○月Θ日
朝、俺宛に封筒が届いていた。中身は俺の身分証のような紙と“特殊技術開発戦闘補佐官”銘打ったネームプレートだった。つけろということなのだろうか。
その後、さっそくと言わんばかりに、トウア重工によびだされた。ササキ達に呼ばれた理由は当然、一昨日の試験のことについてであった。俺の口から散々スペックを聞かされていたから知っていたが、まさかあそこまでとは思わなかったらしい。
ササキには“まるでガウナね”とまで言われてしまった。たしかにR-100はバイド系列の機体の意匠も混ざっている。特に兎の耳のような形状のキャノピーや機体後部にある棘状のパーツはバイドを連想させる。彼らから見ればガウナに見えるのも無理はないのだろう。
波動砲についてはコバヤシに言うことを禁じられていたので、それとなく聞いてみたところ、耳打ちで話してくれた。ササキ曰くあの日の試験を見た者全員に箝口令が敷かれているらしく破ったら罰せられるとのこと。
やりすぎじゃね?と思ったが自分のやらかしたことを鑑みるに割と当然だったので、波動砲について触れるのはそこまでにした。
R戦闘機のテクノロジーについてだが、俺がパイロットであって技術者ではないことはササキ達も十二分に理解しているらしく、解析の方は基本的に自分たちで行うと言われた。
確かに、素人の俺があれこれ口出ししても何の役にも立たないだろう。専門的なことは彼らに任せた方がいい。餅は餅屋だ。
その後は今後の方針について話すことになった。どうやら俺にはバイドとの豊富な実戦経験を基に新装備のアイデアを出してほしいそうだ。
ついでに新兵器ができたらその試験をやってもらいたいとのこと。試験をするのなら実際にR戦闘機の技術に見て触れた俺が行うのは理にかなっている。
アイデアについては、さしずめ俺に新しい風を吹き込む役目を担ってもらいたいのだろう。兎に角、何か思いついたら手紙でもなんでもいいから伝えろと言われた。
早速、何かないかと聞かれたが、まだガウナのことをよく知らないので答えることはできなかった。ササキもいきなりアイデアが出てくることは期待していなかったようで“思いついたら教えなさい”とだけ言ってこの話は終わりとなった。
その際、俺の携帯電話に保存されていた、R戦闘機の図鑑データを渡しておいた。正直、役に立つとは思えないが、何か、新しい発想のネタになるかもしれない。
今日は何故か気分が乗らなかったので仮象訓練装置を使うことはしなかった。ササキには珍しがられてしまったが、用もないのに来て彼らの仕事の邪魔をするのも良くないだろう。今後はもう少し控えることにしよう。
別の訓練装置の目処をつけなければいけないな、少し面倒だ。
○月§日
今日から、かなり暇になることが予測されていたので、かねてより考えていた都市の探索をすることにした。
今までの経験を踏まえ、迷うこと前提に心構えをして臨んだのだが、意外と覚えているのかあまり迷いはしなかった。遂に迷子癖を克服したと思いより遠くに足を進めていったら、やっぱり道に迷った。どうやら、まだまだ道は長く険しいらしい。
道に迷っている途中、衛人操縦士訓練校の前を通り過ぎた。気になったので少し中を覗いてみたら、まだまだ若い子達ばかりだった。彼らもいずれ兵士になってガウナと戦わされるのだろう。そう考えると少し嫌な気持ちになる。
そんなことを考えているとふと声を掛けられた。振り返ると可愛らしい顔立ちの女子訓練生をつれた銀髪の何かエリート臭のする男子の訓練生に“我が校に何か御用ですか?”と聞かれた。言葉こそ丁寧であったが、明らかに怪しい者を見る目だった。
どうやら知らず知らずのうちにかなり目立っていたようである。周りの訓練生達も俺のことを不審人物を見るような目でみていた。
俺は“何でもない”とだけ言うと逃げるようにその場を立ち去った。彼らの視線が背中に突き刺さって痛かった。主に心が。
逃げたはいいものの、ぶっちゃけ道が分からなかったのでどうしようかと考えながら歩いていると、誰かにつけられてるのが分かった。
だが、明らかに素人丸出しの尾行だったので、俺は少し驚かしてやろうと思い。彼らの死角にはいったところで全力ダッシュ。回り道して彼らの背後につきその正体を確かめてやった。
なんと、一昨日出会った親切な少年、シナトセくんと髪の色がピンクというファンキーな2人の女子だった。大方、訓練校前で俺を見かけて宇宙人の真相を暴いてやろうとしたのだろう。
俺は気配を殺して彼女たちの背後に立つと指を拳銃に見立ててピンク髪の片割れに突き付けた。今思うとかなり変態的な行為だったが、当時の俺にそんな発想はなかった。
“動くな!”と言うつもりだったのだが、実際には俺が“うご”と言いかけたところで彼女が振り向き、そこで俺の意識は途切れたのであった。
意識が戻った俺は自室のベッドの上に移動していた。ちょうど、その時にヒヤマさんが入って来て事情を聞かされた。俺はあの後彼女に殴り飛ばされて気絶したという。その後情けないことに彼女たちにここまで運ばれたのだそうだ。
その当事者は食堂に居るらしく俺は彼女たちと顔を合わせることになった。三人とも殴ったことについて謝ってくれた。俺も驚かせようとしたことに少し反省していたので結局お相子ということで、そのことについては終わりになった。
尾行事件が解決した後、シナトセくんの勧めで自己紹介することになった。ピンク髪の姉妹の俺を殴った方がホノカ・エンでその片割れがホノカ・レンだというそうだ。どうやら彼女らも俺のことを見たことがあるらしく、知らないのは俺だけだけのようであった。
その時、二つ新たに知ったことがあった。まず一つ目にシナトセ・イザナくんは男でも女でもなかった。
何をいっているかさっぱりわからないが、シナトセくんによると彼?は中性というシドニア独自の性別だとのこと、相手によって後天的に性別が変わるらしい。仕組みがよく分からん。
その時、思わず“え?男じゃなかったの?”と言った時、三人に物凄く残念な人を見る目でみられてしまった。解せぬ。
二つ目にホノカ姉妹はただの双子ではなくクローン技術で複製された人間だというらしい。しかも全員あわせて11人もいるらしい。ややこしいわ。
しかしクローンに人権が認められているなんて驚いた。俺の世界のクローンなんて精々、臓器のバックアップとか人体実験の代用くらいにしか使われていなかった。俺も一度しかみたことないが何というか息をする人形みたいな感じでかなり気味悪かった覚えがある。
しかし、日記を書いている今でも彼女たちがクローンだなんて信じられない。個性もはっきりしていて(見た目は全く同じだが)あまりにも感情豊かだったので、ただの一卵性双生児かと思っていた。
中性という存在やクローン人間のこともあるが、シドニアの倫理観がどうなっているのか全く分からない。ここに来てもうすぐ二週間になるが、知らないことが多すぎる。早いこと手を打つ必要がありそうだ。
その後は自然と俺の正体の話に変わった。ここで誤魔化す選択肢もあったのだが、これ以上探られるのも面倒だったので正体をばらすことにした。彼女たちには口外しないように言ったが、まだ子供だ。あまり信用しないほうがいいだろう。
俺の正体を聞いたシナトセくんが街を案内を申し出てくれたが丁重にお断りした。別に恥ずかしかったとかそういうのでは断じてない。
代わりに俺は仮象訓練装置のあるところまでの案内を頼んだ。最初、関係者以外は入れないのを理由に断られたが、俺がポケットにしまったおいた身分証と特補(面倒なのでこれからはこう呼ぶことにする)のプレートを見せ、関係者であることを教えると怪しまれたが、明日案内してくれることになった。
案内してくれることになったところで話を切り上げ部屋に戻ることにした。彼女たちはもう少し正体を知りたがっているようだったが面倒だったので帰らせた。
今は、部屋の中で日記を書いているがホノカちゃんに殴られた左頬がまだ痛む。これはしばらく痛みがなくなりそうにないな。というか、あんな細腕でどうやったらあんな力が生み出せるのだろうか?クローンだからとでもいうのだろうか?
あ、ちなみに今日の夕飯は重力さんまの定食だった。もう突っ込まないからな。
○月÷日
今日は昨日シナトセくんに頼んだ通り、仮象訓練装置を使わせてもらうことにした。昼を少しすぎた時間に訓練校まで何とか辿り着いた俺は、ジロジロ見てくる訓練生の視線に耐えつつシナトセくんをさがした。
10分程探したあと、シナトセくんを見つけた俺は、彼に案内してもらい、仮象訓練装置が設置されている場所まで向かった。
仮象訓練装置が設置されている場所は多くの訓練生で賑わっていた。集っていた訓練生は画面を見ながら口々に感嘆の声を上げていて、どうやら誰かの操縦に関心しているようだった。
しばらくすると、一つの訓練装置の扉が開き中から、俺の知っている人物がでてきた。そう、昨日俺を不審者扱いした銀髪くんである。銀髪くんが装置から出ると画面を見ていた訓練生が口々に彼を称賛した。
彼らの口から“クナト”の名前が発せられていたので恐らくトウア重工のライバル企業のクナト開発の親族かなにかだと結論づけた。画面の前にいた訓練生たちが銀髪改めクナトくんの下に行ったので俺とシナトセくんは画面を見てみた。確かにクナトくんは優秀なようでランキングの1位のところに“クナト・ノリオ”の名前が輝いていた。
それを見たシナトセくんはまたかとでもいうような顔をしていたので恐らく彼がここで一番優秀な訓練生なのだろう。
かくいう俺はというとノリオという名前に旧世紀から今も続いている国際的アニメのある登場人物を思い出してしまい一人、ツボに入っていた。その時、俺を見るシナトセくんの何とも言えない表情は今でも忘れられない。
訓練生に囲まれていたクナトくんはツボに入っている俺を見つけると最初は不審者を見るような目でみていたが、やがてここにいる意味を理解したのか俺のことを明らかに嘲笑うような顔で見てきた。
クナトくんにつられ訓練生たちも俺たちのことを見てきた。少し腹が立った。俺はシナトセくんの制止を振り払い仮象訓練装置の中に入ってクナトくんがやっていたのと同じ訓練プログラムを始めた。
ああいうエリート気取りの奴はあまり好きではない。腹が立っていた俺は少々、いやかなり大人げないが本気を出すことにした。それも今までの遊びとしての本気ではない。R戦闘機乗りとしての本気だ。
結果は上々。被弾回数0、弾薬消費率10%、ヘイグス粒子残量90%の完璧な戦闘だった。ただし、途中、ふざけて触手を回避しながら曲芸飛行を行ったので点数はそこまで高くはなかった。しかしそれでもクナトくんに1万点以上もの大差をつけ正に圧勝ともいえる記録を残した。
唖然とする訓練生を尻目に同じく信じられないといった表情のクナトくんに顔を向けると思いつく限り最大のドヤ顔を披露して悠々と退場してやった。
その後、走って追いついてきたシナトセくんに問い詰められたが適当にはぐらかし案内してくれた礼を言ってから走って逃げた。話している途中で自分のやったことの恥ずかしさに気づき猛烈な羞恥心に襲われたからだ。
まあ、そんなこんなあって今日は恥ずかしくもどこかスッキリとした1日だった。しかし、あの行動はないな、大人げないってレベルじゃない。明日も行こうと思っていたのにどうしようか……。
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倫理観?お前が言うなって感じですね。R-TYPEの世界ならクローンくらい何体も作ってそうだと思います。
100年先のサ○エさんは国際的アニメにレベルアップしました。