鎮守府の超能力アサシン   作:メイン盾

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ep.6 貴賤

喧しい目覚まし時計を止めようとしたが、ボタン以外のプラスチックを思い切り叩き、痛みで眼が覚めるところから彼の1日が始まる。その後時計を壁に投げつけ、銃で撃ち抜こうとするという物騒な行為をやらかしかけたが、トリガーを引く寸前に彼の冷静さが戻ったため、事なきを得た。

 

「あと少しでシュタージにパクられるところだった.....」

 

ズボンのポケットに手を突っ込み、モーテルの屋根の上に登り座り込む。普段の宗介は夜の方が好きだが、彼も寒いのは苦手である。冬の間は陽の光が恋しくなる。

 

「あーあ、カネのためとはいえ、二番目に協力関係を結びたくない奴らと契約しちまうなんて、裏社会の人間としてどうなのよ?」

 

宗介は一人ごちた。今まで、殺人だの強盗だの拉致監禁だのと汚い仕事ばかりやってきた彼にとって、軍で仕事をするなど初体験どころか想像すらしたことがなかった。いつ寝首をかかれるか分からない宗介のフィクサー人生、警備府のエース艦隊を軽く皆殺しにできる腕前からすれば、平和ボケも良いところだった。深海棲艦も、彼の前では人間の出来損ないみたいなものだった。

 

「なんつーの.....熱い正義漢とかだったら、これから悪を撲滅しに行くんだろーな.....で、さっきから隠れられてませんけど、どうするんですか鳳翔さん」

 

「み、見えてました?」

 

「びっくりしましたよ。鳳翔さんがそんなアグレッシブなことするなんて」

 

「わ、私だって日向ぼっこしたいんですよ!」

 

「なんとも可愛いことを言いますね」

 

薄紅色の着物が似合う、おっとりした顔立ちが特徴の容姿端麗な女性、軽空母鳳翔。温和で落ち着いた彼女の前では、宗介も敬意を表して「さん」をつけて敬語を使っている。一部の艦娘には、宗介も心を許している節もある。間宮や伊良湖もその内に入っている。

 

「宗介くんはどうしてここに?」

 

「真っ当な人じゃなくても、太陽が恋しいんですよ。鳳翔さんこそ、なぜここにいるんです?」

 

「気分転換ですよ」

 

隣、よろしいですか?と宗介に問い、鳳翔は彼の隣に座る。

 

「それにしても鳳翔さん、ドイツにまで和服なんですか?」

 

「鎮守府の中でも、私の服は和服ってイメージがついていますし」

 

「確かに。というか鳳翔さん、随分無用心ですね。首をかっ切るかもしれませんよ?」

 

「ふふ、そうしないことを祈りますよ」

 

「鳳翔さんには敵いませんよ、まったく」

 

どんな大金を積まれても、鳳翔さんだけは殺れない気がする、と宗介は鳳翔の穏やかな横顔を見る。

 

無防備なものだ。自分が切り裂き魔ジャックよりも質が悪い殺人鬼だったのなら、自分か鳳翔さんの体は原形を留められないほどぐちゃぐちゃになっていただろう。

 

「宗介、鳳翔、間宮がご飯の準備出来たって。早くしないと加賀か赤城が二人の分、食べちゃうわよ?」

 

「ああ、もうそんな時間か」

 

「分かりました。早急に」

 

モーテルの一階にある公用スペースで、間宮と伊良湖が朝食の準備をしている。提督も手伝わされたのか、間宮達と同じ割烹着を着用し、お玉を持っている。日本式に拘るのか?

 

いちいち屋根から二階の廊下に降り、階段を下るのは宗介にとって至極面倒くさい。こういう時にも、自分の超能力は便利なんだと宗介は語る。

 

屋根からモーテルの駐車場へブリンクで瞬間移動をして、そのままモーテルの正面から入っていった。

 

「ほ、本当に超能力者なのですね.....」

 

「当たり前ですよ。フィラデルフィア実験とでも思いました?」

 

「全く、あんなんだから面倒くさがりに拍車がかかるのよ。ねえ鳳翔、今度神通と綾波と一緒に、あいつの根性叩き直してもらえない?」

 

「前向きに検討しますね」

 

このあと、話を聞いた神通達が宗介の所へ行くと、宗介対日向、木曾、天龍、龍田の白兵戦での戦いで四人がボロ負けしたのを見て、彼と真正面から戦いたくないと心から思ったのは別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー美味しかった!宗介、やっぱり間宮はいいでしょ?」

 

「ああ、見栄っ張りのスットコ戦艦よかよっぽどいい」

 

「まーた喧嘩したのかい?飽きないねえ、君達も」

 

ドイツの二日目。軍の召集がかからなければ、海外では基本的に全日休暇のようなものだ。提督は私服でドイツの商店街でショッピングを楽しんでいた。無論、宗介は護衛というわけで、行きたくもないショッピングに同行させられている。そして、今回も宗介の監視という名目で同行しているのは、軽巡洋艦、神通。普通のフィクサーの監視には艦娘どころか、SPがいれば万事OKだが、この超能力者には第一艦隊でも足りないことに本営は気付かないのか。

 

「で、その監視を見事に荷物係にしてんのはどういうこった?」

 

「監視なんて名前だけよ。そもそも、神通だけで宗介は止められないわ。応援が到着する間に、この街はラクーンシティみたいになるわ」

 

「お恥ずかしい限りです.....」

 

「まー、宗介がいるって時点で、裏の刺客がたくさん来そうよね」

 

「言えてる」

 

「お二人とも、笑い事じゃないですよう....それにしても、宗介さんはそんなに有名人なんですか?」

 

真面目で、正義感が強い神通は裏の界隈の人間を当然ながら嫌う。というのも、彼女の中のイメージとして、サングラスに葉巻に傷だらけの顔に革スーツに傲慢な態度という像が出来上がっているので、彼のようなタイプは珍しく、彼女なりに興味を示している。

 

「向こうの世界での有名人だなんて死に一直線さ。そうならないために、たくさん勉強した」

 

「意外と熱心なのね。あんた、普段の態度のせいで自信家にしか見えないわよ」

 

「こちとら命を賭けてんだよ」

 

「フィクサーは大変ねぇ」

 

「ああ、全くその通り.....!」

 

顎に手を添え、考えるようなポーズをしたところで、提督にぶつかったマスクで口元を覆ったの男の腕を掴み裏路地へ強引に押し飛ばす。その男は後頭部を抑えながら、文句を垂れる。

 

「いってえな!なにしやがる!」

 

「てめえ、今財布盗ったな?」

 

「え?嘘!?」

 

「持ち主なら気付けよ。鈍くせえな」

 

後ろを向いて提督を鈍くさいとか偉そうに見えないとかボロクソに言われている状況の隙を突き、スリは宗介の横を走り抜け、神通を突き飛ばして大通りを逃げようとする。

 

「まあ落ち着きなよ。走ると上手く当てられん」

 

コートで隠した拳銃をホルスターから取りだし、逃げるスリに標準を定める。引き金を引くと、辺りに喧しい破裂音が響く。螺旋回転する9mmにコンパクト化された徹甲弾がスリの後頭部、うなじ、心臓に命中。皮膚、器官、筋肉、その他諸々をぐちゃぐちゃに掻き回し貫通。向こう側の石柱に着弾した。スリの男は崩れ落ち、うつ伏せになった体の下からは血が広がる。

 

「うっ....」

 

歴戦の軽巡洋艦の神通も、口を押さえてえづく。提督は神通に寄り添い、落ち着くように言い聞かせる。当の本人は暢気に口笛を吹き、不気味ににやけ、オマケだと言わんばかりに顔を蹴りつける。

 

神通は恐怖した。人を人と思っていないような行動、提督がストッパーになっているが、いつ箍が外れるかも分からない。艦娘を軽くあしらうほどの戦闘能力を持つ宗介が暴走したなら、国一つ滅ぼされかねない。空母の艦載機も、戦艦の主砲も能力で押し通すことができる宗介に敵う生物は今のところ存在しない。

 

 

「宗介、さっさと帰るわよ!」

 

「へいへい、ちょっとお待ちを」

 

 

彼の過去の汚れ仕事に理解がある提督は、先程のことを忘れたように大声で宗介を呼ぶ。提督は自他共に認める強い女性だ。これくらいのことでは悲鳴すらも出ない。

 

「全く、スリを銃殺なんて、私じゃなかったら発狂ものよ?」

 

「犯罪者が犯罪者に殺されるたぁ、正義の味方がいないことの証明だな」

 

「ええ本当に。世のホワイト提督が泣くわ」

 

「そいつは傑作だ。[お前が掲げた正義と信念は所詮幻想なんだよ]って言ってやりたいな」

 

神通には理解出来ない。正義を語ることはダメなのか?艦娘が自由を手に取り、人権を叫ぶことはおかしいのだろうか?そもそも、それを言っている超能力者は厳密に人間と言えるのか?気の強い艦娘なら宗介に突っ掛かれるだろうが、穏やかで引っ込み思案な神通にはできない。その心を読み取れたのか、神通が分かりやすいのか、宗介は神通の方を向く。

 

「神通、言いたいことが色々あるだろうが忘れるな。僕はフィクサー、本来日の届く世界にいちゃいけない人間だ。ましてやお前が最も忌避することを平然とやってきた、お前から見れば僕は最低のどクズ。僕から見ればお前は正義に陶酔する哀れな軍艦。真逆もいいところだ」

 

神通は何も言わない。宗介の言うことは正論、言い返しの効かない論理。カネ次第で何でもする、血にまみれた便利屋は犯罪者、全国の良い子が泣いて逃げ出す最悪の悪者。そんなみんなの嫌われ者が軍人の下についた理由は単純明快、カネの詰まったアタッシュケースをこれでもかというほどに積まれたからだ。

 

「ちょっと二人とも、何そんなとこで突っ立ってんのよー?」

 

「おーう、今行くー」

 

先程の重い言葉が別人のように軽薄で間延びしたものになる。そのあと、ただでさえ口数の少ない神通が全く喋らなくなり、ずっと何かを考え込んだような表情で宗介を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モーテルに帰った神通は、川内と那珂に詰め寄られ根掘り葉掘り聞かれた。あの胡散臭いフィクサーに何もされていないか、というものが主だったが。しかし、神通に鬱陶しいだとかそんなことを考える余裕はない。帰り道に宗介に突然言われたあのことが気がかりで、それどころではない。常識人を装った狂人、それが宗介の第一印象であった。ほとんど正解なのだが。

 

本当にそう?彼は唯冷徹に仕事をこなすだけ?人間的感情が欠落した精神異常者ではないのだろう?

 

過去の出来事に彼が血みどろの人生を送るきっかけがあるとも考えた。しかしそんな展開が本当にあるのかも微妙。そんなマンガの主人公のごとき暗い過去があるのかも怪しい。

 

「神通、提督がもうすぐご飯だってさ」

 

「わかりました。すぐに行きます」

 

「なんか悩んでるの?相談、乗ったげるけど」

 

「いえ、大丈夫です。川内姉さんの手を煩わせるわけにはいきません」

 

「そなの?なら深入りはしないけど、無茶ははしちゃだめだよ?」

 

「はい」

 

宗介の言葉の意味を考えてくれだなんて頼めない。自分の姉と妹は宗介の存在を疎む、通称長門派。そんな姉にこのことは聞けない。

 

「宗介さん.....貴方には謎が多すぎる。どうして、心を開いてくれないのですか?打ち明けてくれないのですか?」

 

もしもこの場に本人がいたのなら、答えが分かりきっている問いだったが、それでも口に出さずにはいられなかった。最近電に聞いた話では、本名が不明、実年齢も日本人かも超能力も彼の一族についても、一切のことが不明。分かっているのは、彼の一族が代々暗殺者で、彼が初めて暗殺者以外の仕事をしたという実情。神通自身が懸命に理解しようとしても、事実が立ちはだかる。

 

「艦娘が貴方を知ろうとするのはおこがましいですか?私は貴方のことが知りたい.....」

 

複雑な想いを強引に仕舞い、想い足取りで共用スペースに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

共用スペースでの食事は、鎮守府での食事とあまり変わらない。違うところといえば、普段食堂に顔を出さない宗介が一緒になって食べているところだろう。

 

「ちょっと宗介、ちゃんとバランス良く食べなさい!嫌いだからって間宮達に失礼でしょ!」

 

「無茶と努力はしない主義なんだ。矯正するほど危うい問題じゃねえよ」

 

「屁理屈はいいからさっさと食べる!」

 

「これだったらレーション食ったほうがマシだっつの!」

 

「あー、言ったわね!あんたの分のデザートは無いと思いなさい!」

 

中でも特に喧しい二人組に、食堂で料理に舌鼓を打っていた艦娘達も注目する。ドイツの艦娘も、提督とその護衛が軍人として適正かを見るために同じ場所で食事をしている。間宮と伊良湖がそれを気遣い、ドイツの料理を出してくれた。

 

「女性の方が提督(admiral)なの?」

 

「はい。隣の方が護衛だそうです」

 

「なんというか、上司と部下の関係というより......」

 

「あれじゃ姉弟だな」

 

「弟が反抗期ね」

 

などと、わりとどうでもいいトークを展開させていた。ビスマルクは若干呆れ気味に頬杖をついて、未だに子供の喧嘩のような言い合いを続ける彼らを、溜め息混じりに見る。

 

「だーかーらー、元々金のためにここまで危ない橋渡ったってのに、これ以上僕に無理を強いる気か!?」

 

「知るか!あんたも駆逐艦の模範になるような行動をね!」

 

「それは天龍と龍田の仕事だろうが!こちとらガキのお守りをやるためにキラービーの巣に生身で来たんじゃねえ!」

 

「誰が毒女ですって!?」

 

「言ってねえよ独身アラサーオラァ!」

 

どんな脱線の仕方であそこまで話題が広がるのか、不思議なものである。

 

「本当、仲良いわね」

 

「何しに来たんだあの二人は」

 

正規空母、グラーフ・ツェッペリンも彼らに興味を示す。二人が鳳翔に正座で説教させられているのを見ながら。

 

「それにしても、あの宗介とかいう男、何か妙だな」

 

「そう?別に普通だと思うけれど」

 

「いや、女の勘だ。根拠は一切ない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「酷い目にあった....」

 

あれから、気の遠くなるような時間に及ぶ説教の末、ようやく解放された宗介は、月明かりが照らす廊下を歩いていた。やはり鳳翔には彼も頭が上がらないらしい。

 

「お前は問題しか起こせんのか。提督が霞と曙と叢雲の苦情処理係になってたぜ」

 

「そうか。後でキャロライナリーパーでもプレゼントしてやろう」

 

「そりゃ面白い。辛すぎて火を噴くドラゴンみてーになるか賭けようぜ」

 

「いいぜ。3ユーロ賭けるか?」

 

後にエリクが冗談だよと言った。廊下にいるのは彼らのみだというのに、彼らは誰かに聞かれるのを避けるように小さい声で話す。

 

「で、どうよ。情報は集まったか?」

 

「ひでえよ宗介!何だって俺はお前に使いっ走りさせられなきゃいけねえってんだ!?」

 

「自分の仕事をよく見直すこったな。で、どうなんだよ?謝罪したらバミューダに沈めるぞ」

 

二人はそれぞれ向かい合って壁にもたれかかる。エリクは腕を組み、宗介はタバコを吹かす。

 

「お前その年でハッパやってんのか?健康的にどうよ?」

 

「どうせ裁く野郎はいねえんだよ。ソコロフのを飲めば元通りさ」

 

「懲りねえなお前も。っと、肝心の情報だが、どうにも怪しい。やっぱりおかしいんだよ。俺が集めた情報、ドイツ海軍トップの言葉、照らし合わせれば今ここは核爆弾が落ちたみてえな戦場になってるはずなんだよ」

 

「でも今ここは、戦場どころか銃もねえ。となると、やっぱり海軍はフランス(マリアンヌ)とドンパチする気は無いのか?」

 

「そうなると妙なんだよ。もしもそれ(フランス侵攻)が、合衆国にケンカ売るための布石だとしたらその過程でベルギー、オランダ、スイス辺りは占拠されててもおかしくない」

 

短くなったタバコを吐き捨てるというマナー違反をしながらも、話を続ける。

 

「艦娘の存在を公表してんのは日本とドイツとイタリアだけ。その内日本はランチェスターの法則の答えがお気に召したようで、アフリカ侵攻で頭がトチ狂ったことが分かった、イタリアはちゃんと正義の為に使ってる、じゃあドイツは?」

 

「俺もそこが分からん。ドイツ軍はそこを隠匿してる気がするが、証拠がねえ。もしかしたらただの思い違いって可能性もある」

 

「確かにそうだ。だが軍がその気になれば情報の隠蔽だって容易い。現に大日本帝国軍がそうだった。もしかしたら、その隠蔽したモノってのは相当ヤバい代物かもな」

 

「つまり?」

 

「そのドイツ軍次第で、昔みたいに三国同盟を結んで艦娘の武力を行使するか、艦娘を使って三つ巴、若しくは[俺に一枚噛ませろ]と言わんばかりに出てきたどっかの国を交えての四つ巴だろうな」

 

「で、地球は資源の奪い合いになって民間人はインターセプターで走ることを夢見ると?」

 

「おいおい、お前、あの映画見たのかよ?V8のポーズしたの?僕、超気になるぜ」

 

二言三言談笑のように笑いあっていたが、二人は口角を吊り上げ笑うとはまた違った表情をする。

 

「俺はそろそろ寝るよ。じゃあ、またな(・・・)

 

「.....ああ、そうかい。それじゃまあ、僕もそろそろ行くとするかね」

 

宗介が捨てたタバコの吸殻は、風も吹かないモーテルの廊下でアセテートフィルターごと灰になり、消えた。

 




最後の方は、宗介とエリクによる艦娘事情の状況整理。
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