偵察小隊隊長車のM4E2A4の車長であるクロエは、混乱していた。
例年道理ならこの偵察小隊四両だけでも全滅させることができた相手にあろうことか苦戦を強いられている。
そりゃあ今年から車両数が増えたということは周知のことだ、だがここまで出来るようになっているとは思わなかった。
「ちょと、援軍は?本隊はまだなの...うわ!?」
無線機に叫んでいると、近くに砲弾が落ちその爆発の衝撃で車体が大きく揺れる。
『クロエー、なんか本隊さぁ足止め喰らってて遅れてるってー』
M4A1の車長からそう通信が入る。
「何両に?それならここにいるやつらの数が大方予測できる!」
『えっと...四式軽戦車に....うっわ珍し、T-29各一両ずつだってさ。計二両』
「はぁ?冗談でしょ!?」
思わず声を荒げる。
「なんであんなド素人集団にうちの精鋭たちがやられてるわけ!?」
『いや、四式はちっこくて速いしT-29にかぎっては履帯時でも結構はや....え、隊長車履帯破損にシャーマン一両撃破!?』
なんということだ、私達の...私達の精鋭部隊が精々一週間前に創られた寄せ集めの集団にやられている。
「あぁもう!応援に行きたくてもあの向こうからの砲撃が邪魔で行けないし!どうすりゃいいのよぉお!!」
そう叫んだ瞬間、砲撃音が聞こえた。それも二つ。
あの私達を足止めしていた砲の音と、それに一瞬遅れ、我が親友カミラが指揮する部隊最速韋駄天野郎の40口径75mm戦車砲M6の音が。
『白山学園ビショップ自走砲、行動不能!』
クロエには神の言葉にも思えるアナウンスだった。
「本隊を囮にこいつを丘に先行させたのね!さっすが隊長!」
隊長はきっと足止めをされることを予測して、あらかじめこいつを先行させていたのだろう。
「よし!この機を逃すほかないわ!奴等をはさみうt……」
そう言いかけた瞬間、右側から砲撃音が鳴り響いた。
着弾音がする、見ると右側にいたM4の転輪が破壊されていた。
『右に敵戦車!』
「突撃砲か?撃て!撃ち返せ!」
『駄目です、どこにいるかわかりません!』
「じゃあ茂みに向かって機銃掃射!音でわかるでしょ.......いた!」
敵の突撃砲とおぼしき物が茂みから出てきた。三式砲戦車だ。
「突撃してくるつもり?馬鹿ねぇそのまま大人しくしていれば助かったかもしれないのに....撃ちなさい」
そう右側のM4に指示する、そのM4の砲塔が三式砲戦車に旋回を始めると同時に、三式砲戦車は私達を無視するように方向を変え、側面を通り過ぎていった。
「なんなの...?無視して......え!?」
その三式砲戦車を罵倒しようとした瞬間、クロエ車のM4に砲弾が命中する。だが運よく弾きかえしたようだ。
「くそっ、キューポラからじゃあ状況が把握しずらい!!」
そう怒鳴ってハッチを開けて上半身を外に出す。狭苦しい車内とは違い開放的だ。
そして正面からは五式中戦車を先頭とした敵部隊が此方に迫ってき、私達の間をそのまま通りすぎた。
「.......なっ!彼奴は.....!!」
その時にクロエは、中学時代の戦車道の試合で辛酸を舐めさせられた奴の顔を見た。
あの時と全く同じ不気味な笑顔、まるで闘いに快楽を得る狂人のような笑顔を....。
そしてその口は何かを私に問ていた
「主砲はー、正面M4のキャタピラ狙ってー、機銃は砲塔の防盾狙ってー」
「なんで砲塔ねらうのー?蛍ちゃーん」
車長である菊池蛍が指示をすると、副操縦手がなぜ防楯を狙うのかといったふうに聞き返してきた。
「えっとねー、装甲を貫通できなくても防盾を狙うことで照準を逸らす?ことができるんだってー。ですよね会長ー」
『うーん、戦車の照準器は砲身近くにあるからねぇ。近くに弾が連続して当たりゃぁびびるっしょー?』
「そーゆことー…うぉっとぉ」
M4の放った砲弾が近くに着弾し、車体が揺れる。今現在相対している敵の数は五両、こちらは二両だ。
「よぉっしあの二両の正面装甲を零距離で抜くよー、突撃ぃー」
その合図と同時に、T-29の500馬力M17M V型12気筒4ストローク液冷ガソリンエンジンが唸りをあげ、車体が前進しそのスピードを徐々に上げていく。
「機銃、撃てぇ」
車体正面の7.62mm機銃DT二門が火を吹く。その弾丸にはM4の装甲に傷を着ける程度の力しかないが、照準をぶらすのには十分役に立っていた。正面から向かっているT-29に向けて発射したつもりが、相手の直ぐ脇を通り抜けて地面に落ちる。
「停車っ」
T-29がM4と衝突寸前でとまる。他のM4は履帯が切られ、満足に動けずに射撃が行えない、しかもT-29の正面にいるM4が邪魔をしている。それにもう一両のシャーマンは四式が邪魔をしていた。
「って!」
そう合図すると、短砲身76.2mm砲が火を吹く。
ガンッと鈍い音が響いたかと思うと、そのM4から白旗があがる。
「おっしゃー、次いこ次ー」
「どれ狙うー?」
「会長が邪魔してるやつー、他のに狙われないように正面っかわいくよー」
会長達の操る四式が邪魔をしているM4の正面に素早く移動する。砲は機銃等で挑発をしている四式の方に向いていた。
「よーし二両目ー、ってー」
合図の一瞬後、砲が火を吹いてその砲口から砲弾が飛び出しM4の砲塔正面装甲を撃ち破....らなかった。
正確には貫通できずに、跳ね返った。そしてその数秒後には跳ね返った砲弾が後方に落ち、そのM4の砲口がこちらを向いていた。
「あれぇ.....?」
蛍がその間の抜けた感じの疑問符を口にすると同時に、周囲に爆発音と煙が充満する。車体が大きく揺れて、後方に吹っ飛ぶ。
10m程地面を滑って停止し、暫くするとシュパッという白旗が飛び出した音がした。
『白山学園T-29、行動不能!!』
アナウンスがなり響いた。
「......なぁにあのM4ー、堅くないー?」
「防盾も厚く見えますね、どうします?」
大河の言うとおり、砲塔正面が異常に分厚い。
「三十六計逃げるにしかず、峰山くんら本隊と合流するよー」
「了解!」
四式軽戦車の車体が揺れる。そしてそのままM4達の間をくぐり抜け、森へと消えていった。
「わー、派手にやられたわねー...」
三次学園隊長のアガサは散々に千切られたM4の履帯を眺めてそう呟いた。
クロエらの斥候に索敵、及び足止めをさせそちらに気をとられている間に本隊が裏に回り込み、挟み撃ちにする作戦だった。
だが、先程撃破したTー29と逃走した四式軽戦車のお陰で足止めを喰らった挙げ句、一両のM4が撃破されそれ以外のM4も隊長車のジャンボ以外はすべて履帯が切断ないし転輪破壊という大損害をうけていた。
「応急処置急いで!クロエやカミラが足止めしているだろうけど、向こうの数は六両はいる。多分そう長くは持たないわ」
クロエ達は過去の試合内容から油断していたせいか、野原の中心で敵の猛攻を受けるという状態だったが、先程厄介な自走砲を撃破したという情報が入った。
しかし相手にはまだこちらの正面装甲を貫通可能な車両が何両もいたはずだ。
「クロエは油断しやすいから.....自走砲が撃破出来たからって突っ込んでないといいけど...大丈夫かしら」
「スナイパー、撃て!」
無線機に向かって叫ぶ、するとM4共の側面にある茂みから75mm砲弾が飛び出した。
その砲弾は私達から見て一番左にいたM4の転輪を打ち砕きその動きを止める。
「よし、そのまま前進して奴等の後方に迎え、我らも後を追う」
『り、了解であります!』
三式砲戦車が敵の側面を抜けていく。
其れを確認したのち、私はハッチを開けて上半身を外に乗り出させる。
「キャバルリ、イエガーの順で我の後に続け!敵を突破する!」
『了解!』
『承知した』
各車から了解の返答が届く。
それを聞いたのち車内無線に切り替え指示を出す。
「昌子、全速力でぶっ飛ばすぞ」
『え、あ、はい!』
昌子は戸惑いつつもエンジンの出力を上げる。
「栄、京は何時でも撃てるようにしといてくれ」
『了解、なんか性格変わってるけど気にしないでおくよ』
『此方も了解、志津って二重人格だったのか?』
二人とも私の態度が急変したことに疑問を抱きつつも素直に従う。
「皐、昔のようにやるぞ」
『了解、久し振りだね!』
皐は嬉々とした感じで了解し、砲弾を装填した。
皐は昔、中学で戦車道をしていた時に同じ車両に乗っていた。久しぶりに一緒に闘えて嬉しいのだろう。
私も久しぶりに一緒に闘えることに興奮している。そのせいで口の端がつり上がり、中学時代に狂人と呼ばれたような笑顔になってしまう。私だってこんな顔はしたくないが、仕方ないのだ、闘いで興奮するとこのような顔になってしまう。ただの悪い癖だ。
だが、この顔になり性格が急変することで仲間の士気があがり雄叫びを上げた。その雄叫びに敵が恐怖したのも事実だ。だからこれも悪くない。今回も狂人の名を引っ提げて戦場を駆け回ろう。
「此より正面の敵を突破するぞ、準備はいいかぁ!!」
周囲の二両と自分の乗員に無線で叫ぶ。
『『『おぉ!!』』』
全車両から雄叫びがあがる。
「よし....行くぞぉ!」
その合図と共にコマンディング·オフィサーの五式中戦車の550馬力ガソリンエンジンが唸りをあげ、転輪が回転し何枚も連結した轍の草鞋を回転させる。木々を避け、薙ぎ倒しながら林の外へ勢いよく飛び出す。
それに続きキャバルリ、クロムウェルが600馬力ロールスロイスミーティアエンジンをフル回転させ追従する。そしてその後方を守るように、イエガー、四号突撃砲が300馬力マイバッハHL120TRM12気筒ガソリンエンジンを唸らせフラッグ車に続く。
「さぁ....どう駆けようか」
そう私は敵の間を通り抜ける際に、砲塔から身を乗り出していた敵のM4E2A4の車長に問かけた。
約2ヶ月ぶりの更新です。しかも文が荒いです。
投稿が遅れた理由はWoTが楽しすぎたからです。言い訳はそれだけです!
後半は変なテンションで書きました。