スバル初めてのおつかい   作:猫山知紀

9 / 14
その9(スバル、アルフ、ユーノ)

 

―――ピピピッ

 

アルフに案内されながら食堂へ向かっていると、アルフの通信機が鳴り始めた。

 

「あ、フェイトからだ。 スバル先行ってて。 そこを右に曲がればすぐだから」

「わかった。 待ってるね」

 

アルフの言葉に従って少し先の廊下を右に曲がると、確かに食堂が見えた。

本局は局員の数が多いため、食堂がいくつかあり、各々好きな場所で食事を摂ることができる。

その一つ一つが機動六課の食堂と比べかなり広かったが、今は勤務時間中であるためスバルが訪れた食堂も閑散としていた。

 

スバルは自動販売機で飲み物を購入すると、適当な席に腰を下ろした。

残念ながらアイスは売っていなかった。

 

アルフがいないこともあり喋り相手もなく、ぼーっと周りを見渡していると、少し離れた席で誰かがうつ伏せで眠っているのが目に付いた。

 

(寝てる。 サボり……かな。 でも私服だし、局員じゃなくてお客さん?)

 

現在は勤務時間中であるため、サボりかと思うスバルであったが、その人物の服装を見て考えを改める。

一般局員は基本的に局から支給される制服を身に着けている。

しかし、件の人物の服装は局員の制服ではなく若草色のワイシャツに緑のスラックスだったためスバルは局員ではないのだろうと判断した。

 

(でもお客さんがこんなところで寝るかな?)

 

はたして客として来た人間が図々しくもこんなに堂々と寝るだろうかと、スバルの中で謎が深まる。

閑散としているとはいえ食堂には購買や自販機が併設されており、小腹を空かせた職員がおやつを買いに訪れるため、勤務時間中に食堂にいる人間は人目につきやすい。

もし、ここで堂々と寝ている局員がいれば悪目立ちするし、頻繁に目撃されればサボっている人物として噂にもなるだろう。

 

(きれいな髪、女の人? でも服装は……)

 

その人の髪は長く、その長い髪をこれまた緑のリボンで一つにまとめていた。

顔が見えない今の印象で言えば女性なのだが、バンツスタイルのその服装はずいぶんと男性的でもある。

 

(女の人? 男の人?)

 

顔の見えない現状ではスバルには男女の区別がつかず、スバルの中でますます謎が深まる。

しばらくそうして観察していると、視界の端で女性の局員が入ってきたのが見えた。

 

その女性はスバルのいる食事用のテーブルや椅子が並んでいるエリアには入らず、壁際にある自動販売機へ向かうと飲み物を購入した。

そして食堂の出口へ向かおうとしたところで、寝ている人物に気が付いたようだった。

 

出口へ向かっていたはずの女性は踵を返し、再び自販機に向かうと2本目の飲み物を買った。

 

(なんだろう、他の人の分も頼まれてたのかな?)

 

他の人に頼まれていたのを思い出し、買い足したのかと思ったが、女性は出口へは向かわず寝ている人物の方へ行くと、そのそばに今買った飲み物を置いてほくほく顔で食堂を去っていった。

 

(知り合いだったのかな?)

 

その女性の行動の理由が良くわからず、スバルはそう結論付けた。

 

女性が食堂から出た後、少し経つと今度は別の女性が食堂にやってきた。

その女性は自動販売機へは向かわず食堂併設の購買へ向かった。

どうやら仕事中のおやつを買いに来たようだ。 時刻は午後3時過ぎ、おやつを食べるにはいい頃合である。

女性は購買でお菓子を2つ、3つ買うと食堂の出入り口へ足を向ける。

そして、先ほどの女性と同じように寝ている人物に気が付いたようだった。

 

女性は足を止め、寝ている人物の方を見ながらなにやら思案している様子である。

しばしそうしていると、女性は寝ている人物に近づいた。

 

(注意するのかな?)

 

女性が意を決した様子だったのでスバルはそう考えるが、その思惑ははずれ、女性は買ったお菓子のうちの一つを先ほど置かれた飲み物の近くに置いた。

そして、先ほどの女性と同じく少し嬉しそうな顔をして食堂を出て行くのだった。

 

(また、知り合いだったのかな?)

 

人の多い本局で、立て続けに来た二人と寝ている人物が知り合いである確率はいかほどであろうか。

 

―――スバルが食堂に来てから10分ほどが経った。

通信が長引いているのか、アルフはまだ戻ってこない。

 

その間に寝ている人物の周りのお菓子、飲み物は増え、最初の女性二人の分を含めお菓子が3つ、飲み物が2つになっていた。

10分で日本円換算で約500円。 時給にしておよそ3000円。 寝ているだけなのになかなかの稼ぎっぷりである。

それらを置いていったのは皆女性で、飲食物を置いて食堂を出て行くときには皆一様に少し嬉しそうな顔をしているのだった。

 

(なんだろう、本局では寝てる人に何かあげなきゃいけない決まりでもあるのかな? でも、何もしない人もいたし……)

 

その様子をずっと見ていたスバルの脳内では謎が謎をよんでいた。

そもそも差し入れをしなければならないルールなど聞いたことがない。

今は勤務時間中であり、今この時間寝ているのはサボりに近い。

そんな人物に差し入れすることがルールだとすると、仕事中は寝ていたほうが得になってしまうし、そんなルールはありえない。

しかし、人間には集団心理が働くもので、周りの人間が皆同じ行動を取っていると、自分も同じことをしなければならないのでは?という不安が襲ってくる。

スバルにもその心理が働いており、自分も何か買ったほうがいいのかと少しそわそわし始めていた。

 

そうやってスバルが買い物をするか思いあぐねていると、ようやく通信が終わったのか食堂の入り口にアルフの姿が見えた。

スバルはアルフに向かって手をあげて自分の場所を知らせると、アルフはそれに気がついてこちらへと向かってきた。

 

「ごめんごめん、スバル。 フェイトの後にエイミィからもかかってきて、さっきの件もあってちょっと話し込んじゃったよ」

「ううん別に良いよ。 それよりアルフ、本局って誰か寝ている人がいたら差し入れしなきゃいけない決まりでもあるの? 私も何か買ったほうがいいのかな?」

 

スバルはまさかと思いつつ先ほど思った疑問をアルフに投げかけてみる。

 

「はぁ? なんだいそりゃ?」

「あれ、そういう決まりはないの?」

 

少し不安だったがやはりそんなルールはないらしい。

では、なんだって皆飲み物やら食べ物をあそこにおいていくのか。

 

「そんなの聞いたことないけど、何だってそんなことを言うんだい?」

「だって、さっきから食堂に来る人がみんなあの寝てる人のところにお菓子とかを置いていくんだもん」

 

ほら、とスバルがそちらに目を向ける。

そしてアルフもそれに習って食べ物に囲まれつつあるその人物を見ると―――

 

「あー!! またお供え物されてるー!!」

 

と、アルフは声を張った。

 

「えっ何? どうしたのアルフ」

 

突然大声を上げたアルフにスバルが声を掛けるが、アルフはそのまま寝ている人物の方へと近づく。

 

「ほら、おきろユーノ!! おーきーろー!!」

 

アルフが声を掛けながら肩をゆすっていると、机にうつ伏せていたその人物はやがて顔をあげた。

 

「ん、んん。 何? あれ、アルフ、どうしたの?」

 

アルフにユーノとよばれた人物は若干寝ぼけた様子でそう答えた。

 

「どうしたのじゃないよ、寝るならちゃんと仮眠室で寝ないと休めないだろ」

「あ、あぁ。 でもそんなに長い時間寝るつもりじゃなかったから」

「そ・れ・で・も、ユーノがここで寝てるとみんなお供え物してっちゃうんだから」

「え、あれ? いつの間に」

「ユーノが寝てる間にだよ」

 

お供え物といわれ、ユーノが自分の周りを見ると、確かにお菓子などが並んでいた。

 

「うーん、困ったなぁ。 どうしようか?」

「もらっておくしかないだろ。 くれた人を探して返すなんて無理だよ。 司書のみんなと分けたら?」

「そうだね。 そうするしかないか」

 

アルフにお供え物と呼ばれた品々は無限書庫に持ち帰ることに決まったようだ。

そして、アルフがユーノを起こしに行って取り残されていたスバルは、おずおずと二人に近づき声を掛けた。

 

「あのー、アルフ」

「あぁ、スバルごめん。 置いてっちゃったね」

「いや、それはいいんだけど……。 今、ユーノって」

「うん、これがユーノだけど?」

「これって、ひどいなアルフ」

 

ぞんざいな指示語で紹介され、苦笑いを浮かべるユーノだったが、アルフとのこういうやり取りにも慣れているのか全く怒っている様子はない。

 

「えっと、初めましてだよね。 君はアルフの知り合い?」

「はい。 でもアルフとはこの間知り合ったばっかりで、どっちかというとアルフのご主人様の部下です」

「アルフのご主人様の部下? あぁ、ひょっとして六課の」

「はい、古代遺物管理部機動六課スターズ分隊所属スバル・ナカジマ二等陸士であります」

 

ユーノに所属を所属を言い当てられ、スバルは先ほどレティとクロノの前で行ったときと全く同じ自己紹介を行う。

そして、今日本局へ来た目的を切り出した。

 

「あの、八神部隊長からこれをユーノさんに届けるようにと預かってきたんですけど」

「はやてから?」

 

スバルから書類封筒を受け取ったユーノはその場で中身を確認する。

先ほどまで、少し寝ぼけていたがその表情は徐々に真剣なものへと変わっていった。

 

「それにしても、紙で持ってくるなんて今時珍しいね」

「まだ上には知られたくない情報なんじゃないかな。 通信でのファイルのやり取りは全部監視されているようなものだし」

 

アルフの疑問に対して、ユーノが書類を見ながらそう答えた。

本局内と本局外はもちろんのこと、本局内同士であっても通信は基本的に全てログがとられている。

それは内部の査察や監査のために使用されるのが主であるが、六課の場合は設立にあたり上層部(特に地上本部の)に目をつけられているため、はやてがそれらの面々に情報を見られるのを嫌ったのだろうとユーノは推測した。

 

「なるほどねぇ、はやても大変だなぁ。 それで、内容は資料の検索依頼かい?」

「うん、ガジェットの解析用の技術資料と、あとはここ数年でプレシア・テスタロッサ事件について調べた人物の洗い出しだね」

「ガジェットの方はわかるけど、なんでまたあの事件を『調べた』人間を探すのかね?」

「オークションで会ったときにフェイトが言ってた。 ガジェットにジュエルシードが組み込まれていたって」

「ジュエルシードが?」

「そう、きっとはやては局内でスカリエッティと繋がっている人間がいると考えてる。 そして、その人は局内の情報を横流ししている可能性が高い。 疑わしい芽を早めに洗い出しておきたいんだと思うよ」

「内部犯か、あんまり考えたくないねぇ」

「まぁ、これだけ大きい組織だとどうしてもね」

 

ユーノははやてからの資料を見ただけで、本人から話を聞いたように、はやての考えをすらすらと答えた。

そして、それははやてが資料を紙で渡した理由としても納得のできるものだった。

 

「スバル、この資料誰にも見せなかったよね」

「う、うん。 危なかったけど、機密だって言われてたから」

「危なかった?」

 

「途中でレティ提督に怪しいから見せろって言われちゃって。 あとで聞いたらグリフィスさんのお母さんだって言うから、たぶん見せてても大丈夫だったとは思うんだけど……」

 

「「あぁ、レティ提督ね」」

 

ユーノとアルフの声が揃った。

そしてアルフが付け加える。

 

「あの人なら確かに見せても大丈夫だけど。 でもこの資料の内容をみたら、めっちゃ怒られただろうね」

「や、やっぱり?」

 

スバルもアルフとユーノの話を聞いていて、思うところがあったのかそう答えた。

人事部の前でレティがスバルに書類を見せるように要求した一件はレティがスバルを『試していた』。

そして、レティは六課の人間の『身内』でもある。

だからはやてが局内の人間を洗おうとしているのがレティにばれても問題ないだろう。

 

しかし、レティが『試していた』のではなく六課の『身内』でもなかったら?

 

スバルはレティが名乗るまでは六課に関わりのある人間だとわからなかった。

その状態でスバルがレティにこの資料を見せしまっていたら、レティはきっとスバルが簡単に(例えば自分より上官だと言われただけで)機密資料を見せる人間だと判断しただろう。

アルフはそういうことを言っているのである。

 

「うぅ、八神部隊長そんなに重要な書類ならもっと釘をさしておいてほしかったなぁ」

 

自分が思いのほか重要な書類を渡されていたことを知り、そんな書類を気軽に渡した部隊長に対しての恨み言が漏れる。

 

「わざと言わなかったのかもよ、そんなの持ってたらスバルって挙動不審になりそうだし」

「そ、そんなこと」

 

アルフの言葉に反論しようとするスバルであったが、『ないよ』という言葉は続かなかった。

自分でもわかっているのだ。

 

「はやてのことだからその可能性が高いよね。 それに、ばれても何とかする自信があるのかも」

「はやては何を考えているのか掴み辛いからね。 周りに狸って呼ばれていることもあるみたいだし」

 

ユーノとアルフのそういうのを聞いてスバルは先刻会った、クロノとレティがはやてに対して『いたずら好き』と評していたのを思い出した、どうやらはやての『いたずら好き』周囲の人間のみならず、管理局という組織に対しても発動する個性らしい。

 

「まぁ、でも最終的に誰にも見せなかったんだから、何も心配することはないよね。 ナカジマさん、書類持ってきてくれてありがとう」

「は、はい」

「じゃあ、僕は無限書庫に行ってくるから、20時ごろに書庫に来てくれるかな。 ちょっと遅くなっちゃうけど時間は大丈夫?」

「あ、はい大丈夫です。ってひょっとして今から資料探しに行くんですか?」

「そうだけど」

 

何か問題でも?という表情でユーノが答えると、横から問題大有りだという声が飛んでくる。

 

「さっきまで、疲れてこんなところで寝てた人間が何言ってんだい。 資料探しは休憩した後だよ」

「でもそれだと、また六課に誰かが届けることになるよ。 だったら、今日中に作って渡したほうがいいよね」

 

行きはこうしてスバルが書類を持ってきたのだ、当然帰りとなる検索結果の資料も通信で送るのではなく、誰かが直接持っていくことになる。

 

「うー、わかったよ。 じゃあ私が事件資料の検索ログを当たるよ。 ユーノはガジェット関連の技術資料探索、それなら少しは早く終わるだろ」

 

このまま行かせたら一人でフル稼働して燃えつきかねない友人を心配し、アルフはそんな提案を出した。

 

「うん。 アルフに手伝ってもらったら助かるよ」

「それより、これが終わったら今度こそちゃんと寝ること。 いいね」

「うん、わかった」

 

「―――あ、あの。私も手伝います」

 

ユーノとアルフの間で方針が固まったところでスバルから声が上がる。

 

「でも、ナカジマさんは六課の人だし、書庫の仕事を手伝わせるわけには……」

「大丈夫です、この書類届けたら直帰でいいって言われてるので今は勤務時間外です」

「いや、オフの時間ならなおさら手伝ってもらうには―――」

「大丈夫です。 書庫のお手伝いは私の趣味です、今決まりました」

 

ユーノの台詞に被せるようにスバルがそう答えていた。

こうなったスバルは言うことを曲げない。

長年ティアナを困らせてきたスバルのわがままの発動である。

 

「それに六課の依頼ですから私も協力したいんです」

 

弟子は師に似るものだがスバルの頑固さはユーノとアルフになのはの一度決めたら曲げない性格を思い起こさせた。

 

「……ユーノ、手伝ってもらったら?」

 

そしてアルフからもそう言われ、アルフに対しては折れなかったユーノが、スバルに対して折れることになった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。