スバル初めてのおつかい   作:猫山知紀

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その8(スバル、アルフ)

「スバル、だったよね。 今日は何でクロノと一緒だったんだい?」

「あっ! そうだ。 無限書庫に案内してもらってる途中だったんだ。 どうしよう」

 

クロノとエイミィを見送った後で、クロノと一緒だった理由をアルフに問われ、スバルは自分が無限書庫に行く途中であったことを思い出した。

しかし、案内してくれるはずのクロノは先程の一件でいなくなってしまった。

案内されるがままに歩いてきたスバルは今自分が本局内のどこにいるのかがわかっていない。

これでアルフも場所を知らなければ、立派な迷子の出来上がりである。

 

「無限書庫?」

「うん。 この書類をユーノさんって言う人に届けるようにって部隊長が」

 

そういってスバルは抱えている封筒をアルフに見せた。

 

「なるほどね。 それで本局へ来たものの、無限書庫の場所がわからなくてクロノに案内してもらってたってとこかい」

 

スバルから詳細な状況説明はなかったが、今のスバルの様子からアルフが状況をズバリと当ててみせた。

 

「うん。 ところでアルフは無限書庫の場所を知ってたりは……」

「知ってるよ」

「ホントっ!?」

「っていうか、これから無限書庫に行くところだったからね。 いいよ、一緒に行こうか」

 

幸いにもアルフは場所を知っていた。

知っているどころか反応を見るに、本局の地理(内部)にも詳しそうだ。

渡りに船のアルフの提案にスバルは迷わず乗ることにした。

 

「アルフはいつもなのはさんの故郷に住んでるんだよね。今日はどうして本局に来たの?」

「エイミィがこっちで健康診断だったからその付き添いと、これから無限書庫に行ってユーノの様子見と手伝いにね」

「ユーノさんってアルフの知り合いなの?」

「私だけじゃないよ。 機動六課の隊長たちはみんな知ってるよ」

「そうなんだ。 なのはさんたちも知ってる人なんだ」

「知ってるっていうか、なのはが魔法と出会ったきっかけはユーノだからね。 プレシア・テスタロッサ事件って知ってる?」

「うん。 なのはさんとフェイトさんがジュエルシードっていうロストロギアを巡って戦ったって」

 

アルフに聞いた事件の名前からスバルは以前六課の隊舎で見せてもらった映像記録を思い出した。

10年前、わずか9歳でAAAランク、次元災害事件を止めたという話も噂では聞いていた。

しかし、聞いたのはあくまで噂であり、以前ティアナが『どんな9歳よ』と言っていたように、スバルもそれを半信半疑で受け取っていた。

でもそれは真実だった。

映像という生々しい記録を突きつけられ、半信半疑は確信に変わった。

そしてなのは、フェイトの凄さを改めて胸に刻みつけ、あの高みを目指して訓練をするようになっていた。

 

「そうそれ。 その事件の発端となったジュエルシードを発掘したのがユーノなんだよ。 だから、ユーノがいなければなのはは魔法なんて知らなかったし、きっとフェイトとも出会わなかった」

 

(発掘した人?ってことはそのときにはもう大人だったってことだよね。 その時なのはさんが9歳だからなのはさんより10歳ぐらい年上の人……かな? でも八神部隊長は気安くユーノ君って呼んでて、アルフもユーノって呼び捨てにしてて……あれっ?)

 

なんとなく自分が想像した年齢と周りの人間のユーノという人物に対する接し方が一致しない。

10年前の時点ですでに大人であったなら現在30歳前後だろう、もっと上でもおかしくない。

先ほど会ったクロノよりも年上になるはずだが、その割にはクロノにしてもアルフにしてもどこか気安さを感じる接し方である。

疑問に思うスバルだったが、なのはを魔法と出会わせた人物ということを聞いて、ふと自分の運命に間接的にではあるが多大な影響を与えた人物であることに思い至る。

 

「そっか、ユーノさんがきっかけでなのはさんは魔導師になったんだ。 じゃあ、ユーノさんってひょっとして私の命の恩人?」

「なんでだい?」

「私、昔空港火災に巻き込まれちゃって、そこで助けてくれたのがなのはさんだったの」

「あー、あの時の。 4年前だったっけかね、たしかフェイトも女の子を助けたって言ってたなぁ」

「それきっとギン姉のことだ」

「ギン姉?」

「ギンガ・ナカジマ。 私のお姉ちゃん」

「そっか、姉妹揃ってフェイトとなのはに助けられたのかい。 すごい偶然もあるもんだね」

「うん、だからユーノさんは私の命の恩人」

 

スバルの中ではユーノはすっかり命の恩人になってしまった。

 

スバルは魔導師のなのはに命を助けられた。

ユーノがいなければなのはは魔導師になっていなかった。

故に、ユーノはスバルの命の恩人である。

 

一足飛びな気がするが三段論法の完成である。

しかし、その論法がスバル以外の人の感覚に合うかは別問題だ。

 

「うーん、そんなこと言われてもユーノは困るだけって気がするねぇ」

「そうかなぁ」

「そうそう、そうやって遡っていったらスバルはユーノやなのはのご先祖全員にお礼を言わなきゃならなくなるぞ。 ユーノへのお礼なら心の中だけにしておきな」

 

アルフにそう言われ、スバルは心の中でユーノに感謝することにした。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

クロノ達と分かれて程なく、アルフが立ち止まったのは重厚な木製の扉の前だった。

本局の中は大抵自動で開くスライド式の扉であるため、その扉はひどく異質に見えた。

 

「ここが無限書庫だけど、スバルは空は飛べる?」

「えと、飛べないけど。 何かマズイ?」

「うんにゃ。 んじゃ最初は慣れないと思うけど、すぐ慣れるから」

「えっ? え? どういうこと?」

「まぁまぁ、入ればわかるって」

 

そういってアルフはスバルの後ろに回りこみ、スバルの背中を押し始めた。

 

「ちょ、ちょっと、なに?」

「ほらほら扉開けて」

 

アルフにぐいぐいと背中を押され、スバルは仕方なく扉を押し開ける。

そして、その扉の先に足を着こうとした瞬間に、あるはずのものがないことに気づく。

 

「うわ、落ち……」

 

床のないところに足をつき、そのまま落ちると思った瞬間にスバルの体は浮いていた。

 

「うわ、うわっ」

 

突如体感した慣れない感覚の中で、スバルは手をばたばたさせていた。

飛行魔法を経験していれば多少耐性はあっただろうが、いかんせんスバルは陸士である。

その経験もなく今の状態にパニックを起こさないのは至難であった。

 

「あっはっは。 どうだいここの無重力体験は」

「どうって、これ姿勢がっ」

 

スバルのばたつく様子を見ながらアルフが笑い声をあげる。

なんとかバランスをとろうともがくスバルであったが、姿勢が安定することはなく、入室したときについた勢いのままゆっくり回転している。

 

「うわっ、うわっ」

「ちょっと落ち着きなよスバル。 ほらここに掴まりな」

 

スバルの様子をみて一通り楽しんだアルフに手を捕まれ、スバルは手足を止めた。

そして、アルフが示した方に目を向けると、そこには確かに手すりのようなものがあった。

 

「あーびっくりした。 ひどいよアルフ」

「ごめんごめん、ちょっと驚かせてみたくなってさ。 それよりも、ようこそ無限書庫へ」

 

アルフからの歓迎の言葉を受け、パニックの最中には眼中になかった空間に改めて目を向けると、思わず感嘆の声が漏れた。

 

「これが……、無限書庫」

 

その空間はスバルが想像していたものとはまったく異なっていた。

ティアナが言っていたようにスバルも無限書庫の情報を使ったことはある。

しかし、ティアナ同様スバルも情報はデータベースから引き出しているだけだと思っていたし、書庫といわれても通常の図書館のようなものをイメージしていた。

頭で想像していた光景が、本物の無限書庫を前にして粉々に砕けていく。

 

その空間は円筒状の壁に囲まれていた。

その壁は無限書庫の名の通り、全て本棚になっており、その先は本当に無限へと続いているのか果てが見えなかった。

 

「そう、これが無限書庫。 管理局が誇る無限のデータベースさ」

 

無限書庫は最近まで半ば放置され、活用されているとは言いがたい状態にあった。

それが闇の書事件に端を発し、クロノをはじめとしてそこに眠る情報の有用性に気づく者たちが出はじめた。

そこから書庫全体の整備が始まり、年月を積み重ね、今では事件の事前調査など、情報収集にはなくてはならない存在である。

無限書庫から上がる情報のおかげで大規模な被害を事前に食い止めることができた事例も相当数挙がっている。

アルフは書庫の仕事を手伝っていると言っていたし、無限書庫の価値を高めた面々の一翼を担っていたのだろう、その様子はどこか誇らしげだった。

 

「さて、ユーノはいるかね? ちょっとまっててね」

 

アルフは手すりから離れ、ふわりと上の方へと上っていった。

そして一人の無限書庫の職員らしき人に話しかけ、一言二言言葉を交わすとスバルの方へ戻ってきた。

 

「うーん、ちょっと今は書庫内にいないみたいだね。 休憩してくるってふらふらしながら出て行ったって言ってたから、どっかその辺で休憩しているのかな? まったく、書庫の仮眠室を使えって言ってるのに」

「ふらふらって、大丈夫なの?」

 

奇異な擬態語の付いた言葉にスバルは心配の声をあげる。

 

「また徹夜でもしたんだろうね。 私もやめるように言ってるんだけど。 ユーノは休みよりも仕事を優先しちゃうんだよ」

「無限書庫ってそんなに忙しいの?」

「最近は書庫の整理も進んだし、人も増えて大分楽になったけど、たまに依頼が重なったりすると徹夜してるみたいだね」

「楽になったのに徹夜……」

 

楽になる前はどんなに激務だったのかとスバルは少し青ざめる。

 

「さて、ここにいないとなるとどうするかね。 休憩なら少し待てば戻ってくると思うけど」

「じゃあ、ここで待たせてもらう?」

「うーん、あたしはそれでもいいけど、スバルはその状態だと落ち着かないだろ。 おやつ時だし食堂でちょっと時間を潰してこようか」

「あ、食堂があるんだ。 アイス売ってるかな?」

「アイス? あったかな? まぁ行ってみればわかるか、んじゃ食堂に行くでいいね」

「うん」

 

クロノ、アルフに案内され、ようやくたどり着いた無限書庫であったが、ターゲットの不在によりすぐに離れることになった。

 

 

 

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