◇月Й日
今日は昨日、ナガテくんと約束したとおり、彼に会いにいった。精米工場の人間には嘘をついてしまっているのでなるべくボロがでないようにする必要がありそうだ。大量の食料を背中に引っ提げてしたのもあまりよくはないだろう。
ナガテくんは本当に俺が来るとは思っていなかったようで、俺が部屋に尋ねにいったら、驚かれてしまった。社交辞令だとでも思われていたのだろうか?
会ったときに昨日買い込んだ大量の食品をあげたら、ものすごい喜ばれ、頭まで下げられてしまった。俺もそこまで喜ばれるとは思っていなかったので逆に驚いた。
その後は、彼と一緒に昼飯を食べて、地上のことなどや俺の話をすることになった。ナガテくんは地上の話に興味津々で話している俺も楽しかった。特に食い物の話に強い関心を抱いていたのがナガテくんらしいなと思った。
話の途中で知ったのだがナガテくんも光合成ができないそうだ。思わぬ同類の出現にナガテくんにより親近感を抱いた。
しばらく彼と話して今日は別れることになった。また明日も来ると約束したので明日、何を話すのか今のうちに考えておこうと思う。
◇月λ日
今日もナガテくんの所に遊びに行った。毎日来る俺に精米工場の従業員も少し不信感を抱いているようなので、ナガテくんに頼んで別のルートを探してもらう必要があるかもしれない。
今日、ナガテくんと話していて気が付いたのだが、ナガテくんは10代後半だと思われる年齢にもかかわらず結構幼いことに気が付いた。
恐らく“じいさん”以外の人間と接したことがないのが原因だと思われる。とはいえ、それが悪いわけでもなく。その純粋さには好意を抱きこそすれ嫌われるようなものではないとここに明言しておこう。
ナガテくんは顔立ちも良い分類に入る。地上にでればさぞモテることであろう。そもそも彼に性欲があるのかわからないが。
昨日と同じ様にナガテくんと昼を食べたあと、ナガテくんが仮象訓練装置を実演してくれることになった。
彼に案内された訓練装置は俺の見知っているものとは形が違っていた。何というか少し古かった。彼は一七式とか言っていたな。
一七式衛人。今の一八式の前に使われていた衛人で俺も現物を見たことが一度だけある。でも錆びていたしあんまかっこよくなかったような記憶がある。
そんな感じで考察をしていたのだが、ナガテくんが実際に訓練を始めるとそんな気持ちは吹っ飛んでしまった。
彼の操縦は凄まじいなんてもんじゃなかった。無駄がなく正確無比にガウナを屠る技術は、もはや芸術的とすら言えるだろう。
その証拠に訓練が終わった後の点数評価がカンストしていた。たかが、3万点ちょっとでいい気になっていた俺が恥ずかしいくらいだ。装置から出てきたナガテくんを思わず褒め称えてしまった俺は悪くないだろう。彼は困っていたが。
その後、ナガテくんに軽く一七式の操縦方法を教えてもらった。一七式は俺の知る一八式とは違い殆どの操作を手動で行う。故に操縦者の力量がもろに機体の動きに反映される。
俺も試しに動かしてみたが、一八式で慣れていると思ったが全然無理だった。本来の実力の3分の一も出せなかった。自動化慣れている俺では無理なことだったのだろう。
そんな難しい代物をナガテくんは、まるで自分の手足のように動かしていた。天才だ。彼を表現するのならその言葉しか見当たらないだろう。
才能だけじゃない。彼のあの動きができるまでに一体どれだけの努力をしたというのだろうか。俺にはてんで想像がつかないが、きっと並大抵の努力ではないだろう。
しかし、ナガテくんにここまで教え込むことのできた“じいさん”とやらが本当に何者なのか分からなくなってきた。あそこまでの技術を叩きこんだのだ。ただの犯罪者なんてことは絶対にありえない。となると残るは操縦士や教官もしくはそれに準ずるものであることが予想される。うん、わからん。
そんなこんなで、今日はそこで帰ることになった。帰り際にナガテくんが別の出口を見つけてくれたので、そこから帰ることにした。梯子の先はどこかの裏路地に繋がっていた。これならもう怪しまれることはないだろう。
その際、もう一度地上に来ないか聞いていみたが、まだ悩んでいるといった具合だった。食料に余裕ができたのも理由の一つだろう。説得するのには、まだ時間がかかりそうだ。
◇月\日
今日もナガテくんの所にいくつもりだったのに、トウア重工に呼び出されてしまった。呼び出され理由は、前回検討されることになった爆発反応装甲の仮象訓練データが出来たので、それを試してみろとのことだった。
その際、CGで作った予想図を見せてもらったが、衛人のスリムな外装に弁当箱のような反応装甲がびっしり取り付けられ、一回りほど大きくなっていた。なんというか不格好だった。
CGを見た後、実際に仮象訓練装置で試してみることになった。爆発反応装甲を装備した機体は当然動きが鈍くなっていたが、そこまで気になるものでもなかった。
実際にガウナの触手に捕まってみたが、触手に捕まった瞬間、瞬時に装甲が爆発し、触手から脱出することができた。ついでに触手による貫通攻撃も喰らってみたのだが、損傷軽微といった感じで動くことに問題はなかった。
かといって問題がなかったわけでもなく触手の速度によっては破壊されてしまうこともあったし、角度によってはそもそも装甲が反応しなかったこともあった。まだまだ課題は多いということだろう。
その後、ササキ達と課題や改良点について話し合いに参加させられたため、思っていたよりも時間を取られてしまった。
ササキ達に開放された後、ようやくナガテくんの所に行けたのだが、その時はもう夜になってしまい、雑談くらいしか出来なかった。
ナガテくんは俺が地球から来たことを知るととても驚いたようだった。やはり地下に住んでいても俺の存在は常識外のことなのだろう。
ついでにバイドのことも話してみた。ガウナよりも遥かに凶悪な存在に彼は顔を青くしていたが、バイドが既に倒されていることを教えると安心してくれた。
ふと、思ったのだが、バイドとガウナがであったたらどんなことになるのだろうか?ガウナがバイド化するのだろうか。俺はそこまで考えて恐ろしくなって考えるのをやめた。
話の中で、ナガテくんが何故地上に出たがらないのか聞いてみたところ面白い理由が聞けた。どうやら彼は地上に出て何か悪いことをすると有機転換炉に入れられて分解させると思っているようであった。
有機転換炉。彼が怖がっていたそれは、シドニアの限られた資源を最大限再利用するためにある設備で、有機物はなんであれそこに投げ込んで再利用する装置だ。
その有機物の中には人間も含まれていて、シドニアで死ぬと、この有機転換炉に入れられてシドニアのエネルギーに生まれ変わるのだそうだ。最初この話を聞いた俺は少し怖くなったが、シドニアが生態系を循環させる以上、必要なことなのだろうと思い、自分を納得させた。
しかし、俺が普段何気なく使っている電気や食事に人の死体が使われていると思うと少し怖気づいてしまうものだ。これもシドニアと俺の常識の違いなのだろう。
また、話が脱線してしまった。そんなナガテくんに俺は“そんなわけないだろう”と返し、本当のことを教えてあげた。そもそも有機転換炉にいくのは死人だけだ。シドニアにはちゃんと刑務所もあるし、そんなディストピアじみたことはしていない。
それを聞いてナガテくんはほっとしていた。でも、俺はその時、人を殺して有機転換炉に入れてしまえば完全犯罪が可能じゃないかと思ってしまったが、黙っていることにした。
そんな些細な誤解も解けて、今日は帰ることにした。ナガテくんも地上の話を聞いて迷い始めていることだ、意外と説得できる日は近いのかもしれない。
寮に帰った俺にヒヤマさんが最近なにしてるのと聞いてきたが、迷っていたと答えると納得された。そんな残念な言い訳で納得されてしまう自分がすこし嫌になった。
ちなみに今日の夕飯は重力カツ丼だった。ここではきっと食べ物の名前に重力をつけなければならない決まりでもあるのだろう。
▽月Ω日
ナガテくんに出会ってからちょうど一週間が過ぎ月も変わった。あれからほぼ毎日彼に会いに行っている。
毎日会いに来る俺に彼には何故そこまでしてくれるのか聞かれた。俺でも理由がよくわかっていない。最初はただの憐れみだったのかもしれないが今は違うと断言できる。
何というか友達に会いに行っているという感覚の方が近いだろう。そう彼に言ったら不思議そうにしていたが納得してくれた。
例の説得の件もようやく承諾してくれた。明日くらいに俺と一緒に地上に来てくれるらしい。紆余曲折あったのだが、決め手となったのは俺の“もっとウマい食い物があるぞ”の一言だった。食べ物で決めてしまうところが彼らしいといえるのだろうか。
地上に出た後の面倒は当然、ナガテくんを地上にだすことを決めた俺が責任をもってみることにした。彼が自活できるようになるまでは面倒をみるつもりだ。
彼ほどの腕なら衛人操縦士訓練生になることも夢ではないだろうが、俺は敢えてその選択を選ばなかった。もちろん、彼が自分の意思で訓練生になることを決めたのならば止めはしないが、なるべくならば戦わないでほしいと思ってしまうのは俺のエゴなのだろうか?
そんなこんなで、地上に来るにさしあたり、ナガテくんに新しい服に着替えてもらった。彼は何というかその、臭かったのだ。
そんないつになく順調に準備が進んでいる時であった。問題が発生したのは。シナトセくんにナガテくんのことがばれてしまったのだ。
詳しいことは長くなってしまうので省くことにするが、彼も俺に協力してくれることになった。というか俺よりもナガテくんのことが気になったのだろう。
ナガテくんもシナトセくんのことが嫌いではないようで、結構仲よさそうに話していた。ナガテくんとはいい友達になってくれることを願う。その際、ナガテくんがシナトセくんの性別について悩んでいた。初見で男だと決めつけた俺とはえらい違いである。これがイケメンだとでもいうのだろうか?
仮象訓練装置の記録を見たシナトセくんはその記録に驚いていた。この点数なら勉強すれば訓練生になるもの夢じゃないといっていたが、俺としては反対である。
明日はナガテくんを地上に連れて行く日だ。協力者もできたことだし悪いようにはならないだろう。
”これもシドニアと俺の常識の違いなのだろう”
スウィート・メモリーズ「せやろか」
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