。

 

「どうぞ。鍵は開いてるわ」

 

「失礼します」

 

提督がいる部屋は、二人の想像通りともいえる部屋だった。机、ソファー、クローゼット、etc...全てが高級品で、ブランドのロゴが刻印されている。部屋の一番奥には、一際存在感を放つ大きな机があり、椅子には若い女性が座っている。

 

「こんにちは。突然お呼び立てしてごめんなさいね。私がこの鎮守府の提督よ。よろしくね」

 

物腰柔らかく接してくる提督を、二人は注意深く観察する。クライアントの部下とはいえ、決して綺麗ではない仕事をしている二人にとって、軍隊の施設に行くなど本来自殺行為に等しいからだ。

 

「まずは改めて、お礼を言っておくわ。私の部下を助けてくれてありがとう」

 

「いえいえとんでもありません」

 

「それでね、報酬の話に早速入るんだけど.....」

 

「まさか、用意してないとかじゃないですよね?」

 

「そんなわけないじゃない。でもね、もう少し話があるの」

 

提督の真剣さを感じさせる面持ちに、二人は自然と目を鋭くした。

 

「今の日本がどうなっているかは分かってるかしら?」

 

「十字架事件、だっけ?」

 

十字架事件。いつしか世間で騒がれるようになったその猟奇殺人の始まりは、つい最近の事だった。

 

3ヶ月前の午前5時。日本のとある街のとある山から男性の悲痛な叫び声が聞こえた。その声を聞いた、トラックドライバーは、恐る恐る山に入った。中腹あたりについたところで、そのドライバーはあるものを目にした。人よりも遥かに大きい十字架、その付近に付着するおびただしい量の血液。すぐに山を降り警察に通報。付近を警察が探索すると、ポリ袋の中に男性の遺体と十字架のネックレスが血まみれで入っていたという。

 

「は?今の事件が一体どうしたってんだよソースケ?」

 

「わかんねえのか?犯人その十字架に磔にした男の叫び声をモーニングコールに使って、そのあとわざわざ男をバラバラにしたあとポリ袋にネックレスと一緒につめて捨てたんだよ」

 

「.....イカれてんな」

 

「お前が思ってるよりずっとな」

 

この事件を知る提督も、事件を聞いたドイツ人も、緊張感があったというのに、宗介は鼻で笑った。

 

「話を戻すわ。そのイカれた殺人野郎のせいで、海軍上層部が艦娘を護衛につけろってうるさいのよ。海軍のお偉いさんだってのに、殺人一つでうるさいわよね。で、私は当然可愛い部下をあんな腐りきったとこに送るのはいやなわけよ。でも、いつか後ろから刺されて力ずくで奪われる可能性も捨てきれないわけね。」

 

「で、それが?」

 

「追加報酬を払うわ。永続的契約で、私と艦娘を護衛してちょうだい」

 

永続的契約。つまり、クライアントが死ぬまでの契約ということだ。できないことはないが、ハイリスクローリターンな気もする。

 

「いいのか?それなりのカネを貰うぜ?」

 

「分かってるわ。報酬はこの中よ」

 

「......マジか。値は張るっても、ここまでやんのか?」

 

「自分の命と部下の安寧のためよ」

 

「ソースケ、どうすんだよ?」

 

「どうもこうも、カネ貰って依頼も明確なんだから答えは一つだろうが」

 

「受けてくれるかしら?」

 

「ええもちろん。よろしくお願いしますよ」

 

差し出された提督の手を、宗介は強く握る。

 

「あら、[海軍の軍人を護衛するなんて死んでもお断りだ!]とか言うと思ったんだけど」

 

「いやいや、提督はいい金ヅル...いえ、資金提供者なので」

 

「まあいいわ、ついてらっしゃい。私の可愛い部下達を紹介するわ」

 

席を立ち、提督はついてこいと指を動かす。

 

「つか、あんたの部下はどんくらいいんのさ?」

 

「さあ....私も細かく数えたことないからなぁ.....60以上ってことくらいしか.....」

 

「他のとこより少なめだな」

 

「なんでお前が分かるんだよ?」

 

「情報提供者がいるんだよ」

 

「あんまり勝手なことはしないでよ?あ、ここが食堂ね」

 

ドアノブを回そうとした提督を、宗介は肩を掴んで待ったをかける。

 

「なによ、どうかしたの?」

 

宗介は提督とドイツ人をドアから離れさせ、ワイヤーをドアノブに結び付けてドアの横に張り付く。耳を塞げと二人に合図をし、耳を塞いだことを確認すると、手に持ったワイヤーを引っ張り、ドアを開ける。

 

ドアが全開になる前に、爆音と煙と衝撃波が廊下に広がる。提督達の髪と服が揺れ、宗介に至っては完全に見えなくなった。

 

「おいおいどうしたぁ!?リーサルウェポンがさらにイカれちまったのかあ?おい宗介!無事か!?」

 

ドイツ人の問いかけに返ってくるのは、金属音と砲撃音と悲鳴だ。

 

「ちょっとみんなー!何やってんのよー!」

 

煙が晴れてきたので急いで突入すると、食堂内は戦場のようになっていた。テーブルは予めどかされており、所々は煤でよ汚れていて、血すら落ちている。食堂の中央で宗介が剣を首にピタリと押し当て、額に銃を突き付けられている艦娘は―――

 

「長門!」

 

「来るな提督!コイツは危険だ!」

 

威勢の良い長門とは対照的に、食堂の隅にいる艦娘達はオドオドとしていた。

 

「ちょっと待って長門!言ったはずよ!今日新しく護衛を雇うって!」

 

「そんな戯言が信じられるか!」

 

提督にそう吐き捨てた長門は剣と拳銃を持つ宗介の両手を掴み、力業で圧倒しようとしたが....

 

「よっ」

 

腕に全ての力を集中した長門は、当然ながら脚への意識が疎かになった。足払いによっていとも容易く仰向けに転ばされる。その長門に覆い被さり、逆手持ちの剣の切っ先を長門の喉元に向ける。

 

「ぐっ....」

 

「落ち着きなよ。お前らが僕をどう思おうとも構わない。だがな、カネを貰ってる以上、僕はここで働く」

 

「やめなさい長門!」

 

「その物騒なモンしまえよソースケ。クールに行こうぜ?な?」

 

長門は提督に、宗介はドイツ人に羽交い締めにされた。双方、拘束を解いた瞬間ぶっ殺してやると言わんばかりに睨み合っている。

 

「...すまない提督。もう大丈夫だ」

 

「...おいコラ、さっさと放しやがれクソッタレが」

 

「お前も長門サンみたいに謝罪くらいしてみろって」

 

「お前らがいなくても解決できてたっつの」

 

「長門サンは永遠に会話できなくなるけどな」

 

「トマトがなくてもボルシチを赤色に出来たけどな」

 

「怖いこと言うなって。同じ職場で働く仲間だぜ?」

 

拘束を解き、ドイツ人は宗介の肩を叩く。それに腹を立てた宗介は、クソがッ、と悪態をつき、爆発で取れたであろう木片を思い切り蹴飛ばす。

 

「あーもーそこの.....」

 

「エリク。よろしく頼むよ」

 

「エリク、彼にこれを」

 

提督はエリクにペリカンケースを宗介に渡すよう言うが、エリクはそれをやんわりと断る。

 

「冗談でしょ。今のコイツに武器の新調なんて、俺もあんたもカワイコちゃん達もまとめてボロ雑巾よろしくバラバラにされちまう。タイミングってモンがあるだろ」

 

「今だからやるのよ。折角ここにいるんだから、渡すのは早い方がいいでしょ?」

 

「知らん。人肉で餌付けされた猛獣の檻に丸腰の人間をぶちこむようなもんだ。ただでさえ超能力なんてもんがあるのに、コイツがモダン装備から手を放したら、今度は手がつけられないほどの強さになっちまう」

 

「彼はそこまでキチガイじゃないでしょ。私はそれに100万賭けるわ」

 

「ギャンブルなんてやってられねえ。まあ、大量虐殺なんてしねえとは思うけどよ」

 

それなら心配ないでしょ。と、宗介にペリカンケースを渡す。衝撃を吸収するためのスポンジに包まれており、折り畳み式の剣と黒い拳銃が姿を現す。

 

「いつまでも1000年前のモダン装備から取り替えなさいな。こっちの方が、あなたの腕前にはお似合いよ」

 

折り畳まれた刃を出すと、エリクは驚愕した。

 

「オイオイ宗介。コイツ、コーティング加工されてやがるぜ。これ、正規のルートでやったらとんでもねえカネがかかる。最先端どころか、本来なら15年後の技術のはずだってのに....」

 

「冗談だろ?海軍にそんな技術があるってのか?海軍だぜ?」

 

「君のその海軍に対する先入観はなんなのさ?まあいいけど」

 

ため息混じりにそう言うと、意地悪そうに笑う。

 

「まあ、正規のルートではないとだけ言っておこう」

 

「だろうと思ったよ。こんな上等な武器、海軍なんかが揃えられるはずがねえ」

 

自分の読み通りだぜ、という意味を込めて宗介はドヤ顔をする。機嫌が直るのも速いのが彼の利点でもあり欠点でもある。

 

「どれどれ、銃はっと.....こりゃすげえ。徹甲弾仕様かよ。ホントに、最近の銃は進歩がヤバイな」

 

軽反動、撃ち出されるのは拳銃サイズにコンパクト化されたAP弾。実験結果では、戦車の装甲にめり込んだらしい。

 

「中々の上物じゃんか。艦砲からよくここまで進化したもんだ」

 

床に剣を突き刺すと、床が柔らかくなったような錯覚を受ける。豆腐に包丁を入れる感覚だ。

 

「つーかこれ、いくらなんでも高威力すぎんだろ。剣も銃も。一体何と戦うんだお前は」

 

「アホか。武器ってのはな、ほとんどが人を殺れるってことだよ。それだったら、威力が高かろうが低かろうが殺せることには変わりねえだろうが」

 

「全てじゃなくてほとんどって言ってる辺りが普通の犯罪者共とは違うってのがムカつく」

 

エリクは舌打ちをする。

 

「そうね。確かにあなた...親睦を深めるため、宗介って呼んでいいかしら?」

 

「どうぞお好きに」

 

「宗介、あなたにこんな最新の武器を渡すのに私はどれだせけブーイングを浴びたか覚えて無いわ」

 

皮肉げに宗介を指差す。得体の知れないフィクサー、しかも実力は一人前。今までレトロ武器を使っていたから、海軍の被害は警備府の第一艦隊しか出ていない。鎮守府、泊地の提督も艦娘もそう考えた。しかし、そんな現代のリーサルウェポンとも呼べる超能力者に最新鋭の武器を与えるなど、手の込んだ自殺に他ならない。

 

「特にヤバかったのは?」

 

「一番は長門よ。スチームポッドみたいに怒ってたし、陸奥でも数日はどうしようもなかったんだから」

 

「ああ、さっきのビッグ7()か」

 

「黙れドイツ人!私は栄光あるビッグ7だぞ!」

 

「は!ご先祖様の血筋だぜ。俺はナチ公と日本人が大嫌いだ。俺が尊敬する人間はただ一人、センポ・スギハラ氏だけだぜ」

 

先程まであんなに冷静だったエリクだが、やはり第二次世界大戦から代々、ナチスドイツと大日本帝国が嫌いという意識が受け継がれているのだろう。

 

「まったくよお、わざわざ時代錯誤の日本に来てやったのに、この仕打ちはあんまりだぜ!」

 

「それについては僕も同意だ。ただでさえユダヤ系の危なっかしいのがいるってのに。」

 

「第二の南京事件を起こしたのはどこの国でしたっけ?」

 

「.....」

 

二人の言葉に、誰も言い返せなかった。現在日本は、日中戦争時に日本軍が引き起こした南京事件を模倣した右翼宗教団体によって、中国から恨みを買ってしまった。

 

「あーあ、契約なんてしないで、ブラウンフェルスで隠居したかったぜ」

 

「ああ、契約金次第じゃ、マイアミビーチで黄昏てたかもな」

 

過去の因縁で日本人が嫌いなエリクと、ビッグ7の誇りを汚され憤る長門。どちらが悪いかなど周囲には分かりきっていたことだが、誰も何も言わない。

 

「同じ職場で働く仲間なんだから、仲良くしなさいよ?大鯨ちゃん、彼らを部屋に案内してあげて」

 

「はい。宗介さん、エリクさん、こちらです」

 

 

 

 

 

 

「あー.....ダメだ。うまくやっていける気がしねえ」

 

「奇遇だな。俺もそう思ってたところだ」

 

護衛という立場なので、彼らの部屋は執務室のすぐ隣にある。荷物を降ろし、フローリングの床に座る。

 

「あの長門とかいうヤツ、俺はああいうのが気に入らねえ。気が強い女はストライクゾーンだが、あれは守備範囲外だ」

 

「僕は気が強いのは無理だ。もっとこう、清楚な人がいいかな」

 

「ああ、あの割烹着の人とか?」

 

「あの人もいいな。だが、一番は隣の和服美人だな」

 

長門へ対する怒りから、急にストライクゾーンの女性について話し合うことになってしまった。二人も楽しそうなのでいいのだが。

 

「じゃ、駆逐艦はどうよ?」

 

「ねーな」

 

「ないな」

 

談笑をしながらも、部屋を見回して警戒する。二人はお互いの死角を補うように立ち、罠の類いや仕掛け扉のようなものが無いかを見る。さらにそこら中をかき回し、盗聴器やカメラが無いかを探す。

 

「OKだ。怪しいものはねえ」

 

「こっちもだ。見たとこは大丈夫だ」

 

「気が休まらないな。ここで重要な話ができねえ」

 

「なんかあるのか?それとも、あの時代錯誤の戦艦に何か?」

 

缶の栓を開け、プルタブを外してゴミ箱に投げ入れる。清涼飲料水を喉を鳴らして飲み干す。

 

「あいつのことを言わないでくれ。俺にはハードすぎる」

 

「そーかい。で、実際のとこどうなんだ?」

 

「こりゃ明らかになんかあるな。あの提督は多分無関係だろうが、長門は絶対に一枚噛んでる。ユダヤの血がそう囁いてるぜ」

 

フィクサーとはいえ、いきなり砲撃はおかしい。現に撃ってきたのは長門だけだったではないか。

 

「何なのかは知らねえのか?」

 

「さあな。追い出す気か、暗殺か、可能性は嫌というほどある」

 

「もしも、殺されそうになったらあいつは何て理由を並べると思う?」

 

「あー、そうだな、[貴様のような得体の知れない者など歓迎せん!]とかか?」

 

人間()からすりゃ、艦娘のほうが得体が知れないと思うっての」

 

「言えてる」

 

宗介の声真似が案外似ていたせいで、エリクは声を抑えて笑う。

 

「実際信じられねえよな。千年前にはもう、既にいたらしいぜ?」

 

「ああ、信じられねえ。資材さえ消費すれば産み出せるんだろ?一体どこの誰だ?軍艦を女の姿にするなんて発想に至ったのは」

 

「さあな。でもバカだと思わねえか?」

 

「何がだよ?」

 

「軍艦ってのは、人殺しの道具だ。今は人同士で争ってる場合じゃねえからこうなんだろうけど、深海のクソッタレとの戦争が終わったらよ、どうすんだ?」

 

「全員処分?」

 

「それ以前によ、もしも艦娘が砲を使って僕らを殺したとしたら、艦娘は人類の救世主じゃねえ。女の姿したキリングマシーンだろ?」

 

「何が言いてえ?」

 

「艦娘なんて絶対兵器を持った人間の末路は分かるさ。油断で身を滅ぼすか、精神がイカれるかのどっちかさ。」

 

裏社会のフィクサーだからこそ、真っ当な人間が出会ったことのない狂人にも、ズル賢く計算高い組織のボスにも会ってきた。どんな人間がどんなことをしたらどうなるかを見るのは、彼の余興のようなものだ。

 

「全くわかんねえ。つまりなんだ?」

 

「.....いや、何でも。艦娘を造ったヤツはなに考えてんだよってだけさ」

 

数秒の沈黙が気まずかったのか、エリクは話題を変える。

 

「そういやよ、昨日も一人、牢獄にぶちこまれたらしいぜ?なんだっけ、ブラック.....」

 

「ああ、なんだっけ、捨て艦だっけ?とんでもねえアホがいたもんだ。自分を守る兵器を捨てるなんてな」

 

「だがよ、艦娘の運用次第でブタ箱にぶちこまれるなんて御愁傷様だよな」

 

海軍本部が定めた要綱により、無理な艦隊指揮は本来人類を守るはずの艦娘を必要以上に失うということで、原則禁止となった。

 

「ホワイトの奴らは今頃、艦娘とのうのうと暮らしてるんだろうな」

 

「それ言ったらここもそうだって」

 

「ああ、そうだったな。そういや、やっぱ気にならねえか?ここにいる何人が長門みてえになってるか」

 

「ああ、俺も気になってた。それじゃ早速、行くか」

 

缶を窓から放り投げ、宗介は立ち上がる。外で誰かの悲鳴が聞こえた気がしたが、そんなはずないと微笑を浮かべる。速くしないと置いてくぞ、とエリクに急かされ、ドアの方に歩いていくと...

 

「宗介!テストするわよー!」

 

ドアが勢いよく開かれ、提督が満面の笑みで室内へ入ってくる。ドアと壁に挟まれたエリクは、あまりの痛みに悶えている。

 

「朝潮、エリクを手当てしてあげて。今は一分一秒が惜しいのよ!」

 

「了解しました」

 

朝潮はエリクが強く強打した左頬にガーゼを貼る。宗介に冷やかされながら。

 

「で、テストって何だよ?」

 

ひとしきり笑って目に溜まった涙を拭いながら、宗介は聞く。エリクは若干不機嫌だ。

 

「言葉の通りよ。あなたに簡単なテストを受けて貰うわ。試験官は、私達全員よ」

 

「私達って、艦娘含めてか?」

 

「当たり前でしょ。新人君の適正を、みんな気にしてるのよ」

 

一部の艦娘は長門のように否定的だが、同僚として認めている者や、ライバルになるだろうと好戦的な艦娘もいる。一概に彼が嫌われものというわけでもない。

 

「わかった。何をすれば?」

 

「簡単な心理テストよ。じゃ、こっち来て」

 

宗介が案内されたのは、12畳ほどの部屋だった。床、天井、壁はコンクリート製で、木製の机と椅子が寂しく置かれている。

 

「はーいそこ座ってー。今から聞くことには正直に答えてねー」

 

「あーい」

 

 

 

 

 

 

 

「で、普通に騙されて、艦娘に質問攻めされたと。気分はどうよ?」

 

「最悪だ。プレデターに囲まれた気分だぜ。提督にはシュールストレミングすら生温い」

 

「やめて差し上げろ。日本人にあの臭いはキツすぎる」

 

簡単な心理テストと言っていたが、実態は艦娘からの質問攻めだった。宗介の答えに満足し、目の敵にする艦娘は圧倒的に減ったが、彼は2時間休みなしで受け答えをしたのである。

 

「で、その女形プレデターに何聞かれたんだよ?」

 

「聞かれんのはだいたい同じ。ブラック鎮守府についてさ。ったく、どいつもこいつもブラックブラック、いい加減うるさくてたまらねえ。耳がちぎれるかと思ったぜ」

 

「ご苦労さん。やっぱり軍属は嫌いか?」

 

「あたりめーだ。軍人なんざオペラ座の怪人と一緒に地獄の業火に焼かれながら天国に憧れてやがれ」

 

宗介は小さく笑った。

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