【完結】シドニアの「R」   作:クリス

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しばらくはオリジナル展開が続きます。


四騎目

○月Σ日

 

今までの疲れが押し寄せたのか今日はとんでもなく遅くに目が覚めた。多分ヒヤマさんに起こされなければずっと寝たままだったに違いない。

 

ヒヤマさんの作った朝食を食べ終えた後、俺はオチアイに貰った衛人の操作マニュアルを読むことにした。ハイスクール時代よくゲームセンターで似たような乗り込むタイプのロボットゲームを遊んでいたのですぐに理解することができた。

 

まあ、実際に乗って動かしてみないことにはわからないので俺はトウア重工に行くことにした。衛人の整備をやっているならシミュレーターくらい置いてあると判断したからだ。断じてゲームみたいで面白そうだから行ったわけではないとここに明言しておこう。行くと決めた俺はヒヤマさんに頼んで弁当を作ってもらうとトウア重工に向かって出発したのであった。恐らくその時の俺の顔は誰の目でもわかるくらいワクワクしていたことだろう。

 

 

 

 

 

そう意気込んで寮を出たはいいもののトウア重工までの道のりまさに茨の道であった。最初は貰った携帯端末の地図を見ればいいやと楽観視していたが、まずそれの使い方が解らなかった。手探りでなんとか地図を立ち上げたものの今度は何度も道に迷う羽目になってしまったのだ。

 

俺が迷うのも当然だった。俺が知っている街は平面に広がっているタイプだけだ。シドニアの3次元的に広がる複雑怪奇な街なんぞSF映画の中でしか見たことがない。確かに肉眼で見る町はとても素晴らしかった。そこがどこなのか理解できていればの話だったが。

 

それと不快だったのは道行く住民の殆どが俺のことをジロジロ見てくることだった。最初は俺の正体がばれているのかと思ったがどうやら違うようで、そのことでしばらく悩んだが、俺の顔つきが原因だという結論になった。確かに東洋人しか存在しない街で黒髪だが碧眼の思いっきり白人の顔つきの男が徘徊していたら誰だって物珍しく思うことだろう。

 

理由が分かったとしても日本人が戦国時代に初めてオランダ人を見るような眼でジロジロ見られるのは嫌だったので、俺はなるべく顔を下に向けて人に見せないようにするしかなかった。

 

途中、エレベーターの使い方がわからなかったりすれ違った三つ子と+αにガン見されたりしながらも俺は何とかトウア重工に辿り着くことができた。それは俺が出発してから実に3時間後のことであった。ちなみに弁当は外で食べた。

 

必死の思いでトウア重工に辿り着いた俺を出迎えてくれたのはササキの無慈悲な“遅い”の一言であった。腹が立った俺はササキに道に迷ったことを苛立ち気味に伝えたら何故かは知らないがすんなり納得してくれた。もしかしたら俺が思っているより理性的な人物なのかもしれないと、この時思った。

 

その後、ササキにヘイグス通信機をコックピットに取り付けたので確認してほしいと言われたので俺は当初の目的は後回しにしてR-100の下に向かった。

 

ササキに急かされてコックピットの中を覗くと、確かに計器類の隣に画面が複数あるテレビ電話みたいなのが取り付けてあった。“昨日の今日でよく出来たな”と褒めたら“当たり前でしょ”と返された。開発主任なだけあって実はすごいのかもしれない。ついでにコックピットに置いたままだった新しい煙草の箱を回収することに成功した。

 

ササキに通信機の使い方を教わった後、タンバさんもやって来て昨日わたしたデータについて説明を求められた。どうやら既にデータを解析して設計図および各種データを見ているらしく俺は細かな解らない部分を解説することになった。

 

その際にレールキャノンの弾やミサイルの補給は可能か聞いてみたが、まだ見てないから何とも言えないとのことであった。が、悲観する必要はないらしい。職人の頼もしい一言であった。

 

あれこれ解説させられた後、俺はようやく当初の目的を切り出すことができた。シミュレーター(ここでは仮象訓練装置というらしい)は兵器の仮想試験のために何台か置いているらしく今は使ってないので使っていいことになった。

 

シミュレーターに入って実際に動かしてみた感想だが、素晴らしいの一言に尽きる。人型機動兵器の操縦がこんなにも心躍るものだとは思いもしなかった。ハイスクール時代に遊んだゲームなんてこのシミュレーターの前ではゴミも同然だと言わざるを得ない。あまりの面白さにササキに無理やり引きずり出されるまでずっとやってしまった。

 

ササキにはドン引きされたが、お蔭で衛人のコツを大体つかむことができた。これなら迷った甲斐があったというものだ。点数も表示されるようで、何回もやり直したせいで点数が何個も表示されたが、どれもあまり高い点ではなかった。

 

俺は少し落胆したが、ササキ達の反応は違った。何でも初めての操縦でここまで動ける奴はそうはいないとのこと。ササキにはこのまま衛人操縦士訓練生になっても文句はないとまで言われてしまった。ずば抜けて凄いわけではないそうだが人並み以上の実力はあるそうだ。

 

俺が動かせたのもシミュレーターで使った一八式衛人の操縦が自動化されていて癖さえ理解してしまえば後は状況に応じた指示をしてやるだけだったからだ。こんなの誰でもできるだろうに、過大評価でしかないと、その時は思ったが反論するのも面倒なので黙っていることにした。

 

これからのことは明後日の試験をやらないことにはどうしようもないので今日はそこで帰ることになった。ぶっちゃけると俺が何時間もシミュレーターで遊んでいたせいなのだがそれはそれこれはこれである。帰る際にまたシミュレーターをやっていいか聞いたらOKとの事だったので明日も行くことにする。

 

帰りは大丈夫だと思っていたのだが、案の定道に迷ってしまい偶然みつけた交番っぽいところで道を教えてもらって何とか帰ることができた。帰る途中煙草を一本吸ってから帰ったのだが、俺が煙草に火をつけた途端、俺の周りにいる通行人の全てが鼻を塞いで俺のことをガン見してくるので俺は煙草を揉み消して逃げるように寮に帰った。

 

後でヒヤマさんに聞いて分かったことだが、ここシドニアには煙草が存在しないらしい。ヒヤマさんにも何それと言われてしまった。俺が煙草について簡単に説明したところ、程々にしきなさいとだけ言ってそれっきりその話はしなかった。ちなみに今日の夕飯はから揚げ定食だった。ヒヤマさんは重力から揚げだと言っていたが重力とから揚げに何の関係があるのかさっぱり見当がつかなかった。

 

そんなこんなで波乱の一日であったが、実に実りの多い一日であった。明日もシミュレーターで遊ばせてもらうとしよう。どうせ明後日の試験まで何もすることがないのだ。少しくらい遊んだって罰はあたらないはずだ。

 

 

 

 

○月卍日

 

 今日は朝ヒヤマさんに教わった日用品の店に行った後、昨日と同じようにトウア重工にお邪魔した。昨日散々迷ったお蔭で今日は割とスムーズに辿り着くことができた。それでも何度か迷いかけたが。

 

トウア重工に入った俺はササキとタンバさんに一言断ってから仮象訓練装置を使わせてもらった。ササキには“あんたも好きよね”とからかわれたが全く持ってその通りなので別になんとも思わなかった。

 

昨日コツを掴んだので今日は昨日と比べて大分うまく扱えるようになった。昨日やらなかった味方と連携しての戦闘や市街地での戦闘など色々なシミュレーションをすることができた。中でも一番面白かったのは掌位と呼ばれる編隊行動だ。衛人どうしが手を組みスラスターを吹かすと、どんな仕組みか知らんが結構なスピードで移動することができるのだ。流石にR戦闘機には及ばないが目測でもかなりスピードが出ていたと思う。

 

今日はササキに引きずり出されることもなく思う存分衛人を操縦することができた。時間を忘れるとはこのことだろう。ただ気になったのは仮象訓練装置から出たときササキの顔が少し引きつっていたことだ。何だったのだろうか?今となってはわからずじまいである。

 

その後は、することもなかったので一人でトウア重工の社内と見学させてもらった。やはりメカは見ていて心が躍る。しばらく見学しているとタンバさんに話しかけられた。話の内容は昨日俺が聞いたレールキャノンの弾とミサイルのことだった。レールキャノンに使われている高硬度重金属弾は言ってしまえばただの金属の塊なので衛人に搭載されている高速連射砲の弾丸を流用すればなんとかなりそうとのことであった。ただし、口径が違うのであまり多くは作れないそうで、撃つ機会なんてあまりないだろうが、なるべく節約するように言われた。

 

ミサイルについては時間がかかると言われた。なんでも規格が違い過ぎて外付けにでもしないかぎり搭載できないとのこと。それに加え制御システムも違うため、システムを一から作成しなくてはならならしい。それでも時間がかかるだけで無理なわけではないらしくこれもやってくれることになった。

 

武装の話が終わったところで今日のところは帰ることになった。彼らとは出会って3日しかたってしないのに随分と借りができてしまった。こんなよそ者の俺とちゃんと付き合ってくれる彼らには頭が上がらない。できるだけ積極的に協力しようと思った。

 

寮をでる際、ヒヤマさんに外食してくると言ってしまっていたが、実際はシミュレーターに夢中で昼も食っていなかった。人工の空はすっかり暗くなってしまい店も殆ど閉まって入れない。仕方ないので俺は偶然見つけた自販機で重力麺という名のカップ麺らしき食べ物で腹を満たした。“伸ばして1秒”と書かれたそれはカップ麺のカップを縦に縮めた姿でどういう仕組みかさっぱり理解できないがカップを伸ばすと中からお湯を注いで3分たった状態のカップ麺がはいっていた。その超技術に驚いたが味は俺の知っているカップ麺そのものだった。

 

重力麺、悪くない味だ。インスタント麺特有の安っぽい味もボソボソの麺も体に悪そうなスープも地球で食ったカップ麺とまったく同じで思いがけない故郷の味につい夢中で食べてしまった。カップ麺で故郷を思い出すなんてどうかと思うが俺の青春はゲームセンターとインスタント食品で構成されているのだ。

 

明日はいよいよ機体の試験だ。そこでの結果が俺の価値を示すまたとない機会になるだろうことは想像に難くない。R戦闘機の性能を見せつけて連中の度肝を抜いてやるのも悪くはないだろう、実に楽しみだ。

 

 

 

 

 




誤字脱字、その他おかしな点がございましたら報告して下さると嬉しいです。ちなみに作者の青春はネット小説とぼっちで構成されています。
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