○月〒日
昨日、予想したとおり今日はセイイさんの言っていた“艦長”と直接会って話すことができた。話し合いの結果は俺が考えていたよりもかなり良い待遇で迎えられることとなった。
朝、運ばれてきた食事を食べた後、しばらく呆けっとしながら今後について考えていたところ“オチアイ”と名乗る同い年くらいの男が俺に会いに来た。彼は艦長に案内するといって俺に付いてくるように言った。ここで断っても全く意味がなかったので彼についていき艦長とやらが居る場所まで向かった。艦長に会うために移動する最中エレベーターに乗ったのだが、俺はそこでここにきてから初めてシドニアの内部を見ることになった。
そこは円柱状の巨大な空間になっており、その空間の真ん中には天井まで一本の塔のような建造物が建てられ(俺が居た部屋もその塔の中にあった)空間の底と内側の壁、柱、その全てに建物がびっしりと建てられており、そのスケールの大きさにただ圧倒された。
その凄まじい景色に年甲斐もなくはしゃいでいた場面をオチアイに思いっきり見られ笑われてしまった。恥ずかしい。今思うとエレベーターの窓に顔をくっつけてはしゃいでるパイロットスーツを着たハーフの軍人。ただの変質者である。
だが、年甲斐もなくはしゃぐほど圧倒されたのも事実だ。もし自由に行動していいのなら是非ともあそこを歩いて廻ってみたいと俺はそのとき思った、というか絶対行く。
幾分か乗っていると最上階らしき場所についた。そこは全てが真っ白な空間でなんとうか居心地が悪かった。オチアイはこれまた真っ白な扉の前まで俺を案内すると後は一人いけと言われた。当然俺は嫌だったので一緒に来てくれないかと尋ねたら駄目だと言われ渋々一人でその扉を開いた。
扉を抜けるとそこは、またもや真っ白なドームだった。ドームには巨大な円窓が幾つもあり外には星の海が広がっていた。“艦長”らしき人物は扉のちょうど向かい側の窓に立ち、外の宇宙を眺めていた。僅かな間の後、艦長は俺の方に身体を向け“ようこそシドニアへ、艦長のコバヤシだ”といった。“コバヤシ”名乗る艦長は口でこそようこそと言っていたが明らか俺のことを警戒している様子で、顔を覆い隠す変な仮面も相まってかなり不気味だった。
そのまま黙っているわけにもいかないので俺は将官クラスの人間に話す口調で自分の所属・氏名・階級、それとここに救助されるまでの経緯を説明した。まあ、共通語訛のせいで全然締まらなかったが。
コバヤシはそれに対してはなにも聞き返さなかった。一応セイイさんから俺のことは聞いているはずだが彼女らにとっては信じられないことのはずだ。
思っていることが顔にでていたのか、コバヤシは俺に理由を説明してくれた。俺の機体がシドニアの技術系統とは根本から違うこと、没収した所持品を調べた結果。嘘ではないという結論に至ったそうだ。中でも所持品の中にあった携帯電話に保存されていた地球の写真と1000年前のデータと照合した結果99.9%一致したことが決定打になったそうだ。
写真と同様に他のデータも洗いざらい見られていたようでバイドに関することもR戦闘機に関することも携帯に落としていた雑誌程度の情報ではあるが知っているようで説明しなくていいと言われた。俺としては説明する手間が省けて楽だったが、次からはもう少し気を付けようと心に誓った。
その時は英語がわかるのかと思ったが、後で記憶を辿ってみたところ、アルファベットなどを何回も見ていたので読めることには読めるのだろうと解釈した。
話を進めよう。俺の話をした後、コバヤシは先ほどまでとはまるで違う剣幕で俺にある質問を投げかけた。簡潔にまとめると、“3日前にシドニアの進路上でガウナの反応が検知されたけどすぐに消えた。結局誤作動ということになったけど心当たりない?”実際は貴様呼ばわりされたし、もっときつい口調だったけど大体そんなことを聞かれた。
その時のコバヤシが仮面越しでもわかるくらい睨んでいたので俺は内心ビビりながら、ガウナっぽい何かに襲われたこと、それを波動砲で撃破したことを正直に話した。
そのことを聞いたコバヤシは僅かだが驚いたように“それは本当か?”と聞き返してきた。俺は機体に記録が残っているのでいつでも証明できると答えた。返答をきいたコバヤシはしばらく黙り込むとそれきりそのことについては尋ねてこなかった。
波動砲についての話が終わった後、いよいよ本題に入ることとなった。最初コバヤシは俺自身の経歴について聞いてきた。俺は約10年間の経歴を自慢にならない範囲で事細かに説明した。最初は一般に公開されている程度の情報を教えるつもりだったのだが、コバヤシが有無を言わさず突っ込んでくるので結局洗いざらい喋ることになってしまった。俺が最前線にいたとき馬鹿みたいに出撃しまくっていたことやパイルバンカー搭載機でバイドのケツを掘ったこと(別に深い意味はない)まで全て知られてしまった。
ここまで言わされれば向こうが何を求めているのか分かってしまうというもので、俺はコバヤシに向かって“俺に何を求めている?”と聞いてやった。 すると、コバヤシは“白々しく聞くな。貴様にはもう分かっているのだろう?”と前置きしてから、こう要求してきた。その時のことはよく覚えている。なんせ、終始被っていたあの変な仮面を外して初めて素顔を見せてきたからだ。その整った顔俺に向けながらコバヤシはこう言った。
“貴様にしてもらいたいことは二つだ。一つは貴様の乗って来た機体……R戦闘機と言ったか。その技術を我々に供与すること。特に波動砲に関しては貴様の言っていることが事実なら是が非でも手に入れたい。二つ目は貴様は既に知っていると思うがシドニアに実際にガウナと戦った者は一人も残っていない。貴様にはバイドとやらとの豊富な戦闘経験を生かしてガウナと戦ってもらいたい。当然それ相応の対価を支払うと約束しよう……。尤も貴様がこれを拒否する場合、貴様の身の安全は保証はできんがな”
と、半ば脅しのような要求を突き付けてきた。思わず“それって脅しじゃね?”と口に出してしまった俺は悪くないと思いたい。俺は突然の脅しに面食らったが、よく考えると、とうかよく考えなくても殆ど同じ要求をしようと思っていたので結局のところ先に言われただけだった。
俺は少しだけ考えたあと、断る理由が見当たらないのでその提案を受けることにした。コバヤシは“賢明な判断だな”とだけ言うと今度は俺の細かな待遇について話し合った。
話し合った結果俺は暫定的ではあるが軍属となることになった。暫定的というのは俺が外部からやって来たことに起因するのだろう。話していて分かったが俺の様な外からやって来た者はシドニアが地球を脱出して1000年経過した中でも初めてのことで対応するマニュアルがないんだそうな。
俺のやることはトウア重工の技術者に協力してR戦闘機を解析し衛人(あの人型兵器の名前だそうだ)に応用出来るところがあればするとのこと。トウア重工の他にクナト開発という企業もあるらしいがそこには協力しなくていいとのこと。何か理由があるのだろうが教えてはくれなかった。
そして有事の際には実際にR戦闘機に乗って戦ってもらうとのこと。状況によっては衛人に乗る可能性もあるらしい。せっかくバイドとの戦争が終わったのにまた戦争しなきゃならないなんて面倒だがやると言ってしまった以上やるしかないのだろう。
肝心のR戦闘機についてだが、3日後性能試験を行うそうだ。何故3日後なのかというとちょうどその日、シドニアが小惑星の横を通過するらしい。大方、波動砲の的にでもさせる気なのだろう。
ついでに俺の正体についても話すことになった。コバヤシ曰く別にばらしてもいいそうだ。一応情報統制はしているそうだが、既に人づてかなり広まっているらしくシドニア全域に知れ渡るのも時間の問題だそうだ。ならば別に隠す必要もないため俺が話たかったらどうぞご自由にとのこと。ただし、地球から来たことに関しては余計な混乱を招くため、その辺に関しては上手い事はぐらかせと言われた。要は俺がバイドと戦っていたことや事故で漂流していたことは話していいがタイムスリップや地球のことは言うなということだろう。
そんなこんなで話が纏まったのでお開きとなった。さっき通った扉を抜けると、疲れが一気に押し寄せて、思わず床に座り込んでしまった。それも仕方ないことだろう何せ意味不明な場所で正体不明の女と何時間も立ったまま腹の探り合い、いや俺が一方的に暴かれていただけか――をしていたのだ疲れるのも無理はないだろう。俺がこんなに疲れているんだコバヤシもさぞ疲れているに違いないとその時は思ったがもう一度扉を開けて確かめる勇気はなかった。
しばらく座り込んでいるとエレベーターが動いている音がして、少ししてからオチアイが俺のところまでやって来た。彼の手にはオニギリと水筒に入ったお茶があり、どうやら昼食を持ってきてくれたようだ。その時の俺の喜び具合があんまりにもアレだったためオチアイに少し引かれてしまった。
あんな気配りのできるイケメンだったなんて思わなかった。心の中でスーツの上からベルト巻いたダサい奴なんて思ってしまったことを詫びた。心の中でだけど
エレベーターの中で彼に貰った弁当を食べながら俺はオチアイから次の予定を聞いた。今、俺の身分や住む場所その他諸々を用意しているらしく、その間にトウア重工へ向かうのだそうだ。そして俺は今エレベーターの中で日記を書いている。ものすごい勢いで大量の文字を書いている俺をオチアイが何とも言えない表情で見ているが、気にしないことにする。気にしないったら気にしないのだ。
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あの後、トウア重工に辿り着いた俺たちは、そこでトウア重工の責任者たちと出会った。正確には後で知ったことなのだがそれは置いておくとする。
トウア重工の施設内に入った俺を迎えたのは腰にでかいレンチを差した如何にも技術屋といった風体の女性で、中に入って来た俺を見るなりいきなり詰め寄ってきて“あんたの機体の自爆装置とっとと解除しなさい!”とだけ言うと俺の腕を強引に引っ張って俺を機体の前まで連れ出した。引っ張られている途中でようやくそんなことを言ったことを思い出した。コバヤシとの対決ですっかり忘れていたのだ。
当然、そんなことは嘘であるため機体の前でどう言い訳するか悩んでいたところ彼女から早くしろとのお達しがあったので俺は正直に嘘であると告白した。その時の会話を記そう。
“なに突っ立てんのよ。早く解除しなさいよ”
“いや、実は……”
“実は…なんですって?”
“あ~えーっと……なんというか非常に申し上げにくいことなんですけど――”
“はっきり言いなさいよ!なに?もしかして解除できないとか、そういうことなの?”
“そうじゃないんだけども……何と表現していいのや―”
“いいからとっとと言いなさい!!”
“嘘なんです”
“は?”
“だから嘘なんです。弄ったら自爆するなんて機能ついてません。テヘペロ”
その後はもう大混乱である俺のあんまりな事実にブチ切れた彼女は俺のことをレンチで殴り飛ばし尚も暴行を加えようとしたところを駆け付けた社員達に取り押さえられ事態はなんとか沈静化した。その際、彼女が落ち着くまでに30分の時間を要したのは至極どうでもいいことである。
彼女が落ち着いた後、改めてお互いに自己紹介をした。さっき俺のことを殴り飛ばした女は“ササキ”という名でトウア重工の開発主任をやっているそうだ。一応落ち着いてはいたがまだ怒っているらしく結局、俺がその重圧に負けて謝ることでなんとか機嫌を直してもらった、誠に遺憾である。
まあ、爆発する危険があった緊迫の場面で嘘です。テヘペロなんて言われたら誰だって怒りを覚えるのは当然であろう。なのでそのことについては気にしないことにする。
その後同じくトウア重工の技術者である“タンバ・シンスケ”さんとも自己紹介をしたのち本題に入ることになった。
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