(エイミィって確か海鳴に行ったときに……)
半歩先を先行するクロノを横目で見ながら、スバルは先ほど聞いた聞き覚えのある名前の持ち主を思い出していた。
(エイミィさんって確かフェイト隊長の義理のお姉さんで、六課の後見人のクロノ・ハラオウン提督の奥さん)
記憶の糸を手繰り寄せ、その人物と六課関係者との関係を思い出す。
(そう、さっきグリフィスさんのお母さんにクロノって呼ばれてた!! じゃあこの人がクロノ提督!?)
記憶の中の名前と、目の前の人物の名前がついにスバルの中で結びついた。
(提督ってなんだかすっごく偉い人だよね。 よく隊長達で話しているときにも名前が出てきてるし。 どうしよう、そんな人に道案内させたなんて、もしもティアに言ったら)
『提督に道案内させた! あんた何やってんのよ!! ほんっと信じらんない!!!』と自分を叱責する友人がスバルの脳内に浮かび上がった。
(うぅ、絶対怒られる。 隊舎に戻ってもだまっておこう)
「……? どうかしたかい?」
スバルが思っていることが漏れ出していたのか、先行していたクロノが振り向いてスバルにたずねた。
「いえ、あの。 提督に道案内させてしまっているという現実に今更恐縮してしまいまして」
「なんだそんなことか、提督なんていっても一人の人間さ、そんなに恐縮するようなことはないよ。 ましてや僕は今オフシフトだからね」
「でもその貴重な休みを私のために」
「これは僕が好きでやっていることだから、なおさら君が気に病むことじゃないさ」
クロノは少し困ったような顔をしてそう言った。
「ところで、僕は提督だと名乗ったかな?」
自分が名乗った覚えのない敬称でスバルが自分を呼んだことを不思議に思ったのだろう。
クロノがスバルにたずねた。
「クロノ・ハラオウン提督……ですよね。 六課の後見人の。 さっき名前を聞いてピンと来ました」
「そういうことか。 そういえばちゃんと自己紹介をしていなかったね。 次元航行部隊 戦艦クラウディア所属、クロノ・ハラオウンだ。 改めてよろしく、スバル・ナカジマ陸士」
「はい、よろしくお願いします」
クロノが改めて自己紹介すると二人は再び歩き出した。
「ところで六課でのなのはやフェイトはどうだ。 ちゃんとやれているか?」
「はい、訓練は結構厳しいですけど毎日充実しています。 なのはさんもフェイトさんもすごい人なので私ももっとがんばって少しでも追いつけるようになりたいと思ってます」
「そうか、君がそういうなら大丈夫そうなのかな?」
「何か気になることでもあるんですか?」
「いやなに、彼女達がもう大人でしっかりやれるというのはわかってはいるんだが、彼女達が子供の頃から10年近く見てきた自分としては、やっぱりいつまでも、どこか心配なのさ」
少し照れるように言うその顔は、妹を心配する兄そのものだった。
隊長たちはスバルから見れば完璧に見えて、誰かに心配をかけるようには見えない。
しかし、長年なのは達を見守ってきたこの人はいつまでたっても心配だと言う。
スバルにはそれが少し不思議に映ったが、同時に自分にも妹や弟がいたらこんな感じなのかなと思った。
「あ、今言ったことはフェイト達には、言わないでくれよ」
「え、何でですか?」
「本人に伝わると照れくさいじゃないか」
「隊長たちも喜ぶと思いますけど……」
「それでもだ」
その口調はぶっきらぼうだったが、明確な優しさを持っていた。
そんなクロノの姿を見たスバルは先ほどクロノが言っていた『提督といっても一人の人間』という言葉を思い出す。
自分よりずっと偉くて、すごい能力を持った人が『照れくさいから』という理由でスバルに対して口止めをする。
その現実がなんだか可笑しくて、嬉しかった。
「わかりました。 黙ってます」
表情には出てしまっていたかもしれないが、なるべく笑みを抑えながらスバルはそう答えた。