魔法少女リリカルなのは~Amantes Amentes~ 改訂版 作:鏡圭一改め鏡正
杏奈は翠屋から出た後、人気のない場所まで歩いて行き、周りに誰もいないことを確認した。
「出てきなさいメルクリウス。アンタがここにいることは分かってるのよ」
「君にしては随分と悩んでいたみたいだが……まあいい。ではこの前の答えを聞かせて貰おうか」
メルクリウスの相変わらずのウザイ態度にイライラする杏奈だったが、時間が無いこともあり、かなり焦っていた。
なのはが1人で異形の存在と戦っている。そして、妹と同じ舞台に立たないと蓮の心を射止めることができないという思いが渦巻く中、杏奈はメルクリウスに向かって手を差し出した。
「メルクリウス。私にデバイスを渡しなさい!」
「……契約完了だよ。さあ、これが君のデバイスだ」
メルクリウスは笑みを浮かべながら禍々しい雰囲気を放っているペンダントを杏奈に渡した。
そして、杏奈はメルクリウスに渡されたデバイスがどのような能力を持っているのかも瞬時に理解した。
「ついでだが、君が蓮のことを裏切れないように
制約……それは、ケルト神話における誓いや義務のことであり、ゲッシュが守られているのならば、神からの祝福を得て強い力を使うことができるが、もしそれが破られるならば、禍が降りかかり命を落とすと言われている物である。
「ええ。分かっているわ」
「そうか、では行くといい。君が蓮のことを裏切らないことを切に願っているよ」
メルクリウスはそう言った瞬間、物陰と同化したように姿を消した。
「(……本当にアイツって蓮君のことが大事なのね。蓮君とロートス以外の人間のことを認めようとしなかった変態が、私や遊佐君にデバイスを渡すなんて普段なら感謝する所なんだけど、アイツがデバイスを送ること自体、嫌なことが起こりそうで不安なのよね~)さ~て、蓮君を守る為に頑張りますか!」
蓮となのはを守る、杏奈はそう思いながらデバイスを起動すると、杏奈の服がマレウスの服装に変わり、魔女の頃の杏奈の魔力が戻っていくのを感じた。
そして試しに影の魔術を使ってみると、以前使った時よりも魔力が安定していたことに杏奈は喜びを感じながら転移用の影の魔術を使い、膨大の魔力を感じる場所に転移した。
「やっと彼女は決意したか。正直に言わせて貰うと、少し遅すぎるがね。……まあこれで物語の一部は序章を終えて中盤に進むわけだが、些かアンナ以外の黒円卓の者達は覚醒が遅すぎる気がするがね」
メルクリウスは来るべき歌劇に備えて、予めに黒円卓の者達にはデバイスを渡している。
勿論メルクリウスは全員の記憶を弄り、デバイスがある理由については分からないようにした。
もし、そのデバイスのことを管理局が気づいた場合、メルクリウスに干渉してくるだろうが基本無視するのは目に見えている。
だが、メルクリウスは蓮と女神を利用するというのならその時は管理局という存在そのものを消滅させるだけだと思っていた。
話は元に戻り、今の段階でデバイスが覚醒しそうなのはベイこと、ヴィルヘルムとザミエルこと、エレオノーレ辺りである。
マキナこと、ミハエル・カインである櫻井戒・ヴァルキュリアであるベアトリス・シュライバー・ゾーネンキントであるテレジアの5人は、女神が目覚める頃に覚醒すれば問題はないとメルクリウスは思っている。
だが、レオンハルトである櫻井螢・ヴィルヘルム・エレオノーレの3人にはそろそろ覚醒してもらわなければならないとメルクリウスは思っていた。
「それにしても、プレシア・テスタロッサの玩具がラインハルトに接触していることには驚いたが、それ以上にラインハルトの力が覚醒するとはな。……やはり獣殿の因子を宿しているだけあるな。……ん?」
メルクリウスは蓮たちが向かっている所の他にもジュエルシードが発動しそうな所を見つけた。
そこには、ラインハルトとエレオノーレがデートをしている光景だった。それを見たメルクリウスは歳相応にデートをしている光景を見て微笑ましく思っていた。
「(『メルクリウス』の世界のザミエルも彼女を見習って欲しいものだね。80にもなってまだ心が処女とは呆れて物が言えない。まあ彼女の場合は『メルクリウス』の呪いと『14歳神』の寵愛を受けていたから仕方ないとも言えるがね。……しかし、ラインハルトは獣殿のように『女は駄菓子にすぎぬ』と言っていないようだからまだ可愛げがある)……だが、2人のデートはこれまでだ。これから起こる非日常においてザミエルが覚醒することを期待しているよ」
メルクリウスは蓮の歌劇を見る前に、ラインハルトたちの歌劇の序章を見ることに決めた。もしかしたら、エレオノーレのデバイスが覚醒するかもしれないからだ。
「では皆様。少々役不足であるとは思いますが、彼等の歌劇をどうかご観覧あれ。内容は恐らくありきたりではあるが……何よりも役者が良い。故におもしろくなると思うよ」
赤い髪の少女、エレオノーレ・ヴィッテンブルグは未だ嘗てない程の緊張感に襲われている。なぜこんなに緊張しているのかについては……
「『De○th No○e』おもしろそうだねエレオノーレちゃん」
「そ、そうだな(お、落ち着くんだ! こんなチャンスは中々ないんだ。無駄にするわけにはいかない!)」
エレオノーレとラインハルトがデートをしているからだ。
エレオノーレたちがデートをすることになった切っ掛けは、前日にフェンシングの練習が午前中で終わることを知ったベアトリスがエレオノーレにラインハルトと一緒に映画を見に行くように提案したからだ。
「(キルヒアイゼンに発破を掛けられたことが気に食わないが、馬鹿娘には私がデートを誘うことに協力してくれたから今日は練習を休んでもいいと言っておいた。……まあ飴と鞭というやつだ。今日位は色事に現を抜かしても許してやろう)」
エレオノーレは今頃、彼氏である櫻井戒と一緒にデートに行っているであろうベアトリスに内心で感謝しながら、ラインハルトとのデートに集中することにした。
今回エレオノーレたちが見る映画は週刊少年ジャ○プが連載していた人気マンガが実写化した映画だ。
内容は、夜○月という正義感のある青年がある日突然人の名前を書くことでその人を殺すことができる黒いノートを拾い、その後キラは極悪犯をデ○ノートで殺していくという物語だ。
全体的には心理戦が多く、特に探偵のエルとの心理戦がおもしろいとラインハルトが言っていたことをエレオノーレは思い出しており、デ○ノートの前編を昨日のフライデイ・シアターで放送されたのを見て面白いと思い、今日上映される内容に期待していた。
最初、エレオノーレは恋愛物の映画をラインハルトが選んでいるかと思っていた。
しかし、ラインハルトの嬉しそうな笑顔が見れただけで、エレオノーレは心臓の鼓動が早くなるのを感じていた。
そして、映画の上映時間になり、エレオノーレはラインハルトに右手を握られたことで顔を赤くしたが、部活や学校の時には見せることのない笑みを浮かべて一緒に1番スクリーンに向かって行った。
映画を見終わった後、エレオノーレとラインハルトは映画館の近くのレストランに向かって歩いていた。
「本当に良いのかラインハルト? 映画のチケット代や間食の代金だけでなく夕食の代金まで払ってくれて。夕食代は割り勘でいいんだぞ?」
「大丈夫だよエレオノーレちゃん。何時もお菓子を作ってくれるから、それのささやかなお返しだよ」
ラインハルトの笑顔とその言葉に私は顔が熱くなるのを感じた。そしてエレオノーレはラインハルトのことが好きなのだということを再認識していると、突然1つの違和感を感じた。
「ラインハルト。一つ聞きたいことがある」
「大丈夫。言わなくても分かるよ」
エレオノーレとラインハルトの感じた違和感の正体はディナーの時間で賑わっている筈の映画館周辺が突然誰1人として人がいなくなったことだ。
「エレオノーレちゃん気を付けて。中に何かがいる」
「どうやらそのようだな。……だが、入らないことには何も始まらない。行くぞ!」
エレオノーレたちは予約していたレストランの中に入ると、本来ならば人がたくさんいてパスタやピザなどのおいしい匂いがする筈のレストランには人が居らず、気味が悪い空気が溢れ出していた。
「この感じどこかで……っ! エレオノーレちゃん危ない!!」
突然ラインハルトは突然襲ってきた異形の攻撃から避ける為にエレオノーレを押し倒した。エレオノーレはラインハルトにどうしたんだと言おうとした瞬間、ラインハルトの頬に浅い切り傷ができているのを見つけた。
エレオノーレはラインハルトの傷に驚きながら元凶を探していると、そこにいたのは分厚い皮に覆われ、その下には甲羅があるライオンだった。
「あのライオンはもしかして『ネメアーの獅子』!? ギリシア神話でヘラクレスに殺された筈の化け物がどうしてここにいるんだ!!」
ラインハルトは目の前にいるネメアーの獅子に驚いていたが、エレオノーレにとってはそんなことはどうでもいいことだった。
『ラインハルトが傷ついた』ことによってエレオノーレの中の何かが切れるような音がした。
「貴様ぁ。貴様だけは絶対に許さんぞぉ!!」
次の瞬間、エレオノーレの胸にかけていたネックレスが光り、エレオノーレに向かって襲い掛かっていたネメアーの獅子はその光を目で見たことによって動きを止めた。
光が収まった瞬間、エレオノーレの服がラフな服装からドイツ軍の軍服のような物に変わっていた。
そしてエレオノーレの胸にかけてあったネックレスの正体と力の使い方についても理解した。
そしてエレオノーレは瞬時に魔法陣を発動し、砲撃をレストランに向かって放ち空を飛ぶと、ネメアーの獅子はエレオノーレを追って空に向かって翔けて行った。
エレオノーレは魔法の才能があるからか、形成段位を自在に発動させることが出来るが、あえてエレオノーレは活動段位で戦うことにした……というよりこの場所ではできないと言ったほうが正しかった。
エレオノーレの形成は第二次世界大戦のマジノ要塞攻略の時に作られた列車砲だ。と言っても出てくる弾は実弾ではなく魔法の弾だが、あまりにも巨大すぎて標的にされてしまうという欠点がある。
「ふん、貴様が私を追いかけてくることなど既にお見通しなのだよ」
次の瞬間、ネメアーの獅子の周りに魔法陣が展開され、炎熱の砲撃が放たれた。ネメアーの獅子は砲撃から逃れるが、無限に広がる爆心に避けられる筈もなく、炎に焼かれた。
頑丈な皮が焼け落ちながらもネメアーの獅子はジュエルシードの力を使い、瞬時に再生をする。
もっと強力な砲撃を放とうとエレオノーレが思った瞬間だった。突然、上から雷の槍がネメアーの獅子の方に放たれた。
ラインハルトを傷つけたネメアーの獅子を塵も残らず消滅させようとしたエレオノーレは狩りの邪魔をする者がいることを魔力で感知し右を向くと、そこには櫻井螢と同じ歳位の金髪の小娘フェイトが黒いマントを羽織ってネメアーの獅子の方に視線を向けていた。
「フェイト~! いきなりどうしたんだい? 急にバリアジャケットを展開して。すぐに結界を張ったから他の人にバレてないと思うけど……フェイトらしくないよ」
「……ごめんアルフ。でも、あの人の魔力を感じたから。でも、ここにはいないみたいだけど、ジュエルシードは見つけたよ」
ジュエルシードについて何も知らないエレオノーレは疑問に思ったが、今は目の前にいるメネアーの獅子を始末しなければならない事と目の前にいるフェイトと呼ばれる存在について聞くことが重要だと考えていた。
「おい小娘。貴様は何者だ?」
「小娘じゃありません。それより、今はジュエルシードを封印に協力してください」
フェイトに指示されることにエレオノーレは癪に思ったが、今は状況を考えて共闘したほうが得策だと思い、協力することに決めた。
「分かった。だが、あの劣等種を倒した後、貴様に聞きたいことがある。いいな?」
「分かりました」
そしてこれがエレオノーレにとって後に、ラインハルトの正妻の座を賭けて競い合う関係になるフェイト・テスタロッサとの出会いだった。