「突然だけど、演習よ!」
提督は執務室の机を叩き、叫ぶ。宗介が契約して一週間、艦娘と馴染めた宗介は、ゆっくりではあるが長門達否定派も落ち着いてきた。好意的ではないが、契約初日よりは良くなったと言える。執務室にいるのはそんな長門と宗介、エリクだった。
「演習?何だ、戦闘訓練か?」
「そんな感じよ。長門達は第一艦隊で演習、宗介は私の護衛ね。いい?」
「了解だ」
「分かりましたよ」
タブレット操作しながら指示を出す提督。長門と宗介はそれに返事をする。
「それで、めんど.....いえ、疲れる話ではあるけど、ドイツに飛んでもらうわ」
修正するのはやや遅い気がするが、執務室の誰も口を挟まない。脱線は時間の無駄である。
「ドイツの提督さんと演習かよ?」
「ええ。ドイツはキール!バルト海が一望できるといいわね」
「キール?何だってそっちなんだよ?確かもう一ヶ所あっただろ?」
「まあ、そっちの方が近いのよ。残念だけど、キール・オペラハウスは拝めないわ。キール軍港に直行よ」
「まあいい。ドイツ革命の聖地巡礼だぜ。フリードリヒ・エーベルトは偉大な人物だった」
キール軍港でのドイツ革命に思いを馳せながら、宗介は銃を堂々とメンテナンスする。目線は合わせないが、宗介は提督に言う。
「反政府勢力は大丈夫なのか?」
「だからあんたがいるんでしょ。長門達の演習中にゲリラが来たら困るわ」
提督は海図ではなく、地図を取り出す。暗に宗介へのメッセージであった。
「いい?アフリカから反政府勢力が北上してきてるわ。既にリスボン、シチリア島、アテネの一部が制圧され、勢いを増したゲリラはマドリードで撤退したけど、他はチェコにまで近づいてきているわ。まあ、出会わないのが一番良いんだけど」
2500年初頭に資源が枯渇したアジア諸国はアフリカに目をつけ、マダガスカルに拠点を幾つも設置し、モザンビークからアフリカに侵攻した。アフリカ国民を酷使して自国の資源を潤そうとする姿は、「第二の人種隔離政策」と揶揄されてあらゆる国から批判を受けた。特に日本は、艦娘という兵器の脅威をちらつかせるという手段を行ったため、アジアの中でも強く批判され、国連での立場が失墜した。
「UNの最底辺がEUに殴り込みかよ。ドイツ国民はさぞやお冠だろうな、石ころを投げつけられる覚悟でもしておきなよ。提督も艦娘も」
「宗介、てめえが言った通りじゃねえか。マジで日本海軍のアホ共、艦娘で脅すなんていうマネしやがった。狂ってやがる」
「島国は必死なんだよ」
「艦娘の造りすぎで資材が無くなったんだろ?」
「ああ、ひでえよな」
「こりゃ世界中で反日ドラマが大流行だぜ」
「聞こえてるわよ二人とも。まあ、その通りだから否定できないのよね。だから長門、そんな目で見ないの」
長門は二人を蛇のように睨む。だが、事実ということがあるため言い返せない。
「話を戻しましょう。キール軍港にはヘリックス少将が待機しているわ。宗介、あなたは私の護衛官ってことになってるから話を合わせるように。エリクは通訳ね。長門、艤装は取りにいかないで。それと宗介、ちょっとこっち来なさい」
提督は手招きをして宗介を呼ぶ。宗介はめんどくせえと言いながらも歩いていく。聞かれてはマズイ内容なのか、声は小さい。
「いい?反レイシスト勢力は危険な団体よ。オモチャを得意気に翳すだけのチンピラとは違う。その勢力を創っちゃったのは私達なんだけど、やっぱり死ぬのは怖いのよ。情けないけど」
「ええ本当に。自分で蒔いた種は自分で摘み取ってくれよ」
「返す言葉もないわ。でも勝手ではあるけど、契約は守ってもらうわよ?」
「それは分かってるよ。だけど、今の海軍は悪役さ。市民から税金を搾取して何をするかと思えば、女の形した兵器を造って、用途は土地の剥奪だぜ?」
「今すぐにでもスーパーヒーローが飛んできそうよ。本当、今の日本が心配だわ.....」
「もう世も末だな」
「あんたが言う?」
宗介の言う通り、市民から見れば今の海軍がやっていることは自分達の金を無駄遣いしていることに他ならない。日本海軍の凶行を実力行使で抑えるという策を、実際にアメリカ合衆国議会の軍事委員会でも話し合われた。この時は否決されたが、これはテロリストと同じ扱いである。
「これじゃ右翼宗教団体と同じね。あなたほどの才人が軍にならない理由が分かった気がするわ」
「だろ?あんたもフィクサーになったらどうだ。顔は良いから、充分食っていけるぜ?」
「嫌よ。私、チェリーは好きな人にって決めてるの。裏の世界じゃ、あなたみたいな人の方が珍しいのよ」
「確かに」
2月下旬。外は凍てつくような寒さだというのに、宗介は愛車のシボレー・エクスプレスの窓を開け、憂うように外の景色を見ていた。無免許で、有り合わせのジャンクパーツから造ったものではあるが、彼にとっては相棒同然である。だが、運転席でハンドルを握っているのは彼ではない。
「ちょっと宗介!寒いから窓閉めてよ!」
飾緒と襟章が付いている第一種軍装を身に付けた提督は、バックミラー越しに宗介に言う。護衛官という設定だというのに、ロング丈の黒いトレンチコートにカーゴパンツ、ネックウォーマー、指出し手袋という格好だった。加えて、足を組み頬杖をついているものだから、宗介の隣では、駆逐艦の綾波が縮こまって座っていた。
「知るかよ。軍の経費で寒さくらいどうにかしやがれ」
そう提督に皮肉ると、車内には重苦しい空気が漂い、誰も口を開かない。賑やかな駆逐艦娘の中でも、比較的穏やかな駆逐艦がいるのだから。いつも自分を糞提督と罵るあの駆逐艦なら、この空気をどうにかしてくれるだろうと提督は思いながら。しかし、この状況はいただけない。提督は、どうにか会話を弾ませようとする。
「ねえ二人とも、こんな話があるの。あるレストランでね、スープにハエが入ってたのよ。それで、呼びつけられた店員は客に何て言ったと思う?」
「へ?えーっと.....ごめんなさい、でしょうか?」
「[ハエの野郎、自分が泳げるのを自慢しているだけですから]だよ」
............
「えーと、ホットドック店の前で銃撃戦―――」
「[これでケチャップが節約出来るな]だよ」
..............
「息子が父親に、酔っぱらうということ―――」
「[父さん、グラスは一つしかないよ]だよ。センス無いって言われるだろ、提督」
「ムキー!うっさいわね!あんたが知りすぎなのよ!」
クラクションを叩きながら、自分を棚にあげて宗介に抗議をする。それを宗介はつまらなそうに横目で見ると、視線をまた車外の景色に戻す。
「あんたのセンスの問題だろ。ムキー!って自分で言うようなもんじゃねえし」
「まったく、機嫌直しなさいよ」
「怒ってるわけじゃねえよ」
「嘘おっしゃい。あんた、ヘリックス少将がホワイトな人って聞いた瞬間こんなになったじゃない」
ドイツ国籍のヘリックス少将は、慎重な艦隊運用で有名になった軍人だ。日本海軍でいうところのホワイト鎮守府をそのまま表したような存在で、中破撤退を厳守、捨て艦もしない、艦娘のことを第一に考える人物で、艦娘からの人気も高い。まあ、このフィクサーには嫌われているが。
「そんなに気に入らない?鎮守府で女の子達にキャーキャー言われるのよ?」
「惚気んじゃねえよ、あくまで鎮守府は軍の施設だろうが。深海からおいでなすったヒトガタとの戦争中にやるもんじゃないだろ?」
「でも私、結構憧れるなー」
「それに、ホワイトな軍人さんが艦娘を......いや、何でもない」
「ええ!?そこまで言って隠すのはナシよ宗介!」
「隣に駆逐艦がいるから無理だ。今ここで話したら僕はアヌビスの世話になっちまう」
「なによう。綾波はそんな野蛮な娘じゃないわ」
「
「まあ、そう言われたらそれまでなんだけどさ」
彼のなかに、目の前の者を駆逐艦娘と思う心はない。それについては綾波に限ったことではない。感情があり、人間に備わった心があろうが、身体的な特徴があろうが、隣のチビは資材で造られた機械人形、それが宗介自身の考えだった。世のホワイト提督が憤怒するような考えでもあるが、その気持ちは宗介は変える気など毛頭ない。何より宗介が怒る要因となったのは、運用姿勢である。
ホワイト鎮守府?ふざけんな。兵器が何をすべきかなんて分かるだろ。ゴツい鋼材等々から造られたお前らが、ホワイト鎮守府を隠れ蓑にして海域の奪還を渋る。お前らがブラックと敬遠してる方が、よっぽど市民の味方だぜ。
「本当に、艦娘を最初に産み出したのはいったいどこのクソッタレだよ.....」
人間の姿をした軍艦に情が移った結果がこれだ。自分をホワイト提督とのたまう輩が多いせいで、ここ数百年の間に人間の活動地域は大きく減った。島国は占領され、半島は壊滅し、民間人は異形のバケモノの恐怖に怯える。挙句の果てには腐敗した海軍上層部に騙され、アフリカ侵攻の駒にされる。
(ホワイトだと?どの口がほざきやがる。どんなスプリーキラーもキリスト様に誓って善人だと言えるぜ)
まだ顔すらも見ていない少将に、凄まじい嫌悪感を抱いていた。
「いやー、いい人だったじゃない、少将殿は!」
日独双方の提督の顔合わせが終わった。話をした感じでは、爽やかな好青年だったと提督は言う。
「もー、愛想よくしなさいよ。そんな露骨な顔じゃ、考えてることが丸わかりよ?」
「ホワイト提督の話をしないでくれ。発作が起こりそうになる」
「なんの病気よ、それ?」
「正義アレルギーなんだよ。僕は」
「あんたは護衛なんだから、悪人が来たらビシッとやっつけてよ?」
「敵は書類のクセになにいってやがる」
提督と宗介は声を大にして笑っていたが、一息ついたところで提督の顔が真面目になる。
「でも実際の所、何が引っ掛かってんのよ、宗介?」
「これで疑問にならないとでも思ったか?なんでわざわざ演習のために僕達は飛行機でウラル山脈を越えてきた?」
「私も気になってたわ。なぜ緊急召集がかかったわけでもないのに、私達は国境をいくつも越えたのか?しかも相手は根っからのホワイト提督」
「お前らの相手はホワイト提督だから安心しろよって行ってるようなものだ。海軍のトップは提督じゃないからな」
「ドイツ海軍の上層部が彼を送り出したと?」
「言っただろ。今の日本は国連の最底辺だ。この歓迎は普通におかしい」
「まあ、確かにね」
「ドイツとイタリアはヨーロッパのなかで艦娘の所有を認めてる国だ。そう考えれば、ドイツとイタリアが日本を抑圧するっていう尤もな理由ができる」
「ここで日本の化けの皮を剥がそうってことかしら?」
「ああ。僕はシャンパン飲んでケーキ食いながらポツダム宣言を見届けてるよ」
「笑えないわよ.....」
全面ガラス張りの高層ビル。その最上階に提督と宗介はいた。
キール軍港とローラン島を挟んだエリアでは、提督とヘリックス少将の艦娘がガチバトルを繰り広げていた。提督は耳に装着した無線機で指示を出している。その横で宗介は、欠伸をしながら立っていた。
「安泰ですか?」
「ええ。状況は拮抗してるわ」
「そうでしたか。とりあえずは安心ですね」
「そうね。.....にしても、あんたの敬語ってすっごい不自然なんだけど」
宗介の設定上、彼は提督の部下であるためタメ口で会話ができない。提督はあまりの似合わなさに顔をしかめる。
「ハーイAdmiral.只今紅茶をお淹れしますわ」
「やめなさいよ気持ち悪い!」
にやつきながらどこかの航空巡洋艦のような口調で話す。全く似ていないが。
「で、今のところ異常なしなんだけど.....」
「まあ、警戒しましょうや。日本を見てると海軍が心配になる」
どこからか取り出したビール瓶の王冠を外し、そのまま飲む宗介に、提督は声をかける。
「あんたそれ普通に法律違反.....」
「知らねえのか。ドイツは16歳から飲めるんだぜ?」
「宗介、あんた日本国民でしょうが。国外犯よ?」
「国家権力が怖くフィクサーができっか」
「だろうと思ったわ」
提督は瓶を見ると、ドイツ語が書かれていた。その文字と、瓶の中身がシュヴァルツビアのあたり、ケストリッツァーとかいうビールだろう。宗介がなぜそれをチョイスしたかは謎だが。
「で、宗介はどう思う、この状況」
「何も」
「何かあるでしょ。あの娘が戦い慣れしてるだろうなとか、あの娘は動きがぎこちないとか」
「強いて言うなら、あそこにツァーリ・ボンバをぶちこみたいと思ったところさ。いや、やっぱりビキニ環礁でもいいかな」
地球にいる時点で無事ではないだろうがな、と言いながら瓶を置く。
「長門に喧嘩売るようなことは言わないの」
「あいあい。ま、今はそのビッグ7様が大ピンチだけどな」
戦況は日本側が不利だった。あちらの戦術かどうかは知らないが、旗艦であろうビスマルクが長門の相手をしていない。日本側はペイント弾の被弾で、色々ときわどくなっている。
「にしても、すごい面子だよな。ナチ公とJAPだろ?WW IIの悪役が揃い踏みかよ」
世界大戦が終わってからおよそ1000年。艦娘が現代人達の考えを変えたこともあり、戦争や紛争に敏感になった。2010年代に少なくなった、世界大戦議論もネットで話題になっている。
「ちょっとー。日本がいつそんなことしたってのよー?」
「歴史を学べよ提督。南京大虐殺、バターン死の行進、731部隊、まだあるぜ」
「ソースはないでしょ?」
「凍河を見てこい。あーあ、それ考えたら僕も危ねえじゃんかよ。気分はさながら
吐き捨てるように呟くと、ノートパソコンの画面を見る。演習が終わり、ドイツ艦と意気投合した艦娘もいくらかいるようだ。
「あらあら、あのビスマルクちゃんとかいう娘、なんだかんだで優しいじゃない」
「ジャパニーズスラングのツンデレっていうやつか」
「それはちょっと誤解が生じると思うのだけれど」
提督は席を立ち、部屋を出る。宗介は何も問わずにその後をついていく。ちゃっかり空のビール瓶を置いていき。
「あ、ドイツ艦との交流でもしようかしら?」
「勘弁してくれよ。アウシュヴィッツで人体実験はごめんだね」
「そこまで警戒しないの。プリンツって娘は、ビスマルクに対してベッタリだから、くれぐれも注意してね、特に」
「知るかよ。あっちの出方次第で紳士にもジャンキーにもなる」
「あんたはとびきりの
キールにあるモーテルはドイツ海軍が既に押さえている。現在そのモーテルには、第一艦隊の艦娘がすでに宿泊している。ドイツの海軍施設までの車内とは違い、案外気まずくはない。
「カッコいいのをどうも」
「そういやあんた、ウチの鎮守府にタイプの娘はいる?」
「殺すぞアマ」
「それは淑女に対して失礼じゃない!?」
意味もなく場を和ませようとしたことが裏目に出た。提督は根も葉もないことを言われたこともあり、少し涙目になっている。
「モーテルってのはあそこか?」
「ええ。既にドイツ艦娘が待機しているわ。相部屋になっちゃうかもよ?」
「勘弁してくれよ。ジークハイルジークハイルってうるさいったらありゃしねえ」
「いい加減になさい。ドイツの娘達が本気で怒った暁には、あなたの素性が割れるかもしれないのよ?」
「護衛は艦娘だけでいいって進言したは僕なんだが」
「あーら。そしたらあなたの顔にジョン・L・サリバン並みのジャブをお見舞いするところだったわ」
「ああ、行って良かった。一つしかない命を投げ捨てるとこだったぜ」
宗介は提督をからかうように鼻で笑う。それを見て、提督は急にしんみりした顔になる。
「やっぱり艦娘は嫌い?」
「何度も言わせんな。建造できる女をどう人間として見れる」
宗介は綾波を冷たい眼で一瞥し、車窓から景色を睨むふりをしてそっぽを向く。
「まあそうよね。でもあなた、駆逐艦の娘達からは意外と人気よ?長門が嫉妬してたわ」
「そりゃおめでたい。駆逐艦は眼球ごと取り替えたほうがよさそうだな」
「もうすっかり嫌われ者ね。綾波、彼の攻略は一筋縄じゃいかないわよ?」
「へ?い、いや!綾波は宗介さんを決してそんな眼では!」
「殺されたいか
「あんたにだけは言われたくない!この完全犯罪者!」
「誉め言葉だね」
モーテルの鍵を受け取り、部屋に入る。コンテナのセーフハウスで暮らしていた宗介にとっては、豪華絢爛な部屋だった。ワンルームの中央にある木製のダイニングテーブルにノートパソコンを置き、床に荷物を乱暴に置く。
「ま、一泊だけってのは救いかな。早く帰りてえ」
ただ、宗介にとって会いたくないのは、ドイツ海軍とイタリア海軍である。理由は言わずもがな。数ヶ月前に左翼組織の依頼で、ヨーロッパを震撼させる大事件を起こした。GSG-9よりも、彼にとっては艦娘の戦力が非常に面倒くさい。ドイツは日本より艦娘が圧倒的に少ない。全滅も彼ならば出来ないことはない。というか、日本海軍に身を置く宗介がドイツ軍を蹴散らせば、日本軍人がドイツ軍を滅ぼしたと世間に認識され、勝手に日本のイメージは最悪になってくれる。
「まあ、それもいいんだけどね」
「何がいいのかしら?」
「.......」
彼が横たわるベッドの下に、いつの間にか提督が顔のみを出して宗介をにやつきながら見ていた。艶やかな黒髪は、床に無造作に広がっている。
「来ちゃった☆」
「よしわかった。今すぐヤってやるからてめえそこ動くなよ?」
「え?ちょ、そこはダメだって!」
「お前後で反省会な?」
「すみません」
宗介はベッドに座り、床に正座する提督を睨む。あのあと、ナニがあったかは二人しか知らないが、提督はあまりの羞恥で言えない。深夜にこんなことをされては。
「宗介、鎮守府はどうよ?いいとこでしょ?」
「いきなりどうした?つか寛ぐな、あとそれ開けるな」
提督は宗介の荷物を漁り、透明な液体が入った瓶を手に取る。
「ヴァンゴーウォッカ.....案外可愛いもの飲むのね。それと、未成年の飲酒は犯罪よ」
「うっさい。別にいいだろ、好きなんだよ」
「少年の言うことじゃないわね」
瓶の蓋を開け、提督はいそいそとヴァンゴーウォッカをロック・グラスに注ぎ、片方を宗介に渡す。
「バカラ製だなんて、コアなの?」
「いや、いい酒はいいグラスで飲みたいのさ」
宗介が座っているベッドに、提督が座る。何故か隣に。
「凝ってるわね」
「背伸びしたい年頃なんだよ」
「フィクサーが背伸びもなにもあったもんじゃないわよ」
「違いない」
グラスを合わせると、ガラスが軽くぶつかる高い音が部屋のなかに寂しく響く。二人は薄く笑みを見せ、グラスを傾けて冷たい酒を喉を鳴らさずに飲む。
「そういえば、あなた駆逐艦の娘達から人気があるって言ったけど、ぶっちゃけタイプは誰?」
「巨乳」
「即答なのね、そこは.....」
「僕はエリクと違ってナイスでボインなお姉さんが好みなんだ。戦艦とかドストライク」
「あれ?あんた艦娘のこと.....」
「恋愛的な眼では見てないけど性的な眼では見てる。というか、あんなに顔美人さんなんだぜ?ヤりたいとか思うだろ普通」
空になったグラスを置くと、宗介は右手の親指と人差し指で円をつくり、そこに左手の人差し指を通す。提督はそれを見て呆れたように溜め息を吐く。
「....男ってみんなそうなの?」
「健全な男性はそういうものだろ、多分」
「不純ねぇ。今度神通辺りに頼んで鍛え直してもらおうかしら?」
提督の鎮守府では、鬼教官と恐れられながらも尊敬されている艦娘が何人かいる。その代表とも呼べるのが神通である。史実での奮闘ぶりが反映されたのか、普段の大人しく控えめな性格なのだが、何かの拍子にスイッチが入り、別人のように厳しくなる。控えめなのは声だけである。
「止めてくれよ、あれこそバーサーカーじゃないか」
「ちょっとー、神通をキチガイみたいに言うのやめなさいよ?あの娘も結構あなたのこと評価してたわよ?」
依頼達成率100%のフィクサーについて事前に神通に提督が言ったところ、是非とも実力を見てみたい、と恐ろしいほどにこやかな笑顔で神通は言った。さすがの提督も、暫く神通をからかうのはよそうと思ったらしい。
「ああ、ストックホルム症候群だっけか?」
「あんた、誘拐なんてしてないでしょ?」
「いんや、数えればキリがないほどにやってきたよ」
「やっぱり宗介のがサイコパスだわ」
「それもまた誉め言葉だね」
提督はグラスの中身を一気に飲み干すと、勢いよくベッドから立ち上がる。
「それじゃあね、宗介。あんまり夜更かしはするなよ~?」
「とっとと帰れ」
「ああん、ひどい」
妙に色っぽい声で言うと、提督は部屋から出ていった。その数秒後、悲鳴が聞こえたが宗介は聞こえなかったことにして、横になる。仰向けの体勢になり、消えたLED電球を見つめる。
「ああ、そういや契約内容は、本鎮守府司令官、艦娘の警護、だったっけか?」
なぜここでそのようなことを言ったのかは、本人以外知る由もない。宗介は白い歯を見せて不気味に笑った。
「」