※12月12日 機体の損傷に関する矛盾点を修正
☆月Π日
ホシジロちゃんが死んだ。
知り合いが死んだというのに酷く冷静な自分が本当に嫌になってくる。心のどこかで受け入れてしまっている自分がいるのが分かる。悲しいという感情は湧いてくるがそれ以上のものは何も浮かばない。そんな自分に嫌気がさす。今日のことを忘れないためにも今日起きた出来事を詳細に記そうと思う。
ことの発端はシドニアの前方5万キロに連結型の大型ガウナが出現したことから始まる。この緊急事態に司令部は直ちに衛人隊の派遣を決定し二度目のガウナ出現に俺らは大急ぎで機体まで向かった。
その通路までの道にナガテ君とホシジロちゃんがいた。しかも衛人用のパイロットスーツといういで立ちでだ。理由は彼等が今日正規操縦士になったからだ。その時の俺はきっと平穏な生活に慣れ過ぎて今が戦時下だということを忘れていたのだろう。今思えばあそこで彼らに嫌われてでも止めておけばよかったのだ。クソが!
話を続けよう。彼らの話によるとアカイ班と俺たちがガウナを倒したあとナガテ・クナト・ホシジロ・ホノカの四名が正規操縦士に昇格したそうだ。その時の俺は思うこともあったがガウナが目前まで迫って来ているので話は後にして出撃準備に取り掛かった。
シドニアから発進したR-100を除く36機の衛人隊は掌位を組んでガウナに向かってガウナの迎撃に向かった。俺は前の戦いから引き続きアカイ班と組むことになった。
連結型ガウナに会敵した俺たちは各機散開してエナの破壊に専念した。そこにはこの前開発したばかりのヘイグスバルカンも投入されていた。こいつは期待通りの活躍をしてくれていたと言えるだろう。爆発反応装甲のお蔭で撃破される機体は少なかったがそれでも3機が撃破されてしまった。初めての死者に少しばかりショックを感じたがその時は構っている時間がなかった。
ナガテ君を含むクナト・ホシジロ・ホノカの四機は連結型ガウナの推進機関を担っていると思われる尾部エナに爆薬を差し込んで切断する任務に当たっていた。彼らは計12本の爆薬を差し込むことに成功し後は同時に爆破するだけだった。
この時点で未帰還機こそ出ていたものの順調にことは運んでいたと言えるだろう。ここまでは上手くいっていたのだ。そう“アイツ”が現れるまでは。
異変は唐突におきた。R-100のIFF(敵味方識別装置)が“地球連合軍”の信号をキャッチしたのだ。俺はいきなりの出来事に頭が理解するのが追いつかなかった。その直後、信号の発せられている座標から波動エネルギーの増大を確認。俺が何をするのか理解した頃には、もう遅かった。
その座標から放たれた波動砲は連結型ガウナの前半分を近くにいた5機の衛人ごと抉り取り凄まじい衝撃波を発生させた。正体不明の攻撃を受けて混乱している衛人隊の間をすり抜けるようにして“アイツ”は飛んできた。
アローヘッドの意匠を受け継いだ機能美に富んだ白いフォルム。そして機体の側面に描かれた“99”の数字。機体の各所からスパークを放ち今にも自壊しそうであったがあれは間違いなくR-99ラストダンサーだった。
こいつの撃った波動砲に抉られたガウナは前半分を失っていたもののまだ生きていた。ガウナは怒り狂ったように“アイツ”に向けて大量の触手を飛ばして“アイツ”を墜とそうとするも“アイツ”は迫りくる触手をその自壊しそうな機体では到底無理な動きで回避すると再び波動砲のチャージを始めた。
その時、ようやく冷静になった俺は直ちにR-99に向けて何度も通信を試みたがノイズばかりで何も聞き取ることが出来なかった。R-99の射線上にはまだナガテ君達がいたのだ。俺が狂ったように彼らに退避するように呼びかけたお蔭でナガテ君達は退避を始めたが運悪くホシジロちゃんがガウナの触手に捕まってしまった。爆発反応装甲が装備されていたら彼女は直ぐに脱出できただろう。しかし、彼女の機体には装備されていなかった。理由は生産が間に合っていなかったから。
ナガテ君が助けに行こうとするも最悪のタイミングで波動砲が発射された。R-99から放たれた波動エネルギーはガウナを貫通し、それをもろに喰らったガウナは爆発した。まだ捕まったままだったホシジロちゃんを巻き込んで。そして助けようとしたナガテ君も余波に巻き込まれて大破。最悪の事態が起きてしまったのである。
当のガウナを倒したR-99は、まだ飽き足らないのか今度は衛人隊にその矛先を向けようとしたが、この時点で敵だと判断した俺がこいつに向けてレールキャノンで威嚇射撃を行い何とか矛先を俺に向けることができた。
その後、R-99を衛人隊とシドニアから引き離すために俺は急加速でその場から離脱した。しかし、“アイツ”は自壊しそうな機体で俺に追いつくとミサイルやレールキャノンを狂ったように撃ってきた。
俺はそれを避けながらバイド反応を調べさせたが結果は反応無し。こいつはバイドじゃなかったのだ。驚愕の事実で驚いてしまったせいか隙が出来てしまったようで、右翼にレールキャノンを数発喰らってしまった。
しかし俺はそこでザイオング慣性制御装置をフルに使った急制動でR-99の後部を取りミサイルを発射。近距離から放たれたミサイルはR-99の右後部のザイオンググラビティドライバを破壊することに成功したが、奴はここでも機体の状態を無視した急加速で俺から距離を取るとそのままどこかに行ってしまった。
俺はアイツを追うために機体を飛ばそうとしたのだがサマリの怒鳴り声にも近い制止で諦めざるを得なかった。
ガウナの方はR-99の波動砲に内包していた本体全29個体中23個を破壊され残った本体は1体を除いて衛人隊によって全て撃破された。しかし最後の1体だけは戦域から離脱してしまい現在行方を追っている。
シドニアに帰還した俺は、すぐさまナガテ君の下に向かった。波動砲の余波で機体を大破させられた彼は意識不明の重症。今現在も目覚めていない。命に別状がないだけでも儲けものだと思うしかないのだろう。
その後、サマリ達やアカイ達に問い詰められたが俺は何も言うことが出来なかった。バイド化もしていない機体が俺の通信を無視して更には俺や衛人にまで攻撃してくる理由など考えつくはずもない。彼らも最初は凄い剣幕だったが俺の動揺に気が付くと察してくれたのか労いの言葉をかけて一人にしてくれた。
サマリ達に問い詰められたあと、俺はコバヤシの所に連れて行かれた。理由は俺の考えた通り“アイツ”のことだった。俺はてっきり逮捕されるのかと思ったがそうではなく“アイツ”の情報を求められた。俺が自分の知っている情報を全て伝えるとコバヤシは少し黙った後、ただ一言“やれるか?”と言った。俺が波動砲を使っていいならと答えるとコバヤシはもう少ししたら波動砲の解析が終わって実験の段階に移れるからそれまで我慢してくれと返してきた。
話はそこで終わり俺は帰ることになった。部屋の扉を開ける際、コバヤシに“俺が裏切ったとは思わないのか?”と訊くと少しの間を置いたあと“貴様はそんなことしないだろう”と言われた。随分と信用されたもんである。
寮に帰ったらイザナ君が重々しい様子で俺に尋ねてきた。俺はなるべくショックを与えないように努めたつもりだったが彼にはショックだったようだ。イザナ君はショックを隠し切れないようだったがやがて平静を取り戻すと明日ナガテ君のお見舞いに行くと言っていた。強い子だと思う。本当に心からそう思う。
しかし、俺たちを襲ったR-99。あれは一体何だったのだろうか?バイドでないなら何故俺たちを襲った?それにあの機体の損傷、あれではザイオング慣性制御装置によるGの無効化も機能はしないだろう。だというのにアイツはかなり無茶苦茶な動きをしていた。あんな動きをしたら間違いなくパイロットはミンチになるだろう。幽霊だとでもいうのか?バカバカしい。
謎は深まるばかりだが俺はアイツに借りができてしまった。今度あったら確実に墜としてやる。ホシジロちゃんやアイツにやられた操縦士の仇を討とうだなんて思ってはいない。戦場で敵に殺されて死ぬことなんて当たり前だからな。一々憎しみを抱いていたら限がない。
だがアイツは俺に対して喧嘩を売ってきた。俺は売られた喧嘩は兆倍にして返す主義なんだ。アイツが地球の手かがりだろうが知ったこっちゃない。アイツには自分が誰に喧嘩を売ったのか骨の髄まで教育してやる。そうと決まれば明日はトウア重工に行ってR-100の状態を確認しなくてはならないな。ついでにあのR-99のシグナルも調べておきたい。少し引っかかるものがあるのだ。
☆月Я日
昨日、日記に書いた通り今日はトウア重工に行って機体の状態を確認してきた。幸いにも敵のレールキャノンを喰らったのは翼の端っこの部分だったようでコックピットの診断プログラムで診断した際も戦闘に支障はないと診断された。
翼の傷はナノマシンで直せることが判明したため問題ないのだが、ササキ達に相談すると見た目だけなら直せるとのことだったので一応頼んでおいた。当然ながら修復用ナノマシンは補充がきかないので、無駄な浪費は避けたかったのだ。
その時、ササキには機体を壊した罰と称して一発殴られた。余りにも唐突だったので全く反応出来なかった。まあ、そんないつも通りのササキの反応に少し元気を貰ったので今日の所は勘弁してやろう。尤も俺が歯向かったところで返り討ちにあうだろうがな。
その後、コックピットのコンピューターに昨日のR-100の識別番号を調べさせた。結果は俺の予想通りであった。あのR-99は半年ほど前にラストダンス作戦でバイドコアと交戦。それを撃破したがその後、異層次元の彼方に消え去ってMIA扱いとなった機体と同じものであった。
バイドとの戦争を終わらせた英雄は次元を超えたこの宇宙で俺たちに牙を向いたのだ。しかし何故俺たちを襲う?機体のコンピューターが狂ったのだろうか。だがそれにしては動きが良すぎだ。機械が動かしているのならもっと単調な動きになるはずだ。
結局、機体の出どころは判明したが謎は深まるばかりであった。その後、ササキ達に頼んで使わなかったヘイグス粒子砲の取り外しを頼んでおいた。戦闘の際は、その存在すら忘れていた武器だ。今後も使うことはないだろう。ササキには面倒臭そうにされたが無暗に機体の重量を上げるのは好ましくない。彼等には頑張ってもらうとしよう。
トウア重工からの帰りに今回の戦死者の告別式が行われたので参列することにした。ホシジロちゃんが死んだというのが未だに信じられなかった俺はそこで初めて彼女が死んだことを実感した。
やはりそこでも俺は悲しいという感情は浮かんだがそれ以上のことは思わなかった。面識が少ないというのもあるが俺は本質的に死に対して無関心なのだろう。俺は死を悲しむには余りにもそれに馴染み過ぎてしまったのだ。
しかし、ナガテ君が目を覚ましたらどう説明すればいいのだろうか。彼はきっとショックで塞ぎこんでしまうだろう。俺の様に割り切ることはできないだろうし、してほしくない。ナガテ君には辛いだろうが事実をありのままに伝えるべきだろう。それで彼が操縦士を辞めたとしても俺は引き止めたりはしない。本当に参ったなあ……。
主人公は死に慣れ過ぎて少し心が擦れています。いわゆるむせる的な状態ですね
そしてR-99。これは出すか悩んで結局出しましたがどうでしょうか?何か不満な点がありましたら是非感想で書いて下さると嬉しいです。
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