Ω月∪日
今日はいいことが二つあった。一つは以前よりトウア重工が開発していたザイオング慣性制御式推進機関の試作モデルがやっと完成したこと。やはりトウア重工は凄い。まだまだ大型だし航続距離も短いが既存の衛人とは運動性能も速度性能も安定性も別次元のまさに一線を画すものだそうだ。
流石に俺のR-100と比べたら性能は下だが、それでもカタログスペックを見た限りだと初代R-9Aに迫る性能であった。しかも波動砲用のジェネレータと同じ動力源を使用しているので今までのように速度を犠牲にしなくても波動砲を撃つことが可能になったのである。
これが一つ目の嬉しいこと。二つ目の嬉しいことはシドニアが遂にカビの複製に成功したのだ。人工カビと呼ばれるそれは以前より開発が進められていたという超高速弾体加速装置(所謂、レールガンである)の弾として使われガウナを遠距離からでも倒すことが可能になったのだ。この装置にはR-100の超高速電磁レールキャノンのデータも流用されているので連射も可能だそうだ。ただし、現在は人工カビの絶対数が不足しているので連射は厳禁とのこと。
波動砲のせいで今更感は拭えないが、カビザシに頼らず遠距離からガウナを倒せる攻撃は操縦士の生存率を大いに上昇させることだろう。この人工カビことガウナ本体貫通弾は俺のR-100のレールキャノンにも装填できるらしく波動砲のチャージ時間は隙だらけだったので攻撃手段が増えるのは素直に嬉しいことだ。
この弾体加速装置は前述のザイオング慣性制御式推進機関と併せてナガテ君がその運用試験を担当することになっているようだ。本人はまだこのことを知らないらしいが近い内に命令が下されるらしいので、その際は俺も試験に立ち会えとのこと。
今日は二つ嬉しいことがあったので気分はいいと言えるが一つだけ看過できないことがあった。ナガテ君の一七式にパイルバンカーが搭載されていたのだ。もう一度書こうパイルバンカーが搭載されていたのだ。
なんでだよ!なんでよりにもよってパイルバンカーなんだよ。てか人工カビ足りないんじゃなかったのかよ!それでいいのかトウア重工?きっと俺が渡したR戦闘機のデータからパイルバンカーシリーズを見つけてしまったんだろう。まあ、戦闘機に積むより人型の方が見栄えはいいだろうけど。なんかコレジャナイ気がしてならない。
ナガテ君がガウナの本体を突くなんて場面見たくないんだがなあ……。でもナガテ君のことだからパイルバンカー見たらきっと喜ぶのだろう。
しかもこんなんでもカビザシに比べて30倍以上の貫通力があるっていうんだから呆れるしかない。ササキもタンバさんもなんでこんなゲテモノ兵器作ったんだよと思って訊いてみたら、なんでもパイルバンカーのデータを見た一部の技術者達のゴリ押しで作ることが決まってしまったそうだ。どうやらこの世界にもパイルバンカー教の信者が誕生してしまったらしい。マジかよ……。
あれは地球連合軍でも一部の軍人達に異常に信奉されていて中にはパイルバンカーを主力戦闘機に搭載しろとの案を議会に提出する程の馬鹿もいたらしい。まあ、確かに強いけどね。俺も使ったことあるから分かるけどさ。ちょっと違うだろ……。
Ω月Ω日
今日の夜、非武装主義船員団の先発隊がシドニアを出発した。彼等が惑星セブンでの入植の準備を整え次第、降船希望者は順次シドニアを発つことになっている。予定通りに事が運べばの話だがな。
非武装主義者達は本当になんの武装も持たずにシドニアを出て行ってしまった。既に賽は投げられた。彼らが自分たちの幻想を信じて一線を越えてしまった以上、俺達にできるのは精々道中の幸運を祈ることくらいだ。俺は祈らないけど。
彼等は何故そこまでして星に拘るのだろうか?地球で生まれ育った俺にはきっと死ぬまで理解することが出来ないのだろうな。千年という長い長い年月で膨れ上がった彼等の望郷の念は歪んだ理想郷を作り出してしまったのだ。理想郷など何処にもないのに。
そんな理想の様な暮らしなどできやしないのだ。地球が連合という形で一つになっても紛争は絶えないし天変地異による被害だって続いている。最近も旧日本エリアでは、ちょうど10島目の人工島が恒例の様に災害で沈んだ。
バイドの被害だって尋常じゃない。サタニックラプソディーやデモンシードクライシス。そして宇宙人工都市エバーグリーンの崩落。それにより何十万人もの死者を生み出した。理想郷なんて何処にもありはしない。辛い現実から目を背けて逃げ出しても、逃げ出した先にあるのは、また別の辛い現実。結局は戦うしかないのだ。
下らないことをダラダラと書いてしまったな。シドニアから出ていく船の映像を見て思うところがあったのだ。しかし、俺は哲学者じゃないんだ。俺がやることは、説教をすることじゃなくて敵を殺すこと。こんなことはもうやめにして寝てしまおう。
Ω月ν日
今日はナガテ君がザイオング慣性制御式推進機関と超高速弾体加速装置の運用試験の説明を受ける筈だった。
時系列的に記すとしよう。まず指定の時間になり、試験を行うナガテ君とその付き添いのユハタちゃん。そしてついでに呼ばれた俺の三人でトウア重工に行ったのである。これは前々から思っていたことなのだがトウア重工の入り口は橋の様になっているんだが、それが結構高いのだ。それはもう落ちたら確実に死ぬっていう高さである。だというのにそこには手摺一つ存在しない!信じられないが一つもないのだ。他の所でも明らかに手摺が必要な場所に何もなかったりすることがざらにある。絶対落下事故起きていると思うんだがなあ……。
話を戻そう。トウア重工の中に入った俺達はタンバさんに連れられお目当ての弾体加速装置とザイオング慣性制御式推進機関の下まで連れられた。途中、ナガテ君はササキがトウア重工の開発責任者だとは知らなかったようで、少し驚いていたのが印象に残っている。
弾体加速装置を見たナガテ君は、まだタンバさんがこれが何か説明していなかったというのに弾体加速装置の名前をピタリと言い当ててしまいタンバさんとササキを困惑させていた。ナガテ君曰く仮象訓練装置で散々やったから覚えているとのことであった。
その後、弾体加速装置用の仮象訓練装置まで連れられたのだが、今度は俺が驚いた。なんとその仮象訓練装置はナガテ君と出会った場所で見た旧式の訓練装置だったのだ。何度も使ったというナガテ君にササキは出鱈目言うなと一蹴しようとしたが、すかさず俺も現物を見たことがあると言うとササキは困惑するのであった。
空気が悪くなったことを察したユハタちゃんがフォローするように俺たちの間に入り明日の予定の確認をしようとした際に事は起きた。
突如、室内に警報が鳴り響き俺達三人の端末にガウナ出現の知らせが入ったのだ。今回出現したガウナは先日出発した先発隊の船めがけて直進しており、距離を考えると救出は困難であった。R-100なら40秒で間に合う距離であったが出撃までのタイムロスや波動砲の攻撃範囲を考えると先発隊の船にも被害が出てしまい無理な選択であった。
そんな中、ナガテ君はザイオング慣性制御式推進機関と超高速弾体加速装置の使用を提言したのだ。まだ、試験も射撃管制装置のリンクもしていない兵器である。当然、ササキは反対するに決まっていた。
譲ろうとしないササキを説得したのはタンバさんの以外な一言であった。何とこの機械。弾体加速装置の計画が企画された当初のものを再利用して作られたものだったのだ。この事実は彼らにとって嘘でないとするには十分なものであった。
直ちに艦長の許可をもらったナガテ君は愛機の一七式にザイオング慣性制御式推進を換装してガウナの下まで急速接近していった。流石はザイオング慣性制御装置。不完全なコピーであってもその加速性と安定性は既存のものとは別次元のものであった。
ものの数十秒で弾体加速装置の射程まで接近すると、ナガテ君は弾体加速装置のトリガーを引いたのだ。慣性制御による破格の安定性とナガテ君の天才的な射撃技術によって放たれた人工カビはガウナの本体めがけて真っすぐ吸い込まれていきエナを突き破り本体を破壊したのだ。
初弾命中であった。しかも射撃管制装置の同期もしてないのにも関わらずだ。要は未調整の新品のスコープを取り付けたライフルでワンホールショットを決めるような芸当なのだ。まさに神業というしかないだろう。彼の強さは前々から知っていたがまさかここまでとは思いもしなかった。
かくして、ギリギリのところを助けられた先遣隊なのであったが、こんな目にあってもまだ懲りないらしく、そのまま礼も言わずに飛んで行ってしまった。つくづくふざけた連中だ。こういうことを思うのは不謹慎だがあのままガウナに襲われてしまった方が連中の頭を冷やすことができたのではないだろうか?“痛くなければ覚えない”人は過ちを犯すことによって初めて本当の意味で理解することができるのだ。
ガウナに殺されかけた程度じゃあ連中の頭を冷やすには足りないようである。連中の目を覚ますにはそれこそ本当に後悔するようなことが起きないと無理なのだろう。尤もそんなことを未然に食い止めるのが俺達の仕事なのだがな。
遠距離からの攻撃手段が増えたことによって“アイツ”との勝率が少し上がった。ヘイグスバルカンもある。衛人隊と連携して徹底的に数の暴力でゴリ押しすればアイツに勝てるだろうか?いや、そんな安直な考えでは負けるだろう。想定するのは、常に最悪の事態。これは戦いにおける鉄則だ。現実っていうのは常に俺達の予想を上回るものなのだ。
きっとアイツとの戦いは前回と同じ一騎打ちになるだろう。衛人では追いつけないからな。仮に連携して戦ったとしてもそこにはガウナもいることが予想できる。最悪、ベニスズメとR-99の両方と戦うことも想定しなければならない。
ベニスズメは衛人隊でも何とか勝てるだろう。しかし、アイツは無理だ。性能が違い過ぎる。掌位で追いつこうものなら波動砲の恰好の的だ。なら、弾体加速装置は?無理だ。秒速200キロ以上の速度で飛行するR戦闘機にこの世界の射撃管制装置が対応できるはずがない。
故に“アイツ”と戦えるのはR-99の後継機を駆る俺だけなのだ。波動砲を当てればあのボロボロの機体のことだ。一撃で墜とすことができるだろう。しかし、それが問題だ。隙を見せようものなら即座にレールキャノンとミサイルが放たれることだろう。フォースでもあれば敵弾を吸収させて盾にすることができるがそれも無理な話だ。
結論、考えても分からん。“アイツ”と遭遇した時に俺に出来る全てを出して戦うしかないのだろう。当然、死ぬ気はない。俺はまだやりたいことが残っているんだからな。
まあ、今日はここいらで終わりにするとしようか。そう言えば煙草の数も残り僅かになってきたな。“アイツ”との決着がついたら禁煙でもするか。
あと、二話くらいで完結なのでどうか皆さん、最後まで付き合って下さると非常に嬉しいです。
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