仮面ライダー龍騎 ~EPISODE Kanon~ 作:龍騎鯖威武
その場にいる、全員が絶望している。
目の前にいるのは、苦悩しながらも自分達を支え、今までずっと戦ってきた仲間、龍崎竜也だったのだから。
それが、自分達を狙う14番目の仮面ライダーだった。
「最初から…騙していたのか!?」
声を荒げるインペラー。彼は、竜也の奔走もあったおかげで、過去と決別できた。
だが、それも全て芝居だった。つまり、自分は友と思っていた竜也の手ひらで転がされていただけだった。
それが許せなかった。
嘲笑い、演説するように言う竜也。
「…考えれば分かるだろう?」
「きさまっ!?」「ふざけんなぁっ!」
ゾルダとライアの頭に血が昇り、竜也に掴みかかろうとする。
それを予測していたかのように、デッキを構える竜也。そのデッキは龍騎のモノとは違い、龍のシンボルが禍々しくなり、黄金色のシンボルも黒く染まっていた。
現れたVバックルも、他のライダーのものより、黒ずんだ銀色。デッキをゆっくりと下ろし、目を閉じる。
そして、真っ赤な目を見開く。
「変身…!」
デッキをVバックルに装填すると、辺りには眩い光と黒い虚像が現れ、竜也を包み込む。
その姿は先ほどと同じ、黒い龍騎だった。
近づいてきたライアの拳を受け止め、お返しと言わんばかりに、凄まじい力で殴る。
「…ッ!」
ドガアアアアァ!
「ぐああああっ!」
ガッ!
無様に地面に叩きつけられたライア。それを足で踏みつける。
「北川君!」
ゾルダが彼の名を呼んだ次の瞬間…
ドゴオォ!
「がはああっ!?」
「北川っ!」「久瀬さん!?」
目の前に黒い龍騎が現れ、腹にキックが抉り込まれた。
速い。
今のは彼の動き。龍崎竜也…黒い龍騎の真の力。
「オレは仮面ライダー龍騎ではない。オレの名は…仮面ライダーリュウガ!」
そう宣言するとともに、「仮面ライダーリュウガ」の辺りにピリピリと総毛立つ様な殺気が支配する。
戦う気力がかなり削られたのが分かった。
「デッキを渡したのも、オマエ達を泳がせたんだよ。オレの真の目的のために…!」
「真の目的…?」
タイガが訝しげに聞く。
「本当の「オレ」自身になる事だ。そして…」
リュウガは、あゆを指差す。
「月宮あゆ、オマエを手に入れる」
「ボクを…?」
「オマエも、オレを信じていただろう?」
あゆは警戒している。今まで、竜也には心を許していた。大切な人だった。
だが、彼の本当の心は闇に染まっていた。
7年前の優しかった龍崎竜也はもういない…。
いや…。
「違う…キミは…竜也くんじゃない!」
それでもあゆは、竜也を信じた。今のリュウガは、竜也ではない何者か…。
その言葉に、リュウガの動きが止まる。
「…オレの姿を見ても、そう思うか?」
そのとき…。
「やめろおおおおおおおおおぉ!」
突如、ある人物が現れ、リュウガに攻撃を仕掛ける。
「待っていた…!」
それを避ける黒い龍騎。しかし、言葉の中には喜びが満ち溢れていた。
「え…!?」「どうなってるんだ!?」
現れたのは…。
「みんな、大丈夫!?」
龍崎竜也だった。
そして、栞と香里も駆けつけた。
「竜也が…2人!?」
ナイトSは、今の状況が上手く飲み込めない。
「あの黒い龍騎は…だれ?」「あゆさんも竜也さんもいるのに…」
目の前にいるのは、間違いなく竜也。だが、リュウガに変身していた者も竜也であった。
この世界に、同じ人物が2人存在している。
「おま…え?」
竜也はリュウガを睨む…が、彼の姿を見た途端、自分の身体が小刻みに震えていた。
悪寒などではない。
恐怖。
「どうして…どうして夢の中にいた、おまえがいるんだ!?」
問いただす竜也。
そう。以前、紅渡たちがこの世界に訪れる前に見た悪夢「雪が積もった大きな切り株」の場所にいた「黒い仮面ライダー龍騎」と、全く同じ姿をしていた。
彼が他者に対して、恐怖に苛まれるところなど、この場にいる全員が初めて見た。…リュウガを除くが。
「フン…」
リュウガは笑い、手を翳す。
「ぐああああああああああああああああああああああぁ!?」
「竜也!?」「おい、しっかりしろぉ!」
その途端、今までとは比べ物にならない頭痛が竜也を襲う。他の者が呼びかけるも、その声は届かない。
「さぁ、思い出せ…全ての記憶を!」「あぐァッ…!ぐゥアアあぁ…!」
少しずつ、意識が削り取られていく…。また…大切な仲間を傷つけてしまう…。
必死に抵抗するが、何も出来ない…。
竜也は諦めかけ、意識を手放そうとした。
しかし竜也を信じている少女は、まだ諦めない。
「竜也くんっ!」
あゆは、竜也を抱きしめる。
「お願い、目を覚まして!竜也くん…ボクは、キミのこと…!」
「ガァッ…あ…ゆ…」
そうだ…みんなを…あゆを守るんだ!
「ぐぅ…ぅぅああああああああああああああああああぁ!」
「…!」
リュウガは、ほんの少しだけ驚いたような仕草を見せた。
竜也が、暴走を振り切ったのだ。
あゆからデッキを取り上げる。
「竜也くん!?」「もう…大丈夫だよ」
優しく微笑み、強い意志のこもった瞳でリュウガを見る。
デッキを翳すと、今までのようにVバックルが現れる。
「変身っ!」
眩い光と虚像が包み込む。それが消えたときには…。
この場にいる全員が待ちわびた存在、仮面ライダー龍騎が立っていた。
「本当の龍騎…」
リュウガはそれを心待ちにしていたかのように呟く。
しかし何故か、戦おうとはしない。
それどころか戦闘を放棄し、さっさと歩き去っていった。
「ま、まてっ…うっ!?」
龍騎はそれを追いかけようとするが、先ほどの頭痛がダメージになっているのか、身体中の力が一気に抜けた。
その拍子に変身が解除され、地面に倒れ伏し、気絶した。
「竜也くんっ!?」
それを見ていたオーディンは、先ほどリュウガである竜也と対峙したときのことを思い出す。
彼をオーロラに招いたとき、自分に王蛇とガイのデッキを投げつけた。まるで、手下の死をその形で伝えるように。
「オマエの右腕はもう戦えないぞ、オーディン…?」
「よく知っているな、14番目のライダー。名乗った覚えはないが…」
「オマエもオレの正体を知っているはずだ。ならば、何故オレがオマエのことを知っているか、分かるだろう」
「龍崎竜也の記憶の共有…。自分自身の記憶は共有させないのか?」
「少しずつ、共有させている。オレは「おれ」の精神や記憶、夢に干渉する事ができる」
「やはり、龍崎竜也の暴走の発端はオマエだったようだな」
「…言いたいことは分かっている。「手を組め」だろう?…オレは誰とも手を組まない」
リュウガと共に戦う事はできないようだ…。
しかし希望を見出したように、複製されたもう一つのサバイブ「SURVIVE~烈火~」を見つめる。
「彼ならば、あるいは…」
竜也が次に目を覚ましたとき、目の前ではナイトがモンスターと戦っていた。
何故か既に立ち上がっており、龍騎のスーツを纏っていた。
「はあっ!」
(助けないと…!)
すぐにでも、彼は動き出そうとするが…。
(な…!?)
身体が、動かない。
いや、動かないのではない…。
(身体が誰かに操られている!?)
自分の意志とは別に、身体が動いていた。
龍騎は地面を蹴り、あろうことかナイトに攻撃を仕掛けた。
ガッ!
「ぐあっ!」
(祐一っ!)
「竜也、何のマネだ!?また暴走しているのか!?」
(ちがう、おれじゃない!早く逃げて!)
そう言いたかったが、声が出ない。思考以外の全てが操られていた。
「暴走?…笑わせるな」
それどころか、勝手に口が言葉を話す。
竜也自身は拒絶しているが、身体はそれに反し、ナイトに攻撃を加える。
ガッ!ドガッ!
「竜…也…がはっ!」
(やめろ!どうしてだ!?)
全く言う事が聞かない。次に龍騎はこの状態ではありえない言葉を口に出した。
「変身…!」
次の瞬間、デッキから黒い血管のような模様が現れ、全身を走る。それが龍騎の身体全てを包み込む…。
「ハアアァ…!」
(そんな…!?)
その姿は、先ほど見た黒い龍騎「仮面ライダーリュウガ」に変化していた。
「ゼェアァ!」
ズガアアアァ!
「うおあああああああぁ!」
自分の力とは思えないほどの強力な蹴りで、ナイトを吹き飛ばし、アドベントカードを引く。
(っ!?)
そのカードを見て、血の気が引いた。
黒い龍の紋章…。
(やめろ!やめるんだああああぁ!)
しかし抵抗できず、されるがままにベントインする。
<FINAL VENT>
「グオオオオオオオオオオオオオォ!」
「ハアアアアアアアァ…」
ドラグブラッカーが、リュウガの辺りを舞う。
自分の構えよりも、落ち着いて、かつ体に凄まじい力を入れた構え。
そして宙に浮き…左足を前に突き出す。
「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!」
黒い炎と共にナイトへ突撃する黒い「ドラゴンライダーキック」。
人々を救うための切り札となるはずのものが、友を傷つける…いや命を奪う最悪の切り札になった瞬間だった。
(やめてくれええええええええええええええええええええええええええええぇ!)
ズガアアアアアァ!
「ぐあああああああああああああああああああああぁ!」
ナイトがそれに触れた瞬間、彼の命が消えていくのが分かった…。
あれから半日。
竜也の家の中。
未だ気を失い、うなされている竜也を、あゆが見守っている。。
「竜也くん…?」
突如、目をカッと見開く竜也。
「やめろぉ…!やめろぉ!やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉ!」
目覚めたと思うと、錯乱したかのように暴れまわる。
「竜也くん!どうしたの!?」
「うわああああああああああああああああああああああああああああああぁ!」
あゆが必死に止めようとするが、彼にそんなことを気に出来なかった。
それどころか、あゆにむかって拳を振り上げる…。
それほどに、友を傷つけるということが許せなかった。
「うぐっ…!」
彼女が身を守ろうと、両手で顔を防いだ姿を見た途端、一気に落ち着きを取り戻し、あの「リュウガとなってナイトである祐一の命を奪った出来事」が夢である事が分かった。
「あゆ…」
自分の体は、もう自分でコントロールできない。いずれ、あの黒い龍騎に変化し、大切な人を傷つけてしまう。
龍騎あることから逃れられないとするなら…。
(あゆに嫌われるんだ…そうしないと…!)
「あゆっ!」「きゃっ!」
意を決した竜也は、あゆの手を強引に掴み、ベッドの上に押し倒した。
「竜也…くん?」
少し怯えながら、自分の名前を呼ぶあゆ。
自らの中に渦巻く強い罪悪感。
「…っ!…くぅっ!」
それを振り払い…。
衣服を剥がす。
あゆは信じられないといった表情だった。瞳からも大粒の涙が流れる。
さらに大きな罪悪感が竜也を襲うが、それさえも振り切り、彼女の身体に触れようとする。
…それ以上の行動を、竜也がすることは出来なかった。
しかし、あゆは優しく微笑む。
「…いいよ?」「…!?」
あゆは、かなり硬く緊張していた身体の力をゆっくりと抜く。
「ちょっと怖いし、恥ずかしいけど…うん、平気…。だから…いいよ」
両手を広げて、竜也を待つ。
「…どうして…」「え…?」
竜也は顔を伏せ、聞こえるか聞こえないか分からないほどの声を絞り出す。
「どうして嫌がらないんだよ!?拒絶すればいいじゃないか!」
どう整理すればいいのか分からない。自分が初めたことなのに。
「もしかして…ボクから嫌われようとして…?」
「そうだよ!君に危害を及ぼすか分からないからっ…!なのに…!」
「言っちゃったら、意味がないよ」
あゆは、今までのような子供っぽい仕草ではなかった。それは、どこか全てを悟った大人のような優しさがあった。
「それに、言わなかったとしても、ボクは竜也くんのこと嫌いになれないよ」
そう言って、竜也を抱きしめる。
「よかった…。あのとき、もう一人の竜也くんが来て、竜也くんは昔と変わっちゃったとおもって…。でもあれは竜也くんじゃなくて…。本当の竜也くんは…やっぱり、あたたかくて…。だから大丈夫だよ」
「あゆ…」
竜也は龍騎である事から逃げられない理由が、ようやく分かった気がした。
一時間ほどした後…。
2人は窓を開け、並んで夜空を見上げていた。
「もう大丈夫?」「…多分。さっきはごめん…」
竜也は、先ほどのあゆに対する行ないを悔やみ、反省していた。
結局、その場で事は治まったが、彼女に対する罪は消えない。
「平気。それにボク、竜也くんなら、いいよ?」
竜也のほうを向いてニッコリと微笑むが、その頬は少し赤い。竜也も同様だ。
「…この街に戻ってきて、たくさんの出来事があったね…」
再び夜空に視線を戻し、この街での出来事を回想する。
「うん…本当に…」
今となりにいる、あゆと再会した事。
魔物と戦う舞と祐一、一緒に戦ってくれた潤や久瀬、彼らの周りにいた香里、栞、佐祐理、秋子と出会い。
一時は復讐に囚われていたミツルとサトル。それを変えようと奔走した名雪、真琴、美汐。
様々な世界を旅する、士、夏海、ユウスケ、大樹、栄次郎、鳴滝。
『Wの世界』からやってきた、翔太郎、フィリップ、照井。
『オーズの世界』からやってきた、映司、アンク、後藤。
「オリジナルの仮面ライダー」である、紅渡、剣崎一真、野上良太郎、天道総司、ヒビキこと日高仁志、乾巧、津上翔一、そして中心的存在の五代雄介。彼らを支えるモモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロス、ハナ、ナオミ、オーナー。
この街に再来して、様々な出会いがあった。
そして同時に、辛い出来事もあった。
ミツルやサトルとの望まない争い。
敵として、須藤、芝浦、高見沢、鎌田、浅倉、オーディンとの辛い戦い。
NoMenの香川、仲村からの敵視。
かつて敵として、争う事になった紅渡達から告げられた「竜也はこの世界の崩壊の元凶」だということ。
仲間を傷つけてしまった事。
そして、自分の目の前に現れた、もう一人の自分。
ただ、希望も見出せた。
ミツルとサトル、NoMen、オリジナルの仮面ライダー達との和解。
城戸真司が自分のことを想い、見えない場所で戦っている事。
この日々を通じて生まれた、仲間との強い絆。
これまでの戦いや自分の行動は、決して無駄ではなかった。
あゆに全てを打ち明けた。
記憶が中途半端に抜け落ちていた事、悪夢の事、リュウガと呼ばれるもう一人の自分は、おそらく失った記憶を全て知っている事。
「…竜也くん。このカチューシャのこと、覚えてる?」
不意に、あゆが竜也に自分の頭につけてある「赤いカチューシャ」を外して、問いかけてきた。
「これ?」「キミから、もらったモノだよ」
竜也は、自分は女の子にカチューシャを贈る趣向があったんだと考えながら、そのカチューシャを見つめるが…。
「思い出せないよ…」
やはり、記憶から抜け落ちていたものだった。
「あはは、実はボクも良く覚えてないんだ…」
困ったように笑い、その場の雰囲気を和ませるあゆ。
「そっか…。でもいつか、思い出して見せるよ。約束だからね」
「うんっ!じゃあ、指きり!」
2人の約束は、また1つ増えた。
次の日。
舞と佐祐理の病室に、ミツル、真琴、美汐、祐一、久瀬が来て、昨日の事を伝える。
「14番目の仮面ライダーの名前は「リュウガ」。信じられないかもしれないけど、正体は…竜也だった」
「竜也が…!?」「そんな…あの竜也さんが…」
少なくとも彼女達にとっては、竜也が「最初の仮面ライダー」であった。だが、彼は同時に「最後の仮面ライダー」でもあった。
「あぅーっ!祐一!なんか、舞と佐祐理が勘違いしてるわよぅ!」
「たしかに語弊があるぞ、相沢。川澄、倉田、確かにリュウガは竜也だった。だが、おれ達の知っている竜也ではない。竜也は…この世界に2人存在している」
「じゃあ、わたし達の知っている竜也さんは…?」
「今までどおり、わたし達の大切な仲間です。昨日、仮面ライダー龍騎として復活しました」
彼女達は。美汐の言葉で取り敢えずの安堵をした。…一時的なものであるが。
なにしろ今、王蛇という大きな脅威が一つ去ったというのに、さらに大きな脅威が待っていたのだから。
名雪とサトルは以前、竜也から聞いていたNoMenへの連絡先(香川が教えたもの)に調査を依頼し、香川自身から返事が来た。
‘’虎水君、水瀬君。私共の方でも報道があってから調査を行ないました。しかし、めぼしい情報は一切入手しておりません。今のところ、一番大きな情報は貴方達の言う「仮面ライダーリュウガ」の変身者が「もう一人の龍崎竜也」という事でした。引き続き、NoMen本部にも情報を提供し調査を行ないます。
P.S.「オルタナティブ・トルーパー」の1~10号機が完成いたしました。部隊を編成すると共に、彼等にも調査をするように命じます。 香川ヒロユキ’’
落胆したのは名雪。
彼女は仮面ライダーのことについて、あまり協力ができないことを悔しがっている。最近、母である秋子の看病ばかりで、その気持ちをさらに助長させていた。そんなときに思いついたのが、香川たちに連絡を取り、調査を依頼する事だった。
「う~…やっぱりそうだよね…。わたし達の方が竜也君に近いもん」
「でも、香川さんたちも手伝ってくれるから。なゆちゃんは何も心配しなくて良いんだよ?」
「ごめんねサトちゃん、何も出来なくて…」
困ったような表情で謝る名雪に、サトルは優しく微笑んで頭を撫でる。
「なゆちゃん、元気ないよ?落ち込んでたら、秋子さんも心配するから。ふぁいと、でしょ?」
「…うん!」
その日の夕方。
竜也とあゆは外を歩き、探し物をしていた。
「結局、見つからなかった…」「うん…」
今まで、幾度となく探してきたが、手がかりすらつかめない。
「きっと、いつか見つかるよ。おれも手伝うから」
竜也が励ますように言う。
「うん、ありがと。…あ、ここ、覚えてる?」
あゆが指差す先には、駅前の公園があった。
この場所は、この町に再来したときから良く通ったし、なにより7年前、あゆと待ち合わせをしていたときに、よく使っていた場所だ。夢の中の出来事だと思うが、それは過去の事だと確信している。
「ここは覚えてる。7年前、よく待ち合わせしたね」「そうそう!」
あゆはそこにあるベンチに手を置き、雪を払う。
「毎日、先に来るのはボクで、いつも竜也くんを待ってたんだよ」
そう言って雪を払ったベンチに座り、昔のように怒って見せた。
「…遅いよ、竜也くん!」
「はは、ごめん。ちょっと遅れちゃった…」
「ちょっとじゃないよ、たくさんだよ!」
昔のように、申し訳なさそうに言い訳をして見せた。
それに対しても、彼女は頬を膨らませる。
「…えへへ」
一通り昔の再現をした後に、あゆが微笑む。その姿を見て、竜也の鼓動が早くなる。
完全に自覚した。
そっか…。おれ、あゆが好きなんだ…。
「どうしたの?」「あ、いや、なんでもないよ…」
あゆの問いかけに対して、上手く誤魔化し、彼女の隣に座る。
少しの間があって、あゆが口を開いた。
「こうしてると、昔の事を思い出すね…」「うん…」
じっと下斜め前を見つめているあゆ。
「7年前、お母さんがいなくなって、一人ぼっちで泣いていたボクを、竜也くんが声をかけてくれたんだよ」
「うん、そのことも覚えてる」
さらに少し間があって、あゆが少し声のトーンを落として話し始めた。
「竜也くん…。目の前で大切な人、失った事ある…?」
「え…?」
「ボクは、あるよ。なにもすることが出来なかった…。ボクに出来た事は、大切な人の…おかあさんの名前を、ただ何度も声が枯れるまで呼び続ける事だけだった…」
声が震えている。彼女の目を見ると、今にも零れ落ちそうなほどの涙を溜めていた。
「もう…あんな思いはしたくないよ…」
その言葉は、強く竜也の心に突き刺さった。
自分も下手をすれば、命を落としかねない。そんな戦いをずっと続けている。
あゆは支えてくれていただけじゃなかった。自分のことでこんなにも苦しんでいた。
「竜也くん、そんな経験ある?」
「おれは…」
父さんと母さんを、目の前でモンスターに殺された…。
そう言おうとしたところで、口は止まった。
その記憶は偽り。本当にあった出来事ではない。
それどころか、失う対象である両親は最初から存在していない。
城戸真司も生きて戦っている。
辛い戦いを続けていたつもりだったが、竜也自身、大切な人を失っていなかった。
「…ないよ。おれは何も失ってなかった。父さんも母さんも、最初からいなかった」
悲しくても涙が流せないのは、本当に悲しい出来事がなかったからなのだろうか…。
彼女の悲しみを共有する事はできない。竜也は立ち上がり、ベンチから離れた。
「竜也くん、まって!」
それをあゆが引き止める。
竜也の手を、暖かいミトンの手袋が包む。あゆの手だ。
振り向くと涙を一筋流したあゆが、自分のことを見つめていた。
「あるんだね、失ったモノ」
「え…?」
「思い出。ボクなんかより、ずっと辛いよね…。最初からいなかったなんて…。ぬくもりを…知らなかったなんて…」
そう言った後、あゆは何かを決意したような表情に変わる。
「竜也くん…。ボクの顔、見ないで…。きっと、涙でボロボロだと思うから…だから、目を閉じて…」
「うん…」
その言葉を聞いて、ゆっくりと目を閉じる。
「ボクも…目を閉じるから…」
あゆも目を閉じる。
竜也は少しだけ体を低くし、あゆは少しだけ背伸びをする。
ゆっくりと…2人の唇は近づく…。
雪化粧をした日溜まりの街で、2つの影が1つに重なった…。
それを、もう一人の竜也がじっと見ていたことを、2人は知らない。
続く…。
次回
あゆは…幸せなんだろうか…?
竜也くんが、ボクを好きでいてくれるなら…
見てみたいな、あゆの学校
ボクも、ずっと竜也くんのことを好きでいられると思う!
急ごう。また降りそうだよ、雪
もう、会えないと思うんだ…
あゆうううううううううううううううぅ!
第43話「別れの夜想曲」
キャスト
龍崎竜也=仮面ライダー龍騎
月宮あゆ
相沢祐一=仮面ライダーナイト
川澄舞=仮面ライダーファム
北川潤=仮面ライダーライア
美坂香里
美坂栞
久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ
倉田佐祐理
水瀬名雪
沢渡真琴
天野美汐
虎水サトル=仮面ライダータイガ
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー
龍崎竜也(?)=仮面ライダーリュウガ
仮面ライダーオーディン