「やっぱりいいね! こうやって3人で登校するのは!」
「いやいや、去年もそうだったでしょうよぉ」
一樹と九海が、そんな風に会話しているのを明久はただボーっと見ていた。
一樹と九海。幼い頃から2人は一緒だったらしい。互いの家に泊まったり、一緒にプールに行ったりしていた。そう、この2人は―――――彼氏彼女の関係であった。
明久はそんな2人の関係性を、少し羨ましく思っていた。あの2人の周りは常にピンクのオーラが全開である。公私混同はあまりしないが、2人きりになったりすると、お互いべったりである。
「……彼女……かぁ」
そう明久が呟いたとき、急に突風が吹いてきた。
急な突風に明久は目を瞑る。そして、隣では九海が悲鳴を上げている。
刹那、急に一樹が「黒いな」と呟いた。
風が止んで、明久が目をあけた時、右に顔を真っ赤にした九海と数メートル吹っ飛んでいる一樹が目に写った。
「……まあ、なんとなく何があったのかは、察せるけどさぁ……それを言っちゃう辺り、一樹は流石だよね。ちなみに、今日は黒なんですね、九海さグッフォア!?」
腹を貫くような勢いで、九海の拳が飛んできた。
「アンタも、いちいち言う必要なんてないから! フンッ! 私、今日は先に行くから。そこで反省でもしてなさい!」
九海はそのまま大股で通学路を進んでいった。そこで、明久の意識は途絶えた。
「ち、遅刻だぁぁぁ!!!」
「まさか九海のパンチで30分もダウンしてたなんて……やばいよぉぉぉ!!」
九海のパンチをくらってから30分動けずにいた2人は、このロスを埋めるために猛スピードで通学路を走っていた。
それはまさに風とも呼べるスピードだった。今なら、大空を飛び回れるかもしれないと思うほどに速かった。
そして、そのまま校門までたどり着いた。そこには、生徒指導の鬼、鉄人こと西村宗一先生が立っていた。
「お前ら! 遅刻ギリグフォ!?」
2人は鉄人の存在に気づかずに鉄人にぶつかってしまった。あまりのスピードに鉄人も避けられなかったのだろう、真っ正面から2人のタックルをくらい、その場に倒れこんでしまった。
「に、西村先生……! お、おはようございます!」
「おおお、おはようございます、ミスター鉄人!」
「貴様ら……まあ、今回だけは許してやる。時間も危ういしな。こいつを受け取れ」
鉄人から茶色い封筒を渡された2人は、その封筒を雑に切った。
「あああ!!? 結果の用紙まで破いてしまったぁ! なんていう不幸なんだ!」
「……おいおい明久。別に大きく2枚に別れたところで、繋げれば読めるだろうが……」
「わ、わかってるよ! ギャグだよギャグ! ったく……」
弥島一樹 Aクラス
吉井明久 Aクラス
「お、Aクラスだ。よかったよかった」
「まあ、一樹に教えてもらえば、誰だってこの位まではこれるって!」
「いやいや、お前は飲み込みが他の人よりも数倍は早かったぞ。教えるのがここまで楽な奴は初めてだったよ」
「フッ、お前ら、良かったな。アイツも無事にAクラスだったぞ。さあ、早く行け。時間はもうあまり残されていないぞ」
「「はい!」」
2人は声を合わせ返事をし、昇降口までダッシュした。
昇降口で上履きに履き替え、階段を上がると、目の前には馬鹿でかい教室が待っていた。
教室の入口は少し開いており、中から紅茶のいい香りが漂ってきている。
教室を覗くと、そこにはもう時すでにグループが1つ出来ていた。メンバーは多方女子のようだ。その中心には、九海がいた。
「ねえねえ九海ちゃん。いつも一緒にいるイケメン君はいないの??」
「え!? う、うん、ちょっと遅れてくるかなぁ……って、やっと来た」
九海がそう言うと、そのグループがすぐにこっちを向く。
「やあ、君たち! 君たちもAクラスの生徒だよね? ボクの名前は工藤愛子だよ! 気軽に愛子って呼んでくれても構わないよ~。ちなみにスリーサ……イズは言うとそこにいる人に怒られちゃうから言えないや、ごめんね! ちなみに、得意な科目は保健体育だよ。どっちかって言うと、実技……かな?フフフッ、よろしくね!」
緑髪のボーイッシュな女子生徒、工藤愛子。1年の終わりの頃に転校してきた子である。頭はかなり良いのだが、男子をからかうのが大好きで、今の自己紹介のようなことを平気で言ってくる危険人物である。
それが本気なのか遊びなのかわからないので、反応しづらい。ただ、彼女に告白をした男子は皆玉砕しているので、遊びではないかという説が強い。
「次は私ね。木下優子よ。Fクラスに愚弟が1人いるわ。その愚亭とは一卵性双生児だから、見た目や体型、さらに声質までそっくりだから、間違えないでね。さっき自己紹介した愛子の友人よ。ちょっと変な子だけど、悪い子じゃないから、仲良くしてあげてね?」
「むぅ……変な子じゃないよ~。ボクは至って普通だよ~」
木下優子。この文月学園の優等生であり、先生からの信頼も厚い。明久の友人の木下秀吉の姉であるが、なぜか男の秀吉の方が男性にモテる。
なかなかの絶壁の持ち主である。決して悪い意味ではない。絶壁は希少価値だ。
「木下さんに工藤さん、初めまして。僕は吉井明久といいます。趣味はゲームに漫画に料理くらいかな」
「んじゃ、僕も自己紹介しとくね。僕の名前は弥島一樹。勉強が少し得意で、結構多趣味だよ。基本的にどんな話でもついて行けるかな。これから1年、よろしくね!」
前の女子2人に自己紹介を終えた時、明久は悪寒を背中に感じた。
「よ、吉井くん!?」
「あ、く、久保くん……」
久保利光。頭脳明晰で学年3位の実力を持つ、美青年。……なのだが、何故か明久が好き。性的な意味で。去年も何度か明久は久保に襲われていたが、なんとか被害は受けていない。
しかし、今回は同じクラスだ。存分に注意する必要がある。
「吉井くん……僕に会う為に毎日毎日勉強を頑張って、その結果、無事にAクラスに来れたみたいだね!! 僕は嬉しいよ! 君みたいに一生懸命頑張る人は、大好きだよ!」
「う、うん、そうだね、アハハハ……」
「(これは……大変そうだなぁ)」
そんな明久の姿を見て、一樹は心で手を合わせた。
そこから、なんやかんやあり、Aクラスの担任兼学年主任の高橋洋子先生がやって来て、クラス全体の自己紹介が始まった。
「~~です。これから1年よろしくお願いします」
明久の前の生徒の、簡単な自己紹介が終わり、明久の番になった。
「皆さん、初めまして! 僕の名前は吉井明久です。僕のことは、気軽にダーリンと呼んでください!」
「…………」
明久の渾身のギャグは、おもいっきりスルーされた。明久は顔を赤らめながら、そのまま早口で自己紹介を済ませた。
「~~です。よろしく」
自己紹介は50人も生徒がいると、それなりに時間がかかる。明久はだんだん眠くなってきてしまった。しかし、ここは我慢だと目を大きく開き、起き続けた。
「わ、私は平沢千里、です! しゅ、趣味はが、楽器を演奏することや、歌を歌ったりすることが好きです! よ、よろしくお願いします!」
クラス中に独特な女子の声が響き渡った。とても可愛らしい声だ。
平沢千里。去年の文化祭で、バンド発表をしていた。部活は軽音部と演劇部を両立しており、勉強も得意。身長は、女子の中ではなかなか大きい方であり、胸もなかなかの大きさを誇っている。
噂では、絶対音感を持っているらしい。
「……あの子、可愛いなぁ……」
明久はボソッと呟いた。
千里が座り、その後ろにいる金髪の男が元気よく立ち上がった。
「オレの名前は坂元光貴だぜ! 趣味はゲームに二次の女の子を愛でることさ! 1つ忠告しておくがぁ? オレの専門は二次元であり、三次元の女子なんかにゃあ興味なんて微塵もねえからな! そこだけは覚えておいてくれ! アッハッハッハッハ!」
坂元光貴。アニメ研究部の副部長であり、男子学年5位という学力を持つ。本人の言葉通り、三次元にはとことん興味がなく、二次元の女子の話になると、3時間は止まらない。同士を探しているが、なかなか出会うことができずに困っているようだ……が、あの様子を見ると、悩んでいるとは到底思えない。
ちなみに、金髪は自毛である。
「あいつ、面白いやつだな。後で話しかけにいこうぜ、明久!」
近くの席の一樹がそう言ってくる。が、明久はそれを断った。アニメはそこまで見ていないため、話についていけそうにないという事を察したからである。
その隣りの生徒が立ち上がった。
「僕の名前は、那珂稜雅です。趣味はゲームとか、色々ありますが、あげていったらキリがないので、やめときます。得意な科目は数学と化学です。よろしくお願いします」
那珂稜雅。部活には所属していないが、それは勉強をするためで、男子学年4位である。ただ、飽きっぽいところが有り、ゲームをいじると、少し長引いてしまうらしい。
他人との会話はあまり得意ではないらしい。今の自己紹介の時もずっと俯いていたので、本当の可能性が非常に高い。
その後、数十人の自己紹介が終わり、最後に学年主席の女子……霧島翔子の自己紹介が始まった。
「……霧島翔子。趣味は読書。特技は完全記憶能力と速読。これから1年、よろしくお願いします」
「へえ! 完全記憶能力か! アンタ、おもしれえ能力持ってんじゃねえか! どうだ、うちのアニメ研究部に入らねえか!?」
「……ごめんなさい」
「ですよねー」
光貴の誘いを一刀両断した翔子は、そのまま席に戻っていった。
「物静かな人だなぁ。日本人形みたいに美しいし……。でも、僕には高嶺の花だなぁ……」
明久はまたボソッと呟いた。
そして、そのままHRは終了し、解散となった。
Aクラスのある廊下を真っ直ぐに進んだ先にある物置のような教室……Fクラス。そこの教卓で1人の男があぐらをかいていた。
「……やっぱアイツはAクラスに行ったか……」
坂本雄二。明久の悪友であり、明久との交流が長い1人である。身長は180を軽く超えるほどの巨体で、筋肉量もなかなかのものだ。
しかし、これは、中学時代の頃の名残である。当時雄二は、悪鬼羅刹と呼ばれ、近隣の中学を怯えさせていた。今は勉強に少しだけ励んでいるようだが、それでも中学の頃に全く勉強をしていなかったのが、痛手であり、なかなか点数を上げることができない残念な生徒の1人でもある。
そんな彼の周りには数名の生徒が集まっていた。
「まあ、そうじゃろうな。あやつは勉強をする! ゲームをする! など、1度決めたことはなかなかやめないからのう」
木下秀吉。Aクラスにいる木下優子の弟であり、演劇部の若きホープである。得意な科目は古典。特技は声帯模写であり、どんな声でも1度聞けば覚えてその声を出すことができる。
一卵性双生児の為、見た目が完全に女子だが、れっきとした男であり、制服も男物の服をしっかりと支給されている。
「そりゃあ、アイツは真面目にやればどんな難問でもすらすら解けちゃいそうだもんね。まじでそこだけは尊敬するわ」
島田美波。帰国子女であり、ドイツ語がペラペラ。だが、その為、日本語がかなり不自由であり、入学当時は色々大変だった。得意な科目は数学。
誰もが認める、絶壁であり、本人のコンプレックスでもある。なので、あまりいじるとかなり危険な目にあう可能性があるため、程々にしておいた方が身のためである。
「……アイツは凄い」
土屋康太、別名『ムッツリーニ』。カメラで写真を撮るのが趣味である。が、そのほとんどは女子に向けられている。得意な科目は保健体育であり、保健体育だけなら、学年1位である。ただし、他の科目は絶望的である。
学校のどこかで、秘密のムッツリ商会というものを自分で開いており、そこで資金を集めている。
「吉井くんは、凄いですよねぇ、料理も美味しいですし! 一体どんな化学薬品を使っているのでしょう!? とても気になります!」
姫路瑞希。学年次席なのだが、試験当日に熱を出してしまし、無得点退出扱いとなり、強制的にFクラスに落ちてしまった。Fクラスの切り札。胸がとても大きく、島田がいつもそれを見て唇を噛んでいる。
頭はいいのだが、料理のセンスは破壊的であり、その破壊的な料理は、本当に人を破壊する力を持っている。王水を料理に使用するなど、常人では理解が出来ないような事をやってのける。
4人が口を揃えて明久を褒めている。それほど明久は皆に尊敬されているのだ。
「うむ、俺もあいつがすごいというのは重々承知している。Aクラスに行くことはほぼわかっていた。だが、やはりあいつだけがいい空間でノホホーンとしているのは、とても腹が立つ。という訳で、俺はAクラスに試験召喚戦争を申込もうと思う!」
雄二がそう言うと、4人の目が一瞬で変わった。皆、真剣な眼差しである。
「おーい、そこの3人。お前と、お前と、あとお前だ。ちょっと来い」
雄二はそう言って3人の生徒を呼んだ。
「なんですか、代表さんや」
塚原涼炳。Fクラスに在籍している、見た目がヤンキーに近い生徒である。
「塚原。お前は確か、物理が得意だったよな?」
「ん、まあ得意っちゃ得意だが……Aクラスに敵うとは思わないな」
得意な科目は物理。学年19位である。
「敵わなくても良い。ただ、その道中で力を借りるかもしれん。そこはよろしく頼む」
涼炳はへいへいと言いながら自分の席へ戻っていった。
「そして、石神。お前は現代国語と化学が得意だったな?」
「ん~まあ、得意な科目といえばそれだね~。Aクラスでも、この2科目なら良い線いくと思うよ~?」
石神楓。男のような女であり、基本的に語尾を伸ばす喋り方をする。お菓子が好きで、基本的に何かしら隠し持っている。得意な科目は現代国語に化学。学年8位と11位である。
「そうだな、期待してるぞ。そして最後だが、平沢」
「はい、なんでしょう?」
「お前は数学と生物が得意で、姉がAクラスにいるんだよな?」
「ええ、そうですね」
平沢星奈。Aクラスにいる平沢千里の妹であり、姉を姉さまと呼んで慕っている。数学と生物はAクラス上位レベルである。趣味は読書。
ただし、腐っている。その為、読む本も基本的にそっちの方である。それを隠さずにオープンしているのがすごい。とてもメンタルが強いのか、自分の趣味は自分の趣味と決めているのかは知らないが、とにかくすごい。
「偵察、頼めるか?」
「了承できません。その行為はAクラスにいる姉さまに被害が被ります。なので、そういう行動はできません」
「……やっぱりな。わかった、たが、戦争をした時は手を抜いたりはしないでくれよ?」
「……わかりました」
2人も自分の席に戻っていった。そして、雄二は興奮気味になりながら、こう言った。
「ここまで戦力が揃っているんだ! Aクラスにだって勝てるかもしれないじゃないか! みんなで力を合わせて、Aクラスを打ち破ろうじゃないか!」
「うむ、それはそれで目標が生まれる。皆より一層勉学に励むであろうな!」
秀吉もその意見に賛成を示し、それを見た全生徒が活気に満ちた声を上げた。
「よし、早速だが、手始めにDクラスを攻める! お前ら! 補充テストを受けたら、すぐに出撃する! 準備が出来次第、教室に集合だぁぁぁぁ!!」
雄叫びがFクラスに響いた。
戦いの火蓋は今、落とされた。
to be continued...
時間がないので、キャラ設定等は次回に回したいと思います。
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