我が筋肉に喝采を!   作:壟断

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※微グロ表現有りにつきご注意を


第01話 異変・襲撃・絶望……やっぱり、筋肉!

 その日、僕の村はこれまでにない蒸し暑い朝を迎えた。

 いつもは裏庭で飼っている鶏の挨拶に起こされるはずなのにこの日は自分の力で起きることになった。

 朝起きたら飼育している家畜の様子を見に行くのが僕の仕事のひとつだったので、珍しく静かな朝を提供してくれた鶏の様子を見てみた。

 するとどういうわけか鶏たちは元気がなさそうに俯いていた。

 この蒸し暑さのせいで体調を悪くしてしまったのかもしれない。

 そう思った僕は、いつもより多めに水を上げようと甕をもって水汲み場へ向かおうとしたところで家の中に父さんたちがいないのに気づいた。

 家の中には、この暑さで不快さを表情に出しながらも眠り続ける下の弟妹たちだけしかいない。

 

「母さんもいない?」

 

 父さんや兄さんは何かの理由で早起きして畑の仕事か狩りの準備でもしているかもしれないけど、母さんは朝ごはんの準備をしているはずなのにおかしいと思った。

 そして、水汲み用の甕を持ったまま外に出た僕は、すぐに両親たちを見つけることができた。

 父さんたちは、村の大人たちと広場に集まって東の山を眺めている様子だった。

 

「……兄さん、どうかしたの?」

 

 父さんは村長や村の大人たちと難しそうな話をしていたので、ほかの家のお兄さんたちと呆けたように山を見続けている兄に声をかけた。

 

「ああ、クルスか。どうしたかってお前……」

 

 僕の問いかけに呆けた表情のまま兄さんは、見上げる山を指さした。

 

「見たまんまだよ……」

 

 兄の指さす方向へ僕は視線を向ける。

 蒸し暑い朝を与える朝の光だと思っていた熱は、太陽のそれではないということをようやく理解した。

 

「……何、アレ?」

 

「何って、そりゃあ……見たまんまだろうよ」

 

 見たこともない光景に唖然とする僕に同じような表情をした兄が先ほどと同じ答えを口にする。

 僕がそれを朝の太陽の光だと勘違いしていたのも仕方がないことだったと思う。

 何しろ兄さんたちが眺めていた東の山の頂上付近に太陽のようなものが乗っかっていたのだから。

 その太陽のようなモノの向こう側に本物の朝日が見えなければ、きっと本当に太陽が落っこちてしまったのだと思ったかもしれない。

 

 爛々と燃え盛る炎の塊は、東の山の半分くらいを塗り潰しているのにそれ以上炎が燃え広がるような様子はない。

 目を凝らすと炎の奥に巨大な建造物があるように見える。

 

 一晩のうちに現れた太陽擬きの存在に村の大人たちは、どう対処したものか、王都に報告すべきだ、火の神が降臨されたのだ、などなど。

 話し合いを続けているが村全体の方針が決まるのはもう少しかかりそうだ。

 その間にも他の村人たちも集まってきてちょっとしたお祭り騒ぎになり始めている。

 蒸し暑さは不快に思うけど多少寝苦しい程度だし、喉がからからになるということもないけどこれがずっと続くのはあまり気持ちが良いものじゃない。

 

 しかし、非常識な朝は、その騒ぎを引き裂く悲鳴で急展開を迎える。

 

「ビ、ビーストマンだ!」

 

 村のはずれにある物見小屋から大きな声と鐘の音が村に響いた瞬間、喧騒は叫喚へ変わる。

 

「に、逃げるぞ!」

 

 村長と話していた父さんの大声にすぐさま大人たちは、自分の家族の元へ駆け出した。

 僕も父さんたちに手を引かれて家の方へ走った。

 

「いいか、ペリエ。お前は、ククルたちを迎えに行ったらそのまま東の山へ行け。ハンスは俺と一緒に来い!」

 

 家のすぐ前まで来たところで父さんは僕の手を母さんに預けて別の方向へ走り出した。

 その方角は、村の共用物である狩猟用以外の武器が保管された隠し小屋がある方向だった。

 ビーストマンから逃げたとしても逃げた先に危険がないとも限らないし、ビーストマンに追いつかれるかもしれない。

 だから武器は必要だと僕も思う。

 

「わかったわ。貴方たちもすぐに来てね!」

 

「分かっている! 行くぞ、ハンス!」

 

「ちょ、オヤジ! 速過ぎ!」

 

 父さんの言葉に母さんは迷うことなく頷き、兄さんももたつきながらも父さんと一緒に走っていった。

 父さんたちと別れてすぐに飛び込んだ家の中には、警告の鐘の音で起こされたばかりの様子の妹が目を擦りながら朝食が届かない食卓に座っていた。

 その呑気な様子の妹の姿に母さんは少し安堵したようなため息を吐くとこれまで見たこともないような鋭い視線になって僕を見た。

 

「クルスは、ククルと一緒に二日分の食料をまとめて。お母さんは、ランスを連れてくるから」

 

 鋭い視線に合わせるような強めの口調で言いつけた母さんはすぐに末弟が眠る寝室に向かう。

 僕は、慌ただしく動く状況に戸惑いながらも寝ぼけ気味の妹を連れて食糧庫に向かった。

 

「ねぇ、くるすぅ? どこかおでかけするの?」

 

「そうだよ。これから皆で東の山にピクニックだ。だからみんなの分もご飯を持っていくんだよ?」

 

 外から聞こえてくる怒号と破壊音、耳を劈く悲鳴が続く中でも今だ寝ぼけている肝の据わった妹を急かすように食料を詰めた袋のひとつを手渡す。

 二日分の食料と言われたけど、それだけで足りるかどうかわからない。

 逃げるのに邪魔にならないギリギリの量を持てるように食料を詰め込んだ大きめの袋を自分で担ぐ。

 それと同時に弟を抱えて母さんが戻ってきた。

 

「クルス! ククル! 準備はできた?」

 

「うん! 大丈夫だよ」

 

「良いわ。それじゃあ、急ぎましょう!」

 

 慌てた中にも冷静に外の音に耳を澄ませるように周囲を警戒しながら母さんは出口から外を確認する。

 その後ろから僕も扉の向こうを覗こうとしたところで母さんが静かに扉を閉めた。

 

「どうしたの、母さん?」

 

 僕は母の様子を伺うように下から母の顔を覗き込むとそこには、恐ろしく残酷な表情がった。

 先ほどの鋭い視線が可愛らしく見えるほどの眼光が閉じられた扉を睨み付けていた。

 

「か、母さん?」

 

「大丈夫、大丈夫だから」

 

 心配する僕の声に母さんは視線を僕から外して背負っていた弟を僕に預けてきた。

 

「……ど、どうしたの?」

 

「大丈夫、お父さんもお兄ちゃんも大丈夫だから、クルスはククルとランスと一緒に裏口から東の山へ逃げなさい」

 

「母さんは? 母さんも一緒に行くんでしょ?」

 

 僕の問いかけに母さんは顔を向けてくれない。

 

「母さんも大丈夫。お父さんたちを迎えに行ったらすぐに追いかけるから……行きなさい!」

 

 今まで聞いたこともない強い命令の言葉に僕は驚きながらもククルの手を引いて裏口に走った。

 食料が詰まった袋を捨てて代わりに弟を背負う。

 まだ小さいといっても二人分の命は確実に僕の肩に圧し掛かった。

 

 僕たちが裏口から飛び出すと同時に背後から家の壁を何かが突き破って転がってきた。

 それは真っ赤に染まった隣の家のヘンリーおじさんだった。

 家の壁を突き破ってきたせいか、右の手足が変な場所で折れ曲がっている。。

 僕はおじさんの顔を見てしまう前に止まっていた足を動かした。

 もしかしたらおじさんはまだ生きていたかもしれない。

 肩を貸せば歩けるぐらいの怪我だったかもしれない。

 それでも僕は、おじさんを助けに行けなかった。

 母さんたちに幼い兄弟の命を預けられているだとか、幼い兄弟たちに惨い状態を見せたくないだとか恰好付けたことは言わない。

 

 僕は、ただ怖かった。

 

 同世代の子たちより少しだけ物事を深く感じることができた。

 他人より少しだけ早く心が育った。

 その結果が僕に愛情と恐怖を秤にかけさせた。

 いまどのような状況になっているか理解できなくても予想はできた。

 ビーストマンの襲撃はこれまでもよく耳にしていた。

 彼らの襲われたら僕たちの村みたいな小さな集落は、すぐに食べ尽されてしまう。

 けれど、本当にすべての住人を彼らは食べてしまわない。

 そうすると次から同じ場所で獲物を狩ることができなくなってしまうからだ。

 そのために彼らは、たびたびこの国の集落を襲いながらも全面的に攻めてくることはなかった。

 この村の近く、歩いて1日ほどしたところに大きめの都市がある。

 だから国の部隊が迎撃に出てくることも考えて早めにビーストマンたちは、撤退するはずだ。

 

 僕は、そこまで考えて両親や兄さんが死ぬとわかって逃げている。

 

 ビーストマンたちが僕に追いつく前に撤退してくれることを祈って僕は走り続ける。

 理性よりも本能に重きを置く行動原理を持つビーストマンは、あの太陽擬きに近づくのを忌避するはず。

 父さんが東の山に逃げろと言ったのもそういった考えからだったはず。

 だから僕は逃げた。

 どんなに足が重くなっても、どんなに背負った幼い弟が泣いても、どんなに手を取る幼い妹が静かすぎても――。

 

「ククル?」

 

 僕は走りながら妹の名を呼ぶ。

 

「ククル? 疲れたかもしれないけど頑張って走って」

 

 僕の呼びかけに妹は応えない。

 僕が弟と妹を連れているのは、臆病から両親や村の人を見捨てたという負い目から少しでも目を背けるためだ。

 そんな打算が頭に浮かぶほど僕は臆病な卑怯者なんだ。

 だから、せめて弟と妹だけは一緒に助からないといけないんだ。

 例え、妹に何かあっても弟さえ一緒に助かれば――そこまで卑しい思考が進んだ時、僕は空を舞った。

 

「っ」

 

 何が起こったかよくわからなかった。

 いや、自分が何かに突き飛ばされたということだけは確かだと理解している。

 それでもわからなかった。

 僕が確かに握っていた妹の手は、たしかにそこにある。

 そこに妹の手はしっかりと握られているのに――。

 

「ぐぎっ」

 

 強い衝撃が全身を打つ。

 地面に叩き付けられたのだと理解するとふたたび訳の分からないことが起こっていた。

 

「ランス? ねぇ、ランスってば」

 

 先ほどまで背中で泣いていた弟の声が聞こえなくなっている。

 いまの衝撃で気を失ってしまったのかとも思ったけど、地面に横たわる僕の背に弟の小さな命の重みが感じられなかった。

 

「ランス? ククル? ねぇ、どこに――」

 

 一瞬前まで一緒に居たはずの妹と弟を探して軋む身体を動かして周囲に視線を動かすと頭上から覚えのある温かさが液体となって僕の身体を濡らした。

 

「ふむ、やはり赤子の肉は少量でも大人にはない甘みがありますね。実に美味です」

 

 温かい液体と一緒に降ってきた声は、聞き覚えのないモノだった。

 瞬く間に温度をなくす液体に合わせるように僕の心は冷えていく。

 僕を臆病な卑怯者にした心が、頭の中が、何が起きたのかを正確にイメージさせる。

 

 

 

 ぐじゅり、ぐじゅり、……ごくり――

 

 

 

 柔らかいモノや硬いモノを咀嚼して飲み込む音。

 それは、日常の食事風景を思い出させる自然な反復運動。

 そこで僕は悟る。

 

 僕は、人として死ぬのではなく、

 

 

「さて、前菜の次は、本命を頂くとしましょうか」

 

 

 僕は、食べ物として、消化されるだけなのだ――

 

 

 

 

 

 

 僕が最後に見たのは、ハイエナのような頭を持つビーストマンの幸福そうな表情と。

 手だけになったククルとランスだったかもしれない欠片が転がる真っ赤な地面だった。

 

 

 

 

 

 

  ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 すべてを失った――

 

 私が愛したすべてが奪われた――

 

 

 夫だったモノを掴み、息子だったモノを拾い、友達だったモノを見捨て、隣人だったモノを飛び越えて走った。

 燃え盛る山へ向かって走る私の視界には絶望しか映らない。

 村の中は、いつもの餌獲りにしてはありえない数のビーストマンが我が物顔で食事を続けている。

 村を出たところでもビーストマンたちが逃げる獲物を追いかけて喰らいついている。

 山の森に入ってもその惨状は変わらない。

 本能だけで狩りをする今までのビーストマンでは考えられないことにこの山に村人が逃げ込むのが分かっていたとでも言うように血の海が広がっていた。

 せめて、子供たちだけは、まだ幼い命だけは無事であってほしいと捨てたはずの神に祈りながら走る。

 

 常人を僅かに超える力を持っていた私は、村の男たちと協力すれば少しは時間が稼げたかもしれない。

 けれどビーストマンの身体能力は人間を凌駕して余りあるほど高い。

 私以外に元騎士や冒険者上がりの者が10人もいれば撤退戦くらいはできただろうけど、そんな人はいなかった。

 皆、戦いとは無縁の優しい人たちだった。

 その日の糧を与えてくれた自然に感謝し、隣人を尊び、友を敬い、家族を愛する人たちだった。

 それでも彼らを見捨てて、自分の大切な者だけでも助かれば良いと思った――。

 

 

 

「そんな私に対する罰なのですか……神よ」

 

 

 

 夫だったモノが地に落ち、息子だったモノが飛んでいく。

 私が硬く握りしめていたものは、一振りの短刀。

 

 

「おや? デザートの前に付け合わせがありましたか?」

 

 

 ハイエナを思わせる獣が流暢な人語で私を捉える。

 

 

「しかし、妙ですね? この距離に近づくまで接近に気づかなかったとは」

 

 

 鼻を鳴らしながらこちらをぼんやりと見るビーストマンに向けて短刀を振りかぶる。

 私の子供たち、だったモノをぶちまけたように――。

 

 

「貴様もぶち撒けなさい――」

 

 

 <能力向上> <流水加速> <隠遁縮地>

 

 

「これはっ!」

 

 醜い獣の顔にようやく警戒の色が混じったが、もう遅い。

 ただの村人しかいないと思っていたようだけれど、逃げ出したといっても私は戦士だった。

 乱戦でなければビーストマンの一匹くらい屠ることはできる。

 

 獣風情が人間を舐めないでちょうだい――。

 

 

「人間如きが、我らを超えられるわけがないだろう?」

 

 

 認識阻害の武技<隠遁縮地>は、気配察知系の武技を習得していないとよほどの戦力さがない限り、絶対に解けないはずなのに。

 慌てたハイエナ男の無防備な首への一撃は、まったく別方向からの声と拳によって防がれた。

 

 

「っづ!」

 

 

 必殺の一撃を砕かれ、ガードに使った左腕も使い物にならなくなった。

 唯一の勝機を逃した私は、死を覚悟しつつ再び刃を獣たちに向ける。

 

 

「油断し過ぎだ、クズが」

 

「いやはや、助かりましたよ、神狼(フェンリス)殿」

 

「その名で呼ぶな」

 

 ハイエナ男からフェンリスと呼ばれた狼男が私から復讐の機会を奪った存在だった。

 青み掛かった銀色の体毛に覆われた狼男は、ハイエナ男と違い、明らかな強者。

 身体能力の高さに慢心せず、自己を鍛え上げたのだろう。

 これまで見てきたビーストマンの中でも破格ともいえる闘気を感じる。

 

「何を恥ずかしがる必要があるのですか? 神狼(フェンリス)の名は、人間が崇める神を喰い殺した偉大なる獣神の血を最も強く受け継いだ者の証なのですよ!」

 

「俺は、俺だ。そんな昔話と一緒にされても迷惑なんだよ」

 

「相変わらずなようですね、神狼(フェンリス)殿は」

 

 一瞬前まで自分の命を奪いかけていた敵がいる前で緊張を解いて会話を続けるハイエナ男に怒りを増しつつも私は動けずにいた。

 奴らが言う神狼(フェンリス)とは、私たちの伝説にある邪悪狼(フローズヴィトニル)のことだ。

 六大神が人間を救済する際に討滅したビーストマンたちの神々の一柱。

 それは、私たちで言うところの神人だ。

 

 勝てない――が、そんな一瞬の思考もすぐに霧散する。

 

「おや? まだ反抗する気概があるとは驚きですね」

 

「たかが肉の分際で……ムカつく目だ」

 

 私の殺気に再び二匹の獣が牙を剥く。

 そうだ、私にはこいつらの強さがどうのと関係のないことだった。

 私はすべてを失った。

 もうこの世界に留まる意味なんて何もないじゃない。

 

 大きく息を吐き、また大きく息を吸う。

 この世界で最後の力を体内に込めた私は、仇であるハイエナ男を狙う。

 たとえ、この刃が届かなくとも私の、人間の苦しみを少しでも奴らに与えるために。

 

 <痛覚遮断> <能力超向上> <乾坤一擲> <縮地無窮>

 

 すでに最盛期をとうに過ぎている私の身体は、武技の負荷に悲鳴を上げる。

 けれどそんなものは関係ない。

 私は、この怒りと悲しみと絶望をぶつける先が欲しいだけ。

 死んだ家族を生き返らせることが可能だと私は知っているけれど、死者蘇生の負荷に子供たちは耐えられない。

 それならばあの子たちの魂にまた苦しみを与えるなんてことはできない。

 私自身も夫やハンスだけを生き返らせても耐えられない。

 きっと夫たちもそう思ってくれるはず。

 だから、私がそっちに行くわ。

 

「人間の絶望を知りなさい――」

 

 <閃光刃>

 

 視界に映らないほどの速度を生み出す<縮地無窮>と肉体限界を僅かに超えた高速の一撃を放つ<閃光刃>の組み合わせ。

 現役時代の私が先を顧みず身に着けた自分を破壊する武技。

 現役の漆黒聖典にも一太刀は与えることができるはずの命を賭けた一撃。

 

「遅すぎなんだよ、劣等種」

 

 わずかな焦りを見せているハイエナ男の前にやはり立ちふさがった邪悪狼(フローズヴィトニル)

 数瞬後に私は彼らの餌となるだろうが、もうどうでも良い。

 せめてもの救いは、家族みんなが再び会えるということかしら――。

 

 

 

 

「がひぇっ?」

 

 

 

 

 無様な声が漏れたのは、どこからだったかしら?

 崩壊を始めた私の身体が何かを貫いていることだけは分かる。

 体中の感覚はほとんど死んでいるみたいだけどね。

 

 

 

「けひっ。 真なる大神(フェンリス・ヴォルフ)が……なへ?」

 

 

 

 

 貫いた何かが倒れるのと一緒に私の身体も倒れかけたところに温かい何かがそれをとどめてくれた。

 

 

 

 

「おい、エンド。 お前のこと神さま(フェンリル)だとさ、嬉しいか?」

 

 

 温かい何かが軽薄さを滲ませながらも厳かな力を感じさせる声を発している。

 

 

「コノヨウナ雑種ヲ生ミ残スヨウナ種ト我ヲ一緒ニシナイデモライタイ」

 

「カカッ! それは悪かったな! だが、そのワンちゃんは殺すなよ? なかなか生きの良い筋肉をしているからな!」

 

 

 温かい何かの声に応える冷たさの中にも鈴の音のような美しさを感じさせる声が私の死にかけた思考に届く。

 もう何も見えない。

 何も感じない。

 

 

「よし、この場所で最後だ。一般人は通常の<死者蘇生>でもレベルダウンのペナルティ効果が極端に少なかったが、この女は完全に死ぬ前に<女神の祝福(ベネディクション)>を掛けた方が良さそうだ。頼んだぞ、ヴァニシング」

 

「んもぅ、ラグナ様ったらぁん。うら若き乙女をこき使い過ぎん」

 

「お前、男だから、というか雄だから? ……いや、例え女だったとしてもお前は漢だな」

 

 

 私は何も見えない。何も感じない。何も聞こえなかった。

 すべてがどうでもよくなるような声を忘却の彼方へ追い払うように私は意識を放棄することにした。

 

 

 

 

 

 

 きっとこの時、私の絶望は暑苦しい不快な何かに塗り潰されたのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 私が目覚めるとそこには――

 

 

「さあ、子供たち! 筋肉は鍛えるだけではない! まずは筋肉の下地を整えるのも筋肉美神(マッスルビューティーズ)への至るために必要なことなのだ!」

 

 

 燃えるような赤髪をした浅黒い肌の巨漢が、不愉快なほどに隆起した筋肉を微振動させてポージングを決めていた――全裸で。

 

 

「なっち、つよい! なっちのきんにく、すごい! あたし、きんにくになる!」

 

「僕もラグナ様のような筋肉美神《マッスルビューティー》になって、家族を守れる男に、いや、漢に……んん、筋肉になる!」

 

「うー、うあ、あーぅ(きんにく、もりもり、おいしいな)」

 

 

 あら私の絶望は終わっていなかったみたいだわ。

 私の天使たちが全裸の巨漢の前で「まっするばんざい」と書かれたお揃いの服を着て、「ぷろていん」と書かれた瓶に入った液体を一気飲みしているわ。

 

 

 そうね、私、死んじゃったのね。

 

 だから、私、殺しちゃっても良いわよね?

 

 

 目覚めたばかりの身体に鞭打って全裸に襲い掛かる。

 

 <能力超向上> <乾坤一擲> <縮地無窮>

 

 身体が悲鳴を上げるのも厭わない。

 私の愛する天使を汚染する筋肉に全霊の一撃をぶつける!

 

 <閃光刃>

 

 これが母の力よ!

 

「ぶち撒けろ、変態がああぁぁぁッ!」

 




やはり、私にシリアスは無理なんだ。
本来は、オリ主パートで書くはずの部分まで書いてしまった…。
筋肉を入れないで一話書き切ることができない!
許していただきたい!
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